「えー、雨足が強くなってきました。――、雨というよりはみぞれに近いような形に―」
バスに備え付けられたトランシーバーが慌ただしく鳴っている。
窓を見ると、確かにシャーベット状のものが、どんどんとぶつかってきて、下に押し流されていた。
運転手は無言。
視界はあまりよくないが、路面はまだ大丈夫そうだ。
とりあえずアスファルトは見えている。
飛行機に入るころにはみぞれが雪に変わっており、頭に雪を積もらせながらの搭乗。
乗客でぎゅうぎゅうの機内に着席。うーん、やっぱり狭い。
外を見ながら、「この天候でよく飛ぶなー、やっぱテクノロジーってすげーな」と呑気なことを考えてボーっとしていたのだが、待てども待てどもなかなか飛ばない。
そして、機内アナウンス。
「出発時間を遠に過ぎておりますが、ただいま機体が凍りつかないように、薬剤を散布しているところです。離陸はこの作業が終わってからとなりますので、もう少々お待ちください」
塩化カルシウム?ではないか。
「遠に」とか「少々」ってなんか上品だよな。
英語のアナウンスは?うーん、よく分からん。
しばらくサングラスをかけてウトウトしていると、再びアナウンス。
「ただいまこのような天候ですので、機体および滑走路の除雪作業を行っております。離陸は天候が回復し、除雪が完了してからとなりますので、時刻をはっきりと申し上げることができません。お急ぎのところ大変ご迷惑をおかけしております」
ん?
いよいよやばいか、これは。
外の雪はどう見てもやむ気配はない。
まるでこの数日の晴れ間が嘘だったかのように、景気よく降っている。
アスファルトが「本当にあったのですか」と疑いたくなるぐらいだ。
室蘭や登別で雪が全く積もっていないのを見て、後輩と「もはや南国」などと騒いでいたことをちょっぴり後悔する。
まだあんまり今後のことを考えたい気分ではなかったのだが、機体に降り積もる雪を見ながら、少しづつ頭のギアを上げていく。
その後、一旦ターミナルに戻って、集合時間まで待機せよと言われた。指示はまたその時にとのこと。
これを聞いてからが、ものすごく慌ただしかった。
ここからの一時間は、もう、はしょろう。
端的にまとめると、発見が二つ。
一時間あると本当に色んなことができるということと、いつからか(大学に入ってからだと思う)焦って頭が真っ白になることがなくなったということ。
そして結論が一つ。
ニューヨークには行けない。日本にとどまる。
なんだろう、このなんともいえない感情は。
残念ではあるが、悲しくはない、失ったというよりは、解放された感じ。
一度味わったことがある感情。
そうだ、同じだ、就活の時と。
無理だろうなあと薄々思っていたことが少しずつ強まってきて、「ああ、、」とあきらめつつも、ほんのちょっと未確定な未来に期待する。
少しタイムラグがあってから、やはりダメなことが分かる。
そして、意外なことに少しほっとする。
驚くほどに似ている。だから割とあっさり割り切れた。
実は春休みに入ってから、日本にもう少しいたかったな、と思うことが時々あって、ゆっくりできる時間の重要度が日に日に増していた。
だから、これはこれでむしろ良かったのかしれない。
Hey, Upper East Siders. Gossip Girl here! というあいさつを言えなくなったのは残念だけど。
まあ、それぐらいだ。
結論を出した後のひと仕事終えた感がすごくて、便の変更と払い戻しの長蛇の列に並ぶ気が全くおきなかった。
ラウンジも混むだろうなと思ってすぐさま駆け込み、たっぷりとGossip girlを見てからカウンターに行くと、見事なまでにガラガラ。
それ見たことかと思い、明日(11日)でも仕方ないかと思って便の変更を申し出ると、最短で13日昼出発の便に空きがあるとのこと。
ウゥ、ワット?
洋画の見過ぎで思わず、カモン?と言いそうになった。
一瞬とどまるか悩んだが、もうこれでもか、というぐらい北海道は満喫したので、とっとと帰ることにした。
またひと仕事して、結論はフェリー。船旅も悪くない。
(札幌で一泊)
午前中は北大の図書館に遊びに行き、最後の夕食は苫小牧で。
まさか2回も来ることになるとは思いもしなかった。
夜はミスド以外真っ暗だ。
もそもそとドーナツを食べていると、店内からなにやら異国っぽい会話が聞こえてきた。
よくよく聞くと、店の中で放映されているミスドのCMらしい。
映像を見ていると、嵐の相葉くんが、どこかのカウンターで外人のお姉さんと談笑している。
どうやら海外旅行をしている設定のようだ。
CMの途中で、テンションのあがった相葉くんが、異国に来た喜びを表現していた。
「きましたー、ブルックリン!」
Uhm, so…come on?
Q.E.D.