空は快晴。
強い日差しは季節の感覚を麻痺させる。
海風は頬に心地よく、ウミネコの鳴き声が寂しさを緩和させる。
文句のつけどころのない絶好のロケーション。
午後の散歩を好むマッケナジーのおじいちゃんやサイクリングに励むライダーの清涼剤になりそうな冬木の港。
そこを薄幸そうなガタイのイイ男が占領していた。
「あっちのランサーと同じく、違和感ないな」
こっちのどこか薄幸そうなのでなく、
暴力団っぽい感じのランサーも自然と一体化した達人だった。
おまけに、同じく固定具為しと来た。
気まぐれにでも、自動販売機で缶コーヒーでも買ってこよう。
「釣れているかー?」
「まあ、まあ。
と、言った所か。
サバが山ほど、黒鯛が4匹、鮍が3匹取れた」
「相変わらず節操がない港だな、おい」
「まったくだ」
事前に猛犬の方のランサーから聞かされたのか苦笑を以て答えた。
缶コーヒーをランサーに渡してから、バケツを覗きこむと他にも色々な魚がいた。
「やっぱり鯖が多いな」
「ああ、理由はしらないが先ほどから取り放題な状態だ」
ランサー共の釣り竿は概念の籠った魔術礼装か。
2人して寿司のネタを制覇できるぞ・・・・・あれ、そういえば。
「その竿、どこで手に入れたんだ?」
・・・まさか、暴力団よろしくまたもや慎二はランサーから強奪されたのか。
ありうる、だって同じタイプの釣り竿だし。
「セイバーのマスターよ、
俺は猛犬の方とは違い対価を払ってこの竿を手に入れた」
むす、とした表情で即座に否定した。
しかし対価ねぇ、いや、まてまさか。
「アルバイトでもしていたのか?」
「無論、そこで金銭を得てから購入した」
なん・・・だと・・・
我が家の王様は食っちゃ寝状態だと言うのに・・・!!
「・・・セイバーのマスターよ、
なぜそうも感激したような顔を浮かべるのだ?」
「いや、誰かさんに等価交換というのを教えたくなっただけさ」
敢えてセイバーと言わなかったが、
ランサーにも伝わったらしくそうか、と一言だけ言った。
「まあ、ともかく。
そうして俺は鍛錬と数少ない楽しみを兼ねた釣りをしてるわけだ。
ク―フーリン殿ならともかく、ゲーム三昧な征服王。
魔術師とは名ばかりの貧弱キャスターには決して入り込めない男の世界だ」
フラグですね、わかります。
「いいのかな、
そんなコト言って。
口は災いのもとだぞランサー?」
「災いなど、
ただ正面から粉砕するのみ、何も問題はない。」
災いが来たら戦うのみ、か。
真に英雄らしい返答で、セイバーが気にかけるのも分る気がする。
「鯖か」
「鯖だ」
釣りあげた魚はお気に召さなかったのか、ランサーはそのまま海に戻した。
「――――」
「――――」
会話が途切れる。
話のタネのない時間ほど居づらいものはない。
「邪魔して悪かったな、釣りを楽しんでくれ」
「差し入れ感謝する、セイバーのマスターよ」
港を後にする。
人間、話してみないとわからないものだ。
俺にとっては退屈極まりない空間だったが、ランサー達にとってはお気に入りの場所らしい。
「・・・・・・・・・」
既に10月、しかし夏と見違えるような日差しが港を照らす。
願わくば、心のない邪魔ものたちによって、この平和が乱されなければよいのだが。
※ ※ ※ ※
空は快晴。
強い日差しは季節の感覚を麻痺させる。
海風は頬に心地よく、ウミネコの鳴き声がさみしさを緩和させる。
文句のないロケーション。
お年寄りから子供まで憩いの場となりそうな冬木の港。
しかし、そこに幸薄そうな男と赤毛の大男によって魔境と化していた・・・!!
「って、一人ふえてるぅ!?」
胡坐をかく幸薄男の背後。
やたらとデカイ頼れる背中がキラリと光る、あれは間違いなく新たな暇人・・・・・!!
「ぬははは、16匹目フィッシュ!!
うむ、よい漁港だ、面白いように釣れる。
ところでお主はそれで何フィッシュ目だ?」
「静かにしてもらえないのか、征服王。
騒ぎたいのなら余所でやって戴きたいものだ。」
唯我独尊を絵に描いたような王のセリフに、ランサーは米神に青筋を立てる。
・・・珍しい、普段は数少ない良心の拠り所であるランサーがあそこまで腹を立てるなんて。
「むふふふふ。まだサバが8匹だけか。
時代遅れかつ未熟なフィッシングスタイルではそんなところじゃろうて。うむ、17匹目フィィィィシュ!!」
ヒャッハー、とばかりにハイテンションな王様。
いや、家のセイバーと同じく王様だけど、どうして違和感がないのだろうか。
「くそ、いい加減にしろ征服王。魚が逃げてしまうだろうが!!」
「ふむ、腕の無さを他人のせいにするとは落ちたのうランサー。
近場の魚が逃げるのなら、リール釣りに切り替えればよかろう。
もっとも、お主のようなカタブツに、リールを操れるとは思えんがな。む、すまぬ。18匹目フィィィッシュ!!!」
2メートルを超える大男が歓声を挙げつつ釣りをする光景。
・・・おかしいなぁ、いつも童心なライダーにこんなにも苦々しく感じるなんて・・・・・・。
「・・・・・・つーか、あれって」
服装は「大戦略」のロゴのTシャツにジーンズ。
これはいい、だが使用しているリールは金に糸目をつけない99%カーボン製の高級品。
釣りをしに来たのでなく、もはや機械の調子を見に来ていると言っても過言でない代物。
ガングロ大男が使っていたのと同じやつか・・・!
「・・・あれって、本物だよな」
あの野郎のは投影したのを使っていたが、
ライダーにはそんな特技はないのでどう考えても本物を使っているとしか考えられない。
「むはははは。この分では日暮れを待たずして勝負がついてしまうのう!
軽い準備運動のつもりで始めたのだが様子を見るまでもないようじゃし。
ランサーよ、別にこの港の魚を全て釣りつくしてしまっても構わんのだろう?」
「く、できるモノならやってみると良い。
その時は二度とおまえをライダーとは思わないがな」
「良く言ったランサー!
こんな形でお主と雌雄を決するが来ようとはな!
どちらが漁港最強か、ここでハッキリさせてやろうぞ!!」
ランサーの「頼むからどこか行ってくれ」というオーラを完全無視するノリノリなライダー。
ほら、言わんこっちゃない。
ヘンなコトを言うからヘンなのがよって来るんだよ。
二人の邪魔をしないよう、こっそりその場を後にする。
どうか、彼の異名が征服王から(漁場の)征服王に改名することがありませんように。
※ ※ ※ ※
空は快晴。
強い日差しは季節の感覚を麻痺させる。
海風は頬に心地よく、ウミネコの鳴き声が寂しさを緩和させる。
文句のつけどころのない絶好のロケーション。
平和な冬木の町を象徴するかのような港。
しかし――――今まさに盆と正月が一緒に来たかのような賑わいを見せいていた・・・・・・!
「って、さらに増えてる―――――!!?」
誰か、いや予想外すぎて言葉を失う。
うねうねする蛸みたいな生き物を統制する姿はまぎれもなく・・・!
「うおー、すっげぇー!!
ジルー、これサカナか!? サカナだな!
うおーサカナ―――! 一匹くれよ―――――!!」
「ジルー、ジルー。
あの蛸が捕まえたサカナとっていいかな!」
「あれぇ、隣の兄ちゃんはただの釣りかー。
つまんないのー。ジルの方がかっこいいなー、ちょっと臭いけど」
「ジルー、今週のジャン○どこー?」
「すごーい、いっぱい捕れてるー!
ねぇジルー、後ろのお兄ちゃんにこのサカナ投げていいー?」
なぜか子どもたちに大人気な鳩○似の青髭。
あれか、愛らしい道化とかその当たりの気質が似ているせいなのか?
人気がないのにも関わらずなぜか恨まれず、ファンがいるという点とか。
「はっはっは。元気なのはいいですが、少し静かにしましょう。周りのおけらたちに迷惑ですから。
それはともかく、ジロウ、一匹といわず十匹でも百匹も持っていくといいですよ。
ミミ、すまない、ではとってくれれますか? イマヒサ、何を当たり前の事を言っているのですか。
だがその嗜好はよし、やはり漢は強くなければ。さ、これでガリガリさんでも買ってきなさい。
カンタ、ジャ○プはマスターの所望の品、読むのは構いませんが折り目などはつけんように。
コウタ、あの雑兵は狗の方とは違い、心の広い男だ。ぶつけても怒ることはないでしょう。ただし、他の人にぶつけてはなりません。」
いや、あんた誰だよ。
見て強いて言うならば子どもたちの・・・ヒー・・・・・ロー・・・・・・でいいのかな。
「しかし拍子抜けでしたね。
最強を名乗る者がいると聞いたがまるで話しになりません!
所詮は蛮族の王と雑兵、愛を語るこの身とは比べるべくもないか」
ふははは、と愉快そうに笑うヒーロー。
ときおり、子どもたちにほっぺたやら髪の毛やら服やらを引っ張られていたりする。
うん、普段とのギャップがありすぎる。セイバーがこの光景を見たらなんていいだすのか・・・。
「ふふん、所詮は魔術師か。
使い魔の物量作戦で魚を捕らえようとするとはな、
・・・・・・失望したのう。自らの手で得物を捉えず使い魔に任せるとは、見下げ果てたぞキャスター・・・!」
子どもたちに囲まれながら挑発する征服王。
というか、おまえが言うな、ライダーのマスターが泣くぞ、色々と・・・。
「ふ、愚かな。
釣りと狩りに違いなどありません。
ようは如何に得物を捕えるかだけです」
「言ったのう?
ならばどちらがより多く釣りあげられるか競い合ってみるか、キャスター!」
盛り上がった2人のやり取りにわー、と歓声を挙げる子供たち。
「・・・・・・・・・・・・」
そして先ほどから一言も口にしない緑の槍兵。
「古来より、勝者は敗者の所有物を手にする権利があります。
よって、この戦いに負ければその釣り竿は私の物とします。」
「望む所よ!
貴様のその胸糞悪い使い魔など要らぬが勝たせてもらうぞ!」
嗚呼、何故勝負となると、
どいつもこいつも無駄に本気になるのだろうか。
「すげー!ジルと釣りプロの一騎打ちだ!
こんなのメッタに見れないぜー! オレ父ちゃん呼んでくる!」
「負けるなー、
やっつけろー! がんばれ王様ー!」
「カワハギとかイナダとかじゃなくてカレイ釣ってよーカレイー。
けど、後ろの不幸そうな兄ちゃんにみたいにワカメとかワカメとかはカンベンな!」
「ねーねー。
そんなことよりジャ○プ読んでよー」
もはや港にかつての平穏はない。
人に愛される王様と、なぜか子どもたちに人気なキャスター。
そして。
「そんなにも騒ぎたいか!?
そうまでして釣りをしたいのか!?
この俺が・・・たったひとつ懐いた楽しみさえ、踏み弄って・・・貴様らはッ、何一つ恥じることもないのか!?」
この世の終わりみたいな顔でランサーは叫ぶ。
見境なく、征服王に、青髭に、子供たちに喉も張り裂けよとばかりに怨念の叫びを吐き散らした。
「赦さん・・・断じて貴様らを赦さんッ!
名利に憑かれ、我が娯楽を貶めた亡者ども・・・その娯楽を我が怨念にて穢すがよい!
地獄の釜に落ちながら、このディルムッドの怒りを思いだせ!」
呪いを叫ぶそれに、輝かしい英霊の姿はなく、
ただ怨念に吼える悪霊の声だけを港に残響させた。
「・・・・・・帰ろう。ここはもう一般人の居ていい場所じゃない・・・」
そうして港を後にする。
見上げた空の高さにちょっとだけ目が眩む。
ランサーというクラスはいつも幸運値が低いようで、同情してしまう。
嗚呼、ランサーズヘブンよ、せめて思い出の中で永遠なれ――――。