「検査の結果は異常はありません。全ての数値が正常値の範囲内です。」
「寛解ですか。」
「数値上はそう言って良いと思います。寛解です。」
「結局私の病は何だったのですか?」
「現在の医療にも限界があります。
正直申し上げて、今回のこの症状に対して病名を特定する事ができません。
その理由は原因がわからなかったからです。
悪性腫瘍の可能性が否定されたので、
後は症状から膠原病である自己免疫疾患と思われますが
病名を特定できません。
可能性として、ウィルスの感染による発症が原因なら何も服用しなくても
症状が改善する可能性がある事は推測できますが
それを証明するものはありません。
現在の医療にもわからない事が多いのです。
こういう事もあるのですとしか言いようがありません。」
「それでは私の自然治癒力で治ったと言えますか。」
「一切薬を服用しなかった事実からそう言えると思います。」
新しい担当医は事実が納得できないという気持ちを隠しもせず
少し気だるげな様子でディスプレイを見つめていたが
現状の医療に限界があり、今回はそうであったと認めてくれた。
「真摯なお医者さんだな。」その稀有な言葉を聞いて思った。
少なくともお医者さんも私が若かった頃に比べれば
権威主義ではない、視野の広い方が増えているのだと実感できた。
「今度はそうですね夏くらい一度検診をしましょう。
あと大腸検査くらいはしておいた方がよろしいですよ。
それからもし体調の急激な変化があったら、
救急も有りますから気にせず直ぐに来て下さい。」
「ありがとうござます。」
「お大事に。」
病院の建物を出ると、車回しの広場の向こう側に
大きな桜の木が見え、風が花びらを揺らしていた。
四肢の痛みは
残雪が溶けゆくかのように消え去っていった。