人形と動物の文学論

人形表象による内面表現を切り口に、新しい文学論の構築を目指す。研究と日常、わんことの生活、そしてブックレビュー。

書物は誰のものか:マララさんのノーベル平和賞受賞と高等教育の無償化

2014-12-28 13:29:06 | 書物と世界・社会
暮れも差し迫ってまいりました。
今日は時事的な話題を。
少し前の話になりますが、女性や貧しい子供たちの教育の権利を訴えてきた、パキスタンのマララ・ユスフザイさんがノーベル平和賞を受賞しました。
「一人の子供、一人の教師、一本のペンと一冊の書物が世界を変える」という彼女のメッセージは非常にシンプルなものですが、ひとつだけ感想を。
「一冊の書物が世界を変える」という部分はやはり、コーランにしろ(旧約・新約)聖書にしろ、聖典の国の人々の言葉だなあ、と。聖典を読み解釈し、また新たな書物を書く、そういうリテラルな能力に関する言葉なんだな、と思います。男性が書物であり、ロゴスであり、書物を解釈するのは男性のみであり、女性はその解釈を受け入れるだけであった世界から、貧しい子供たちも女性も、書物を奪取し、読み、解釈し、自分のものとしてまた新たな書物を書く。そういう世界の変化が、夢見られている。

私が疑問に思うのは、彼女の力強くシンプルな主張に素直に感動する人々も、どういうわけか斜に構えて見る人々も、どうして自分たちの問題として考えようとしないのか、という点です。
遠い国の可哀想な子供たちの話ではない。今の日本で現在進行形の問題として、あるものだと思うからです。
確かに今の日本では、いわゆる「普通教育」、義務教育段階での達成度や識字率の高さはパキスタンの比ではありません。
たぶん、パキスタンの貧しい子供たちや女性たちが望んでも得ることのできない教育を私たちは簡単に得ることができるのでしょう。
しかし、だからと言って教育の重要性や権利が認められているとはとても思えない。
殊に人文学の状況は悲惨で、「一冊の書物が世界を変える」なんて言っても笑われるだけです。
彼女のメッセージは、初等教育は必要で高等教育は贅沢、というような区別がなされているのではなく、熱をおびた知への渇望の、知に関わるすべての権利を要求しているように思います。

現在、国立大学の授業料は年間53万5800円で、入学金も合わせれば初年度に約80万円の学費が必要です。
「奨学金」という名の学資ローンに苦しみ、あるいは入学金が支払えないばかりに進学をあきらめる子供たちも多く、とても「貧しい子供たち」でも平等に教育が受けられる状況ではありません。最近ではトリプルワークをこなしながら学費や生活費を稼ぐ女子高生も問題になりました。

日本国憲法第26条の1項では、
「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」
ことが認められています。「普通教育」(いわゆる「義務教育」)だけではなく、「その能力に応じ」た「教育」の権利が認められているわけです。「能力」とは(学費の)支払い能力を意味するのでしょうか?
また、国連の人権規約では、高等教育の漸進的無償化の導入がうたわれています(*)。

もし、マララさんのメッセージを真に受けるとするならば、教育にかかる経費を削減することばかり考えるのではなく、高等教育を無償化することを考えるべきでしょう。
「一冊の書物が世界を変える」というメッセージに感動することができるならば、人文学なんか何の「役に立つ」のか、なんて、二度と口にしないでほしい。

*外務省によると、「日本国政府は,昭和41年12月16日にニューヨークで作成された「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約」(社会権規約)の批准書を寄託した際に,同規約第13条2(b)及び(c)の規定の適用に当たり,これらの規定にいう「特に,無償教育の漸進的な導入により」に拘束されない権利を留保していたところ,同留保を撤回する旨を平成24年9月11日に国際連合事務総長に通告しました」。高等学校の無償化により、教育の無償化及び高等教育の無償化の漸進的導入に向けて十分な準備がなされたとの判断によるものらしい。高等学校の無償化は評価すべきことだが、日本の現行の教育制度において高等学校は中等教育に位置づけられており、これを以て「高等教育の無償化」とするには違和感がある。

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おまけ:
子犬ちゃんと母犬ちゃん、里親募集中です。
母犬
→母犬は2015年2月3日に行方不明になり、2月5日に踏切事故に遭っていたことが、3月2日に分かりました。

白い子犬

2015年6月にいったん募集を終了しました。

ベージュの子犬
2015年6月にいったん募集を終了しました。

白い子犬と母犬が親子です。
ベージュの子もよく似ていますが、別みたいです。
母犬は7.2kgと小柄ですが、子犬ちゃんはもうその体重を超しちゃってます(約4カ月)。