「大丈夫か、サーニャ。辛くないか?」
「大丈夫よ、エイラ。」
エイラにとって、そして
501メンバーから見てエイラがサーニャの世話をするのは当たり前となっている。
どうしてそうなったかは誰もよくわからない。
気付いた時には『自称』いつもクールでカッコいいエイラ少尉が妙に初々しい態度でサーニャに挑んでいる事実。
サーニャをネタにジャッキー(シャーリー、ルッキーニ)にエ―ゲル(エーリカ、トゥルーデ)のコンビにからかわれてようになっていた。
「んあ?」
「あら」
廊下で眠たげなサーニャと一緒にテラスに向かっていたエイラは、
同じくテラスに向かっていたペリーヌと鉢合わせた。
「なんだよー。ツンツンメガネかー。」
「なんですの、その残念そうなセリフは。」
むすっと答えるペリーヌ。
金色の瞳に同じ色の眉が釣り上がり「怒ってます」と顔が言う。
さらに、両手を腰を当ててないむすっと胸を張る。張ってもやはりナイムはナイムネであった。
それを見て、そんなのだからツンツンメガネはツンツンメガネなんだよなー等とエイラは思った。
「いい加減ちゃんと、わたくしの事をペリーヌと呼んでくださいませんこと?」
「あーはいはい、ペリーヌペリーヌ。」
「むっきぃ――。言っているそばからなんですの!?その含みのある言い方は。」
そうすぐ反応する奴にそう簡単に素直に言うわけないだろ。
と、エイラの考えは決して表にださない。
「ん、少佐だ。」
「え、ええ!!?どこです?どこですの?」
ひょいと、背を伸ばしペリーヌの後ろに人を見つけた動作をした。
無論、釣りである。ペリーヌの後ろどころか、この廊下では坂本少佐の影も形も存在しない。
「やーい。騙されてやんの。」
「エ・イ・ラ・さ・ん。」
肩を振わせこの侮辱にどうしようか、等とペリーヌは考えていそうだ。
まあ、騙したエイラも一体どこの小学生のレベルの悪戯なんだか。
「ペリーヌさん・・・シャンプーの香りがする・・・。」
それまで部外者だったサーニャが会話に介入する。
寝ぼけたまま、スンスンと小さな鼻を動かす。エイラに寝ざめの一言がそれかと突っ込む余裕はない。
代わりに、内心自分はどんなニオイがするのか。いやいや、サーニャに嫌われないだろうか、
ああ、風呂に入ればよかった。とヘタレな思考を巡らす。
「まあ、サーニャさん。よく聞いてくださいましたわね。」
ペリーヌの表情が明るくなる。
まあ、どうせ宮藤あたりが何かしでかしたんだなとエイラは当たりをつける。
「聞いてくださいまし・・・。」
宮藤さん、いえ。
あの豆ダヌキ、わたくしの髪にモップを被せたのですよ。
おまけに、隙だらけで謝りつつさらにモップを被せてきまして。
まったく、ついこの間まで民間人だったとはいえウィッチとしての心構えがなってませんわ。
坂本少佐が見込んだとはいえ・・・きぃ―――。なんですの少佐と同郷というだけでも羨ましいのに。
少佐にベタベタベタベタとくっ付いて、わたくしだってもっと少佐に構ってもらいたい、いえむしろ振り向かせるつまりなのに。
ああ、坂本少佐のお美しいこと。
長く美しい黒い髪。何事も動じない凛々しい瞳。
少佐はわたくしのあこがれでしてよ。
(うわぁ、またはじまっているし。)
エイラはペリーヌの少佐信者っぷりにやや引き気味だ。
もっとも、自分のサーニャ至上主義者っぷりはまったく気づいていない。
「・・・ペリーヌさんは、宮藤さんの事。キライなの?」
ここで、黙って聞いていたサーニャが口を開く。
「え?いえ。
別にキライというわけでなくて。ただ気に入らないだけですわ。」
突然の問いにペリーヌは戸惑う。
ペリーヌにとってサーニャは幽霊みたいな者でこうして聞かれるのは初めてだからだ。
「でも、ペリーヌさん。
なんだか嬉しそうに話していた。」
「そそそそ、何を馬鹿な事を仰っているのですの!?」
サーニャの意外な言葉にペリーヌはうろたえる。
白い肌がほのかに赤く染まり言葉を濁す。
大変わかりやすくうろたえている。
「あやしいなーペリーヌ?
坂本少佐だけでなく宮藤も好きなんじゃないか。」
「貴女は黙らっしゃい!!
だいたいそんな馬鹿なことがあってたまるもんですか。」
「ほんとかなー?」
ニヤニヤ、そんな擬音が聞こえてきそうな顔をエイラは浮かべる。
元より、悪戯っ子な性格を持つエイラにとってこのいかにも弄ってください。
と、言わんばかりに隙だらけなペリーヌを逃すはずがない。
「いいですか!
宮藤さんはこの誉れ高き統合戦闘航空団、ストライクウィッチーズの一員でしてよ。
ブリタニアの防衛を担う世界を代表するウィッチとしての自覚があの子のには足りないから、こう厳しく言っているだけです。」
流石はガリアのエースというべきか凄まじい気迫だ。
高貴な者だけが自然に得た高貴たるものカリスマが溢れている。
カールスラントのユンカー出身の厳格な将校団と渡り合えそうなくらいに。
ペリーヌの下にかつていた部下、アメリーなら泣きだしただろう。
もっとも今回は残念ながら、相手が悪すぎたが。
「ああ、つまりペリーヌの色に宮藤を染めてしまいたい、というわけか。」
「んな・・・染める・・・っ!?」
常にマイペースなエイラにその気迫は通用しなかった。
逆にさらなる弄りに邁進するのであった。
「いやー。
ミーナ中佐に異性との恋愛は禁止されているから、同性に走るなんて思いもよらなかったよ。」
「同性っ!!は・・・破廉恥な~~~!!」
わざとらしく関心して。
これまたわざとらしくしきりにエイラは頷く。
無論、ニヤニヤと笑みを浮かべたままだ。
「大丈夫よ、ペリーヌさん。
そんなペリーヌさんをわたしは応援しているから。」
「ち、違います。
一体全体何を勘違いをしているのですかサーニャさんは!?」
一切の悪意のなく綴られた言葉にペリーヌは慌てる。
故意に煽るために言ったのではないのはペリーヌも知っているらしく。
怒鳴り散らすわけにはいかず、どう誤解を解けばいいのか悩み、しきりにうぬぬ、とかぐぬぬとか言葉を漏らす。
「知っています、大切なヒト。エイラのように坂本少佐を大事に思っているんですね。」
「はい!!?」
「うえっ、サーニャ!!?」
ここまで来てまさかの暴露というべきか。
サーニャが述べた発言に2人は混乱する。
「あらあら、愛されていますわねー。エイラさん。」
先に復活したのはペリーヌだった。
少佐を大切な人であると指摘されて心臓は鼓動するが、
勢いはペリーヌの方にある、散々弄った仕返しを実行する。
「愛されているなんて・・・恥ずかしいじゃないか。」
「ええい、くねくねしない!!」
別の意味でニヤニヤするエイラ。
恥ずかしそうに体を揺らしているが惚けやがったよこのヘタレは!
「と・に・か・く。
少佐についてはあくまで尊敬の対象です。
決して、決して、決して恋愛対象と見てはおりません。いいですか!!」
ふーふーと鼻息を荒くし、ペリーヌは天然とヘタレを睨みつける。
これ以上いたらどんどんボロがでそうなのでなおさら強気に出ているのだろう。
(あー相変わらずツンツンメガネは一直線だから扱いやすいな。)
エイラはそんな追いつめられ気味なペリーヌを見て思う。
普段ペリーヌは努めて理性的に振舞おうとしている。
が、その根本は感情の塊でできている。だからこそ、こうしてからかうと直ぐに反応してくる。
とはいえ、さすがにやり過ぎたかもしれない。
現在は例えるならば威嚇する猫。ふーふー息を荒げ全身の毛を逆立てている危険な状態。
からかいはお互い笑い飛ばせる範囲で限定すべきだか、やり過ぎだ。
「わかったわかった、正直やり過ぎたのは謝るよ。」
「ふんだ・・・最初からそうしていればいいものを」
弄りやすいお前を無視できないから、ムリダナとエイラが発言しようとした時。
警報。
「な・・・ネウロイ。」
「早すぎますわ!!」
「・・・・・・うん。」
毎度の不愉快な音が基地に木霊する。
よりにもよって当分来ないとされた嘲笑うようにやって来た。
しかも、この後ティータイムがあったはずなのに全て台無しだ。
「行くぞ!!ツンツンメガネ。」
「だぁーそんな事分ってますわ。後、先ほどその呼び方はやめなさいと言ったばかりでしょうが!!」
「わたしも・・・行く。」
3人はただの少女から戦乙女として意識を変えて格納庫へと走り出した。