松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆熟議の市長選挙㊿合同個人演説会(新城市)

2017-10-26 | 1.研究活動

 告示後の公開政策討論会が行われた。今回は、見に行くことができなかったので、ユーチューブで見た。 

 名称は、合同個人演説会に代わっている。合同と個人は、ミスマッチのようであるが、これは、告示前の市民実行委員会による公開政策討論会が、公職選挙法で禁止されているためである。 

 Q 候補者、候補者届出政党等以外の第三者が二名以上の候補者の合同演説会を開催することはできますか。
 A 第三者が演説会を開催することはできません。

 かつては、立候補者が集まって行う立会演説会制度があった。これが昭和58年に、公職 選挙法の一部を改正する法律(昭和五十八年法律第六十六号)で廃止されたものである。廃止の理由、立法事実を見ると、候補者自身が、この演説会の意味が乏しいと考えるようになって、代理人を立てたり、漫談みたいなことを言ったりして、政策を討論する場とは、とても言えない内容になってしまい、そのうち、「回数はだんだん減っておるわけでございます」という状況になってしまった。選挙最中の貴重な時間をこんな立会演説会に使うより、名前を連呼して回ったり、駅頭で演説したりしたほうが、得だと考えるようになったためである。

 弊害も現れた。「自分の支持している候補者が出るときにはたくさんばあっと入ってき て、それが済むとぱっと出てしまう、こういうことが常のようになりました」というケースや、大きな拍手の一方、汚いヤジやブーイングも行われた。そんなことで、立候補者も市民も、立会演説会に期待せず、「形骸化が一層進んだ」ためである。

 今回の合同個人演説会という奇妙な名前の公開政策討論会は、この公職選挙法を受けて、それをすり抜けて、公開政策討論会を行おうという試みである。「公職の候補者以外の者」つまり、今回の市民実行委員会による合同演説会は、公職選挙法で禁止されているが、候補者が「合同個人演説会を主催」することは、禁止されていないので、その体裁をとったものである。 

 だから合同個人演説会といっても、それぞれの候補者が、好き勝手なことを演説するわけではなく、内容はこれまでの公開政策討論会と同じである。各候補者がコーディネーターをやって、相手に質問する。むしろ、告示後なので、自分が市長になったら、まちがこんなに良くなるというアピールができるので(タスキもかけられる)、内容的には、核心に触れる面白いものとなる。

 実際の討議の内容は、映像を見てほしい。もっときちんと答えてほしいと思う内容もあったが、これもその人の人となりの反映で、見る人によって評価も違うのだろう。内容の評価は、別に機会があれば、そこで述べよう。 

 やはり特筆すべきは、これに参加した市民の態度である。産廃や住民投票など、新城の亀裂の原因となっているテーマも出され、議論になり、候補者の発言が、自分たちの意見とは違うと考える人も多数参加していただろうが、だれ一人、ヤジやブーイング、あるいは拍手をするものではなく、整然と話を聞いていた。 

 ユーチューブで見ている範囲であるが、聴衆のほうが、感情的反応を表さないように、心している感じのようなものが伝わってきた(例えば、候補者が、相手の行動を揶揄するような、笑いを誘うようなことを言っても、それに反応しないような態度)。

 以前あった立会演説会は、市民自身の行為によって、いわば自滅的に廃止されたが、新城市の合同個人演説会は、市民の自律が効いたものになった。この評価について、穂積さんも言っていたが、これこそが市民自治で、全国広しといえども、新城でなければできないことである。その背景として、自治基本条例や市民まちづくり集会といった、自治の積み上げが、あることは間違いないだろう。こうした自治の実践ができることが、全国に誇る新城の価値の一つ(新城市の人は気が付いていないが)だと、改めて感じたところである。

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