こんにちは! れいです。
本日よりだいたい(←アバウトやな)1週間ほど
あっち向いてホイ!Classicはお休みです。
「討ち入り」 「雪面の飛び魚」 「伝説の壇ノ浦レポート」
などと聞いてすぐにピンと来る読者さま(いるのか?!)には
ヨダレものの記事が続くかもしれません。
ご存じない方にはさっぱりわからない内容となってしまいますが
できるだけ楽しんでいただけるように頑張って小説仕立てで綴ります。
ブログで伏せていたことも初めて明かしています。
「私はやっぱり娘ちゃんと息子ちゃんに会いたいな」
といういつものClassicをお待ちの読者様は
1週間位したらまたおいでくださいませ。
お待ちしております^^
6月5日水曜日9時半。
この日は10時から販売されるとあるチケットを手に入れるため
私は田舎町のローソンにいた。
店長さんには前日に声をかけていたものの、もう一度
「おはようございます。昨日お声掛けしたれいです、待たせていただきます」
と挨拶をしてからロッピー前に座り込み
一番手を取れた奇跡に少々興奮しながらも
暇つぶしにゆっくりとボスに携帯メールを打ち始めていた。
10分ほど過ぎた頃後ろに誰かが並び、ほどなくして店員さんに
「恐れ入ります、後ろのお客様先によろしいでしょうか?」
と声をかけられた。
ああごめんなさい、と言い立ち上がろうとすると
「いえいいんです。私も10時を待ってますので」と声がする。
間違いない、と確信するまで5秒。
声かけちゃえ!と決めるまで5秒。
携帯から目を離しチラッと顔を上げると私よりうんと若い女性が立っていた。
彼女も私を見た。
その瞬間ほぼ同時に
「どうでしょうですよね?」
と言う。
どうでしょうというキーワードが出れば互いに”藩士だ!”とわかるので
言い終える頃にはお互い思わず笑っていた。
これは楽しい時間になりそうだと思った私は
急いでボスへのメールを仕上げて送信し、携帯をしまった。
朝起きたときからお腹の具合が悪かったので
冷房のよく効いた寒いローソン内でずっと待てるか心配だったが
不思議とそんなことはすっかり忘れていた。
「何日のチケットですか?」
立ち上がりながら彼女に声をかける。
「3日通し券です」
「私も一緒ですよ!何枚ですか?」
「2枚です」
「今回4枚までですよね?一緒に取りましょうか?」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「取ります取ります(笑)」
話しは随分と盛り上がり会話の導入段階で彼女は
母と一緒に参加するんですと言った。
柔らかい笑顔を見せる可愛い子だ。
私達のいるローソンはとても大きな十字路の一角にあるが
斜向かいにも大きな駐車場を持つローソンがあり
最初は2人で向こうで待っていたらしい。
「私達が着いた時には既に4.5人待っていてみんな藩士さんで。
お話ししてみたら全員が3枚だったり日付が違ったりして
誰かの分を一緒に、というわけにいかなかったんですよ。
それで母と手分けしようということになって
私はこちら、母は向こうのローソンで頑張ることになりました」
と楽しそうに笑った。
突然携帯が軽やかに鳴り、彼女は
前に並んでる藩士さんが一緒にチケット取ってくれるって言ってくれた!と報告している。
電話を切りながら母でした、と。
私責任重大やな、緊張してきたわと笑いながら
まるで自分に言い聞かせるかのように
「1回で繋げる。絶対取ってみせる!」
と彼女に言った。
静かに10時を待って狙っているのは
北海道テレビの水曜どうでしょうという番組の
どうでしょう祭りという”お祭り”のチケットだ。
8年ぶりの開催となるが番組自体はとっくに(いったん)終わっているにも拘らず
全国に熱狂的なファンを抱えているバケモノ番組で
この番組が好きで好きでたまらないファンのことを「藩士」と呼ぶ。
今まさにこの瞬間、全国の青屋敷(=ローソン)のロッピー前には藩士が群がり
おそらく藩士同士で楽しい時間を過ごしながら
期待と不安に胸を膨らませながら10時を待っていることだろう。
どうでしょうの話しは始めると尽きない。
二人ともどうでしょうの話しができるのが嬉しくてたまらないという感じで
終始笑顔で時間を過ごす。
気がついたら二人とも座り込んで談笑しており
ふと店内の時計を見るともう9時53分だった。
さてそろそろ練習しようか…といいながら立ち上がる。
立ち上がりながらも話しは尽きない。
9時57分。
カメラとポンタカードを出し、横に置く。
ギリギリにやるとタイムロスなのでLコード「10000」までは入力を済ませ
57分、58分としっかり60秒数えながらタイミングを練習する。
ロッピーは点滅しながら時を知らせてくれるので1秒がわかりやすいが
今ここで1秒でもずれたら命取りだ。
しっかり頭でカウントしながらも後ろで心配そうに覗き込む彼女に
「絶対取る!1発で繋げてみせる!」
というとお願いします!と力強く声をかけてくれた。
いよいよ1分前。
「来たで来たで、行くで!21.22.23…」
58.59…!
10時の瞬間、割と大きなカンカンカン!という音が響き渡った。
ロッピーを操作するのが始めての私はその音に若干たじろいだが
我ながら素晴らしいタイミングで「次へ」のボタンを押す。
5秒くらい動かない。彼女も後ろからロッピーの画面を覗き込み
固唾を呑んでじっと見守っている。
思わず小声でいけっ!と言った瞬間ふっと画面が変わった。
「えっ?これいけたんちゃうん?!」
「ですねですね、多分6日…」
「だよね?」
「ですよねですよね?」
「6日いくよ?」
…ピッ。画面はすぐに切り替わっていく。
「わわわわ!で?3日通し券でいいね?」
「ですねですね」
「よし押すよ?」
…ピッ。やはり画面は次々と切り替わっていった。
一度も止まることなくスムーズに作業は進み
あっけないほどの速さでレシートは出てきた。
時計を見るとまだ1分しかたっていない。奇跡だ!
彼女は大喜びでいけましたね!と言いながら笑った。
10時3分、ボスが電話で”戦況”を訊ねてきたので
「取れた取れた!!
後ろに並んでた藩士の方とそのお母様の分、3日通し券4枚取れたー!」
と興奮気味に伝えるとボスは少し大きな声で驚きながら
”取れた!?おめでとう!”と言った。
そんな私の様子を彼女は大笑いしながら見ていたが
彼女も向かいのローソンで一人順番待ちをしているお母さんに電話をかけ
チケットが取れたことを伝えている。
電話を切った後
「向こうのロッピー繋がらないらしいですよ?」
と斜向かいではまだ真っ最中の戦況を教えてくれた。
今ロッピーってどうなってるか気になるね?
という話しになり二人で繋げてみる。
動作がとても遅く、Lコード「10000」の入力をした時点で
混雑しておりますというメッセージが出るばかりだった。
もうダメだ、繋がらないね…と二人で首を横に振る。
コピー機の上に出てきたばかりのレシートをうやうやしく置き、二人で眺めながら笑ってみる。
私は興奮しすぎて手が震えてしまい、レジの前でも
うああああやったよおお!と言いながらへたり込んでしまった。
彼女も”やりましたっ!”と言いながら笑っている。
支払いを済ませて外に出ると
「あの、母がどうしてもお礼をいいたいって言ってるんですけど
少しだけ時間大丈夫ですか?」
と聞いてきた。もちろん!と答え談笑しながら待つ。
しばらくするとあちらの青屋敷からお母様が走ってきて
「どうもー!お世話になりましてありがとうございましたー!」
とおっしゃってくださった。
あちらの青屋敷の戦況を聞くと全員チケットが取れたとのこと。
それを聞いた瞬間私と彼女は同時に
「みんな取れたんだ?!」
と声が出た。
その場にいた藩士の誰もが望み通りのチケットを手に取れ
最後の一人が無事に終わるまで全員で待っていたいう話しも聞かせてくれた。
「うわあよかった、みんなで行けますね!」
と答えるとふわっと暖かい空気が漂う。
一番手でロッピーを陣取っていた藩士さんは8年前の祭りにも参加したらしく
その時に感じた大変だったことやちょっとした注意事項などを皆に伝えてくれたとのこと。
彼女のお母さまはその話しを私にも教えてくれたのだ。
さすがどうでしょう藩士、みんな優しいな…と思った。
この集団は不思議と皆優しく親切で結束力が高いのが特徴だ。
私は他にここまで他人に優しさのバトンを回せる集団を知らない。
話しは尽きないが当日元気に楽しみましょう!と言い合いながら
笑顔で別れた。
さあ私も帰ろう!
娘ちゃんが待っている家に!
3日通し券は3分で完売したと知り、
私達は奇跡的に取れた祭りのチケットに有頂天になった。
このチケットの発売よりうんと前に宿と飛行機は押さえてある。
あとは当日行って思う存分楽しむだけなのだ。
考えるだけでにんまりと笑みがこぼれ、幸せだった。
夕方までは。
翌日いつもとは違う朝を迎える。
私達はあれほど喜び楽しみにしていた「どうでしょう祭り」の件に関して
一切口を開かなくなった。
頭の中でぼんやりと
娘に残されている時間は祭りまであるのだろうか…?
仮に結果的に祭りを越えたとしても
この状態の娘を置いてのんきに遠く北海道までなんて…
そんな思いが行きつ戻りつしていた。
祭りだけではない。7月には香川県でのライブも控えていた。
2人の中では言葉を交わさずとも
「幻の野外ライブ」
「幻のどうでしょう祭り」は既に始まっていた。
行けるわけがない。
行けるわけがないだろう!
娘が粟粒性肺ガンと診断されたのは
チケットが取れた日の夕方だった。
ふいに乱暴に、谷底に蹴落とされるほどの衝撃だった。
6月5日水曜日。
私たちにとっては
天国と地獄を味わった1日だったのだ。
2013.6.5(水)の娘の様子