眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

「さよなら クリストファー・ロビン」(高橋源一郎)

2018-10-26 16:47:42 | 映画・本

本当に久しぶりに、日本人作家の小説を読んだ。その昔(いつ頃かも思い出せない)には使っていたはずの大脳皮質のある部分?が、とっくに使われなくなっているのを、「ちょっとぉ・・・起きなさいよぉ(ユサユサ)」と揺さぶりながら読んだ・・・そんな気がした本だった。

(「その昔は使っていたはず」と思うのは、はるか遠くへの懐かしさみたいなモノを感じるからで、実は単なる勘違いかもしれない。それでも、久しぶりに「日本文学」だの「日本語」だのに遭遇(という感じ)すると、私は懐かしく感じるヒトらしい)

普段は、(ここ10年ほどは)なんだか外国のミステリーばかり読んでる気がする。

そもそも私の場合、「本」が読めるのは「ちょっと元気が足りない」、でも「非常に元気が足りない」ではない、時だけらしい。ソコソコ「元気」なときには映画を観にいくのが最優先で、感想ちょっとでも書きたいな・・・なんて思ったりすると、何事にもスロウな私の場合、どんどん時間が足りなくなる。本なんてとても読めない。

(う~ん、読んだ本と関係ないコトばっか書いてる自分・・・)


この「さよなら  クリストファー・ロビン」(2012年4月発行)には、表題作も含めて6編の短編が載っている。それらは別々の物語のように見えて、その実少しずつ重なる部分もあって、全体としては「重層的なファンタジー」を読んでいる気がした。

クリストファー・ロビンが「クマのプーさん」に出てくる少年であるように、他にもいくつもの物語・昔話などの登場人物や設定・ストーリーが使われていて、アトムやトビオ、天馬博士にお茶の水博士も登場して、パラレル・ワールド?はたまた最終戦争?世界滅亡??といった話にまで発展(っていうのも変?)するのだけれど・・・所謂「パロディ」とは程遠く、ただ(ある種の)ファンタジーという形で、(作者自身の子どもさんも含めた?)「子ども」の生きる過去・現在・近未来(そして世界の行く末)を描いてみせている・・・そんな風に私には見えた。

後で奥付を見てやっと気づいたことだけれど、6編の小説(2010~2011・8月)は、東北の震災を挟んで、バラバラに雑誌に発表されたもののようだった。あの大災害が「創作」にどういう影響を与えたのか、素人の私などには見当もつかない。

それでも、後になるほど内容がわかりにくく、しかも殺伐としたものになってゆくのは、震災と無関係とも思えなかった。子どものための「物語」世界といっても、各作品の雰囲気は相当違っていて・・・でも、最も早くに書かれた「クリストファー」が明るい話かというと、決してそういうわけではない・・・


要するに、私はこの短編集を、独特の柔らかくやや奇妙な「雰囲気」にそのまま飲み込まれ、淡い水彩画(或いは無彩画)のように描かれる情景を、その寂しさ、美しさ、切なさ、オソロシサが身に染みこむに任せて、何も考えずにただ味わっただけなのだと思う。

だから、自分が体験したことをほんの少しでも書いておきたいと思うのに、硬く干からびた残骸みたいな言葉しか出てこないのだ。私は文章の意味するところもヨクワカラズ、かといって自分なりに「考える」ことも出来ない。

私はこの本をごく自然に、「物語」や「物語る」ことの衰退、終焉を描いたものだと思って読んでいたのだと思う。現実世界の滅亡も「物語」の消滅も、私にとっては同じくらいの恐怖であって、しかもその両者はどこかで繋がっているのだろうと。

それでも読んでいる間、私はどの小説も「決して明るくはない」(滅びについて語っているのだから)のに、「決して悲惨じゃない」(オトナも、子どもも、動物たちも、ロボットも、「虚無」と戦っているのだから)とも感じていた。

子どもに纏わるものは、現実の子ども同様「ただ子どもだというだけで」明るさを感じさせるのかもしれない。

私は「不思議の国のアリス」が、昔も今も好きだ。今回の小説のワケノワカラナイ感じは「アリス」(この小説にも出てくる)を思い出させるところがあって、そこも気に入ったのかもしれない。









各短編のあらすじの紹介のために貼っておきます(どちらかというと自分の備忘用)

https://ameblo.jp/classical-literature/entry-11363586651.html


収録作品「お伽草紙」でふと思い出したことがあって、別のブログに書きました。(小説とは全く関係ないので、興味のある方だけどうぞ)

https://blog.goo.ne.jp/muma_may2/e/6fa3110438c16803828b9ede943f2102(もうひとつの部屋・「わかる」ってどういうこと?)

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
タイトルに反応しました。 (お茶屋)
2018-11-25 16:13:25
先日、ネット動画で『グッバイ・クリストファー・ロビン』という数年前の作品を見たんです。
「プーさん」の作者ミルンをドーナル・グリーンソンさんが演じているのです。ちょっと可哀想なところもありましたが、「物語」賛歌となっていました。
高橋源一郎さんは、ラジオの「すっぴん!」金曜日のパーソナリティで「げんちゃんの現代国語」というコーナーを楽しみにしています。通勤中に聴くのでと中までしか聴けないのですが。婚姻歴5回というげんちゃん、すごい・・・・。
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実は私もタイトル見て図書館で借りたんです(^^; (ムーマ)
2018-11-26 11:26:12
本読んだ後で、映画の方の存在を知りました。(そうかあ、ドーナル・グリーソンが父親なんだ)
可哀想な映画は苦手なんですが「物語賛歌」なら・・・機会があったらきっと観ます。

げんちゃん(あはは)の「すっぴん!」も、一度聞いてみようかな。(婚姻暦は3回くらいかと思ってました(^^;)
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