『励ます地方自治』の再校版を萌書房に返送した。
今回の作業は、速攻、とりかかった。いくつかの原稿が終わって、時間があるのと、早く決着して、次の本に取り掛かろうと考えたからである。
今回、改めて、私自身は、誰に向けて本を書いているのかを考える機会があった。これにはもちろん正解はなく、人によって、答えはさまざまであろう。私自身は、市民や自治体職員向けに、自治というテーマに関してであるが、進むべき道を考えるヒントになればという思いで本を書いている。
研究者の中には、学会や同じ研究者仲間を意識して書いている人もいる。研究者としては、学会の中できちんと評価されたいと思うのは、当然のことなので、理解できないことではないが、もともとの出自が政策マンの私は、学会や研究者仲間で、評価を受けるために、努力をしようと考えたことはない(むろん、学会から評価を受けるのはうれしいことで、評価を拒否するという意味ではない)。
以前、政治学のテキスト『18歳の政治学』の編者になった時、私は、「はじめに」に次のように書いた。
この本を執筆するに当たっては、執筆者全員で次の3点を確認しながら書くこととした。
第一が、あくまでも初学者向けのテキストであることである。
この本は、もっぱら大学生が一般教養科目としての政治学を学ぶためのテキストであり、その目的に適うように執筆するということである。
これは当然のことのように見えるが、そのとおりに実践するのは必ずしも容易なことではない。なぜならば、研究者はついつい他の研究者を意識して本を書いてしまうからである。その結果、学生が到底読むとは思われない論文を延々と紹介するということになってしまうが、この本では、意識すべきは研究者ではなく学生であるという出発点を常に忘れずに執筆することとした。
大阪国際大学で、古賀敬太先生、山本週次先生、瀬島誠先生、滝田豪先生のようなすぐれた政治学者たちに対して、改めて読み直してみると、(汗)といった感じであるが、基本的なことなので、このようにさせてもらった。
地域に出かけ、たくさんの市民や自治体職員の方々にお会いするが、何か思いを持っているけれども、うまく形にできない、そんな人たちで出会うことがある。こうした人たちが、思いをうまく形にして、行動するきっかけづくりをすることを長年続けてきたために、私の目は、学会や研究者仲間に向わないのかもしれない。あるいは、相模女子大学で、これまで社会のことを考える機会が乏しい学生たちに、社会の問題を自分の頭で考える手助けをするという仕事をしているのも、影響しているかもしれない。
これが私が本を書く理由であるが、ただ、今回、あらためて自戒すべきと考えたのは、リードが過ぎてお仕着せになったり、何よりも市民や自治体職員が、自ら考えるという気持ちをスポイルするようなことがあれば、それは過ぎたることである。この自主・自律と後押しのさじ加減は難しく、明快な正解はないが、私自身、常に注意し、心がけるべきことなのだろう。
この自主・自律と後押しの加減具合は、今日の自治でも問われている。そのなかで、あえて後押しにスポットを当てて書いたのが『励ます地方自治』ということなのだろう。これまで信じられてきた自治のあり方を変え、さらには憲法秩序にまでさかのぼる問題であるので、その全体像を示すのは、私にとっては荷が重すぎるが、何かのヒントは書けたように思う。
このペースでは、刊行は1月末ころだろうか。