着付けの気づき

着付けの個人教室を行っている先生が、着付や着物に対するこだわりの思いを中心に語ります。

着付けは誰に頼みますか?

2023-03-21 21:40:55 | 着付け師
私の教室には、人への着せつけの勉強をして将来着付け師として仕事をしたいと思われる方がいらっしゃいます。私は
「着付け師は、お客さまに着せつけをした際、楽で綺麗で着崩れない着せ付けをして、『また然るべき時には着物が着たいな』と思ってもらえるような着付けをしなければだめですよ」
と言っています。そのためには相当の練習や実践を積んでいかなければなりません。

先日、同業の着付け師で着付け講師をしているお仲間の先生から、
「私の美容師の生徒さんが、一回講習しただけで、二回目の講習を受ける前にお客さまを取って実践をしてしまったそうなのよ。二回目の講習のとき、一回目に教えたこともろくに出来ない状態で、お客さまには一体どんな着せ付けをしたのかと考えると恐ろしくなったわ。着付けでお金を頂戴することを甘く考えていたので怒ったのよ」
と聞きました。その生徒さん曰く、
「一回講習を受けて、YouTube動画を見て、出来るような気になってしまった」
とのこと。私の生徒さんにその話しをすると、
「確かにYouTubeを見ていると、簡単に出来るような気になることってあるんですよねー。でも実際やってみると出来ないんですよ。一回だけお稽古した程度の技術で、お客さまからお金を取るとか、着付けやお客さんを何だと思っているのでしょうね。やればやるほど不安になるくらいですのにね」
とのお返事。

そうなんです。着付けでお金を頂戴するって、そんなに簡単じゃないです。しかも冠婚葬祭、セレモニーなどでの着用シーンでは、着心地もさることながら、お客さまがより綺麗に見えて着崩れない着せ方をしなければなりません。
着付けはこの資格がなければ仕事が出来ないということが無いが故に、悲しいかな意識甘く、着付けをしてお金をいただく方が居るのも事実のようです。

生徒さんたちが全うなお返事をされたことに安堵した一方で、お客さまが一生に一度の大切な機会を着付けで台無しにされないようにするにはどうしたら良いのか、大いに考えさせられました。

川口着付個人教室
 http://www.wbcs.nir.jp/~yoko


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「女紋」についての深掘り

2023-03-16 16:31:35 | 女紋
先日、女紋についてのブログを書きましたが、そこで私が分からずにモヤモヤしていることについて何とか解決したいと思い、思い切って「女紋」の研究家に直接ホームページからメールで問い合わせてみました。すると、
「こちらまで電話をしてください」
と、電話番号が書かれたメールを頂戴することができ、早速電話してみました。
 
私のモヤモヤの内容は大きく次のとおりです。
1 私は女紋というものの存在を知らない状態で結婚した(結婚後、女紋という考えがあることを知る)。
実母に結婚前に着物の喪服を誂えてもらったが、その紋(丸に剣酢漿…実家と婚家は偶然にも同じ家紋)を見た義母(京都人)に、
「男紋がついていておかしい」
という趣旨のことを言われたので京都ではこちらの着物を着用出来ないでいる。やはりこの着物を京都で着ることはおかしいことなのか?
2 関西の知人に
「女紋というのは代々女性に継がれていく紋だ」
と聞いた。しかし義母の紋が付いている着物にはそれぞれの着物で紋に統一性がない(アゲハ蝶、蔦、中陰桐胡蝶)。これはどういう考え方からなのか?
③私が義母から譲り受けた黒留袖には「中陰桐胡蝶紋」がついている。
黒留袖は必ず五つの染め抜き日向紋を付けるものだと思っている(着付け教室でそう教わったし、テキストにもそのように書いてある)。何故「中陰紋」をつけているのか?
何か意味があるのか?
④私自身の母(島根県出身)も女紋を持たない。そして、そういうものの存在についても知らない。
私が今後紋付きの着物を誂えるならどんな紋を付けたら良いのか?
 
研究家の解答
まず、私の色々なモヤモヤについて最後まで聞いてくださり、
「あなたも、着物を誂えてくださったお母さまも嫌な思いをされましたね。折角誂えた着物にケチをつけられて、着られない状況にさせられているということですからね。女紋なんて、ほぼ一部の地域だけの習慣で、その習慣を知らない人の方が多いくらいのもんですよ。その女紋にもこれといった定義は無くて、色々な考え方があります。
話しを聞くに、恐らくあなたのお義母さまの考える女紋というのは、女性ならどなたでも着ることが許されている…通紋(五三桐、アゲハ蝶、蔦)という考え方なんでしょうね。誰でも女性なら着られるという考え方から、この紋が付いているからあなたに譲るよ、と他の親戚やら知人やらから譲り受けたりして、結果こちらの紋が付いている着物が沢山集まっているといった家は多いと思います」
とのこと。
 
また、女性が着るレンタルの紋付きの着物には無難に「五三桐」がついていることが多いが、レンタルのものと区別をしたいがためにこちらの紋にアレンジを加えた紋をつける考え方があることや、
『黒留袖には必ず染め抜き日向紋をつける』
というのは逆に関東の習慣で、関西では中陰紋を付けることもあることなどをお教えいただきました。
 
そして、私が関西で
「丸に剣酢漿の喪服を着るのはおかしいのか」
ということについても
「おかしくありません。あなたが京都の方と結婚したからって、あなたのお母様の、(女性であろうと)代々の家紋をつけるという考えは間違っていないので、もしも男紋がついていておかしいと言われるような人が居れば、あなたが色々な考え方があるということを教えてあげたら良いですよ。そしてそれでもうるさく言う方がいれば女紋の研究家の私が良いと言ったと言ったら良いですよ」
とも言われました。そして、今後私が紋付きの着物を誂えるならどんな紋をつけたら良いのかということについても、少しの迷いもないかの如く即座に
「『丸に剣酢漿』です。だって、あなたには女紋は無いのだから。誰でも着られるからと無難に五三桐をつけるなんていうのはやめておおた方が良いと思いますよ。あなたはきちんとあなたの家紋を知っているんだし、それを大切にするご実家の考えを継承したらいいんです」
とのこと。
 
長年モヤモヤしていたことが腑に落ちて凄くすっきりしました。
現代のように何でもインターネットで調べれば情報が取りに行ける時代でもわからないことがあって、専門の研究者がいらっしゃることが有り難く思えました。
そして、自分が当たり前だと思っている習慣を、それを当たり前だと思っていない人に「おかしい」と自分の考えを押し付けるのではなく、他者の考え方も理解し合うことは大切だと思いました。
「みんな違ってみんないい」
の精神で寛容な人間でありたいと思うと同時に、私は実母の誂えてくれた「丸に剣酢漿」がついた着物を大切にして然る場面が来たならば例え関西であろうと着用したいと思いました。
然る場面は喪服なだけに出来るだけ来て欲しくはないですけどね。

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他の着付け教室の先生方に無理だと言われたけど無理じゃなかった!

2023-03-15 21:37:01 | 着付け
先日、ご事情があって短期間で着物が着られるようになりたいと仰る方からのお問合わせが電話でありました。
「海外で着たいのですが出発までに間に合うでしょうか?どうしても無理ならば洋装にせざるを得ないと思ってはいるのですが…」
とのこと。
着物は訪問着、帯は袋帯のお太鼓結びの手結びです。
「通常ですと、そもそも何回位通ったら出来るようになるでしょうか(目安)?」
と尋ねられましたので
「ご自宅でどの位復習できるかにもよりますが、通常のお稽古で多くの方は十数回で一通りの着物(普段着から礼装まで)で一通りの帯(半幅、名古屋、袋帯)を用いて基本の結びが出来るようになられています。でもお話を伺うに、今回は一通りのことをゆっくりしている時間は無いので、着る予定になっている訪問着と袋帯を用いて、初めから二重太鼓をされたほうが良いかと思います」
と言いましたら
「出来る限り自宅でも練習しますのでお願い出来ますか?」
とのこと。取り敢えずいらしていただいたのが2/2。出発は2/23です。私と彼女の都合がつく日にちは私のスケジュール帳と照らし合わせるとトータルで5日ほどしかありません。
4日で基本出来るようにして、後の一日は総復習にしましょう!
 
特訓が始まりました。
2回目のお稽古の際にその生徒さんが
「実は私、こちらの他にもいくつかの個人でやっていらっしゃる着付け教室に連絡して受け入れてくださるか聞いてみたんですけど、『正直に申し上げます、こんなに短期間で出来るようになるのは無理です』と言われたんですよ、駄目元でこちらに連絡してみたら繋がってしまって(笑)そして特訓してくださるって仰ったので…」
「あら、そうなんですか。大丈夫、着られるようにご指導しますので」
と言いながら
『なるほどー、ほかの着付けの先生は出来ないと言われたのね、それじゃあ私がやってやろうじゃ無いの❗️』と思いました。
生徒さんのやる気が感じられたこともあり、私自身も相当の熱量でみっちりお教えしました。
そしてタイムリミットのお稽古最終日、きちんと、綺麗に着られるようになった生徒さんを見て
「無事出来るようになられて、私も嬉しいです。今回、私自身アドレナリンが相当出ていたような気がします」
と思わず生徒さんに言いました。
「どこの教室も受け入れてくださらなかったのに丁寧にご指導いただき、何とか出来るかな、と思えるところまで辿り着けました、有難うございました」
と、仰っていただき嬉しくなりました。勿論これは私の努力だけではないですが、このように他の着付け教室の先生方が匙を投げるような難しい案件⁉︎のハードルでも向き合って越えることにやりがいを感じ、これからもむしろそれを面白がってお仕事をしていこうと思いました。
 
PS: 後日、海外に向かわれたその生徒さんから、無事に着物を着られたとメールとその時のお写真が画像で送られてきました。
着られたご本人、さまざまな反省点はお有りだったようですが、お写真を見る限り綺麗に着られていて、私まで嬉しくなりました。
また、現地の方々にも大変喜ばれたとのこと。
海外で「着物」という日本の伝統文化の紹介が出来たということも意義あることだったと思いました。
着物を着るという挑戦のお手伝いが微力ながらもできたことを幸せに思いました。

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