絵じゃないかおじさん

言いたい放題、自由きまま、気楽など・・・
ピカ輪世代です。
(傘;傘;)←かさかさ、しわしわ、よれよれまーくです。

あ@仮想はてな物語 「万葉おおみわ異聞」 3/3

2019-12-11 07:19:31 | 仮想はてな物語 
     copyright (c)ち ふ
        絵じゃないかおじさんグループ

 まだ、唇が痛い。
 お母さんに見つかるときっと追求されるわ。
 女の直感で分かってしまうかしら。
 唇を少しだけ結んでおこう。
 唇にはまだあの人が残っている。

 憎い人。
 ああ、ずっとそばに居たいのに、
 結婚の申し込みはしてはくれなかった。
 言い出せないのね、とても気が弱そうだから。

 (身体が火照る。
  咽喉が乾く。
  口あわせとはあんなにいいものだったのか?

  さ夜更けるとこの境内に男と女がやってきて、
  口あわせや色々な事をやっている。
  オレが見るともなしに見ているというのに。
  でも、奴らがしていることは、全て雪香にも
通じるのだろうか?
  そんなこと考えただけでも嫌になってくる。
  雪香を汚らわしい人間の男の手に
委ねたくはない。

  雪香はオレのものだ。
  誰にも渡すものか。
  雪香と絶対、一緒に暮らしてみせる。

  決心したぞ!
  そうして、毎日毎日あの柔らかい
唇に触れるのだ)

 (あれ以来、口あわせは会えばいつもしている。
  飽きることはないが、裸の雪香も見たくなった。
  ずっと一緒にいたい。
  オレは雪香に指文字で頼んだ。

  雪香の部屋の壁の傍に台を置いて
ローソクを立て、
  鈴を撚り糸で吊し、
  左右に数を数えながら振る。
  もちろん、ローソクの前の壁には手の拳ほどの、
  オレの通り道の穴を開けておいてもらう。

  その鈴の音を百回も数え終わらないうちに、
  オレは君の前に現われるだろうと言っておいた。

  果たして、いつものように、うまく瞬間催眠術が
  かかるだろうか?

  雪香に対しては幸いなことに一回も
失敗はしていない。
  全身全霊を込めて術に没入しているからだろう。
  今度も、きっとうまくゆくはずだ)

 とうとうあの人が結婚を申し込んでくれたわ。
 今夜は私の部屋に訪ねて来てくれるという。

 待遠しいわ。
 すだれが揺れてる。
 さあ、あの人の言う通りにして待っていよう。
 肌着も新しいものに取り替えて
お風呂にも入った。
 常世の願いをもたらしてくれるという
橘の実も浮かべたの。

 ああ香久わしい匂い。
 あの人に何をご馳走しようかしら?
 蘇も出そうかしら。
 濁り酒もつけようかな。
 黒酒それとも白酒がいいかしら。
 でも、まだお父さんやお母さんに
見つかってはいけないの。
 お母さんは奥に寝ているけれど、
 外床に居るお父さんに気づかれはしないかしら。
 もし、見つかったら、あれは風の音なのよと
言うことにしよう。
 あの人、もう少しお金が貯まるまで、
 正式な申し込みは待ってくれと言っていた。

 いいわ。
 いつまでも待ってあげる。

 裏紐は、どうしておけばいいのかしら。
 あら、こんなこと考えて・・・
 はしたないわね。
 まそ鏡の中に入って隠れていたい。

 夜よ、早く更けて、今宵を黒く包んでおくれ。

 (うまくいった。
  岩踏む道、遠い道のりといえども、
苦にはならない。
  石川の清の川原で、身も浄めてきた。
  部屋の中は狭いが雪香の匂いが
いっぱい詰まっていて、
  心が安らぐ。
  オレは、何処に座って良いか
分からなかったので、
  隅に寄っていた)

{遠 慮 し な い で 、
 こ こ は あ な た の へ や よ}

 (雪香も指文字になっている。
  声を立てるわけにいかないからだろう。
  向かいあっても飽きることのない雪香よ)

{ありがとう。会いたかった}

{わ た し も}

 (雪香は糊のきいた布団に横たわった。
  オレもその左の横にゆく。
  雪香の帯を解くと、白妙の着物の下に、
  紅の小染めの下衣をつけていた。
  天窓から入ってくる清けき月の明かりに、
  雪香の白い白い膚が浮かびあがっていた。
  オレの白さとは違う暖かい白さだ。
  目が潰れそうだった)


 四郎太さん、下帯の解き方も知らない。
 やっぱり、初めてなのね、嬉しい。
 恥ずかしいわ。
 そんなに見つめないで!

 (これ以上のことは出来ない。
  雪香の裸を見るだけでもよかったのだ。
  裸のまま抱き合って口あわせ出来るなんて、
  オレはもう大満足。
  雪香のしとやかな黒髪を敷いて、
一緒に寝られるだけで、
  もうこれ以上の幸せはないのだから。

  魂合わせの喜びよ。
  これが、夢に見続けていた雪香の手枕か。
  月の神よ、ゆっくり夜の空を渡って欲しい。
  それにしても、恋というものは
尽くしきれないものだ)


 お母さん、私にいつも言っている。
 もう耳にタコが出来るくらい。
男には気をつけよって。
 私は、四郎太さんと絶対結婚するわ。
 だから、何をしてもいいの。
 もし、結婚出来なくってもいい。
 四郎太さんと結婚できないのなら、
私一生ひとりで暮らすわ。
 たった一人の、私の私だけの男の人。

 (雪香が何もかも投げ捨てて、
  オレに尽くしてくれようとしている。
  オレは、それに応えなければならない。
  幸せにしてやりたい)

 四郎太さんを感じるわ。
 乳房や脇腹で。
 もう恥ずかしくて、恥ずかしくて。
 でも、とっても幸せ。
 この幸せ、百世、八千年も続けば、いい。

 (朝鳥も鳴き始めた。
  夜の早く明けること。
  あっという間に時間が過ぎた。
  雪香と過ごす時の流れの速いこと!

  しかし、この後には長い長い虚ろな時間が
打ち続くのだ。
  餌を集める蟻のように通いたいものだが)

{もう、帰るの?
 お仕事にゆく時間なのね。
 少しも寝ていないのに大丈夫?}

 手文字でお話しする。

 {昼間、山小屋で少し昼寝をするよ。
  ありがとう。
  本当にありがとう。
  少しお眠り。
  また2~3日したら来るよ。
  そうだ。
  板田の橋、壊れていたよ。
  渡る時は注意するといいよ。
  今度、仕事休みの雨の日に、直してあげる。
  玉橋にしてあげようね}

{ありがとう。優しいのね。それで、あなたは、
 どうやって来たの?}

{橋桁をね}

{無茶をするのね。
 ダメよ。
 では、気をつけてね。
 あっ、帯交換してもらってもいい?
 いいのね、うれしいわ。
 さ よ う な ら}

 なす術もない朝のお別れ。
 次にお会いするまで、元気でいてね。
 すき間から覗いていると、あの人、
 何度も何度も袖を振りながら、去っていった。
 お母さんに見られはしないかしら。
 私も、お外に飛び出していって、袖を振って
見送ってあげたい。
 でも、忍ばなければね。

 もし、許されるのなら、あの人の帰ってゆく道を
手繰りよせて、焼き尽くしてみたい、
霧を立ち渡らせたい。


 四郎太さんと過ごす時間は短いわ。
 いったい、あの人何処に住んでいるのでしょう。
 お家も見てみたいわ。

 でも、いつも言葉を濁すだけ。
 私のこと、そんなには愛してくれてないのかしら。
 私は、鴨鳥や白鶴さんたちのように、
 片ときも置かず寄りそっていたいのに。

 (路の長てよ、吾を帰すな! 
  それにしても、雪香にオレ自身のことを
問われても、
  本当のことは口が裂けても
  言えるものではない。
  仲は深まるばかり。
  あの子のいない世の中なんて考えられない。
  どうすればいいのだろう)

 あの人の足跡を踏みながら、後をついて
ゆこうとしたけれど、
 私の足では追いつかなかった。
 まだまだ若いので、露に覆われた道行でも、
 苦にはならないのだけれど、
 男の人には適わない。
 あの人いつも山歩きをしているせいかしら。
 飛ぶ鳥になりたい。
 今日は、仕方ないから、草結びのお願いで
我慢したわ。

 草の根さん、ごめんなさいね。
 あの人の家、分かったら解いてあげる。
 それまで、辛抱してね。
 あなたも分かったら、あの人のこと、
 夢でいいから教えてちょうだいね。
  ・・・・・・・・

 そうだわ。
 もっと確実な方法、思いついた。
 今度あの人が来たら、上衣に麻糸を
縫い付けておこう。
 その後を辿れば、きっとあの人の
お家がわかるわ。
 そうしたら、夜こっそりあの人のお部屋を
訪ねていって、
 驚かしてあげよう。
 いつもあの人ばかりに来てもらって悪いから。

 あの人、どんな顔するかしら。

 (もう夜が明けるのか?
  このままずっと居られたら、
どんなに楽しいだろう。
  結婚して毎日この子の手料理を食べて、
  宝もののような子供が出来て。
  ささやかな暮らし。

  しかし、望むべくもない。
  さあ、神杉のねぐらに帰るとするか。
  白く生まれたお陰で、参拝者からは拝まれるし、
  神社の関係者は下にも置かないもてなしを
してくれるし、
  これでも結構忙しい生活を送っているのだ。
  毎日顔を出すと有り難みも薄れるので、
頃合を計りながら、
  出ていってやらねばならない。
  それにしても、よく気も使うことよ)

 あの人が帰っていった。
 今夜もまた会えるわ。
 あの人どんな顔をするかしら。
 きっと喜んでくれるに違いないわ。
 さあ、朝ご飯を食べて、麻糸の後をつけてみよう。

 そう言えば、あの人の衣は色あせ
少し破れてて薄かった。
 いつかまだらの衣を織って贈ってあげよう。

 まだ糸車が回っている。
 途中で切れはしないかしら。
 誰かが、足を引っ掛けて切ったりしないかしら。
 長さは、これで足りるかしら。
 心配すればキリがない。
 しかし、そうなったとしても、あの人が
居なくなるわけでは
 ないのだから、いいわね。

 (今日は疲れた。
  身体が重い。
  どうしたんだろう。
  季節のせいだろうか?
  眠りたい・・・)

 やっぱり、気になる。
 糸車も止まった。
 よかった。
 長さが足りて。
 ご飯など、もう要らないわ。

 さあ、手染めの薄草色の麻糸をたぐりよせて、
 後を追って行ってみよう。

 あの人ったら、道などあまり歩かないのね。
 田んぼでも畑でも、何処でも真っすぐ
歩いてゆくのね。
 山の中ばかり歩いているから、
そうなったのかしら。
 あの人らしい。

 あれ!

 大神様の神社の中に入ってゆくわ。
 神杉さまの方に続いている。
 こんな方角にあったのおかしな人。
 いつも私が通っていたのに、
教えてくれてもいいんじゃない。

 おかしいわ。神杉の前で切れている・・・

 ああっ!!

 あれは!

 白蛇さん、麻糸でぐるぐる巻きされている。

 ???????????????????

 四郎太さん、あなたは、白蛇だったの。
 わかった。
 すべてが分かったわ。

「四郎太さん、
 白蛇さん、
 どちらでもいい。
 私には同じ人ですもの。
 あなたが分かってきたわ。
 あげる。
 すべてをあげる。
 終わったら、そっと私を噛んでね」

{雪香、許しておくれ}

「いいの、そんなこと、もうどうでもいいの。
し あ わ せ よ」

{ありがとう}

 これが、あなたなのね。あなた。

(雪香、暖ったかい)

 ステキ。
 最高に幸せよ。
 私はあなたの為に生まれてきたの。
 あなたに抱かれて、もうこれ以上のものは何もいらない。

(ゆきか・・・)

 私の心はあなただけのもの。
 私はあなたしか知らない。
 あなたの居ない世界なんてないの。

(たった一人の心を奪われた、可愛いお前。
 人間であったなら、
もっと幸せにしてやれたのに・・・
 ただ心を結べたことだけが慰めだ)


 淡い夜霧ごもりの黒き蒼天に滲む天の河原には、
 二つ星がきらきらと輝いていました。

 その日を境にして、雪香も白蛇も、
 人々の前から姿を消してしまったそうです。
 村の人たちは、雪香は神隠しにあったのだ
などと、
 噂をしていましたのですが、
 75日も過ぎますと、もう雪香のことは
忘れてしまって、
 何も言わなくなってしまいました。

 その年の、年の瀬の大掃除の時のことでした。
 神杉の根元の空洞の中で、
 うす桃色に染まった、
 三重の美しい輪になった、
 白い蛇の脱け殻が見つかったそうです。

 その時以来、村の人々は、その神社をみわ様と
 呼ぶようになったと言うことです。
 それは、三つの輪になった
白い蛇の脱け殻からとも、
 その美しい輪を指しているとも言われております。
                          
  おわり


あ@仮想はてな物語 「万葉おおみわ異聞」 2/3

2019-12-11 07:18:14 | 仮想はてな物語 
    copyright (c)ち ふ
        絵じゃないかおじさんグループ

 ああ口が不自由だったのね。
 悪いことをした。
 あの人は、私に手の平を出すように
合図してきたの。

 それで私が左の手の平を差し出すと、
 顔を紅葉葉のように真っ赤に染めながら、
 それはそれはゆっくりと手文字を書いてくれた。
 震えているようだった。
 その仕草がとても可愛くて印象的だった。
 あの人の指先はとても冷たかった。

 けれども、手先の冷たい人は心が暖かいと
いうわ。
 きっと、あの人も優しくて暖かい人に違いないわ。
 あの人が書く一文字ごとに背筋にビクッビクッと
雷が走ったの。
 そのお話が楽しくて楽しくて仕方なかった。
 あんなに楽しい時間を過ごしたことはなかったわ。
 雨が上がっていたのも気がつかなかった。

 あの人と一緒に居たくて暗くなるまで、
お話してた。
 一晩中でもそうしていたかった。
 でも、あの人に帰るように言われたの。
 父や母が心配するだろうからって。
 だから、次に会う約束をして帰ってきた。
 雨の降る日に、
 今日のように卵の殻を見ていればいいと
言ってくれたわ。
 百も雨の雫を数え切らない内にやってくるとも
言っていた。

 どこに住んでいる人なのかしら。
 仕事は何をしているのかしら。
 雲さん、心があるならば、あの神山を
隠しておくれ。
 ああ、雨の日が早くやって来ないかなあ。

 青垣の山よ、たな雲れ、さ雲れ!

 (ヤッタぞ! 遂に成功した。
  今日は思う存分あの子と話が出来た。
  あの子は、雨ダレに惹かれていた。
  オレは、頃合を見計らっていた。

  飛び出す頃合が難しかった。
  ここで間違えば、二度とあの子には近づけない。
  日の神、月の神を始め、八百万の神に
心を預ける
ように祈り、大神さまにも祈った。

  焦る心の波だちを静めて、その一瞬にオレの
全てを賭けた。
  運が良かった。
  辛抱強く時を待てば、花開く瞬間がある。
  その瞬間をとらえ、全力を注ぎ込む。
  そればかりに心を集中して精進していれば、
  実は結ぶものだあ。

  あの子の手の平は暖かかった。
  ああいう温もりをオレは知らなかった。
  オレの人生も万更捨てたものではない。
  蛇に生まれ来たといえど、いいことも
あるものだ。

  雨よ降りしけ!

  雨は降るようで、待つとなると思うようには
降ってはくれない。
  また降っても周りに人が居たり、
量が少なかったりして、
  出てゆくしおどきを見失う。
  5回に1回ぐらいの確率だ。

  それでもいい。
  雪香と繋がりも出来た。
  オレは幸せ者だ)

 あの人は、恐ろしい鳴神さまが住むという、
 巻向山や雲立ち渡ることの多い
 龍王山あたりで、山菜や薬草採りの仕事を
していると言っていた。
 春萌え、夏の緑、まだら紅の秋、山の中は
いいだろうな。

 それにしても、雨の日に行っても
会えないことも多い。
 行くよと言いながら、来ないこともあるし、
 来ないと言っていても、
 ひょっこり現われることもあるんだから。

 あの人気紛れなのかしら。
 いやいや、あの人に限ってそんなことはないわ。
 誠実な人だから、何か事情があるに違いない。
 あの人が言ってくれるまで、目をつむっていて
 あげることにしよう。

 来る!
 来ない!

 足トしてみようかな。
 それにしても、私は、毎日でも一緒に居たいのに、
 あの人はそうでもないのかしら。
 私が、こんなに想っているというのに。

 一人芝居をしているのかしら。
 でも、いいわ。
 お仕事に違いないもの、仕方ない。
 雨の日にしか休めないのだから。
 少しぐらいの雨では、なかなか休めないのね。
 四郎太さんには今日も会えないのかしら。
 こんなに待っているのにあなたは、
やはり来てはくれないのね。

 今だ来ませぬ、私の念える人、日並べて来ませ。
 はや来ませ!

 (ああ、今日も出てゆけないのか。
  五月蝿のようなバァさんたち、
早く立ち去ってくれ。
  雪香が帰ってしまうではないか。
  もう10日以上も話をしていない。
  気が狂いそうだ。
  ただ会って、見るだけでいいのに。

  ダメだ。
  心は、すっかり雪香に寄ってしまった。
  オレの後に、生まれ来る人よ、
  決して恋の道には迷い踏みこむな、か)

 アッ、そうだわ。

 卵置いて帰るの忘れてた。
 四郎太さんに会えたのも、きっと白蛇さんを
見たお陰なのね。
 来るときは、いつも卵持ってきてあげるわ。
 ありがとう。

 「あっ、来てたの! 嬉しい!」

 {ごめん、ごめん。
  なかなか休めなくってね。
  今月は思うように薬草が採れなかったんだ}

 「いいの。そんなこと。それよりゆっくり
お話しましょ」

 (たわいのない話でも、雪香の口から出る言葉は
生きている。
  一語一語の言の葉が、巧みにオレの心を
捕らえて離さない。
  話す表情、言葉の抑揚さえもが
楽しくて仕方ない。
  オレは、もっぱら聞き役だ。
  時おり、雪香の手を取って相槌を入れたり、
  話の続きを要求する。
  ぽっちゃりとした、柔らかい雪香の手。
  それが、いまオレのものだと思うと、
  幸せとはこんなに手近にあったのかと
  しみじみと感じる)

 四郎太さんにいろいろお話してあげるの。
 この前会った時以来のたわいもない
何でもないお話。
 じっと楽しそうに聞いてくれるの。
 時々、はにかみながら、私の手をそっと取って、
 手文字を書いて、いろいろ言ってくれるの。

 楽しくて仕方がない。
 人生って楽しいものなのね。
 でも、それは四郎太さんと一緒にいる
間だけのこと。

 ずっと、ずっーと一緒にいたい!

 (また別れの刻がやってくる。
  いつまでも一緒に居たいのだが、
  いつ催眠術が切れるのか心配でならない。
  けれども、一息の間でもそばに居てやりたい。
  雪香の笑顔を見続けていたい)

 あの人とは、雨の降る日にしか
会えないのかしら。
 晴れた日に、山の中に山菜摘みに連れて
行ってはくれないのかしら。
 お仕事の邪魔になるわね、きっと。

 でもいい。
 雨の日が待遠しい。
 早く梅雨の季節にならないかしら。
 そうすれば毎日でも会うことが出来る。

 それにしても、夕方になるとあの人のことが
恋しくなるの。
 ああ、恋忘貝になりたい。
 でも、これはぜいたくな望みね。

 (ああ、いつまでこういう生活が
続けられるのだろう。
  あの子も年を取る。
  結婚したいが、オレは蛇。
  いつかは正体もバレてしまうだろう。
  雪香を失うことを考えると気が狂って
しまいそうだ。

  あの娘はかわいい。
  いろいろな男が手を出すようだ。
  しめし野に出ていて春菜を摘んでいたとき、
  モガサ跡に白粉を塗りこめた、
  のっぺら男に家や名前を尋ねられたという。
  飢えた若い男たちが集まる歌垣に出て、
  誰かに見初められるかもしれない。

  どうしても人間になりたい。
  本当の人間に生まれ変わってみたい。
  しかし、そんな大それた要求が実現する
わけはない・・・

  今日は雨が降っている。
  雪香はきっとやってきてくれるだろう。
  いつ来なくなるのか、気が変わるのか、
  オレは心配で堪らない)

{待った?}

 手の平に書く。

「うーうん」

 (雪香が匂うように美しい。
  黒いしんなりとした髪、若葉が映るような膚。
  つつじの香りがよく似合う。
  心の乱れを誘うような匂い)

 四郎太さん、今日は何か様子が違うわ。
 結婚の申し込みでもしてくれるのかしら。
 緊張してる。
 目付きも真剣そう。
 恐い気がする。

 何があるのかしら。

{く ち あ わ せ し て も い い ?}

 これだったのね。
 いいわ。
 許してあげる。
 でも、何と言ったら良いのかしら。
 どうしたら嫌らしくないかしら。
 さり気なくしてくれればいいのに、
気のきかない人ね。
 でも、そんなところが好き。
 擦れてなくって、純情で。
 しかし、そんなこと、いちいち断らなくっても
いいのにね。

 (雪香がこっくりとうなづいて、目を閉じてくれた。
  オレは生まれて初めてだ。
  人間の男と女がそうしているのは、
  神杉のすき間から何回となく見ている。
  あんなことして、何がいいのかと思っていたが、
  体と体を合わせることは、いいものだ。
  雪香の手の平に触れるだけでも
ドキドキするのに、
  あの可愛い声が出る、
  柔かそうでほんのりと赤い唇に触れるなんて
考えただけでも、
  血が頭のてっぺんまで上ってきて卒倒しそうだ)

 あの人ったら、初めてなのね。
 歯と歯がぶっかってしまった。
 お陰で私の唇も切れてしまったわ。

 でも嬉しい。
 あの人の初めての、唇に接した女の子に
なれたんだもの。
 もちろん私も、はじめて。
 頭からすーっと血がひいて、天に昇るようだった。

 (あの子の唇に触れた瞬間、赤電が走った。
  何がなんだか分からなくなった。
  これでますますあの子がオレのものになったと思った。
  あの子とオレの細い繋がりの糸が
大きくなったように感じた)


                           
   つづく

あ@仮想はてな物語 「万葉おおみわ異聞」 1/3

2019-12-11 07:14:54 | 仮想はてな物語 

     copyright (c)ち ふ
        絵じゃないかおじさんグループ

 みそら路をと渡る月が朔から望に移ろいてゆく、
 白の日々の始まり。

 新た世に、吉事がますますに湧き出で
来ますように・・・

 早くおめもじしたい、私の愛すべき人。
 どこに居るのかしら?
 どんな人なのかしら?

 暇を見つけては、こうしてうらぐわしきお山の
 大神様にお願いしているのだもの。
 きっとそのうちに素晴らしい人が現われるわ。

 私は待つ。
 心を澄まして、じっと手を合わせて私自身に
 言いきかせているの。
 その人に巡り会うまで、
 心を大事に大事にして、白い雪のように清くして、
 その人にきれいな心のまま捧げるの。

 恋を何度もすれば、
心が豊かになってくるっていうのは、
 嘘ごとだと思うわ。

 私は、一回ごとに心が腐ってゆくと思うの。
 あしやのウナヒ乙女さんのような
 二人の男の人に迷う生き方なんて
 賛成できない。
 きっぱりと自分の心に言いきかせて、
 きっちりとすべきだと思うわ。
 また、大和の三山さまのような恋争いにも
 巻き込まれたくはない。


 痛々しい恋にも会いたくはない。
 でも、どうなるか分からない、なってみないとね。
 いくばくも無い生あるうちに、
 この世にある間に、激しい恋を一回すれば、
 それでいいと思う。
 
 私の夢の人も、きっと私の為に、
私だけの為に生まれてくるの。
 信じてる。
 大神様に、こうして来る日も来る日も、
 お願いしているのだもの。

 届くわ。絶対に!!

 大神さま、私の心を染みこませた染木綿を
お掛けしておきます。
 庭に咲いていたソガ紅のつらつら椿のお花も、
どうぞ。

 (今日も白木綿花のようなあの子が
やって来ている。
  オレは、すっかりあの子に惚れてしまった。
  何とか、あの子と知り合いになりたい。
  何とかならないのだろうか。
  しかしながら、あの子は人間、オレは白蛇。
  福を呼ぶ白蛇とは言え、蛇族は人間に
嫌われている。
  こんな姿で、あの子の前に出てゆけば、
拝まれこそすれ、
  近づけば逃げ出すに違いないだろう。
  せんすべも無きものか。
  日月は、オレを照らしてはくれないのか)

 私も年を取る。
 生きていれば、日ごと月ごとに衰えていく。
 この世に咲く花も、咲けば後は、散るばかり。
 今は、若さの盛りに差しかかっているけれど、
  そのうちに、
 張りのある輝かしい顔には
 皺が増え拡がり、
 か黒わしい髪にも白髪が混じり、
 霜降り頭に変わりはてる。
 歯も抜け落ちて、口元がゆがみ、
 おばあさんになって面変わりしてゆく。

 イヤイヤ、そんなのイヤよ。
 たまらないわ。
 でも仕方ないのね。
 人間だもの。

 神様とは違う。
 そんな姿になる前に、
 それはそれは激しい恋をして、
 青春を燃やし尽くして年を取りたい。
 心に背くような生き方をしたくない。
 悔いのない人生を過ごしたいわ。

 (今日も何もなかった。
  苔蒸した神杉の隙間から、
じっと見ていただけだった。
  日が流れるように過ぎてゆく。

  ここだ、ここだと鳴きわめきたい!

  あの子にも、必ずや人間の男がくっつくだろう。
  未通女でなくなってしまう。
  そんなことを想像するだけで堪らなくなる。
  どうしようもないのだろうか。
  想いの伝わらない世の中は、
いよよ虚しくなるばかり。
  ああ、吾に恋せよ、美しきおみなごよ)

  今日は、いつもの山神様ばかりに
お願いしないで、
巳の神杉様にも お願いしよう。
  一人の神さまより二人の神さまに
お願いすると、
効果も上がるに違 いないわ。

「神杉さま、どうか私の願いをお聞き届け
下さいませ」

 アッ、あれは白蛇。
 神様のお使いに違いない。
 白い蛇を見ると、いいことがあると言われている。
 私の捜している人に会える前ぶれなのかしら?

 (あの子と目が会った。
  深くて吸い込まれそうだった。
  ますます惹かれてしまった。
  オレのことどう思ったのだろう。
  単なる白蛇と思っただけだろうか?
  それとも?)

 白蛇さん、卵を持って来たわ。
 うんと食べてね。
 私の願いごとを神様に届けてね。
 お願い、きっとよ。

 (あの子が、卵を呉れた。
  うまかった。
  今まで食べたどんな卵よりもおいしかった。
  けれども、オレにはあの子の願いなど
聞いてやる力はない。
  例え、あったとしても、そんなことは
出来るものか。
  あの子を人間の男に呉れてやるなんて、
どうして出来よう。
  この上は、オレが人間になるか、
あの子を蛇に変えるか、
どちらかしかない。
  そうだ。
  オレも、大神様にお願いすることにしよう)

 大神さま、まだまだ現われないのね、
 愛しい、私の恋すべき人。
 この世間には、姿を見たり、
声を聞いたりする人は
 たくさん満ち満ちているけれど、
 あの人は一人しかいないはずだわ。

 私の願いなど聞いてはくれないの?

 祈り方が足りないのかしら。
 心の尽くし方が十分でないのかしら。
 回数が少ないのかもしれない。
 この蜻蛉の国は、昔から言霊の幸う国と
言われている。
 心をこめてお願いしていれば、
そのうちにきっと願いが
 叶うに違いないのだけれど・・・

 (神さまよ、何でオレの願いを
聞いてくれないのか?
  オレ、アンタの代理立派に務めているだろ?
  まだまだ努力が足りないというのか。

  何をどうしたら、いいのか教えて欲しい。
  あの子は日を重ねるごとに人間の男の理想像を
  心のなかに作りあげていっている。 
  ますますオレとの距離は遠くなって
ゆくばかりだ。
  気ばかり焦る。
  首にお山の磐座を七つもぶらさげたような
感じもする。
  神さん、アンタ恋したことがあるのか?
  恋で悩んだことはないのか!
  まるで大寺の餓鬼の尻を拝んでいるみたいだ)

 巳の神杉様、今日も取りたての卵を
持ってきました。
 うんと食べてね。
 そして、一日も早く、お願いごと叶えてくださいね。

 (いつ食べても、あの子の卵はおいしい。
  気持で食べるからおいしいのだろう。
  味などは、二の次、三の次なのだ。
  あの子の心がこもる懐に抱かれていた
というだけで、
  オレは大満足する。
  しかし、いつかは、あの子は来なくなって
しまうだろう。
  毎日、毎日気がかりでならない。
  あの子が来なくなった日は、人間の恋人が
現われた証拠だ。

  こんな苦しい生活も堪らない。
  恋という奴は打てども打てどもまいらぬ
ものらしい。
  いや、奴はますます強くなるような気がする。
  なぜ、人間の女になど、心が傾いたのだろう。
  オレには分からない。
  不可思議な現象だ。
  これも運命なのか。
  今のオレには何のすべもない。
  験なき想い、片念い。
  川の流れが澱んだような侘しさだ。

  憂き世、辛けしか・・・

  オレの願いは全く叶えられない。
  こうなれば、オレの力であの子と繋がりを
つけるしかない。
  オレの武器と言えば、猛烈な毒と、
  人の背筋をぞっとさせるような姿態と、
  射竦めるようなこの眼だ。
  毒も姿態も、あの子に対しては負の
要因にしかならない。
  恐がらせるのがオチだろう。

  残るものと言えば、眼だ。
  眼を利用することにしよう。
  眼の利点を最大限に生かすもの・・・

  そうだ! 目くらましの術だ。

  幸いなことに、この近くに人間の催眠術師が
住んでいた。
  ヤツのしていることを、じっくり観察して
  その奥義を盗めばいいのだ。
  人間のあの生ちょろい目玉でかけられる
ぐらいなら、
  このオレの眼で
  出来ないはずはない。
  ・・・・・・・
  オレは、来る日も来る日も、ヤツの所に通った。
  ちょうどあの子がこの神社に参りに来るように。


  青蛙のヤツを捕まえては、練習台にする。
  だんだんと、上達してきた。
  全神経を眼に集中させ、全身の力をお腹の
あたりに貯めておいて一気に送り出すのだ。

  蛙のヤツも、最近では一睨みで、
  コロリン、コロリンとひっくり返る。
  しかし、これが人間にかかるとは
到底思われない。
  人間の催眠術師は、言葉を巧みに
利用している。
  しかし、オレには喋ることなど出来はしない。

  どうしたものか!

  そうだ。

  神杉の力を借りることにしよう。
  雨ダレの音だ。
  あの子は毎日やってくる。
  雨の日もあるだろう。
  神杉から落ちる雨ダレに
気を奪われているすきに、
  瞬間催眠術をかければ
  いいのだ。

  かといって、そう旨く雨ダレなどに興味を
示すだろうか?
  そこが一番問題だ。
  何かいい工夫がないものか? 

  ・・・・・・・
  その後も、オレは、考え続けた。
  そんなある雨の日のこと、卵の殻に
雨水が溜まって、
  神杉の雫が、ポトン、ポトンと落ちているのに
気がついた。

  それを見て、コレダと閃いたのだ。
  卵の殻を数個並べ、瓶の代わりに使う。
  そこに雨水が溜まる。
  その上に雫が落ちる。
  あの子は、きっと面白がって見入るに違いない。
  その時を見はからって、
  オレがパッと飛び出し瞬間催眠術をかける。
  きっとうまくゆくだろう。
  ここは、オレの力を信じるしかない。

  オレは、丁寧に卵殻を並べ、神杉の枝から
うまく雨ダレが
  落ちるように細工した。
  しかし、思うように雨は降ってくれない。
  降っても、あの子は傘をさしてやってくるので、
旨くゆかない。
  その上、オレが並べた卵殻を見習いの神主が
  時おり片づけてゆく。
  けれでも、オレは挫けないぞ。
  術に、ますます磨きをかけるだけだ。

  いまは鳥や犬や猫が相手だ。
  この間は、猫のヤツにかけ損なってひどい目に
遭ってしまった。
  ヤツは目を患っていたのだ。
  お陰で白い綺麗な膚にひっかき傷が
ついてしまって、
  なかなか治らなかった)

 毎日お願いにゆく大神様の境内で
夕立に遇ったわ。
 神杉の下で雨宿りしてたの。
 誰が並べたのか、卵の殻に雫が落ちて
ピチン、ピチンと跳ねてた。
 雨の雫が落ちると、殻の中にさざれ波も
立っていたわ。
 それが、とても変わっていて新鮮だった。
 杉の枝から、落ちる雫が上手に殻のなかに
入っていたの。
 私は、それが面白くて、膝を折って見入ってた。

 そんな時だったの。
 3抱えも、4抱えもある杉の木の横から、
 あの人が突然現われたの。
 色が白くてほっそりしていて、目がとても
素敵だった。
 でも、あの人は口がきけないの。
 私が挨拶すると、にっこりと笑ってくれたわ。

 一目見た時この人だわと感じたの。
 私が捜していた人は、この人に違いないと
思った。
 あの人は、空ばかり見上げていた。
 私が、話しかけると、口の辺りを指差して
首を横に振った。


                           
   つづく


あ@仮想はてな物語 「万葉おおみわ異聞」前説明

2019-12-11 07:09:14 | 仮想はてな物語 
     copyright (c)ち ふ
        絵じゃないかおじさんグループ

(再編集版)

 「万葉おおみわ異聞」について

 (三輪)山そのものが、
ご神体である奈良県桜井市にある、
  日本最古といわれる大神(おおみわ)神社
 <三輪神社、三輪明神>を舞台に、
記紀になどに出てくる
  伝説を元にしまして、
  やや現代風な、白蛇と乙女の恋物語として、
  万葉集(4516首)に出てくる歌の一部を
組み込んで、
  新解釈を施し、表わしてみました。

  参考文献;
    鶴久・森山隆編「萬葉集」
  昭和55年版使用(桜楓社刊)

 (意識して)使用した歌のナンバーです。

  ただし、例えば、はぎは、
141首も歌いこまれているといいますが、
  こういう例は、1首として数えました。

 379,349,17,1,2644,390,410,443,481,493,
 540,545,548,563,602,608,658,678,680,697
 717,747,804,894,897,903,905,907,964,971
 979,1009,1040,1047,4516,1052,1053,1064
 1076,1083,1085,1088,20,1092,13,14,1107
 1109,803,1169,1241,1255,1260,1278,1280
 1281,1296,1313,1315,1316,1320,1325,1347
 1421,1427,1606,1619,1759,1759,1764,1801 
1807,1989,2008,2001,2177,2364,2375,2403
 2413,2421,2422,2457,2496,2574,2644,2660
 2851,2891,3000,3079,3088,3091,3095,3162
 3217,3222,3228,3295,3310,3312,3682,3694
 3274,3747,3791,3841,3843,3888,3894,3979
 4063,4111,4120,4139,4163,4169,4192,4211
 4204,4275,4331,4410,54、324,338,501,527
 506,397,526,548,573,593,598,665,698,710
 711,736,743,771,781,793,794,892,924,965
 1006,1008,1015
                             
     以上の151首使用しております。

     では、本文へ。


あ@つぶつぶ(日々)309 今日もまた日が過ぎてゆく欠席か

2019-12-11 06:21:39 | つぶつぶ

多層構造ぶろぐ→Multilayer structure blog

ピカ輪世代(世に団塊とも)の一断面を目指して。



copyright (c)地  宇
                     ち ふ
          絵じゃないかぐるーぷ
        


*  English translation 


  309 今日もまた日が過ぎてゆく欠席か



        ↓
      (ほんやっ君のとある無料の英訳)

    Or absent that day Yuku past also today
         ↓
      (ほんやっ君のとある無料の和訳戻し)

または今日もその日ゆく過去を欠席






     この項おわり



つぶつぶ(22”22”)・・・・・