松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆中高年はなぜ大量懲戒請求に走るのか(三浦半島)

2018-05-27 | 1.研究活動

 中高年はなぜ大量懲戒請求に走るのか。

 2016年に東京弁護士会が朝鮮学校への補助金支給をめぐる国の対応を批判する会長声明を出したことがきっかけに、ネット上などで懲戒請求を出すよう呼びかけに応じて、中高年が、東京弁護士会の役職者ら10人に対し、大量の懲戒請求を出した(合計13万件にもなるらしい)。懲戒の理由である犯罪行為は外患誘致罪である。外患誘致罪は死刑しかない。弁護士に対する懲戒請求は、「弁護士業務の禁止」である。要するに、死刑、あるいは仕事のクビにするということで、どちらにしても大変なことをした。

 懲戒請求のテンプレートがあり、そこに名前と住所を書いて、大量に送ったとのことである。家族の名前を書いて送った人もいるようだ。景品に応募するノリである(懲戒請求をした人たちの多くは、自分の名前が弁護士に伝わるとは考えなかったようだ。懲戒請求が匿名で行えると考える方がおかしいが)。

 では、どうして中高年とわかるのか。「懲戒請求した人の年齢で、今分かってるのは、1番若くて43歳。40代後半から50代が層が厚く、60代、70代もおられる」とのことである。これは和解に来た人から、その弁護士が聞いたものである。学生に、見てもらったら、答えは簡単。「若い人は、こんなネット情報に煽られて、自分の名前をさらすことはありえない」・・・。

 ではなぜ中高年が、大量懲戒請求に走るのか。重要なポイントは、彼らは、決して不真面目で、いい加減な気持ちで懲戒請求をしているわけではないということである。むしろ逆で、まじめに、これで社会がよくなると思って、行動を起こしている。独りよがりであるが、正義のため、社会のためである。

 中高年が、社会貢献活動に取り組む動機の一番が、「社会に役立ちたい、社会への恩返し」である(他方、若者の場合は、「自己の人格形成、成長」である)。私も同世代だからよくわかる。「残された人生、少しでも社会に役立ちたい」。実際、地域のまちづくりは、この中高年の「社会に役立ちたい」という思いで成り立っている。もし地域の活動から「社会に役立ちたい」と思っている中高年が撤退したら、たちまちすべてが止まってしまう。ところが、この「社会に役立ちたい」という思いが、死刑や仕事がクビの大量懲戒請求に向かってしまったのである。

 「社会に役立ちたい」という思いが形になるフィールドが、地域におけるまちづくり活動なのか、あるいはネットの世界なのかは、とても、大きな違いである。地域の場合は、地域には自分の意見とは考え方の違う人がたくさんいて、それら意見も聞きながら、妥協し、合意点を見つけながら、一歩ずつ進めていくしかない。むろん、匿名ではありえない。その過程で、一人ひとりの人間性や行動が問われることになるが、それは同時に、この活動のなかで、価値の多様性という私たちの民主主義の基本が鍛えられていくことになる。

 他方、ネット空間では、自分にとって都合の悪い意見は無視でき、都合のいい意見だけを選択できる。しかも、匿名性を使って、言いっぱなしも可能である。価値の相対性という私たちの社会の基本が、鍛えられることもない。

 「社会に役立ちたい」と思っている中高年の思いを、ネットに向わせるのではなく、地域において、困っている高齢者や障がい者への寄り添い、助力というリアルな行動に向かうように後押しし、そのための仕組みを作ろうとするのが、政府が進める「一億総活躍社会」であるし、私の「協働」の仕事であるが、それが十分にできていないということなのだろう。

 今、弁護士からの損害賠償請求を起こされ、あるいはその予告を受けている人たちは、不安と孤立感に、さいなまれていることだろう。連れ合いや家族に言えずに、悶々としている人もいると思う。訴訟になれば、和解になるだろうし、判決が出ても、わずかな金額で、弁護士費用も含めて、50万円から100万円くらいで済むだろう。金額的には大したことはないが、訴訟になれば氏名もオープンになるなど、波及的被害のほうが大きい。テンプレートに名前を書いて出した大量懲戒請求は、褒められたことではないので、社会からは、差別主義者と見られて、社会から、のけ者にされてしまうだろう。

 大量懲戒請求をした中高年は、今、マイノリティとしての孤立感、不安感を強く感じているのだろう。ところが、皮肉なことに、これは、彼ら大量懲戒請求者がターゲットにした在日朝鮮人の人たちが、感じている不安感・孤立感と同じものである。これを今度は自らが感じることになる。

 これを追い詰めすぎれば、おかしな形で、発露することになる。これは本人にとっても社会にとってもよいことではない。今回の懲戒請求に共感する人もいるようなので、共感するのならば、その人たちは、ぜひ、現実世界で、これら中高年のための地道で現実的なアドバイスや対応を始めてあげてほしいと思う。遠巻きに勇ましい言葉を投げかけれるのではなく。

 *訴訟になって使う50万円から100万円のお金も、有用ならばたいしたことがないが、今回の場合は、有用だったと感じるのが難しいかもしれない。ちなみに、マロン君はダックスの宿命の椎間板ヘルニアの手術をして、70万円かかったが、以前にもまして、すっかり元気になった。この前、お医者さんから、あと4,5年は生きるだろうと言われた。定年退職者にはきついが、これは有用だった。

 

 

 



 

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