タイトル:荷馬車の騎士
「む」
「えっと・・・」
時刻は11時ぐらい。
アーチャーと遠坂葵は、アイリスフィールに料理を教える、
という日課を果たすために衛宮邸へ向かっていたが、衛宮邸の前に一台の軽トラックが止まっていた。
ただの軽トラック軽トラックならば通行の邪魔程度で済んだが、
彼ら、神秘の住民と同じ気配を放っていたので、2人を警戒と困惑を引き起こした。
「この気配・・・トラックごと宝具化しているのか?」
「妙に、黒いですね・・・」
元から黒いカラーリングだとしても、
ありえない程の黒い色をしているトラックはあまりにも目立っていた。
「ふむ、降りてきたようだ・・・。
あの姿は・・・マキリの方のバーサーカーか!」
トラックから降りてきたのは、
ガチムチで、どこか暗い雰囲気を漂わせているつなぎ姿のハンサムな男。
その正体は円卓の騎士でも最強とされる湖の騎士ランスロット、狂化されていることもあるがセイバー以上に武人としての空気を纏っていた。
そんな彼がじっと、アーチャー達を見つめる。
「葵、私の後ろにさがれ」
まさか、仕掛けてくるつもりなのだろうか?
ありうる、完全に制御せしめたイリヤとは違い、本当の意味で狂戦士とでしか振舞えないマキリの狂戦士ならば。
サーヴァントを目撃した瞬間に襲いかかっても可笑しくない。
と、アーチャーは分析し、
如何に後ろにいる人物を守り抜くかシュミレートし、防衛戦は不可。
後ろに下がれば巻き込んでしまう。よって、こちらから打って出る以外の道はないと結論を下した。
「ク、」
だが、相手は狂気に囚われても「湖の騎士」の名は伊達でなく、
魔術使いの英霊エミヤとの間には比べるのも馬鹿らしい程の差が、存在しているのをアーチャーは知っていた。
しかも、相性が最悪だ。
剣群を射出しても避けられるか、利用されるだろし。
「壊れた幻想」を発動させては周囲への被害が大きすぎるし、致命打を与えるには難しいだろう。
では、白兵戦は?
それこそ論外。英霊エミヤの本質は弓兵。
今のセイバー以上にセイバーの的性が強いバーサーカーに叶うはずがない。
正面から戦えば保って数合、それ以降は惨殺される結果しか浮かばない。
しかし、現状ではそれ以外の方法はない。
もたらされる結果はDEADENDしかない――――。
「なにを今さら。
いつだって、あの運命の日から私はギリギリの綱渡りをしてきた」
地獄に行ってもなお、思いだせるあの光景。
あの運命の夜からずっと正義の味方となるべく衛宮士郎はギリギリの戦いをしてきた。
いつも、自分が不利な状況で楽な状況など存在しなかった。
現在陥っている状況も、生前は何度もあった。
弱音を吐いて理由など存在しない。
ゆえに、一歩前に出てこちらから仕掛けるべく準備し――――。
「は?」
襲うはずの相手が突然アーチャーに背を向けて、思わずアーチャーは間抜けな声を出した。
より正確に描写すると、軽トラックの荷台に乗せたクーラーボックスを取りだすためのようである。
しかも、そのクーラーボックスは業務用らしくかなり大きく、マグロが丸ごと一匹は入りそうだ。
「勘違い・・・いや、ならば何が目的だ?」
「あの・・・もしかして。
あのクーラーボックスをセイバーに渡したったのでは?」
アーチャーの混乱気味な独り言に、葵が恐る恐る自分の考えを述べる。
「そんな馬鹿な話が
――――へ?同意?なんでさぁぁぁぁあああああ!!」
バーサーカーの肯定を示す頷きにアーチャーは絶叫した。
常に冷静極まりないアーチャーがこうも感情を露わにするのはあれだ、色々緊張がほどけたせいだろう。
ついでに気のせいか、バーサーカーは狂気に犯されているにも関わらず心なしか微笑んでいるように見えた。
「だいたい、
そんなコトならば自分で渡せばいいのではないか。
生前、裏切ったとはいえ今は関係ないだろうが」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アーチャーのやや嫌味と刺を含んだ言い方に、バーサーカ―は見るからに生気を失った。
痛いところを突かれてガラスのハートが砕けたらしい。と、ついでに、黒い瘴気がもくもくとわき上がっていた。
「ああああ、わかった!!
わかったから、私が責任もって、
君の主に君が献上した物だと言っておくからその瘴気を収めたまえ!!」
バーサーカ―の変化にやけくそ気味に叫ぶアーチャーだが、
その必死さが伝わったらしく、バーサーカ―は穏やかな表情に戻りクーラーボックスをアーチャーに差し出す。
「しかしだ、セイバーとの仲を取り戻したい。
と言うならば一緒に来たらどうかね?私たちが仲介役となるのは吝かでないのだが?」
一体どこからセイバーが食道楽に嵌ったと聞いたのだろうか?
食材を態々ここまで運んで来たということは、セイバーの歓心をもらいたいと言う意思があることは確かだ。
「・・・・・・・・・・・」
対するバーサーカ―の表情は変わらない。
だが、首を横に振り、否定の意を表す。
ただ狂犬として怒りをぶつけようとした時よりマシとはいえ、未だ正面から向き合う事に躊躇している。
「まったく――――少しは素直になったらどうかね?」
素直に成りきれない面倒な性格、
頑固さは仕えていた王と変わらないようだ。
そうアーチャーは嘆息し、クーラーボックスを受け取り――――。
「ぐはっっっ!!」
筋力Aとの差を失念して、クーラーボックスの重みにつぶれた。