神奈川県葉山町における研修である。葉山町は、現在、見直している総合計画で、ほとんどすべての項目について、特に協働で何ができるかを特出ししている。その延長線で、協働によって役場の仕事がどのように変わっていくのか、協働の意義からさかのぼって話をすることになった。
すでに本(『協働が変える役所の仕事、自治の未来』(萌書房)にも書いたが、協働という発想は、これまでの役所の仕事を大きく変えるパラダイムである。今日の憲法秩序になっている「市民による監視の対象」である役所を「市民を励ます存在」に変える概念でもある。
協働は、自治体職員の仕事の仕方が大きく変える。市民を後押しすることを基軸に考えると、これまでとはずいぶんと違う仕事ぶりになるからである。総務課だって協働があることは、前著で詳しく書いた。今は、なかなか理解されないが、あそらく、あと数年したら、私の主張は、当たり前になるだろう。
今回の研修は、全部で3回、入れ替え制の2時間半であるが、前半は講義、後半は演習とした。演習では、市民を励ます事業を考えてもらった。発表のなかで、印象的だったもののなかから、ここではひとつだけを紹介しよう。
葉山町の人たちが中心となって、りっぱな葉山町史をまとめたが、これをまとめた人たちが先生になって、地域住民や子どもたち、さらには町外の葉山が好きという人たちに向かって、町の魅力を紹介する事業をやってみたらどうかというものである。
葉山町は、まちで「先生」と声をかけると、何人もの人が振り向くと言われほど、高い文化度を持っているが、それが潜在化して個人保有にとどまっているか、あるいは外に出たとしても自分たちの趣味の世界にとどまっている。これを公共的にところに振り向けるという事業である。
しかし、この人たちが、実際、これをやってみると、多くの住民は無関心であるという厳しい現実に直面することになる。こんな素晴らしいことなのに、なぜ興味を持たないのだろうと切歯扼腕することになるだろう。しかし、そこが転換のチャンスである。この壁を自分たちで乗り越えるために、知恵を絞り努力をする。行政がそれを後押しすることで、自治の当事者に転換するチャンスとなるからである。地道な取り組みであるが、自治はこうした努力をあちこちで同時多発的に起こしていくことで、前に進んでいく。
今回の職員研修には、松下ゼミ3年生のKotohaが参加した。学生の勉強にもなるし、役場の職員にとっても、刺激になると考えたからである。研修が終わってKotohaの感想は、開口一番「レベルが高かった」というものであった。地域のワークショップで鍛えられている学生たちであるが、あらためて自治体職員の質の高さを感じたようだった。「女性が積極的に発言する」のも新鮮だったようだ。
研修には、山梨町長さんのほか、副町長さん、総務部長さんなど、町の幹部職員も方々も参加したが、こうした人たちと同席できたのも、学生にとっては、大きな財産になったと思う。
職員研修に外部の人が入るのは異例のことだと思うが、快く了解してくれた企画調整課のみなさんには感謝したい。