今回は投票率を見てみよう。公開政策討論会は、投票率の向上に寄与したのか。
市長選の投票率の推移は、17年は、80.71%、21年は77.32%、25年は71.07%、今回は69.23%である。2%下がっている。これを見ると、公開政策討論会は、投票率の向上に寄与しなかったように見える。本当にそうか。
アメリカの政治学者ライカーとオードシュックは、合理的選択理論に依拠して、有権者が投票に際してどのような行動をとるかを以下のように定式化した 。
R=P×B+D-C
Rは、有権者が投票することによって得られる報酬 、R>0であれば有権者は投票に行き、R<0となると有権者は棄権すると考えられる。Pは、政治的有効性感覚、Bは、自分が支持する政党ないし候補者が政権についた場合と自分が支持しない政党ないし候補者が政権についた場合にもたらされる効用の差。この効用の差が大きければ大きいほど、有権者が投票に参加する可能性は高くなり、どの候補者、ないし政党も同じだと思えば、投票しない可能性は低くなる。Dは、民主主義の主権者としての責任意識、Cは投票コストである。したがってR>Oとして、投票率を上げるためには、PBとDを上昇させ、Cを低下させる方策が必要である。
PやBをあげる方法として、今回の公開政策討論会があった。その効果については、今ここでは示す材料がない。ただ本格的な調査はできなくても、地域の人に聞いてみれば、その効果のほどはある程度推測できるだろう(仮説は、「少しは効果があったと思う」)。
ここでは、Cを考えてみよう。投票率を上げるには、投票にかかるコストをできるだけ、少なくすることが肝要であるが、その際、次の四つの「投票コスト」をいかに最小限に抑えるかが問題となる。①雨か晴れか、②投票所が近いか、遠いか、③投票時間が長いか、短いか ④同日選挙である。
今回大きな影響を受けたのは、台風22号である。新城市には上陸しなかったが、台風がきそうという情報、それに伴う雨は、投票率に抑制的に働いたろう。「100mmの雨が降ると、大体13%ほどの投票率が落ちる」(田中善一郎)という見解もある。それにも関わらず、前回より2%減にとどまったのは、ある程度の投票率の持ち直しがあったとみることができよう。むろん、それに公開政策討論会がどの程度寄与したかはわからないが、「少しは寄与した」というのが私の推論である。
今回の投票率を考える、もう一つ大きな要素は、今回は18歳、19歳にも選挙権が与えられたという点である。先発の千葉市などのデータを見ると、18歳、19歳の投票率は平均の半分、ボリュームが多い60歳代の3分の1と低い。今回の選挙から、18歳、19歳が加わることによって、全体で投票率を下げていると考えられる。この点については、今後の選挙管理委員会の分析を期待したい。
時間がなく、詳細な分析をする情報も余裕もないので、これ以上の検討はできないが、公開政策討論会は、選挙への関心を高め、投票行動に結びつける「少しは効果があった」というのが、私の推論である。これを「ある程度効果があった」に高めるための、どうしたらよいか、そのための制度や仕組み、運用方法を考えていくことが、今後、重要なのだろう。