着付けの気づき

着付けの個人教室を行っている先生が、着付や着物に対するこだわりの思いを中心に語ります。

着付け師が身体を傷めないためには

2025-01-16 22:14:01 | 着付け師

先日SNSで、ある着付け教室の先生が、ご自身の着付け教室のPRをされるショート動画が流れてきてたまたま見ることになりました。
その内容は、
「着付け師の方で、手や肘、肩、腰などを傷める方は着せ付けのやり方が間違っています。うちでは身体に負担をかけないやり方なので身体を傷めることはありません」
という趣旨のものでした。
身体を傷めるような無理な力のかけ方…というのは確かにあると思いますし、そんな動作は避けなければなりません。
私自身、右手、左手ともに指の腱鞘炎、そして右肩、左肩ともに負傷した経験があり、その都度医師や理学療法士にも相談しながら指、肩、肘などに負担をかけないように力加減を探ったり、力を入れる角度などを改善したりしてきました。
そして、それは左肩の治療中の現在も続いています。
肘を傷めていて通院されている生徒さんも居られるので、気をつけるべき動作については共有したうえで、身体に負担をかけない着付けの仕方を常に研究しています。
そして私なりに気をつけるべきことは改善し、新たなやり方を生徒さんたちに伝えてきています。
ですが、一方で、
「この動作をしていれば身体を傷めることは無いよ」
などという万全策は無いな、というのも実感します。
なぜなら身体は着せ付けだけに使っているわけでは無いということに加えて、生まれつき持っている筋肉や骨のつきかたや強さ、しなやかさの違い、また実際の仕事量、練習量の違い、また、年齢などによっても結果は変わってくると思うからです。
そもそも同じ動きをしていても身体を傷める人もいらっしゃれば傷めない方もいらっしゃるでしょう。
先日担当の理学療法士さんからは、
「理学療法士さんは腰を痛める人が多い」
とか、
「知り合いの理学療法士さんが五十肩になって大変だった」
と聞いたことがあります。
身体のことを学び、常日頃気をつけて過ごしているであろう理学療法士さんでも身体を痛めることがある位なのです。
またそもそも、現在私が患っている
「五十肩」
というのは、まだ原因のメカニズムすら良くわかっていないらしいですし、
私がかつて患った、
「腱鞘炎」
については、主治医の先生は、私の腱鞘が標準より細いらしく、
「これはなるべくしてなったね」
とも仰いました。
いずれにしても着せ付けは身体に負担をかける職種であることには間違いがありません。
それぞれの身体に応じて身体を壊さないように出来る術を見出していきたいものです。

 

川口着付個人教室
 http://www.wbcs.nir.jp/~yoko

 

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「質」と「量」の問題について

2024-10-02 17:38:58 | 着付け師

たまたまSNSで、大阪府の吉村知事と、サッカーの本田圭佑さんとの対談の一部が流れてきました。

その時語られていた内容は「質」と「量」の問題についてで、本田さんの発言を要約すると、

「量をやってない人間に質を語る権利はないと思っている。サッカーもそうだが、思いっきりたくさん練習することもせず、怪我もしてないような人間は、どのフェーズまでいったら疲れて怪我するのかもわからない。いっぱい動かないと質なんてわからない」

というものでした。

『確かに…』

私は、がむしゃらに着付けの練習をして様々な現場に出続けることで技術を磨き、漸くある程度自分の技術が定着しました。そして、どんな現場でも仕事上困ることがなくなってきて、仕事のやりやすさや楽しさを感じることが多くなってきたと思っていました。

本田さんが言うところの「質」を語るのはおこがましいかもしれませんが、それだけの「量」をこなしてきた自負はありました。

ですが、ここ数年で私の身体は悲鳴をあげ始めました。

左右の手の腱鞘炎で手術はするわ、右肩の腱板断裂で手術はするわ、現在は左肩の痛みでずっと不調続きです。つまり、本田さんがいうところの、より良い「質」を求めるために沢山の練習や仕事「量」をこなし過ぎてしまったのかもしれません。

私を診察されたどこの病院でも、それらの不調の原因は「加齢」と「使い過ぎ」と言われました。

「加齢」しかり。「使い過ぎ」しかり。自分自身でも思い当たる節がありすぎます。ここまで使うと身体に故障が出てくるのだな、と思ったのでした。 

今の時代なら、YouTubeなどをはじめとするSNSなどでは簡単に、しかもタダで着付けの技術の情報を取りに行けるので、それらを利用して量を伴わず質を改善してしまう人が沢山いらっしゃるかもしれません。私自身、自分なりに苦労して編み出した着付けの技術も、生徒さんたちには簡単に惜しみなくお教えしています。私の時代はSNSもなく、長い間現場の技術を教えてくださる方も居られず、

「技術は見て盗め」

などと言われる時代でしたから、仕事に集中すれば見ている暇などなく、結局わからず、悔しい思いも沢山しながら自分なりにトライアンドエラーを繰り返して技術を習得してきました。

ですが、

「簡単に教えてもらえたもの」は

「簡単に忘れてしまう」

こともあるな、と思うことも正直あります。私のように

「身体を壊すまで質を見極めるために量をこなせ」

と言うことはできませんし、それはある意味過りです。ですが、やはり、苦労して獲得したものというのは何事にも代えがたいものがあることを実感しています。

ですので、ある程度の量をこなした人でないと質を見極められないし効率性も上がらないのではないかという本田さんの意見には激しく同意します。

質を上げるには一定量の継続は不可欠。でも私のように心身故障しないために、指導者としてはバランスを考えながらご指導することも、今後はより一層大事だと思っています。

 

川口着付個人教室
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同業者の残念な対応

2024-07-02 23:10:16 | 着付け師
先日、生徒さんのお嬢さまがお友達の結婚式に参列する際、着物を着られることになりました。
 
生徒さんは他装(人に着物を着せること)が出来る方なので、ご自身でお嬢さまの着付けをされるご予定でしたが、事情があって現地式場の着付け師にしてもらうということになりました。
それには少し残念がっておられましたが、生徒さんはお嬢さまが着られる着物や長襦袢、帯や帯揚げ帯締めなどのコーディネートをお嬢さまと一緒に入念にされ、お嬢さまもそれを着るのを楽しみに当日を迎えたそうです。
 
さてお式の当日、不測の事態が発生しました。
お嬢さまに持たせた長襦袢の袖幅が着物のそれと微妙に合っておらず、着物の袖口からほんの5㎜ほど長襦袢の袖が出てきてしまうというハプニングが起きてしまったのです。
着付けを少しでもかじっていて知識がある者にとって、本来礼服の着用シーンでの着物の袖口から長襦袢の袖口が出てきてしまう(寸法があっていない)状態などというのは違和感があり、ちょっと気持ちが悪いものです。
生徒さんは着物を着た後のお嬢さまの写真を見て、
「前もって入念にチェックをしたつもりだったのに抜かりがあった」
と物凄く落ち込まれていました。
 
でも、一方で、お嬢さまの着付けを担当された着付け師もそのように本来なら出てこないはずのものが出てきた状態に着上がればすぐに気づいたはずで、私たちと同様に
「あらっ?少し寸法があっていないな」
と思われたはずです。
私ならばお客さまのご了承のうえ長襦袢の肩の部分を少しだけつまんで抜うか、安全ピンで袖肩の部分を一部つまんで挟むなど、着物の袖口から長襦袢の袖が出ないような処置をしていたと思います。
私は大抵の現場には針と糸、安全ピンなどを携えていることが多いです。
一方で、現場によっては万一の危険に備えて針や鋏を持ちこむことを禁じているところもあり、ひょっとするとお嬢さまの着付けの現場はそのようなところだったのかもしれないと思いました。
ですが、針と糸を使わないで長襦袢の袖口が出てこないようにするような簡単な方法だってあります。
そして、私ならば針や安全ピンを持ち込めない現場でもそのくらいの対応はさせていただいていただろうと思ったのです。
大して時間がかかる処置でもないのにどうして現場の着付け師は何も対応してくださらなかったのかと残念に思いました。
生徒さんも
「確かに自分の確認不足ではあったけれども、ちょっとしたことなのにどうしてその位の対応をしてくださらなかったんだろうと思ったんです…」
と、何とも残念なご様子でした。
私自身も同業者の対応にモヤモヤが残った出来事でした。

川口着付個人教室
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着せ付け料金を値切られる!?

2024-04-12 23:10:19 | 着付け師
今年の1月に入るや、ある学校の先生から、
「卒業式当日に、袴の着せ付けをして欲しい、まだ予約は可能か、可能ならば料金はいくらか?」
というお問い合わせがありました。
今のところお受け出来る状況であることと、お値段については複数名の着付けのご依頼でしたので、約1割お値下げした金額でお受け出来るともお伝えしました。
すると、
「もう少し安くしてもらえませんか?」
と値切ってこられました。
「すみません、既にお安くしている金額なので、この金額よりお安くは出来ないです」
と言うと、
「念の為こちらより、安い金額でやってくださるところが見つかったらそちらでやってもらうことにしたいと考えています。それでも値下げは無理ですか?」
「はい、すみません。既にお値下げさせていただいているので」
「そうですか。ではお願いする場合にはまた連絡します」
と電話での、やり取りがありその後しばらくしてから
「やはりお願いしたいです」
とご連絡を受けたのでお受けすることになりました。

着付けの代金をお客様側から執拗に値切ってこられたことは今まで無く、仕事を引き受けたものの、正直何とも嫌な気持ちになりました。

技術職の方に値引きを依頼するということは、その技術を安く見積もるということと同じです。
しかも、私共の技術も知らないのに、或いは知らないからなのか、学校の教師という立場で、
「たかが着付師ごときに、何でこんなに料金を払わないといけないんだ」
とでも思われていたのでしょうか?

しかしながら例えば、自分自身が髪の毛のカットで美容室に行こうと思った時、体調が悪くて病院で診てもらおうと思った時、先方に値切るということをすることがありますでしょうか?

今回は、私と私の生徒さんとでこのお仕事をさせていただきだきましたが、お仕事を終えて直接私が担当したお客さまにいつもしている、
「今回の着付けで、苦しかったとか、着崩れたなどの不具合はございませんでしたか?その他何かお気づきの点はございませんでしたか?」
という内容で送ったお客さまへのお問い合わせメールに対しても、何の返信も無いままに終わりました。

朝の早くから、一生に一度のセレモニーを着付けで台無しにしないように、生徒さんとも事前に入念に打ち合わせや確認をして当日も誠心誠意お支度をさせていただいたにも関わらず、着付けで喜んでくださったのか否かも知ることが出来ず、そちらについても少しがっかりしました。

技術職の仕事の方々は、仕事が無い時にでも技術や知識を向上させるために時間もお金も沢山費やして日常を過ごしています。
何でもコスパの世の中ですが、何も分からず何の根拠もなく値下げしてこられるお客さまや、上から目線のお客さまは、こちらも人間なので精神衛生上よろしくないです。
正直傷つきます。
今後は、そういうお客さまに対しては最初から丁重に断るようにしたほうが良いのかもしれないと思いました。

私のお客さまの中には私の着付けを気に入ってくださって何度も使ってくださるリピーターさんも居られますし、生徒さんになられた方も居られます。
改めてそういう方々が居られる、そのご縁に感謝しました。
また今後も、私が一所懸命お仕事をさせていただいたことがお客さまに通じて、それによってこちらも大切にしていただけるような、そういうご縁ができるようお仕事をしていきたいと思います。

川口着付個人教室
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着付けは誰に頼みますか?

2023-03-21 21:40:55 | 着付け師
私の教室には、人への着せつけの勉強をして将来着付け師として仕事をしたいと思われる方がいらっしゃいます。私は
「着付け師は、お客さまに着せつけをした際、楽で綺麗で着崩れない着せ付けをして、『また然るべき時には着物が着たいな』と思ってもらえるような着付けをしなければだめですよ」
と言っています。そのためには相当の練習や実践を積んでいかなければなりません。

先日、同業の着付け師で着付け講師をしているお仲間の先生から、
「私の美容師の生徒さんが、一回講習しただけで、二回目の講習を受ける前にお客さまを取って実践をしてしまったそうなのよ。二回目の講習のとき、一回目に教えたこともろくに出来ない状態で、お客さまには一体どんな着せ付けをしたのかと考えると恐ろしくなったわ。着付けでお金を頂戴することを甘く考えていたので怒ったのよ」
と聞きました。その生徒さん曰く、
「一回講習を受けて、YouTube動画を見て、出来るような気になってしまった」
とのこと。私の生徒さんにその話しをすると、
「確かにYouTubeを見ていると、簡単に出来るような気になることってあるんですよねー。でも実際やってみると出来ないんですよ。一回だけお稽古した程度の技術で、お客さまからお金を取るとか、着付けやお客さんを何だと思っているのでしょうね。やればやるほど不安になるくらいですのにね」
とのお返事。

そうなんです。着付けでお金を頂戴するって、そんなに簡単じゃないです。しかも冠婚葬祭、セレモニーなどでの着用シーンでは、着心地もさることながら、お客さまがより綺麗に見えて着崩れない着せ方をしなければなりません。
着付けはこの資格がなければ仕事が出来ないということが無いが故に、悲しいかな意識甘く、着付けをしてお金をいただく方が居るのも事実のようです。

生徒さんたちが全うなお返事をされたことに安堵した一方で、お客さまが一生に一度の大切な機会を着付けで台無しにされないようにするにはどうしたら良いのか、大いに考えさせられました。

川口着付個人教室
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着付け師の仕事?

2019-08-08 12:29:25 | 着付け師
先日、和装花嫁の写真撮りのためのポージングの講習会があり参加してきました。

これは和装着付けを済ませた花嫁さんが写真撮影をされる際に、花嫁さんご本人やご衣装が綺麗に見えるように整える作業のことです。
講習会は写真撮影専門の某会社の主催で行われ、そこで活躍されているスタイリストさんが先生になって教えてくださいました。しかしそもそもこの仕事は、着付け師の仕事ではなくカメラマンの仕事です。ではなぜ着付け師がこれを学んでいるのでしょうか。

講習会が始まる前にこちらの会社の方が
「本来これは着付け師の仕事ではなくカメラマンの仕事なので着付け師が出来なくても良いはずですが、ポージングの出来ないカメラマンが増えており、カメラマン自身が安易に着付け師にこれを求めるというおかしな状況が少なからず発生しています。そのためどのようにポージングをしたら良いのかが分からずお困りの着付け師さんからの要望があったために、今回このような講習会を開催するに至りました。
そして、もしも皆さんがポージングの技術を習得されて実際にされる場合は、着付けだけでなくこちらもれっきとした技術なので、着付け料とは別にポージングの技術料をきちんといただいてください」
と言われました。

講習を受けてみると、いかにポージングというものが難しいのかが分かるのと同時に、これは教わらなければ絶対に出来ないもので、れっきとした技術であると痛感しました。
また今回の講習は、主催者側が場所を借りモデルさんに来ていただき花嫁衣装を用意し実際に着付けて技術を教えるというものなので、当然受講料が発生しています。冒頭で会社の方が仰ったことの意味も十分に理解が出来ました。

私は着付けの現場でポージングまでしなければならないようなことはまだありませんが、別の場面で
「これは本来の私(着付け師)の仕事ではない。知識(技術)があるから親切心からやってあげたが出来ない着付け師もいるはず、これで出来ない着付け師と同じお給金で仕事をするというのはどうなのだろう…?」
と思うような経験は何度となくあり、モヤモヤすることがありました。
「出来る人にやらせてしまおう」
と、させる側は安易な気持ちでいるかもしれませんが、出来るということは、経験(訓練)も時間もお金もかけての結果です。何の努力もせずに当たり前に出来るということはありません。それなのにそれらが認められることなく出来るのが当たり前だと思われて、あれもこれも強いられるのでは、いつまでたっても着付け師の地位は向上しません。

色々なことを考えさせられましたが、参加された着付け師さんたちの熱心な姿勢にはプロ根性を感じ、私自身も大いに刺激を受け技術の向上にこれからも務めていきたいと思いました。

とても意義ある講習会でした。

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