隣接する県が8つと全国一多い長野県には海がありませんので
「海なし県」とか「内陸県」と呼ばれています。
南北220㌔ととても長いので、最南端の県境から直線で
下伊那郡根羽村~静岡県浜松市間約60㌔で太平洋を臨むことができ、一方北は
北安曇郡小谷村~新潟県糸魚川市間15㌔で日本海に出ることができます。
つまりこの糸魚川が長野県から一番近い海岸になるのですが
フォッサマグナ(大きな溝)の西縁、糸魚川静岡構造線が走っていて
飛騨山脈の北アルプス連山が海岸線まで張り出しているため、R8に並行する
北陸自動車道にはトンネルが26個も連続している区間に当たり
海水浴に向く大きな砂浜がある話は聞いたことがありません。
(北陸道はトンネルと海上高架橋で通過する)
すぐ近くの「親不知(おやしらず)」「子不知(こしらず)」という地名は
越後(新潟)と越中(富山)の往来には、海岸沿いの断崖絶壁に沿った狭い砂浜を
波間を見計らって駆け抜け、大波が来ると洞窟などに逃げ込んだが
途中で波に飲まれる者も少なくなく、親は子を、子は親を省みることが
できない程に険しい道であることに由来すると聞きます。
他方、糸魚川の東30㌔、R18を使うと長野市から70㌔の距離にある上越市には
"遠浅"を昔から売りにしている谷浜海水浴場などの大きな砂浜がいくつも存在し
現在のように自家用車が普及する前でさえ、JR信越線と北陸線を乗り継いで
夏になると長野県民が大挙して押し寄せていた歴史があります。
私が物心が付いた頃からすでにこうした現象から
この上越付近の海岸を「信州の海」と呼んでいたはずです。
マイカーで行くことが普通になった40年前頃からは
R18は"長野ナンバー"で大渋滞、一番近い上越海岸でさえ2時間は
見ておく必要があったほどですが、30年前の長野オリンピックを契機に
開通した上信越道のお陰で所要時間は1時間を切るまでになりました。
谷浜だけでピーク時にはこの信州からの海水浴客を当て込んだ
海の家(新潟では「浜茶屋」と呼ぶ)が30軒以上あったというから驚きです。
時代は移ろい、現在は10軒程度しか残っていませんし
今回お世話になったT屋も今季を最後に閉店するそうです。
平日だったとは言え、会社によっては夏休みを交代で取ることもありますし
何よりも子供たちは夏休み真っ盛りのはずです。
6月末~お盆休みまでの短期間の営業なのですから
天気の良い日にはせめて席の半分は埋まって欲しいに違いありません。
そう言えば、スタッフのほぼ全員は高齢のジジババのみ
海水浴離れと同時に後継者不足も原因の一つとされていることは確かなようで
お客さんも1~2人の子連れファミリーの姿だけで若い女性はほぼほぼゼロ。
女性が来なけりゃ男は来ないのが世の常
やはり日焼けと砂や塩分のベタベタが敬遠される上
温水シャワーを含んだ掘っ立て小屋の利用料1000円と
味を期待できないラーメン、カレー、焼きそば等の食事に700円前後を
支払わなければならず、それ以上に首都圏の海岸に比べたら
いわゆるする"インスタ映え"するおしゃれ感は全くなく、だったら何も
そんな往復の燃料代と時間を掛けなくても、今や"造波"や"流水"
さらにウォータースライダーもある近くの市民プールで充分
ということになるのはしょうがない話。
世間が求める安全のためとは言え、わざわざ狭い範囲をロープで囲い
飛び込みをしたり色々な海の生き物を探せる岩場や防波ブロック周辺を
全て立ち入り禁止にして、プールでは決して味わえない
自然と戯れる楽しさを奪ったことも一因のような気がして
時代の変化により止むを得ないかも知れないとは思いつつも、昔の海は
無茶苦茶楽しかったなぁと懐かしむことしきりです。