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高橋和利氏(現京大再生医科学研究所★准教授)
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血液中のがん、網で生け捕り=簡単検査で転移の早期発見も―理研と米大学
血中のがん細胞を高感度でキャッチ&リリースできるナノデバイスを開発
-転移性がんのモニタリングと経過観察に威力-平成24年12月25日
独立行政法人 理化学研究所
◇ポイント◇
ナノ構造のデバイスに温度応答性機能を付加し、捕捉したがん細胞を温度変化で剥離
70%以上のがん細胞を37℃で捕捉し、4℃に冷却すると90%の生存率で剥離に成功
簡便な検査方法により患者の身体的負担の低減に貢献
理化学研究所(野依良治理事長)は、血液中を循環するがん細胞を高感度に捕捉し、そのがん細胞を生きたまま剥離できるナノデバイスを開発しました。転移性のがんの診断や治療後の経過観察に有効です。これは、理研基幹研究所(玉尾皓平所長)Yu独立主幹研究ユニットのユ シャオファ(Yu Hsiao-hua)ユニットリーダー、ザオ ハイチャオ(Zhao Haichao)基幹研究所研究員、ロウ シーチャン(Luo Shyh-chyang)基幹研究所研究員と、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)分子薬理学部ツェン シェンロン(Tseng Hsian-Rong)准教授との共同研究グループによる成果です。
循環腫瘍細胞(CTCs)と呼ばれるがん細胞は、がんができた場所から血液やリンパ液中を流れて体内を循環します。血中に存在するCTCsの量を正確に捕捉して検出できると、転移性のがんの経過観察や治療効果の早期判定に有効です。また、捕捉した細胞を生きたまま剥離できると、その後の詳細な解析が可能になります。これまで、UCLAの研究グループでは、直径100~200nmのシリコンナノワイヤに、CTCsだけと結合する抗体を付けた、高感度なCTCs検出デバイスを作製しましたが、高い生存率で剥離することはできませんでした。
共同研究グループは、捕捉と剥離という異なる機能を両立させるために、UCLAのCTCs検出デバイスに、温度応答性高分子※1でできた高分子ブラシを組み込みました。その結果、ナノ構造による高い検出能、抗体に由来する高い抗原選択性、温度応答性高分子の伸縮特性を生かした温度変化による細胞の捕捉と剥離を可能にしました。実際に、健常者の血液1mlに10~1,000個程度のCTCsを添加した疑似サンプルで評価したところ、37℃のもとではCTCsだけを70%以上捕捉し、その後4℃まで冷却すると、約90% のCTCsを生きたまま剥離できました。
今後、さらなる高感度な捕捉が実現すると、血中に極微量存在するCTCsの正確かつ詳細な診断が可能になり、進行性や転移性がんのモニタリング、治療後の経過観察に威力を発揮すると期待できます。
本研究の一部は日本学術振興会の助成を受けて行われ、この成果はドイツの科学雑誌『Advanced Materials』オンライン版(12月17日付け:日本時間12月17日)に掲載されました。
背景
循環腫瘍細胞(CTCs)とは、がんが始まった場所にある原発性腫瘍から、血液やリンパ液中を流れて転移を引き起こすがん細胞です。がんではこの転移が主な死亡原因となっているため、CTCsの動向を正確に把握する必要があります。一般にがんの診断では、直接組織の一部を採取する生体組織診断が行われていますが、患者の身体的負担は少なくありません。それに比べて、血液検査だけでCTCsを検出する方法は、利便性に優れ、患者に負担が少なく、また早期発見に有用です。しかし患者の血中には、血液1mL中に血液細胞が109個存在するのに対し、CTCsは数~十数個ほどしか存在しません。これまでに、米国Veridex社が開発した、CTCsと結合する抗体(抗EpCAM※2)を磁性粒子に固定化したセルサーチ(Cell Search®)だけがアメリカ食品医薬品局(FDA)に承認されていますが、さらなる高感度化が求められています。また、捕捉したCTCsを詳細に調べられるよう、生きたままCTCsを剥離する技術も求められています。
これまで、UCLAの研究グループでは、直径100~200nm、長さ15~20μm の柱が高密度に立ち並んだシリコンナノワイヤに抗EpCAMを付けた、高感度なCTCs検出デバイスを作製しましたが、高い生存率で剥離することはできませんでした。
共同研究グループは、こうした課題を解決するために、UCLAのCTCs検出デバイスをもとに、新たなナノデバイスの開発に挑みました。
研究手法と成果
まず、シリコンウエハを化学処理してシリコンナノワイヤを作製しました。次に、32℃を境に高分子鎖が伸縮する温度応答性高分子(PIPAAm)でできた高分子ブラシを、シリコンナノワイヤの表面にコーティングしました(図1)。さらに、CTCsを選択的に捕捉するために、抗EpCAMを高分子ブラシに固定化しました。こうして、ナノ構造による高い検出能、抗体に由来する高い抗原選択性、温度応答性高分子の伸縮特性を生かした温度変化による細胞の捕捉と剥離を可能にしました。
実際に、ヒトの血液1mL中に10個~1,000個のCTCsを添加した疑似サンプルで、このナノデバイスの有効性を検証しました。その結果、どの濃度条件下でもCTCsだけを選択的に検出し、70%以上という高い検出能を得ました。さらに、37℃ではPIPAAmは縮んでCTCsを捕捉する一方で、その後4℃に冷却するとPIPAAmは伸びて、ほぼ損傷せずに約90%の生存率で剥離できました(図2、図3)。細胞の捕捉と剥離という異なる機能の両立を、高い効率で達成したことになります。
今後の期待
今回、温度応答性という機能を従来のデバイスに付加した結果、高いCTCs検出感度を維持したまま、捕捉した細胞を生きたまま取り出すことができました。今後、検出感度をさらに向上させると、目的のがん細胞を選択的かつより多く回収できるようになります。純度が高いサンプルから有益なデータの抽出が可能となり、進行性や転移性がんの診断に貢献できます。また、血液検査だけで診断するデバイスは、患者の身体的負担の軽減と、がん治療後の経過観察の効率化に貢献できます。
原論文情報・・・割愛
(発表者)
独立行政法人理化学研究所
基幹研究所 Yu独立主幹研究ユニット
ユニットリーダー ユ シャオファ(Yu Hsiao-hua)
(報道担当)
独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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