着付けの気づき

着付けの個人教室を行っている先生が、着付や着物に対するこだわりの思いを中心に語ります。

帯幅について考える  「見てくれ」と「快適」

2018-09-19 17:09:28 | Weblog
女性が着物を着るときに締める一般的な帯は、袋帯、名古屋帯、半幅帯があります。
それらの帯の細かい定義についてはさておき、着あがった時、前腹のところでは帯の幅はどの帯もほぼ同じ4寸(約15㎝)です。

なぜなら・・・
‐袋帯の帯幅は、8寸(約30㎝)、これを半分に折って巻きますので4寸(約15㎝)。
‐名古屋帯の帯幅は、仕立てによっても変わりますが、8寸で仕立てられているものは半分(4寸)に折って巻きますし、胴に巻く部分が初めから半分に折られて仕立てられていれば4寸。
‐半幅帯は、もともとその名の通り袋帯、名古屋帯の帯幅の半分なので4寸。
という具合だからです。

ところが厳密に言うと違う場合があります。

例えば袋帯を巻くときは、余程小柄な方を除いて、前腹のところで真半分になるようには巻きません。真半分より帯幅を広げて巻きます。どの位帯幅を広げるかは着られる方の身長によってバランスを考えますが、帯幅を広げた方が「見てくれ」が良くなることが多いからです。フォーマルな場で締めることの多い袋帯は、金糸銀糸を用いて高価で重厚感がある帯が多いので、折角なので綺麗な帯を沢山見せてフォーマル度をアップさせるという目的もあると思います。

さて、袋帯の前腹の帯幅ですが、最近とても広く見せて巻くのが流行っているように思います。
以前写真スタジオに振袖の着付けに入った時にも
「帯位置は高く、帯幅はがっつり広げてください」
と言われたことがあります。
帯幅を広げれば帯位置の上線も必然的に高くなり足は長くすっきり見えます。でも残念ながら帯は幅が広くなればなるほど、帯位置が高くなればなるほど苦しくなってしまいます。普段着として着物を自分自身が着るときにはそんなに帯を広げて巻くことはしませんし、帯の位置も低めです。そうでなければ苦しくて長時間着物を着て過ごすことは出来ないからです。

写真撮影やフォーマルな場での着方と、普段着としての着物の着方は違うのです。前者の着物の着用場面では着飾る着方となりますし、「見てくれ」は重要です。「おしゃれをするのも多少の我慢が必要」ということもあるかもしれません。

ただ、ちょっと解せないと思うのが最近販売されている、特に浴衣や普段着に合わせる半幅帯の帯幅です。
17㎝~18㎝と昔に比べて幅広なものが多いです。普段着に寄せるには明らかに広すぎです。「見てくれ」重視ならある意味仕方ないのですが、浴衣は晴れ着ではありません。また、暑い最中に着る着物なので、絹ものの着物を着るときのように補整(タオルなどを巻いて寸胴にする)を沢山することが出来ません。すると帯幅が2㎝、3㎝広いということが長時間着て過ごした時に微妙に帯が上に上がってきて、苦しい着心地に繋がります。

着物を普段着として着る方が増えていれば、着物や帯はもっと機能的に着心地良くなるように進化するはずだったのでしょうが、着物はおしゃれ着とか、冠婚葬祭で着るものと考える方が多い昨今、見栄え重視の着飾る方向への進化が優勢になってしまったのでしょうね。

着物や帯を「作る側」「売る側」「着る側」「着せる側」様々な立場の方々の意見交流が必要なのではないかと考える今日この頃です。


川口着付個人教室
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着付け教室の先生と着付け師

2018-06-14 18:15:51 | Weblog
いわゆる着付け教室の先生は、自分自身が着物を着られて(自装)、他人に着せる(他装)ことが出来ることはもちろんのこと、着物や帯、小物などの種類や知識、生地の染めや織の知識、着物の歴史、しきたりやマナー、コーディネートなど、様々なことを知っていて説明できる幅広い能力が求められます。

一方、着付け師は他人に綺麗に着物を着せられる技術が求められます。

「着付けの仕事をしている」
と言うと、
「着物の形は変わらないし、一度着付けを覚えてしまったらずっと出来る良い仕事ですよね」
と言われることが良くあります。

本当にそうでしょうか?

ある写真スタジオの方にこう言われたことがあります。
「ある着付けの先生が、うちに着せつけの仕事をしたいと来られたので、実際に着付けてもらうと技術的に下手でびっくりしたことがあるのよ。
着せ方はそれぞれいろいろなやり方があるし正解不正解は無いと思うのだけれど、下手な仕上がりは否定します。それが全てですよね。そういうことが実は一回だけじゃないの。
着付け教室の先生をしているからって着せ付けが上手に出来るとは思わなくなった、しっかり技術チェックをさせていただかないと現場にいきなりは出ていただけないわ」

着物の形は確かに変わらないかも知れないけれど、着物の着方には若干の流行があるし、「どのように着たいのか、着せたいのか」で、体型補整の仕方までも変わってきます。
ヘアスタイルや化粧法などで考えてみてください。
古い本を見ると、「ああ、昭和のヘアスタイルだなあ、昭和のメイクだなあ」と思う写真を見ることがありませんか?
着物も同じです。

着付け師は時代とともに微妙に違う着物の着方の流行、小物の使い方などを常に研究し、どんな体型のかたでも、どんなシチュエーションの中でも出来る能力が求められます。
美容師がヘアスタイルやメイクの技術を日々磨いているのと同じように、着付け師もいかに美しく着せるかについて日々研究しています(着付け師と名乗る方にはそうあって欲しいと思います)。

いくら同じ着物でも、昔のスタイルブックに載っているような着付けを現場でしてしまったら、間違いなくクライアントさんからはクレームが来るでしょう。
昔、着物が日常着だったころと今とでは着物に対する考え方も違っていますからね。

私も「着付け教室の先生だけど下手くそな着付け師」と言われないように、また、着付け師を目指す生徒さんにも現場で通用する技術が提供できるように、着物について幅広い知識を持つだけでなく現場の声を聞いて技術を磨いていきたいと思います。


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正確で迅速な手仕事

2018-05-22 19:16:39 | Weblog
先日私の母が白内障の手術をしました。

手術の日は私が病院に付き添いましたが、母曰く、
「今日、ここで白内障の手術をされる方は何人もおられて、私は三番目。なんでも、一人30分間隔でされるらしいよ」とのこと。
手術の開始予定時間の約10分前に看護師さんが母を呼びに病室に来られて手術室前まで誘導してくださり母と私が手術室前に到着、すると間もなく前に手術をされていた患者さんが手術を終えて手術室を出てこられるや、ほぼ時間ぴったりに今度は母が呼ばれて手術室に入る。少しすると次の患者さんが手術室前に来られて待たれ、少しすると手術の終わった母が手術室から出てきて、母の次の患者さんが名前を呼ばれて手術室に入っていかれました。

本当にほぼ時間ぴったりに回転しているなあ、凄いなあ、と思いました。
それと同時に手術の執刀の先生のお仕事と、私の仕事、なんだか似ているところがあるなあ、と感じました。
成人式や卒業式のお着付けでも現場に入ると、
「お嬢様は30分おきに入られますので着付けそのものにかけるお時間は20分でお願いします」
とか、
「20分おきに入られますので10分で」
とか言われます。
お一人に時間をゆっくりかけて出来るときは良いですが、これからお式に向かわれるお客様が集中するときは「早く、正確にかつ綺麗に」といった技術が常に重要なこととなってきます。

「どこで時間を短縮できるのか」
私もタイムを計りながら今までも相当な練習を積んできています。また現場でも相当数のお客様を担当させていただいてきましたが、「とにかくあらゆる作業を一回で正確に決めること」これが一番の時短だと思うようになりました。
上手な着付け師の先生は本当に手際が良く丁寧で綺麗な着付けをされ、しかも着崩れもありません。
母の手術を執刀された先生も沢山の訓練と沢山の経験を積まれたのだろうと思いました。

お陰様で母の手術は無事成功、術後の経過も順調です。


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「苦しくなく着崩れない着付け その2」

2016-04-14 15:17:57 | Weblog
先日、かねてから闘病中だった叔母が亡くなりました。

葬儀に行くことになったのですが、同行する母が
「(着物の)喪服を着るかどうか悩んでいる」
というのです。母の話はこうです。
「着物を着るのは苦しいし、出来れば着たくないと思っている。でも、故人は親族の葬儀のたびに『着物を着るのは大変だけれど、お世話になった方だし、きちんと着物を着て送ってあげようよ』というような人だった。私が今まで親族の葬儀に何度となく和服を着てきたのは故人がそう言うからだった。その故人自身の葬儀に洋装で出席するのは故人ご本人の供養にならないのではと思う。でも苦しいのも辛い…」
私は十数年前、いとこの結婚式のときに母に留袖を着せた経験があり、その時に私の着付けを楽だと言ってくれていました。私が
「じゃあ、私が楽に着せてあげるよ。洋装で葬儀に参列して心残りなことをするよりその方がいいのでは?私はその後も長年楽な着せ付けを研究してきたから前に着せた時より絶対楽なはずだよ」
と言うと
「じゃあそうさせてもらおうか」
となり、母の喪服は現地で着せ付けをしました。すると
「あら~、こんな楽な着付けってしてもらったことないわ~。こんなに楽なら着るか着ないかで悩んでいたのがバカみたいだったわ」
と母は何度も言い、式が終わっても
「食事も普段通りに出来、しかも着崩れも全くしなかった。お蔭様できちんと送ってあげられた。有難う。あんた、この着付け方を広めるといい。大分腕をあげたじゃないの!」
と誉めてくれました。普段辛口の母が真から誉めてくれたのは何より嬉しかったし、励みにもなりました。今まで自分が教わってきた着付けの技術だけに満足せずに、自分自身の理想を求め一所懸命研究してきた努力が報われたような気がしました。

着物は苦しくなく着られます。

これからも多くの方々に私の技術を喜んでいただけるように前に進みたいです。そしてこの度私のことを可愛がってくれた叔母が亡くなったのは本当に悲しい出来事でしたが、母が思い残すことなく送ってあげられたのは何よりでした。

ご冥福をお祈りいたします。



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