家賃の安い市営住宅に越し超零細ながら年金受給者となった僕は猛烈に絵を描き始めた。どれほどこの日の来ることを待ち焦がれていたことか。これで完全に世の中とは没交渉で生きられるかと思うと、心底自由が実感されるのだった。僕は毎日百姓のように日の出から日没まで描きに描いた。家の中の電灯が台所の天井にある蛍光灯ひとつだったにもかかわらず日没後も絵筆を動かしていることがあった。日本人との交際はなかったが毎年3組から5組の友人が海外から遊びに来てくれるので孤独に苛まれるということもなかった。人生の絶頂期という感があった。
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