着付けの気づき

着付けの個人教室を行っている先生が、着付や着物に対するこだわりの思いを中心に語ります。

糸が風邪をひく

2019-12-23 17:29:59 | 着物
着物や帯、それに付随する小物類などは良く、代々受け継がれて長く使用することが出来るものだと言われます。

実際着物の着せ付けで現場に入ると、お客様のおばあ様やお母さまやおばさまたち、姉妹やいとこさんなども着用されたというような、代々身内で受け継がれたご衣装を目にすることも多いです。

ただ、ここで気をつけていただきたいことがあります。
それは、着物や帯を構成する織り糸や縫い糸、小物に使われるゴムやプラスチックなどは、使用頻度が高いだけでなく経年劣化もするということです。経年劣化したものは簡単な力で切れたり裂けたり割れたりすることがあります。
私の和裁の先生は、経年劣化して少しの力で切れてしまう糸のことを、
「この糸は風邪をひいている」
と表現し、その糸を縫い糸として使用することはありません。

私も多くの着せ付けの仕事中に、着物の縫い糸が弱って部分的に切れているご衣装や、プラスチックの止め部分が駄目になっている着物ベルトなどに遭遇することがあり、その際は急いでしかるべき対処をするのですが、応急処置に過ぎないようなことが起こってしまうこともあります。ですから、古いご衣装着用の際は、皆さん一度点検されることをお勧めします。

場合によっては長く着用できるように洗い張りをしたり、仕立て直しをしたりする必要性が生じることもありますが、大切なご衣装を長く守っていく為には、やはりメンテナンスも必要かと思います。もしも不安な場合は和裁師さんや悉皆屋(しっかいや。下記※参照)さんなどの専門家に一度相談されることをお勧めします。

多くの着物や帯は、何人もの技術者によって出来あがっています。それゆえに高価なものであったはずです。
購入者、代々の着用者の思いや、さまざまな技術の総結集ともいえる衣装のなりたちにも思いにも馳せながら、大切に受け継いでいきたいものですね。

※悉皆屋…染め物、洗い張りなど、着物のことの相談に乗ってくれる人やお店のこと。
相談は悉皆屋さんに直接持ち込んでも良いですが、呉服屋さん経由でお願い出来ることもあります。

川口着付個人教室
 http://www.wbcs.nir.jp/~yoko

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「秋田は涼しくあります様に・・・」

2008-09-24 23:32:53 | 着物
8月の末、一時涼しい日が続いて漸く過ごし易い気候になって来たと思っていたら、このところまた暑さがぶり返しています。
9月に入ったばかりの過日、私と同じマンションに住む知り合いから急に電話がありました。

「川口さん、分かったら教えて欲しいんだけど・・・、実はさっき秋田に住むうちの父が急死したって連絡が入ったの。これから秋田に帰ることになって・・・喪服を持って帰らなくちゃいけないんだけど、喪服って真っ黒の着物だよね?私が嫁入りの時に作って持たせてもらってるからあるにはあるんだけど、二枚あって、どっちを持っていったらいいんだろう?帯は一枚しかない・・・小物も、色々あるんだけど、使い方の分からないものもあるし・・何が何だかさっぱり分からなくて・・・」
電話で話してもらちがあかない、直接見た方が早いと思った私は、
「今から行ってみてあげる」
といい、見に行きました。

二枚ある着物は夏物(絽の単もの)と、冬物(袷)、それに合わせて長襦袢も夏用と冬用があることが判明。帯は夏と冬のリバーシブル。着付けに必要な小物も十分に揃っていました。
今時、喪服を持っていても年間を通じて着る期間の長い袷のみという方も多い中で、きちんと夏物と冬物を準備されているのは珍しいことかも知れません。さて・・・。今は9月に入り、丁度季節の移り変わりの時期で、着物は暦の上では薄物以外の単の着物を着る時期。つまり、夏と冬の間の季節の移り変わりの時期で、着る着物は細かく言えば絽や紗のような、薄物でない単ものとなります。流石にここまで準備されている方は皆無と言えるでしょう。ならば絽と袷とどちらを着たらいい?ということになりました。結婚式などで冷房の効いた会場では通年袷で良いとされています。勿論喪服でもしかり。ましてや、前述のように、袷しかなければそちらを着るしかないということになると思います。しかし、喪服の場合、恐らく着物を着て焼き場に行かなくてはならないでしょう。以前主人の父が亡くなったのは7月でしたので私も経験がありますが、確かに式の会場は寒い位に冷房が入っていたので問題ないですが、絽を着ていたとはいえ、焼き場は半端なく暑かったのを覚えています。9月を数日過ぎたからといって、袷を着るのはある意味拷問といえるかも知れません。今ならまだ絽でもいいのでは?と思いはするものの、季節を先取りするのはお洒落とされている着物、逆はだらしがないと考える方もおられます。また、地域によっても考え方が様々なので、取り敢えず、
「秋田のお母様にどちらを着たら良いか聞いて、夏物と言われたらこっち、冬物と言われたらこっちを持っていったらいいよ」
とアドバイスして帰りました。

なかなか着物もその土地土地でしきたりやルールも変わってくるので、特にこの時期は難しいと思います。そう言えば、誰も亡くなっていないのに喪服を作っておくのは縁起が悪いとし、だれかが亡くなられて喪服を着なければならないタイミングで注文をし、葬儀に間に合うように作らせる地域もあるそうです。それこそ、何人もの和裁師達が貴方は袖、貴方は身頃といった具合に手分けしてほぼ一日で完成させるとか。私の教わっている和裁の先生も
「それはそれは大変よ~」
と仰っていました。
とにかく何はともあれ、少なくとも秋田は涼しくあります様に・・・


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