着付けの気づき

着付けの個人教室を行っている先生が、着付や着物に対するこだわりの思いを中心に語ります。

「手づくりの温もり」

2008-11-13 23:28:19 | 出張着付
先日、あるおばあさまの着付けをして参りました。お孫さんの七五三のお祝いだそうです。

とても上品なこのおばあさまは、ご自分の長襦袢に付いた半襟と帯の刺繍を指さして、照れくさそうにこう言われました。
「この半襟と帯、私が刺繍したものなのよ。今日の為に随分前から少しずつね。何とか間に合ったわ」
とても立派で素敵な刺繍にすっかり見とれ、お孫さんのハレを祝うおばあさまのお気持ちの深さに触れる思いがしました。

日本刺繍は随分前から習っていらっしゃるとのことでしたので相当の腕前なのでしょうが、「一日中刺してもこれくらいしか出来ないこともあるのよね」
と親指と人差し指で小さな輪を作って見せられました。流石にこれにはびっくりすると同時になお一層綺麗に着付けをしてさしあげなければならないと気が引き締まりました。

「今日みたいに身につける日にちが分かっていてその日までに仕上げなければならないと思いながら刺している時にはしんどい時もあるけれど、いつもはのんびり、マイペースで刺しているの。時間が出来た時にちょこちょこっとね。楽しいよ。少しずつの積み重ねで形になっていくから」

何だかこのお客様と私、気が合うと感じました。そういうところは私にも大いにあるからです。私もとにかく何かを作ることが大好きです。
そして、私は正に現在小学校六年生の息子の小学校の卒業式と中学校の入学式に備えて訪問着の作成に奮闘している最中なのです。
ついついそのことをお話しすると、
「偉いねぇ。あなた、手先が器用なのよ。今、何でもお金を出せば手に入る世の中だけど、手づくりの温もりってあるよねぇ。和裁も日本刺繍もそうだけど、若い人、やる人が少なくなっているでしょう。すたれなければいいなぁって思うわ。ものをつくるのが嫌いな人は何か作るのに身構えちゃって。でも好きな人は細切れの時間でちょこちょこ手を動かすのよね。貴方、まだ若いんだし、いろいろな事に挑戦してみられたらいいと思うわ」
有り難いお言葉。確かにそうですよね。

楽しく会話しながら着せ付けも終わり、お客様はご自身の着物姿を見られて、
「作品が出来て感動、着て感動ね。有難う」
と言われ、私の着付けにも満足していただいたようで、私自身も嬉しかったです。

「よ~し!私も頑張るぞ!」

川口着付個人教室
 http://www.wbcs.nir.jp/~yoko/
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「道具が無くては着られない!?」

2008-11-09 23:23:36 | 着付け教室
9月から新しく来られている一人の生徒さんは、私の教室に来られる前に近くの某大手着付け教室の無料体験をされたそうです。

その教室では、
「ここで学ぶ際にはこれを購入して頂きます」
と色々な道具を出して来られ、その種類の多さにびっくりされたとのことです。また、その中にはそこでしか購入できない教室オリジナルの道具まであったとのこと。彼女は、
「これほどまでに器具がなければ着られないということはないのではないか」
という釈然としないお気持ちと、
「それら全て購入するとかなりの額になる」
ということから入会を躊躇されたとのことです。そんな経緯から、
「道具が無くては着られないというのではなく、いつ、どんな状況でも着られるようになりたい。着付けはいわゆる昔ながらの1本紐の腰紐を使って」
と強く希望されていました。

巷には色々な着付け教室があります。
先生を沢山雇い、大々的に広告宣伝をしているような規模の大きい教室ではそれなりに利益を出して経営を成り立たせなければならないので、色々な道具を使用したり、高額なお免状を出したり、呉服屋と提携したりすることはある意味必要なことと思われます。しかし、それらのことが往々にして純粋に
「着付けができるようになりたい」
と思う方々の負担になることも多く、今まで、
「湯水のごとくお金をかけたのに身に付かなかった」
とおっしゃる方にも数多く出会ってきました。

かく言う私も某着付け教室では講師の資格まで取り、そこそこお金も費やしたのにもかかわらず、教室を退きしばらく着付けから遠のいていたら、自分で着ることすら自信が持てず、苛立ち、もう一度勉強をし直した経歴があります。
その時に門を叩いた私の師匠さんも同じような経験をされ、また大手教室の講師もされる中で、実際に
「着られるようになった」
「着せられるようになった」
と喜んで頂ける教室を開きたいと思われて現在の個人教室を開いておられます。私も、その教室で何回も同じことを繰り返し教えて頂いたお陰で確かな技術が身に付きました。そしてその先生のお考えに賛同し、また先生に応援していただくことによって、自宅で個人の着付け教室を開くに至っています。

一方、私の教室は便利な道具を一切使わないという教室ではありません。
私自身、自分で着物を着るときには「コーリンベルト」や「ウエストベルト」といった道具を使っていますし、帯結びのときに、手結びがしにくいほど短い帯でお太鼓をするときには「改良枕」という道具を使うこともあります。
これらの道具はたぶん殆どの着付け教室で使われており、たいがいの和装小物店で手に入れることが出来ますので、私自身一般的な道具として当たり前のように使ってきました。しかし勿論この生徒さんのお考えの様にこれらを使わなければ着られないということはありません。

今回の生徒さんとのやり取りの中で、私も初心に帰りました。
より生徒さんの立場に立って技術を学べる場とするために、今後生徒さんには道具の使い方と金額もお伝えした上で
「やはり便利だから購入したい」
とお感じの方にだけ購入して頂くようにしたいと思いました。


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