松下啓一 自治・政策・まちづくり

【連絡先】seisakumatsu@gmail.com 又は seisaku_matsu@hotmail.com

☆住民投票は権力的?

2012-07-24 | 1.研究活動
 講演会で、住民投票の話になり、住民投票制度は権力的といったら、微妙な反応があった。少し思いを書いておこう。
 住民投票は、民主的な制度の代表のように言われているが、私は、民主的とはずいぶんと遠い位置にある制度だと考えている。
 これは民主的とは何かという理解と関係する。
 みんなが参加することが民主的の本質だと理解すると、住民投票はまさに民主的な制度である。しかし、民主主義とは価値の相対性で、つまりさまざまな価値、意見の中から、より良いものを作り上げていくことが民主制の本質であると考えると、住民投票は、民主性とはずいぶんと遠い制度になる。
 別のところにも書いたが、住民投票というと私はすぐにヒットラーのナチスを思い出す。
 住民投票の最大の弱点は、少数者を数の力でねじ伏せることである。多数で決まったのだから、それに従えという主張には、私は違和感を禁じ得ない。なぜならば、私たちの社会は、一人ひとりが尊重される社会で、弱い人も声の小さい人も、価値が認められる社会だからである。声の小さい人の思いをくみ取って、少しずつではあるが、歩を前に進めるのが、私たちの社会である。住民投票は、小さな声を力ずくで否定してしまう。
 住民投票の結果、コストがかかるからと言って、福祉施設はできないことになる。図書館も必要ないということになる。福祉利用者も図書館利用者も少数だからである。市庁舎も立て直しができないことになる。市役所職員も少数だからである。自分が福祉のお世話になるときに、はじめて、数で決めた愚を悟ることになる。大災害が起こって、市役所がつぶれて、救援機能がマヒしてはじめて、失敗だったとわかることになる。言い換えると、私たちの社会は、数でAかBかを決める社会ではなく、知恵をたくさん繰り出して、AとBのよいところを取り入れて、Cを生み出す社会である。
 私の住む横須賀で、自治基本条例が棚上げになっている。「キモである住民投票がどのような制度になるか決まっていないから」というのが理由である。住民投票が自治基本条例のキモという理解には驚いてしまう(キモは、AとBのよいところを取り入れて、Cを生み出す、重層的で実質的な参加の仕組みである)。しかも、こうした議論をしているのが、少数者の意見をくみ取り、さまざまな意見を議論を重ねながら止揚するのが本来の役割である議会というのが、とても残念である。
 住民投票制度が好きな人は、きっと強い立場で権力的な人なのだろうというのが私の仮説である。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ☆区民会議第一期終わる(相模... | トップ | ★マイたとえ話を持とう(厚木... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

1.研究活動」カテゴリの最新記事