高校生のころ(昭和25年)キジア台風が接近して河口の川は少し荒れていた。
丁度、満潮近くのようで川の流れは余り無いように見えた。
夕暮れの土手に一人立った私はコレなら向こう岸に泳ぎ渡れて又泳ぎ返って来られると感じた。
何故か急に泳ぎたくなり其処に服を脱ぎ褌を締め川に飛び込んだ。
もう半分は泳いだかなと向こう岸を見ると向こう岸は遥か彼方だ!
アレ!おかしい?と思って振り返って飛び込んだ岸を見ると約百メートル位(川幅の1/3)しか泳いでいない。
途端に引き返そうと決めてUターンするもクロールの手が波に妨げられ思うように泳げない!
泳ぎながら水の下を見ると真っ暗闇だ。
益々焦る。
どうしようかと、立ち泳ぎを始めると足がもつれる。
川の流れは表層の1mより深いところは海に流れていて上と下では流れが逆になっている。
思わず「危ない」と恐怖を感じる。
フト その時 私の目に工事用の電柱が川の中に立っているのが映った。
少し離れていたが、兎に角、その電柱まで行き休むことだと今度は必死の思いで泳ぐ。
やっと電柱に着いた時はホッとしたものだ。
然し 電柱に手を掛けて休むにも波が荒くなり、わが身体は大きな波に翻弄されて上下1m位上がったり下がったりする。
柱には手懸りが無く波の動きに浮いたり沈んだりする身体を手をバタバタさせながら波の動きに会わせ電柱を登り降りして電柱にしがみ付いていた。
ナントカ元の岸に帰らねばと言う気持ちに駆られる。
少しでも休んだ所為か気が落ち着き河の流れを見ると流れは川の上流に流れている、まだ上げ潮だ!よし!斜めに波に乗り岸を目指して上流に泳ごうと決心。
波が少し収まったと感じたところで電柱を後にして波に乗る如く斜め上流に泳ぎながら岸に向かうように泳ぎ始める。
今度は波に後押しされたように割りと楽に泳げる。
先ほどのガムシャラに対岸の岸に直角に泳いだ時と全く異なる。
泳ぎ易く感じた為か泳ぎは意外と速く気が付くと左岸の岸が目の前にあった。
岸に上がり元の飛び込んだ場所に戻り着替えて、何食わぬ顔で家に帰る。
何故、この無謀な私の泳ぎを書いたかと言うと、翌日、何故か、あの電柱が気になって仕方がなかった。
私はあの怖い思いをした川を、確かめるべく、もう一度 昨日の土手に立って電柱を見に行ったのだ。
不思議な事に、あの私を助けてくれて電柱が見当たらないのだ。
そんな馬鹿な?と思いつつ何度も、あの辺りに在ったと見て探しても見つからないのだ。
潮は引いている。
見える筈だ。
確かにあった。
そして私は電柱にしがみ付いて休んだのだ。
でも何も見えない。
一夜でなくなる訳がない。
まさか幻の電柱に摑まったわけでもあるまいし?
私の手には無数の木の刺による傷跡と未だその痛みが残っていた。
ジ~と手の傷を見た。
これで、このシリーズは一応 終わりにします。パソコン・トラブルが続きました。
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