今度は自分が跳ぶことになった弓塚であったが、
先輩と違い致命打に至らなかったせいか空中で体勢を立て直して着地。
反動を殺しきれず土ぼこりを立てて地面を滑った。
「……やはり解せぬ」
ぽつり、と弓塚もといロアが呟く。
「姫よ、貴女なら前のごとくこの小娘ごと殺せたはず。
しかも貴女はあの代行者を殺すなと言った、本当に貴女はどうなってしまったのか?」
神妙な顔でロアがアルクェイドに問いかける。
あの傲慢な態度はなく縋るような思いで、どこか感情が揺らいでいるように俺には見えた。
「そうね、貴方の言うとおり私は一度壊れた。
貴方が知るアルクェイドは一度志毅に殺され、もう二度と戻らないわ」
そして一拍。
「始めは怨んだわ、
これが貴方を殺す最後の機会だっていうのにそれを見知らぬ誰かに殺されたから。
けど、今は違う。私は志毅やさっちんを通じて初めて知った――――世界がこんなにも広くて楽しいものなんだって」
続けてアルクェイドは真っすぐロアの眼を見返して言い切った。
「シエルにも言ったけどもう一度言うわ、
どうして真祖の兵器である私がこうなってしまった原因や理由なんて知らないわ、
こんな気持わたし初めてだから、でも私の心は皆幸せなハッピーエンドを望んでいる。
そして、それ以上さつきに手を出すという事は私と敵対し、その永遠の輪廻が終わる事を覚悟しなさいロア」
アルクェイドが断言する。
紅い眼が金色に輝きロアを睨む、妥協の余地は一切なかった。
アルクェイドの話を黙って聞いていたロアは顔を下げ、しばし沈黙に浸る。
が、よくよく観察すると口元はかすかに動いており、何かを呟いていた。
「…………違う」
否定の言葉。
「違う、違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!」
「なっ!?」
髪を掴み頭を抱え、否定の言葉を壊れたレコーダのごとく大音量で垂れ流す。
足は小鹿のごとく震え、全身から汗が吹き出て、口からはありったけの負の感情がぶちまけれられる。
今までにないロアの反応に俺は戸惑いを隠せずに、ただ驚く他なかった。
「こんなのではない、こんなのではない!
我が姫はこんなのではない、私が永遠を求めたのはこんなのではない!!!」
現実の否定。
より正確に言えばアルクェイドの今の現状をロアは認めてしなかった。
ロアとアルクェイドの細かい因縁は俺はよく知らない。
だがこの様子から察するにロアはどう見てもタチが悪い代物、
――――自分の幻想こそ現実と思い込みアルクェイドを巻き込んだことだ。
「――――ああ、そうか。簡単ではないか。
やはり劣化した姫など醜態以外他ならない、ならば私と共に消えるのがせめての慈悲というもの」
不穏な台詞と同時に光がロアを中心に迸る。
そして、何かを察したアルクェイドと、この後の展開が予想できた俺が飛び出すよりも早く、
アルクェイドと俺は瞬時に魔術で拘束されてしまった、そしてアルクェイドが俺の考えを代弁した。
「ロアっ……!?正気なの!永遠を求めた貴方が心中なんて!」
そう、ロアは言った。
私と共に消えるのがせめての慈悲、と。
奴はアルクェイドを巻き添えにして死ぬつもりだ。
「どの道ついさっき志貴に殺されたばかりだ、今更死など私は恐れない。
それにもう、いい。私が求めてやまなかった姫は既に死んでいる、ならばこれ以上生きる意味もない」
ふざけるな!!
散々人を巻き込んでおいて今更自殺するのか。
気に入らない、その態度が気に入らないし何よりも直死の魔眼を持ちながら、死を大安売りする姿勢が何よりも腹立たしい。
病院から抜け出して、先生に諭されたあの日から、俺はただ生きるだけでも尊いことを知ったのに奴は無視している。
くそ、動けない。
俺はここで死ぬつもりなんてないのに動けない!
さらに地面に幾重もの魔方陣が描かれ、俄かに熱気が冬の公園を満たす。
だが、こっちは少しも暖かくない、むしろこの後の展開が背筋に寒気が絶え間なく走る。
抵抗しても間もなく訪れる死の予感に俺は悪あがきを試みるが時間は無慈悲に過ぎてゆく。
「安心しろ、貴様らだけを殺すつもりはない。
この公園ごと吹き飛ばすつもりゆえに、寂しい思いはさせない」
心に絶望という名の釘が打ち込まれ、皹が生える。
秋葉にシエル先輩の顔が思い浮かんでは消えを繰り返し、俺は何も考えれなくなる。
「さようなら」
そして、光が視界を満たした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます