愛知県大府市で2007年、認知★症で徘徊(はいかい)中の男性(当時91)が列車にはねられて死亡した事故をめぐり、JR東海が家族に約720万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第三小法廷(★岡部喜代子裁判長)は1日、介護する家族に賠償責任が★あるかは生活状況などを総合的に考慮して決めるべきだとする初めての判断を示した。

 そのうえで今回は、妻(93)と長男(65)は監督★義務者にあたらず賠償責任は★ないと結論づけ、JR東海の敗訴が確定した。高齢化が進む中で介護や賠償のあり方に一定の影響を与えそうだ。

 民法★714条は、重い認知症の人のように責任能力がない人の賠償責任を「監督義務者」が負うと★定めており、家族が義務者に当たるのかが争われた。JR東海は、男性と同居して介護を担っていた妻と、当時横浜市に住みながら男性の介護に関わってきた長男に賠償を求めた。

 民法の★別の規定は「夫婦には互いに協力する義務がある」とも定めるが、最高裁は「夫婦の扶助の義務は★抽象的なものだ」として妻の監督義務を★否定。長男についても★監督義務者に当たる法的根拠は★ないとした。

 一方で、監督義務者に当たらなくても、日常生活での関わり方によっては、家族が「監督義務者に準じる立場」として責任を★負う場合もあると指摘。生活★状況や介護の★実態などを★総合的に考慮して判断すべきだ、との基準を初めて示した。

 今回のケースにあてはめると、妻は当時85歳で要介護1の認定を受けていたほか、長男は横浜在住で20年近く同居していなかったことなどから「準じる立場」にも該当しないとした。

 結論は5人の裁判官の全員★一致。ただ、うち2人は長男は「監督義務者に準じる立場」に当たるが、義務を怠ら★なかったため責任は免れるとの意見を述べた。

 一審・名古屋地裁判決は妻と長男に請求全額の賠償を命じ、二審・名古屋高裁判決は妻に約360万円の賠償を命じていた。

 JR東海は「最高裁の判断なので、真摯(しんし)に受け止める」とのコメントを出した。(市川美亜子)