松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆熟議の市長選挙㊹市民の役割の続き(新城市)

2017-09-30 | 1.研究活動

 前回の市民の役割をもう少し詳しく書いておこう。

 ①顧客としての市民という考え方は、何度かブームになっている。
 1960年代の末に、松戸市で始まった「すぐやる課」が全国でブームとなった。これはマツモトキヨシの社長の松本清が、松戸市長のときに始めたものである。その後、多くの自治体で追随したが、今は、ほとんどなくなった(松戸市は続けている)。すぐやる課の出番の多くが、スズメバチが出たので駆除してほしい、落ち葉が積もったので掃除してほしいというものである。

 2000年以降は、NPM(ニューパブリックマネジメント)の流れである。地方自治のよくわからない企業コンサルタントの人たちが、顧客第一主義を持ち込んできた。中には、「いらっしゃいませ」という役場まで現れた。私などは、NPMというところを、思わずNSP(ニュー・サディステック・ピンク)「夕暮れ時は寂しそう」といってしまい、会場をポカンとさせてしまうことになる。NPMは、イギリスから始まり、ニュージーランドで華々しく花開いたが、だいぶ前に、ニュージーランドに行ったときは、もう見る影もなかった。

 顧客としての市民は、そのうち、救急車をタクシー代わりに使うようになって、本当に、急病で必要な人が、救急車を使えないという事態にもなって、「タクシー代わりに使わないで」というPRまでするようになった。

 ②憲法秩序の下では、市民は主権者としての存在(主権者市民)である。
 ただ、主権という概念は、国家の議論で、対政府との関係で成り立つ。フランス革命で、フランス国民は自分たちの国をつくったが、政府は、市民の政府であるから、主権を持つ市民は、政府を市民の意のままにコントロールできる権利となる。

 他方、地方自治は、主権論だけでは成り立たない。主権国家の歴史は、1789年のフランス革命以降であるから高々、200年の歴史しかないが、日本の地方自治は、弥生時代から2000年も続いている。ベネディクト・アンダーソンは、国家を想像の共同体といっているが、地方自治は、現実の共同体である。

 地方自治は主権論だけでは説明できない。そのよい例が、空き家問題である。政府をいくらチェックし、コントロールしても、空き家問題は解決しない。まずは所有者の自律で、ついで地域やNPOなどの協力がなければ、解決できない。つまり、地方自治においては、市民は、主権者であると同時に公共活動の主体という側面を持っている(公共主体市民)。

 ③公共の担い手としての市民
 そこで出てきたのが、公共の担い手としての市民である。ところが、戦後すぐの1947年にできた地方自治法は、①と②の市民概念でつくられていて、公共の担い手としての市民という発想がない。確かに、戦後の破壊と混乱のなかでは、市民は、顧客であり、主権者で足りていたかもしれないが、1993年にGDPが世界一になり、戦後の事情が大きく変わってきた中で、地方自治法はあまりに時代遅れである。

 そこで全国で作られ始めたのが、自治基本条例である。地域において、福祉や環境、まちづくり等に、はつらつと活躍している人たちがいる。こういう人たちが頑張らないと行政だけでは、福祉や環境を守れない。そこで、この人たちに焦点を合わせて、この人たちを公共の担い手として位置づけ、さらには、今後大いに活躍してほしい人(例えば、若者、女性)が、存分に活躍できるような、後押しの仕組みを用意した。法の欠缺を条例で補おうという市民の知恵である。

 新城市の自治基本条例も、そのひとつで、②の市民像を基本に、③の市民像を加味した条例となっている。とりわけ新城市の優れたところは、愚直に取り組むことで、多くの町では、自治基本条例をつくって終わりなのに、新城市では、市政の基本に、この自治の基本体系を据え、③の政策を次々と、打ち出している。若者議会、女性議会、地域自治区などある。これまであまり活躍してこなかった、若者、女性、地域を公共の担い手に位置付け、存分に力を発揮してもらおうという政策である。

 前回は、小さな政策選択と書いたが、想定する市民像がどのようなものかによって、その土台の上に花開く政策が大きく変わってくる。3人の立候補予定者が、どのような自治の体系を語るのか、そこは聞き所だと思う。

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