茫庵

万書きつらね

2012年08月26日 - 詩人との対話 4

2012年08月25日 18時20分58秒 | 名句、名言


 私自身は詩というものに対してさほど関心を持たないのだが、詩の好きな妖精、Elenが私の夢にやってくる様になってから、なんとなく詩人たちとの距離感が縮まった。時代、国、民族を超えて読まれる詩人もいる事を知った。詩人の言葉は必ずしも勇気や喜びばかりを与えてくれるものではないが、いずれも圧倒的な存在感をもってのしかかってくる。これが超一流の詩人が発する言葉の重みか、と感じる一瞬。

 詩人だからことさら人より高い人生を歩んでいる、ということは無い。彼らが違うのは、魂と言葉の結びつきについて他の人よりもよく知り得たという事に他ならない。彼らはどんな場面でどの言葉がどう人の心に響くかを計算し尽くして詩作に結実させる。逆にいえばそれが出来ない者は詩人とはいえない。詩人なら全身全霊をかけて選び出す、究極の一語というものを持っている。そこには人知れず底知れぬ悩み苦しみに耐え抜いた者だけが持つ孤高な叫びがある。

 だが、例えば絵画の作品は視覚を通じて描いた物が直接鑑賞者の感受性に訴えかけてくるが詩の場合は違う。第一に言語を理解しなければ意味はおろか何と読むかすら分からない。意味が理解出来たところでそれはあくまでも言語的意味合いなだけで、詩として何を言おうとしたかまでは至らないのだ。逆に、作者が意図しなかった事まで感じ取る読者がいるかもしれないが、それは原語への理解があった先に来るべきものだ。

 詩とは、作者にっとても読者にとっても、人類の知的活動のうちでも最も高度に言語的能力を働かせたものである。心に感じたものを素直に書いたらいい、感じれるままに読んだらいい、というのは世迷言でしかない。言語を理解しない者には何も伝わらないし、理解したとしても詩情を共有出来るとは限らない。詩は書く人をも読む人をも選ぶのだ。「誰でも」というのは傲慢と無知が言わしめる言葉である。どんな詩が誰を選ぶのかは誰にも分からない。

 「まいど」

 Elenが来た。どうやら色々と考えているうちに眠ってしまっていたらしい。
 前回来た時にボードレールネタを頼んでおいたので、何が聞けるのか期待だ。

 さて、今回の名言はマルティアルス。詩人にとって、詩が評価される事、評価されない事、それぞれどう受け止めるか。批評者への牽制とも負け惜しみともとれるこの一節。物書きをする身にとってはある面確かに真理といえるかも。

Lector et auditor nostros probat, Aule, libellos,
       sed quidam exactos esse poeta negat.
non nimium curo: nam cenae fercula nostrae
       malim convivis quam placuisse cocis.
 (マルティアリス「Epigramma 9-81」より)


2012年08月25日 - 詩人との対話 3

2012年08月25日 12時14分57秒 | 名句、名言

 不透明な時代、心配ごとあれこれ。悶々と過ごしていたある夜、夢に、詩の好きな妖精のElenがやってきて、私に電話がつながっていると言ってS社のスマートホンを差し出した。なんでマイナーなS社? 後で考えたら私が持ってるやつのコピーらしかった。私にとって違和感のないように、私の身辺の物をそのままコピーするらしい。rさて、電話の向こうはハツラツとした男の声。やや古ぼったいドイツ語で、妖精から私の事を聞いて興味を持ったと語った。お互いに自国語で話しているのに言ってる事が分かるのは妖精の力が働いていたからなのか?

 この男。ゲーテと名乗り、自らが書いたという詩を朗読してくれた。

Sorge
                       Johann Wolfgang von Goethe

        Kehre nicht in diesem Kreise
        Neu und immer neu zuruck!
        Las, o las mir meine Weise,
        Gonn', o gonne mir mein Gluck!

        Soll ich fliehen? Soll ich's fassen?
        Nun, gezweifelt ist genug.
        Willst du mich nicht glucklich lassen,
        Sorge, nun so mach' mich klug!

 人生いろいろな事があるだろうが人生とはそういうものだから逃げる事は出来ない。何にしてもいちどこっちに遊びに来ないか、と言われた。いつか行ってみたいと答えると、いつでも歓迎するとの事だった。このオヤジは日本がどこにあるのか分かって言ってるのか?

 夢の中では何でもアリで誠に結構だ。時空を超えて名詩は語り継がれる。それも結構。

 この詩を書いた頃のゲーテは40歳。まもなくフランス革命の嵐がヨーロッパ中を席巻し、彼が身を寄せていたワイマール公国もナポレオン軍に蹂躙されるはずだ。だが、強靭な精神力と類まれなバランス感覚の持ち主でもあったこの詩人はその後も現代まで伝わる名作を書き続けることになる。