copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
* 桃原国道(031)
新益京市のわが家から、
24号線を和歌山に向かって走り、
粉河の先で左折して424号線に入る。
入れば、もうそこが桃源郷である。
その名にふさわしく国道沿いに、
桃畑が一面に拡がっている。
淡いピンクの花盛り。
私は、そんなに沢山の桃の花の、
群生を見たことなかった。
見渡す限り桃の花なのである。
ドライブガイドの本に桃源郷の
案内が載っていた。
冬の走りは近くだけに限られていたため、
どうしても要求不満になっている。
そんな心に桃源郷の名が食い込んでいた。
朝方は小雨が降っていたのだが、
昼過ぎに薄曇りに変わったので、
飛び出したのである。
橋本のあたりから雨がまた本格的に降り始めた。
春の雨はさほど冷たくはなかった。
国道の端にS・サヤカをとめ、
例のブルーのレインウェアを着込む。
雨のなかを走るのは久しぶりである。
雨が叩くように降ってくる。
サヤカを止めれば雨はそんなに強くはない。
スピードのせいである。
雨の日のバイクは悲惨である。
特に、私のようにメガネを必要とする者は,
さらにひどい目に遭う。
シールドとメガネがダブルで曇るのだ。
その上シールドには雨滴まで着く。
しょっちゅう手袋の手の平で
拭わなければならない。
それでも間に合わなくなると、
結局はシールドをあげたまま走ることになる。
雨が直接メガネや顔にかかる。
今度はメガネがシールドと同じ目に遭う。
メガネが役に立たないので鼻の上にずらす。
雨のヤツが目玉を直撃する。
とてもじゃないが、見られたものではない。
風があまり吹いていないと、
40kmぐらいのスピードなら雨は痛くはない。
55kmあたりからピチピチと叩き始める。
60kmだと目がもう痛くて痛くて叶わない。
私が、バイクで前が曇ったり雨滴に悩まされて、
こわごわ走っているのに、
4輪車はビュンビュン飛ばしてくる。
雨の日でも、24号・42号あたりでは、
70~80kmで走ってくるのだ。
雨の日にバイクに乗らなければいいのだろうが、
天気は気紛れだ。
遠くに足を延ばせば、そんな目に遭うことも
覚悟しなければならない。
とにかく危ないから流れに合わすのである。
これが苦痛となる。
前は見えない。
後は見えない。
スリップの危険がある。
車の水飛沫はかかる。
もう四方八方敵ばかりなのである。
そんな中を何とか桃源郷についた。
有りがたみもひとしおである。
桃の花をバックにしてサヤカの写真を
撮ってやった。
雨が強いので人はほとんどいない。
私は、雨のなかに佇んで、
ぼんやりと桃の花に酔っていた。
ずっと見渡す限り桃の花である。
道路や人家がそばにあるので、
少し物足りなかった。
こういう景色には邪魔物である。
やはり道路は舗装されてなく、
さびれた小屋一つぐらいが似つかわしい。
そんなことを思っていた時だった。
2・3本先の桃の木の花びらから、
何かネバネバとしたものが滴り落ちている。
雨の雫が固まって落ちているのかなと思った。
近づいてみるといい香りが漂ってくる。
おお、何と化粧に使うクリームではないか!
私は、すぐさまビニール袋を取り出した。
携帯必需品の一つである。
持っていると色々重宝するから、
いつも4・5枚は用意しているのだ。
その袋でクリームを受けた。
不思議なことにいっぱいになった所で、
ぴたりと止まった。
ああ、Oさんにいい土産が出来た。
満足に化粧品など買ってやらない私を哀れんで、
天のヤツ小賢しいことをしやがったな!
まあ、天然の化粧品だから、
今回は素直に貰って帰ろう。
桃の花 花・花・花の 花盛
雨のシヤッター 引き下ろし憩う
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 花の吉野山
* 花の吉野山(032)
花冷えのする日であった。
曇っていて今にも雨が降り落ちて来そうだった。
そうだ。
こういう日に吉野山へ行けば、
人出は少ないに違いないと思った。
私は、短い脚を振り上げて、Sサヤカに跨がる。
吉野へゆくには、石舞台から抜ける山路の方が、
自然に親しめて楽しい。
芋峠越えの路である。
10km余り、約30分の山路は、
相変わらずくねっている。
途中数台の車とすれ違う。
冬のこの路では、車に会うことは皆無だ。
山のなかの自然にふれるとホッとする。
また、この路は曲がりくねっているので、
何度通っても気が抜けない。
わずか数10分の緊張と弛緩。
これがたまらない。
狭い路を抜け169号に出て、
その国道をを少しだけ走り、
右に折れて下千本を目指す。
行く場所は決めてある。
蔵王堂の横を過ぎ、土産物・旅館の立ち並ぶ、
石畳風ののきつい坂を上る。
バイクで初めて来た時には、
何度も転倒寸前の浮目に遭った急な坂道だ。
こんな天気の日でも、
桜のシーズン中は人出が多い。
急坂と人波の間を縫って、
走り上がって行くのだから、
かなりの技術がいる。
中千本上千本へとまっしぐら。
くねくね道を花矢倉へと向かう。
小雨が降り始めた。
雨の降り始めはほとんどが遠慮がちだ。
斥候を送って地上の様子を見ているようだ。
私は、サヤカを止め青色のレインウェアを
着込む。
雨には何度もひどい目に遭わされ、
風邪をひかされているので、
最近では、ちょっとの雨でもすぐに着る。
そのまま上へ上へと上がってゆく。
人がだんだんと少なくなる。
展望台の下でサヤカを再び止め降りる。
全山桜の花が様々な咲き方をしている。
しかし、全体的にはもう一歩という開き方である。
膚寒い。
風が強くなってくる。
ふと気づくと雨が霙に変わり雪になってきた。
四月初めの雪は珍しいぼたん雪のようだ。
風に煽られて、
ぼたん雪と桜の花びらが宙を舞っている。
白い雪と薄ピンクの花びら。
絶妙の取り合せだ。
よく見ないと区別がつきにくい。
じっとその様子に見入る。
何と!! これは明らかに戦争だ!
ぼたん雪と桜の花びらが、
接近戦でくんずほぐれつの戦いを
繰り拡げているのだ。
天は絶え間なく戦闘員を送り込んでくる。
それに対して桜は木についている花びらのみが手駒である。
風が強く吹くたび桜戦闘員は飛び上がってゆく。
ぼたん雪の方が圧倒的に優勢である。
交じり合い舞いながらの優雅な戦闘だ。
いつまでも続いていた。
舞いの渦 春爛漫の 吉野山
全山覆う 雪花戦争
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 汐吹岩
* 汐吹岩(033)
汐吹岩は、日ノ岬の少し手前にある。
奈良県S市にある自宅からは、
24号を通って和歌山から阪和自動車道に入り、
海南で降り42号を白浜の方に向かって走る。
御坊市で右に折れ煙樹ケ浜を抜けると左前方に見え始めてくる。
海岸から少し離れたところに岩山がぽっとりと
浮かんでいる。
その日、太平洋の波は荒かった。
そういう日でないと鯨の汐吹き現象は
見られないのである。
荒い波が岩にぶつかり、その力で岩場の
隙間から潮が、あたかも鯨が汐吹くように、
豪快に天に吹き上がるのだ。
私は一度その様子を見たかった。
それにもう一つ目的があった。
その汐が吹きあがった瞬間、
ある呪文を唱えると、
ありがたい塩が貰えるという。
不可思議な能力を持つ
わが愛バイク・Sサヤカが、
こっそり教えてくれたのだ。
吹き上げの高さ3m以上で、
その最高の高さになった瞬間、
一秒以内に呪文を
唱えなければならない。
呪文は、何と[ソルト・トルゾ]
何か下手なダジャレみたいだが、
サヤカの言うことだから間違いないのだろう。
それがまた、
小憎ったらしいことに3回失敗すると、
その日はもう通用しないという。
こんな所にまでキャッシュ・ディスペンサー並みのチェックが、
押し寄せてきているのだ。
2回も失敗してしまった。
150km近く走ってきて、次に来られるのは
いつになるのか
検討もつかない。
だんだんと顔が引きつってくる。
今度こそはと思うのだが、
吹き上げの高さが足りなかったり、
呪文を度忘れしたりで、
なかなか思うようにはいかない。
ドバババーン。
それ!
[ソルト・トルゾ!]
おお、旨くいった。
吹き上げた汐の先から何かが、
こちらに向かって飛んでくる。
あれをうまく取らなければ、とそちらにばかり
気を取られていた為、受け取った途端
岩場に転んでしまった。
左手から転んだ。
手の平からサッと鮮血が吹いた。
しかし、右手にはしっかりと贈り物を掴んでいた。
幸い革ジャン・革ズボン・ロングブーツに
身を固めていたので、被害は左手のみ。
だが、かなり深く切ってしまった。
消毒薬・傷薬・包帯・絆創膏は常備しているので、
サヤカの荷台に積んである、
バッグから取出して手当てする。
手当てが終わって、授かり物を
じっくりと見入った。
塩がビニールパックされていたのだ。
ホントかいな?
しかし、これは間違いなく、
私が直接受けとめた物だから、
現実の出来事だ。
この塩は痩せる特効薬であるという。
わが妻Oさんの為に貰いに来たと言っても
過言ではないだろう。
結婚する前は50kg足らずで
ほっそりしていたのが、
今では60kgを超す中年オバはん。
食べる物は、人一倍食べて痩せたいと
のたまっている。
しかしながらそれも一利ある。
なんかいい方法ないかいなとサヤカに聞くと、
この汐吹岩の話を教えてくれたのだ。
この塩で三段腹を数日続けて揉むと、
てき面に痩せるという。
折角、ここまで来たのだからと、
その痩せ塩を抱えて日の岬を見学して、
一路帰路についた。
あのほっそりとした昔のOさんが見られるぞ、
頭の中は、そんなことを考えていた。
厚雲に のしかかられて 煙る海
太平洋は ちっちゃく縮む
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 痩せ塩
* 痩せ塩(034)
例の汐吹岩のくれた塩をOさんに勧めてみた。
ガンとして受け付けない。
膚が痛むのは分かり切っていると言う。
とうとう最後には、
「馬鹿なことを言うな!」と怒り出してしまった。
Sサヤカが教えてくれたこと、手の平を傷つけながらも、
痩せ塩を受けとめたことなどは、話すわけにはいかない。
もし話したとしても、何一つ証拠はないし、
ましてやバイクがしゃべる事など頭から信じはしないだろう。
そりゃそうだ。
サヤカは、私一人の時しか話しかけてはこないし、
ワープロも人前では打ちはしない。
汐吹岩にしたってそうだ。
Oさんは見ていない。
目の前にあるのは、ビニールパックされた、
何の変哲もない普通の塩。
そんなもので痩せられる筈がない。
私だって、そう思うだろう。
Oさんは、例によって、
春の陽気で私の頭がイカれ出したのかと思っている。
私は、春先は気分がハイになってくる。
いろいろとあちらこちらに手を出す。
子供達や新入社員からの刺激を受けて、
何かせずには、いられなくなってくるのだ。
Oさんは毎年のことなので、文句を言いながらも見逃してくれる。
どうせ長続きをしないのだからとタカを括っているのだろう。
内職のせいでOさんはよく肩を凝らす。
私は、時々肩を揉んでやる。
その時、スキを狙って、手にあの塩をつけて、
三段腹を揉んでやろうと策を練っていたのだ。
4月のある日のこと、例によって肩が凝って、
歯が痛いと言い出した。
この機会を逃すものか。
私は、密かに上着のポケットに
痩せ塩を隠して肩を揉んでやった。
肩には、ごっそりと中年肉が付いている。
押しも押されもせぬ中年オバはんの肩だ。
少し揉むと、こちらの手が痛くなってくる。
あるマッサージ師は、悪魔が手に乗り移ってくると
表現していた。
まさにその通りだ。
Oさんの肩から魔性が私の手に移動してくる。
そのきつい坂を越え魔性を慣らすには30分はかかる。
それぐらい経つと悪魔に対する抗体も出来、
また毒素も中和されるのだろうか?
こちらの手も慣れてくるし、Oさんも気持ちいいのか、
うっとりし始める。
今だ!
私は、痩せ塩を取出して、
Oさんのセーターをたくし上げ、
三段腹の塩モミをしてやった。
「キャーッ。何するの?!」
Oさんの大悲鳴。
私は、一瞬たじろいだ。
「痛いっ。何なの、コレは!! ナニしたのっ!!」
ワァーッ、もの凄い形相。
「あの塩、塗った」
Oさんは風呂場の方に駆けて行った。
洗い流しに行ったのだろう。
帰ってくるなり、ボカボカ、ボカン。
強烈な数発の鉄拳。
私は、やっぱり悪いことしたのかな ???
Oさんの 肩の内なる 憎らしき
浮き世の柵(しがらみ) 削ぎ落としたし
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 屋久島と万博公園のパソ通仲間
* 屋久島と万博公園のパソ通仲間(035)
このように文明が進んだ時代でも分かぬことも多い。
いや、解らないことばかりなのかも知れない。
屋久島の縄文杉、京都の北山杉、大神神社の巳の神杉、
万博の太陽の塔、Sサヤカなどなど。
彼らは、私の頭では考えられない能力を持っている。
並み以下の人間である私は、彼らと必要な時に話が出来れば
良いなと望んでいる。
奴らと離れていてもある程度自由に交流できる方法は
ないものだろうか。
幸い今、私はパソコン通信(=パソ通)に凝っている。
そうだ!!
奴らにパソコン通信を覚えさせればいいのだ。
携帯電話も出来ているし、無線電話もある。
奴らを私の家族会員にすればいい。
家族割引の特典も使える。
サヤカに相談すると、この地球上には、
テレパシー通信網が整備されていて、
パソコンネットと相互乗り入れも可能になっていると言う。
いい事を教えてもらった。
その通信網は、電気と電話をも兼ねているようなので、
あたかも私の家の中で、
使っているのと変わらない使い方が出来るということらしい。
奴ら進んでる!
後はワープロとモデムを買い与えてやればOKだ。
ワープロの方がパソコンよりも安くて扱い易いだろう。
私は、型遅れのワープロと300ボーのモデムを2セット買った。
取り敢えず縄文杉と太陽の塔の二人を選んだ。
縄文杉の方は、またまた鹿児島のNさんに頼んだ。
こういう事が出来るのは、やはりパソ通の持つ利点だ。
この年になって、知らない土地の離れた場所に住む友人なんて、
パソ通を通して、
以外には、そう簡単に出来るものではないからだ。
お世話になりっ放しだ。
そのうち、とびきりうまい三輪素麺でも送ることにしよう。
太陽の塔には夜間に取り付けに行った。
サヤカをなんとか宥めすかして納得させた。
あんな奴でも、私にとっては貴重な存在なのだ。
奴は、サヤカの主人である私と繋がりが出来るものだから、
喜んで引き受けてくれた。
あのへんてこりんな口を開けて、
パソ通セットをパクリと飲み込んだのだ。
奴らの頭は鋭い。伊達に超能力を備えてはいない。
もの覚えもいい。
基本的なことだけ伝えておいた。
IDコードやパスワード、電子メールの読み書きである。
このぐらい出来れば、後は疑問点があればメールで、
質疑応答出来るのだ。
縄文杉は、雨降りの日でないとインプット出来ない。
内部に出来ている空洞を使って、
雨ダレを落としタイプするのだそうだ。
その為キーボードはラップで巻いてもらった。
シフトキーは使えそうもない。
太陽の塔は、晴れた日でないとインプット出来ない。
その名に相応しく太陽が燦々と輝いていないと動きが
思うようにならないそうだ。
口の中で三枚舌の舌先を使ってタイプすると言う。
これも唾液で汚れるのでラップを巻いてやった。
中古のワープロとモデム、2セットで10万もはかからなかった。
だが、10万というと会社員の私にとっては痛い。
維持費もどのくらいかかるのか解らない。
なるべく止むを得ない時だけ使おう。
しかし、奴らは暇な上、面白いのか、
数か月経ってパソ通の利用代金の請求が、
ン万円も来た!!
また、Oさんに絞られるゾ!
パソ通ネツトの会員の皆様、
私の仲間にあまり話しかけないで下さい。
暇に任せて、奴らバンバン、メールを送っていきますよ。
パソ通の 向こうにおわすは 人か魔か
言の葉などは お化粧品
ち ふ
なお、あの駄犬コロは、何で屋久島などに行ったのか、
よくは解らないのですが、
超能力を身につけるため、
縄文杉の根元で観光客に餌をもらいながら
修業中とのことです。
縄文杉の非常に読み辛い、
ひらがなメールに書いてありましたので、
お知らせしておきます。
この項おわり
あ@仮想はてな物語 酒船石
* 酒船石(036)
明日香の小道を走っていると、いろいろと面白いものに出会う。
酒船石(さかふねいし)もその一つだ。
飛鳥寺から石舞台に通じる道の途中の丘の上にある。
道標の手前でサヤカを止める。
バイクでは上れないのだ。
長さ5・3m、最大幅2・3mのかなり大きい岩である。
表面はフライパンを二つ持った人の形のようにになっている。
頭の部分とフライパンに相当する円形のくぼみとお腹に当たる
大判型のくぼみが溝で結ばれている。
巨石全体がわずかに傾斜していて、頭の部分に水を流せば、
3つの溝から、それぞれのくぼみを通して岩下に落ちる。
酒船石という名は、酒を絞るために使われたのではないかとの
言い伝えからきているらしい。
本当の所はまだよくわかっていないらしい。
その日は雨の土曜日であった。
折角のツーリング日に雨が降ると、私は遠出を避ける。
途中で雨に降られるのは仕方ない。
しかしながら、出掛けから雨の日には敬遠する。
若さを失ったバロメーターになっているのだろうか?
そんな日には、近所の変わった場所に顔を出してみる。
明日香も春や秋のシーズン中には、
人が多くて、ゆっくりと見回ることは出来ない。
四月の中頃であった。
桜も葉の方が目立つ季節である。
雨水が酒船石のくぼみに溜り、
さらにその上に雨が降っているものだから、
水は絶え間なく岩下に落ちてゆく。
落ちる水は表面の部分のみが流れ落ちて、
凹の底の古水は、いつまでも居座り
続けているのであろうか?
そんなことを思っていた時だった。
散り残りの桜の花びらが、ひらひらと酒船石の頭の部分に、
数枚落ちてきた。
右手の方や咽喉にあたる溝の方に流れて行く。
アッ、そうか!!
私は、その時閃いた。
これは古代の「水・MBG」だったのか!
MBGは、私の親友で、このシリーズで短歌の原案を出している
「ちう」の 造語で、パチンコのことだ。
ミニ・ミラクル・ボール・ゲームの頭文字を連ねたものだ。
本当はMMBGなのだが、Mがダブルので、
Mを一つカットしたという。
感受性豊かな古代の人は、何にでも親しむことが出来たし、
ちょっとのことにでも感動を覚えたような気がする。
遊びにしたってそうだ。
自然に少しだけ手を加えて夢中になれた。
これも、その一例だろう。
赤や青や白の色とりどりの、
水に浮く木の実や花びらを頭の部分に置く。
その上から水を流す。
右手のフライパンで止まれば10点、
右手から流れ落ちれば8点、胴を通って
真っすぐ落ちれば0点などと、
MBGに皆して興じていたのではないのだろうか?
勝った者の賞品は何だったのだろう?
村と村、大人と子供、男と女、個人と個人の勝負ごと?
大人も子供も女の人も、一緒になって、
その玉の流れに一喜一憂する。
岩の周りには人が群がり、傍の木のうえにも鈴なりの人。
そのうち、浮かれて酒船石の上に飛び上がって、
踊り出す女の人も出てくる。
ヤンヤの喝采。
そんな光景が浮かんでくるのである。
MBG 古代の人も 賭けは好き
限度・境は 己れがコントロール!
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 屋久島へのパソコン通信と花粉症(
* 屋久島へのパソコン通信と花粉症(037)
4月のある朝のこと。
ついに穏やかなOさんが、プッツンした。
「杉の木、全部伐って!」
鼻は、グシャグシャ。
目は腫れる。
頭は重い。
これだけ揃えば、当然機嫌は悪い。
さすがのOさんもメタメタ。
年々、症状は重くなってきているみたいだ。
最近は娘にまで移ってきている。
医者にもゆきたがらないし、
巳の神杉の言うことも聞かない。
もっとも、私自身、バチあたりなことに、
心から信用はしてないのだから、
Oさんとて同じことだろう。
20世紀末のお粗末な教養が邪魔しているのだ。
治った例を知らない。
あんなことするとますます悪化しそうだ。
巳の神杉を疑うわけではないが、
こういう人体実験のトップになるのは、
やっぱり避けたい。
かと言って、うまく治れば利用はしたい。
何とエゴ丸出しの生き方なのだろう。
私は、Oさんのために、縄文杉にパソ通で、
再度問い合わせのメールを送った。
雨が思うように降らないのか、なかなか返事がこなかった。
10日ぐらい経ってから、やっと届いた。
彼によれば、今若い杉が大反乱を起し暴れまわっているという。
昭和40年なかばの全共闘運動みたいだ。
若いヤツらの言い分も少しは解るので静観しているという。
どうせ口を挾んだところで、ジジィの言うことなんかに、
耳を貸さないだろうとも思っているで、
流れにまかせているとのこと。
植えるだけ植えて手入れもロクにせず、
年頃になればバッサリ伐る。
縄文ジィさんみたいに2,000~3,000年も生き、人生厭きるほど
生き尽くして、楽しむべきことは楽しみ尽くしたい。
そのあたりに原因がありそうだとも書いていた。
そんなことより、ワシの要求を聞いてくれと3つも要求を出してきた。
3項目の要求書なんて表題をつけて!
すっかり若いヤツらに被れている。
それにしても、漢字混じりの文に変わって来ている。
ジィさんもヤルもんだ。
一つは、カラオケを楽しみたいので、カラオケセットを送れという。
おまけに「別れの一本杉」のCDなども一緒に入れてくれと言う。
エエッ?!
CD?
テープではなく、CDだって!
私の家にだって、CDのカラオケセットなどないのに、畜生、誰だ!
ジィさんに、そんなこと教えたヤツは?
ゲに恐ろしきものは、目学問!!
パソ通の利点であり、今の私には恐怖のスカッド・ミサイル。
ジィさん、パートにでも行って金稼いでくれよ。
といっても、2,500年以上も生きているジィさんには、
無理な注文か。
その2。伝送スピードが遅いので、ISDN(総合デジタル・サービス
網)を利用して家庭用の「INSネット64」を検討して
くれって?
何じゃい、ソレ!
また、金のかかる話か。
知らん!
その3。ダイヤルQ2を利用させて欲しいとのこと。
止めてくれよ!
あんなもの暇にまかせて掛けられたら、
電話代だけで、私の給料が、ふっ飛んでしまう。
とんだ花粉症のトバッチリが来たもんだ。
コロが世話になっていることだし、
一つぐらいは、
話しあいの余地がありそうだ。
ジイさん、
まさか3つとも、要求貫徹するまでは、
絶対譲らへんなどとは言わないだろうな。
頑固なジィさんのことだから、
どうなることやら。
4月は子供の高校入学金など、
5月は分納の固定資産税、
自動車税などの税金類、
それにつけても、
出てゆくことのみ多かりき、だ。
Oさん、
憂欝な頭の上に出費のやり繰りで、
どう豹変するのか?
エエィッ、
サヤカに乗って、
晩春の山のなかに逃げ出そうっと!!
晴れやかに 拡がる希望と 憂欝の
4月の刻(とき)は たゆたうとゆく
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 桃原国道
copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
* 桃原国道(031)
新益京市のわが家から、
24号線を和歌山に向かって走り、
粉河の先で左折して424号線に入る。
入れば、もうそこが桃源郷である。
その名にふさわしく国道沿いに、
桃畑が一面に拡がっている。
淡いピンクの花盛り。
私は、そんなに沢山の桃の花の、
群生を見たことなかった。
見渡す限り桃の花なのである。
ドライブガイドの本に桃源郷の
案内が載っていた。
冬の走りは近くだけに限られていたため、
どうしても要求不満になっている。
そんな心に桃源郷の名が食い込んでいた。
朝方は小雨が降っていたのだが、
昼過ぎに薄曇りに変わったので、
飛び出したのである。
橋本のあたりから雨がまた本格的に降り始めた。
春の雨はさほど冷たくはなかった。
国道の端にS・サヤカをとめ、
例のブルーのレインウェアを着込む。
雨のなかを走るのは久しぶりである。
雨が叩くように降ってくる。
サヤカを止めれば雨はそんなに強くはない。
スピードのせいである。
雨の日のバイクは悲惨である。
特に、私のようにメガネを必要とする者は,
さらにひどい目に遭う。
シールドとメガネがダブルで曇るのだ。
その上シールドには雨滴まで着く。
しょっちゅう手袋の手の平で
拭わなければならない。
それでも間に合わなくなると、
結局はシールドをあげたまま走ることになる。
雨が直接メガネや顔にかかる。
今度はメガネがシールドと同じ目に遭う。
メガネが役に立たないので鼻の上にずらす。
雨のヤツが目玉を直撃する。
とてもじゃないが、見られたものではない。
風があまり吹いていないと、
40kmぐらいのスピードなら雨は痛くはない。
55kmあたりからピチピチと叩き始める。
60kmだと目がもう痛くて痛くて叶わない。
私が、バイクで前が曇ったり雨滴に悩まされて、
こわごわ走っているのに、
4輪車はビュンビュン飛ばしてくる。
雨の日でも、24号・42号あたりでは、
70~80kmで走ってくるのだ。
雨の日にバイクに乗らなければいいのだろうが、
天気は気紛れだ。
遠くに足を延ばせば、そんな目に遭うことも
覚悟しなければならない。
とにかく危ないから流れに合わすのである。
これが苦痛となる。
前は見えない。
後は見えない。
スリップの危険がある。
車の水飛沫はかかる。
もう四方八方敵ばかりなのである。
そんな中を何とか桃源郷についた。
有りがたみもひとしおである。
桃の花をバックにしてサヤカの写真を
撮ってやった。
雨が強いので人はほとんどいない。
私は、雨のなかに佇んで、
ぼんやりと桃の花に酔っていた。
ずっと見渡す限り桃の花である。
道路や人家がそばにあるので、
少し物足りなかった。
こういう景色には邪魔物である。
やはり道路は舗装されてなく、
さびれた小屋一つぐらいが似つかわしい。
そんなことを思っていた時だった。
2・3本先の桃の木の花びらから、
何かネバネバとしたものが滴り落ちている。
雨の雫が固まって落ちているのかなと思った。
近づいてみるといい香りが漂ってくる。
おお、何と化粧に使うクリームではないか!
私は、すぐさまビニール袋を取り出した。
携帯必需品の一つである。
持っていると色々重宝するから、
いつも4・5枚は用意しているのだ。
その袋でクリームを受けた。
不思議なことにいっぱいになった所で、
ぴたりと止まった。
ああ、Oさんにいい土産が出来た。
満足に化粧品など買ってやらない私を哀れんで、
天のヤツ小賢しいことをしやがったな!
まあ、天然の化粧品だから、
今回は素直に貰って帰ろう。
桃の花 花・花・花の 花盛
雨のシヤッター 引き下ろし憩う
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 花の吉野山
copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
* 花の吉野山(032)
花冷えのする日であった。
曇っていて今にも雨が降り落ちて来そうだった。
そうだ。
こういう日に吉野山へ行けば、
人出は少ないに違いないと思った。
私は、短い脚を振り上げて、Sサヤカに跨がる。
吉野へゆくには、石舞台から抜ける山路の方が、
自然に親しめて楽しい。
芋峠越えの路である。
10km余り、約30分の山路は、
相変わらずくねっている。
途中数台の車とすれ違う。
冬のこの路では、車に会うことは皆無だ。
山のなかの自然にふれるとホッとする。
また、この路は曲がりくねっているので、
何度通っても気が抜けない。
わずか数10分の緊張と弛緩。
これがたまらない。
狭い路を抜け169号に出て、
その国道をを少しだけ走り、
右に折れて下千本を目指す。
行く場所は決めてある。
蔵王堂の横を過ぎ、土産物・旅館の立ち並ぶ、
石畳風ののきつい坂を上る。
バイクで初めて来た時には、
何度も転倒寸前の浮目に遭った急な坂道だ。
こんな天気の日でも、
桜のシーズン中は人出が多い。
急坂と人波の間を縫って、
走り上がって行くのだから、
かなりの技術がいる。
中千本上千本へとまっしぐら。
くねくね道を花矢倉へと向かう。
小雨が降り始めた。
雨の降り始めはほとんどが遠慮がちだ。
斥候を送って地上の様子を見ているようだ。
私は、サヤカを止め青色のレインウェアを
着込む。
雨には何度もひどい目に遭わされ、
風邪をひかされているので、
最近では、ちょっとの雨でもすぐに着る。
そのまま上へ上へと上がってゆく。
人がだんだんと少なくなる。
展望台の下でサヤカを再び止め降りる。
全山桜の花が様々な咲き方をしている。
しかし、全体的にはもう一歩という開き方である。
膚寒い。
風が強くなってくる。
ふと気づくと雨が霙に変わり雪になってきた。
四月初めの雪は珍しいぼたん雪のようだ。
風に煽られて、
ぼたん雪と桜の花びらが宙を舞っている。
白い雪と薄ピンクの花びら。
絶妙の取り合せだ。
よく見ないと区別がつきにくい。
じっとその様子に見入る。
何と!! これは明らかに戦争だ!
ぼたん雪と桜の花びらが、
接近戦でくんずほぐれつの戦いを
繰り拡げているのだ。
天は絶え間なく戦闘員を送り込んでくる。
それに対して桜は木についている花びらのみが手駒である。
風が強く吹くたび桜戦闘員は飛び上がってゆく。
ぼたん雪の方が圧倒的に優勢である。
交じり合い舞いながらの優雅な戦闘だ。
いつまでも続いていた。
舞いの渦 春爛漫の 吉野山
全山覆う 雪花戦争
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 汐吹岩
copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
* 汐吹岩(033)
汐吹岩は、日ノ岬の少し手前にある。
奈良県S市にある自宅からは、
24号を通って和歌山から阪和自動車道に入り、
海南で降り42号を白浜の方に向かって走る。
御坊市で右に折れ煙樹ケ浜を抜けると左前方に見え始めてくる。
海岸から少し離れたところに岩山がぽっとりと
浮かんでいる。
その日、太平洋の波は荒かった。
そういう日でないと鯨の汐吹き現象は
見られないのである。
荒い波が岩にぶつかり、その力で岩場の
隙間から潮が、あたかも鯨が汐吹くように、
豪快に天に吹き上がるのだ。
私は一度その様子を見たかった。
それにもう一つ目的があった。
その汐が吹きあがった瞬間、
ある呪文を唱えると、
ありがたい塩が貰えるという。
不可思議な能力を持つ
わが愛バイク・Sサヤカが、
こっそり教えてくれたのだ。
吹き上げの高さ3m以上で、
その最高の高さになった瞬間、
一秒以内に呪文を
唱えなければならない。
呪文は、何と[ソルト・トルゾ]
何か下手なダジャレみたいだが、
サヤカの言うことだから間違いないのだろう。
それがまた、
小憎ったらしいことに3回失敗すると、
その日はもう通用しないという。
こんな所にまでキャッシュ・ディスペンサー並みのチェックが、
押し寄せてきているのだ。
2回も失敗してしまった。
150km近く走ってきて、次に来られるのは
いつになるのか
検討もつかない。
だんだんと顔が引きつってくる。
今度こそはと思うのだが、
吹き上げの高さが足りなかったり、
呪文を度忘れしたりで、
なかなか思うようにはいかない。
ドバババーン。
それ!
[ソルト・トルゾ!]
おお、旨くいった。
吹き上げた汐の先から何かが、
こちらに向かって飛んでくる。
あれをうまく取らなければ、とそちらにばかり
気を取られていた為、受け取った途端
岩場に転んでしまった。
左手から転んだ。
手の平からサッと鮮血が吹いた。
しかし、右手にはしっかりと贈り物を掴んでいた。
幸い革ジャン・革ズボン・ロングブーツに
身を固めていたので、被害は左手のみ。
だが、かなり深く切ってしまった。
消毒薬・傷薬・包帯・絆創膏は常備しているので、
サヤカの荷台に積んである、
バッグから取出して手当てする。
手当てが終わって、授かり物を
じっくりと見入った。
塩がビニールパックされていたのだ。
ホントかいな?
しかし、これは間違いなく、
私が直接受けとめた物だから、
現実の出来事だ。
この塩は痩せる特効薬であるという。
わが妻Oさんの為に貰いに来たと言っても
過言ではないだろう。
結婚する前は50kg足らずで
ほっそりしていたのが、
今では60kgを超す中年オバはん。
食べる物は、人一倍食べて痩せたいと
のたまっている。
しかしながらそれも一利ある。
なんかいい方法ないかいなとサヤカに聞くと、
この汐吹岩の話を教えてくれたのだ。
この塩で三段腹を数日続けて揉むと、
てき面に痩せるという。
折角、ここまで来たのだからと、
その痩せ塩を抱えて日の岬を見学して、
一路帰路についた。
あのほっそりとした昔のOさんが見られるぞ、
頭の中は、そんなことを考えていた。
厚雲に のしかかられて 煙る海
太平洋は ちっちゃく縮む
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 痩せ塩
copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
* 痩せ塩(034)
例の汐吹岩のくれた塩をOさんに勧めてみた。
ガンとして受け付けない。
膚が痛むのは分かり切っていると言う。
とうとう最後には、
「馬鹿なことを言うな!」と怒り出してしまった。
Sサヤカが教えてくれたこと、手の平を傷つけながらも、
痩せ塩を受けとめたことなどは、話すわけにはいかない。
もし話したとしても、何一つ証拠はないし、
ましてやバイクがしゃべる事など頭から信じはしないだろう。
そりゃそうだ。
サヤカは、私一人の時しか話しかけてはこないし、
ワープロも人前では打ちはしない。
汐吹岩にしたってそうだ。
Oさんは見ていない。
目の前にあるのは、ビニールパックされた、
何の変哲もない普通の塩。
そんなもので痩せられる筈がない。
私だって、そう思うだろう。
Oさんは、例によって、
春の陽気で私の頭がイカれ出したのかと思っている。
私は、春先は気分がハイになってくる。
いろいろとあちらこちらに手を出す。
子供達や新入社員からの刺激を受けて、
何かせずには、いられなくなってくるのだ。
Oさんは毎年のことなので、文句を言いながらも見逃してくれる。
どうせ長続きをしないのだからとタカを括っているのだろう。
内職のせいでOさんはよく肩を凝らす。
私は、時々肩を揉んでやる。
その時、スキを狙って、手にあの塩をつけて、
三段腹を揉んでやろうと策を練っていたのだ。
4月のある日のこと、例によって肩が凝って、
歯が痛いと言い出した。
この機会を逃すものか。
私は、密かに上着のポケットに
痩せ塩を隠して肩を揉んでやった。
肩には、ごっそりと中年肉が付いている。
押しも押されもせぬ中年オバはんの肩だ。
少し揉むと、こちらの手が痛くなってくる。
あるマッサージ師は、悪魔が手に乗り移ってくると
表現していた。
まさにその通りだ。
Oさんの肩から魔性が私の手に移動してくる。
そのきつい坂を越え魔性を慣らすには30分はかかる。
それぐらい経つと悪魔に対する抗体も出来、
また毒素も中和されるのだろうか?
こちらの手も慣れてくるし、Oさんも気持ちいいのか、
うっとりし始める。
今だ!
私は、痩せ塩を取出して、
Oさんのセーターをたくし上げ、
三段腹の塩モミをしてやった。
「キャーッ。何するの?!」
Oさんの大悲鳴。
私は、一瞬たじろいだ。
「痛いっ。何なの、コレは!! ナニしたのっ!!」
ワァーッ、もの凄い形相。
「あの塩、塗った」
Oさんは風呂場の方に駆けて行った。
洗い流しに行ったのだろう。
帰ってくるなり、ボカボカ、ボカン。
強烈な数発の鉄拳。
私は、やっぱり悪いことしたのかな ???
Oさんの 肩の内なる 憎らしき
浮き世の柵(しがらみ) 削ぎ落としたし
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 屋久島と万博公園のパソ通仲間
copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
* 屋久島と万博公園のパソ通仲間(035)
このように文明が進んだ時代でも分かぬことも多い。
いや、解らないことばかりなのかも知れない。
屋久島の縄文杉、京都の北山杉、大神神社の巳の神杉、
万博の太陽の塔、Sサヤカなどなど。
彼らは、私の頭では考えられない能力を持っている。
並み以下の人間である私は、彼らと必要な時に話が出来れば
良いなと望んでいる。
奴らと離れていてもある程度自由に交流できる方法は
ないものだろうか。
幸い今、私はパソコン通信(=パソ通)に凝っている。
そうだ!!
奴らにパソコン通信を覚えさせればいいのだ。
携帯電話も出来ているし、無線電話もある。
奴らを私の家族会員にすればいい。
家族割引の特典も使える。
サヤカに相談すると、この地球上には、
テレパシー通信網が整備されていて、
パソコンネットと相互乗り入れも可能になっていると言う。
いい事を教えてもらった。
その通信網は、電気と電話をも兼ねているようなので、
あたかも私の家の中で、
使っているのと変わらない使い方が出来るということらしい。
奴ら進んでる!
後はワープロとモデムを買い与えてやればOKだ。
ワープロの方がパソコンよりも安くて扱い易いだろう。
私は、型遅れのワープロと300ボーのモデムを2セット買った。
取り敢えず縄文杉と太陽の塔の二人を選んだ。
縄文杉の方は、またまた鹿児島のNさんに頼んだ。
こういう事が出来るのは、やはりパソ通の持つ利点だ。
この年になって、知らない土地の離れた場所に住む友人なんて、
パソ通を通して、
以外には、そう簡単に出来るものではないからだ。
お世話になりっ放しだ。
そのうち、とびきりうまい三輪素麺でも送ることにしよう。
太陽の塔には夜間に取り付けに行った。
サヤカをなんとか宥めすかして納得させた。
あんな奴でも、私にとっては貴重な存在なのだ。
奴は、サヤカの主人である私と繋がりが出来るものだから、
喜んで引き受けてくれた。
あのへんてこりんな口を開けて、
パソ通セットをパクリと飲み込んだのだ。
奴らの頭は鋭い。伊達に超能力を備えてはいない。
もの覚えもいい。
基本的なことだけ伝えておいた。
IDコードやパスワード、電子メールの読み書きである。
このぐらい出来れば、後は疑問点があればメールで、
質疑応答出来るのだ。
縄文杉は、雨降りの日でないとインプット出来ない。
内部に出来ている空洞を使って、
雨ダレを落としタイプするのだそうだ。
その為キーボードはラップで巻いてもらった。
シフトキーは使えそうもない。
太陽の塔は、晴れた日でないとインプット出来ない。
その名に相応しく太陽が燦々と輝いていないと動きが
思うようにならないそうだ。
口の中で三枚舌の舌先を使ってタイプすると言う。
これも唾液で汚れるのでラップを巻いてやった。
中古のワープロとモデム、2セットで10万もはかからなかった。
だが、10万というと会社員の私にとっては痛い。
維持費もどのくらいかかるのか解らない。
なるべく止むを得ない時だけ使おう。
しかし、奴らは暇な上、面白いのか、
数か月経ってパソ通の利用代金の請求が、
ン万円も来た!!
また、Oさんに絞られるゾ!
パソ通ネツトの会員の皆様、
私の仲間にあまり話しかけないで下さい。
暇に任せて、奴らバンバン、メールを送っていきますよ。
パソ通の 向こうにおわすは 人か魔か
言の葉などは お化粧品
ち ふ
なお、あの駄犬コロは、何で屋久島などに行ったのか、
よくは解らないのですが、
超能力を身につけるため、
縄文杉の根元で観光客に餌をもらいながら
修業中とのことです。
縄文杉の非常に読み辛い、
ひらがなメールに書いてありましたので、
お知らせしておきます。
この項おわり
あ@仮想はてな物語 酒船石
copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
* 酒船石(036)
明日香の小道を走っていると、いろいろと面白いものに出会う。
酒船石(さかふねいし)もその一つだ。
飛鳥寺から石舞台に通じる道の途中の丘の上にある。
道標の手前でサヤカを止める。
バイクでは上れないのだ。
長さ5・3m、最大幅2・3mのかなり大きい岩である。
表面はフライパンを二つ持った人の形のようにになっている。
頭の部分とフライパンに相当する円形のくぼみとお腹に当たる
大判型のくぼみが溝で結ばれている。
巨石全体がわずかに傾斜していて、頭の部分に水を流せば、
3つの溝から、それぞれのくぼみを通して岩下に落ちる。
酒船石という名は、酒を絞るために使われたのではないかとの
言い伝えからきているらしい。
本当の所はまだよくわかっていないらしい。
その日は雨の土曜日であった。
折角のツーリング日に雨が降ると、私は遠出を避ける。
途中で雨に降られるのは仕方ない。
しかしながら、出掛けから雨の日には敬遠する。
若さを失ったバロメーターになっているのだろうか?
そんな日には、近所の変わった場所に顔を出してみる。
明日香も春や秋のシーズン中には、
人が多くて、ゆっくりと見回ることは出来ない。
四月の中頃であった。
桜も葉の方が目立つ季節である。
雨水が酒船石のくぼみに溜り、
さらにその上に雨が降っているものだから、
水は絶え間なく岩下に落ちてゆく。
落ちる水は表面の部分のみが流れ落ちて、
凹の底の古水は、いつまでも居座り
続けているのであろうか?
そんなことを思っていた時だった。
散り残りの桜の花びらが、ひらひらと酒船石の頭の部分に、
数枚落ちてきた。
右手の方や咽喉にあたる溝の方に流れて行く。
アッ、そうか!!
私は、その時閃いた。
これは古代の「水・MBG」だったのか!
MBGは、私の親友で、このシリーズで短歌の原案を出している
「ちう」の 造語で、パチンコのことだ。
ミニ・ミラクル・ボール・ゲームの頭文字を連ねたものだ。
本当はMMBGなのだが、Mがダブルので、
Mを一つカットしたという。
感受性豊かな古代の人は、何にでも親しむことが出来たし、
ちょっとのことにでも感動を覚えたような気がする。
遊びにしたってそうだ。
自然に少しだけ手を加えて夢中になれた。
これも、その一例だろう。
赤や青や白の色とりどりの、
水に浮く木の実や花びらを頭の部分に置く。
その上から水を流す。
右手のフライパンで止まれば10点、
右手から流れ落ちれば8点、胴を通って
真っすぐ落ちれば0点などと、
MBGに皆して興じていたのではないのだろうか?
勝った者の賞品は何だったのだろう?
村と村、大人と子供、男と女、個人と個人の勝負ごと?
大人も子供も女の人も、一緒になって、
その玉の流れに一喜一憂する。
岩の周りには人が群がり、傍の木のうえにも鈴なりの人。
そのうち、浮かれて酒船石の上に飛び上がって、
踊り出す女の人も出てくる。
ヤンヤの喝采。
そんな光景が浮かんでくるのである。
MBG 古代の人も 賭けは好き
限度・境は 己れがコントロール!
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 屋久島へのパソコン通信と花粉症(
copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
* 屋久島へのパソコン通信と花粉症(037)
4月のある朝のこと。
ついに穏やかなOさんが、プッツンした。
「杉の木、全部伐って!」
鼻は、グシャグシャ。
目は腫れる。
頭は重い。
これだけ揃えば、当然機嫌は悪い。
さすがのOさんもメタメタ。
年々、症状は重くなってきているみたいだ。
最近は娘にまで移ってきている。
医者にもゆきたがらないし、
巳の神杉の言うことも聞かない。
もっとも、私自身、バチあたりなことに、
心から信用はしてないのだから、
Oさんとて同じことだろう。
20世紀末のお粗末な教養が邪魔しているのだ。
治った例を知らない。
あんなことするとますます悪化しそうだ。
巳の神杉を疑うわけではないが、
こういう人体実験のトップになるのは、
やっぱり避けたい。
かと言って、うまく治れば利用はしたい。
何とエゴ丸出しの生き方なのだろう。
私は、Oさんのために、縄文杉にパソ通で、
再度問い合わせのメールを送った。
雨が思うように降らないのか、なかなか返事がこなかった。
10日ぐらい経ってから、やっと届いた。
彼によれば、今若い杉が大反乱を起し暴れまわっているという。
昭和40年なかばの全共闘運動みたいだ。
若いヤツらの言い分も少しは解るので静観しているという。
どうせ口を挾んだところで、ジジィの言うことなんかに、
耳を貸さないだろうとも思っているで、
流れにまかせているとのこと。
植えるだけ植えて手入れもロクにせず、
年頃になればバッサリ伐る。
縄文ジィさんみたいに2,000~3,000年も生き、人生厭きるほど
生き尽くして、楽しむべきことは楽しみ尽くしたい。
そのあたりに原因がありそうだとも書いていた。
そんなことより、ワシの要求を聞いてくれと3つも要求を出してきた。
3項目の要求書なんて表題をつけて!
すっかり若いヤツらに被れている。
それにしても、漢字混じりの文に変わって来ている。
ジィさんもヤルもんだ。
一つは、カラオケを楽しみたいので、カラオケセットを送れという。
おまけに「別れの一本杉」のCDなども一緒に入れてくれと言う。
エエッ?!
CD?
テープではなく、CDだって!
私の家にだって、CDのカラオケセットなどないのに、畜生、誰だ!
ジィさんに、そんなこと教えたヤツは?
ゲに恐ろしきものは、目学問!!
パソ通の利点であり、今の私には恐怖のスカッド・ミサイル。
ジィさん、パートにでも行って金稼いでくれよ。
といっても、2,500年以上も生きているジィさんには、
無理な注文か。
その2。伝送スピードが遅いので、ISDN(総合デジタル・サービス
網)を利用して家庭用の「INSネット64」を検討して
くれって?
何じゃい、ソレ!
また、金のかかる話か。
知らん!
その3。ダイヤルQ2を利用させて欲しいとのこと。
止めてくれよ!
あんなもの暇にまかせて掛けられたら、
電話代だけで、私の給料が、ふっ飛んでしまう。
とんだ花粉症のトバッチリが来たもんだ。
コロが世話になっていることだし、
一つぐらいは、
話しあいの余地がありそうだ。
ジイさん、
まさか3つとも、要求貫徹するまでは、
絶対譲らへんなどとは言わないだろうな。
頑固なジィさんのことだから、
どうなることやら。
4月は子供の高校入学金など、
5月は分納の固定資産税、
自動車税などの税金類、
それにつけても、
出てゆくことのみ多かりき、だ。
Oさん、
憂欝な頭の上に出費のやり繰りで、
どう豹変するのか?
エエィッ、
サヤカに乗って、
晩春の山のなかに逃げ出そうっと!!
晴れやかに 拡がる希望と 憂欝の
4月の刻(とき)は たゆたうとゆく
ち ふ
この項おわり