copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
* 大台ケ原のカミナリ(021)
169号を抜けて大台ケ原へ行った。
天気は曇り気味であった。
真夏を少し過ぎていたが、平地はまだまだ暑かった。
特に、奈良は盆地なので大阪よりは
数度暑い感じがする。
169号は何度も通ったことあるが、
大台ケ原へは初めてだった。
約20kmのドライブウェイがある。
丹生川上社あたりの渋滞には、
いつも泣かされている。
多くの人が涼を求めに来るためであろう。
通行量は多い。
バイクは渋滞に強いのであるが、
このあたりでは通用しない。
すれ違いできないために、
車がバックしてくる。
道が狭すぎるのである。
路肩もあまり良くないので、
流れに従わなければならない。
下手をするとバイクが邪魔をして
対向できなくなるからだ。
それでも何とかドライブウェイの
入口にたどりつく。
11月から3月までは、
このドライブウェイは、
雪・凍結のため閉鎖される。
それだけ寒いということか。
逆に夏場は涼しくて人が集まるのだろう。
車もバイクもかなりの台数が入っていた。
私は、初めての道は細心の注意を払って進む。
先がわからないのは不安である。
地図を見ても頭に入らないから、
身体で覚えることにしている。
そんな私を皆がびゅんびゅんと追い抜いてゆく。
お先にどうぞと左に避ける。
怪我などしては堪らぬからだ。
雲行きは悪かった。
雷がやってきそうな雰囲気である。
引き返そうかと思ったが、
せっかくここまで来たのだから、
山頂までゆかねば気は治まるまい。
原始林も見てみたい。
しかしながら、私は雷が大嫌いだ。
ましてや、バイク。
直撃されたら一たまりもない。
山道の20kmは中々進まない。
危なくてスピードはあまり出せないのである。
その上、曲がりくねっているわりには、
普通車がかなりのスピードを出して、
前後から走って来る。
生命知らずの奴らが多いのだろう。
そのうちポツリポツリと雨が降り始めた。
夕立だ。
稲光もし始める。
他に、バイクは?と捜したが見当らない。
孤独感と不安感に襲われる。
バイクが近くに居れば、
こういう天気の日には
それなりに安心するものだが、
普通車ばかりだ。
普通車は雷に強い。
そういう点が、たまらなく羨ましい。
しかし、羨んだところでどうしようもないのだ。
だんだんと雨足が激しくなり、
雷もほんの傍まで来ている感じがする。
雨宿りをする適当な場所も見当らない。
木の下は危険だといわれている。
泣きたい気分だ。
サヤカを置きざりにして、
誰かの普通車のなかに
入らせてもらおうかとも思うが、
いつの間にか1台も居なくなっていた。
空は薄気味が悪いほどに黒暗くなってきた。
ピカーッ。
バリバリバリ、バッシーン。
ついに始まった。
私は、堪らなくなってサヤカを止め飛び降りた。
サヤカに落ちる可能性がある。
かといって逃げる場所もない。
万事休す。
ピカピカ、ピカーッ。
ガラガラ、ドッシャーン。
ああ、サヤカよ、何とかしてくれーっ!
私は、もう俯せてしまった。
そんな時であった。
サヤカのヘッドライトが、
キラーッと物凄い光を放ち始めた。
キーはつけたままだった。
稲光の数十倍の光り方である。
ピカーッと稲光がする瞬間に、
その方向に向けてサヤカが光を放つ。
そのたびに不思議なことに雷の音が消えるのだ。
右や左にピカッ、ピカーッ。
サヤカのヘッドライトが
稲光を打ち落としているのだ。
確実に迎撃している。
その間20~30分ぐらいだったろうか。
黒雲がだんだんと軽くなり
晴れ間が見えてきた。
夕立はだんだんと遠ざかってゆく。
サヤカが勝ったのだ。
サヤカよ、お前にそんな力があったのか!
一戦を終えたサヤカに残る七色の雨の露を
タオルで丁寧に拭い、感謝の気持を表した。
こわやこわや カミナリこわや 車もこわや
大台ケ原 ドライブウェイ
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 新益京のOさんは、花粉症
* 新益京のOさんは、花粉症(022)
Oさんは花粉症である。
この数年来、春先の明け方が特にひどい。
鼻水が出て止まらないし、よく眠れないみたいだ。
原因は杉の花粉にあると言われている。
私は、北山杉のことを思い出した。
むかし、サヤカが教えてくれたのだ。
京都の162号を若狭に向かって、
かなり行った所の小道を左に入り、
そこから数キロ入った所に、
人間と話しを出来る北山杉が居るという。
その杉と話すのは、
サヤカのガソリン・キャップを外し、
給油口を通して行なうのである。
その口に耳を当てたり口をつけて
話しをするのだ。
ガソリンの匂いは、私は好きではない。
頭がクラクラしてかなわない。
けれども、Oさんのためでもある。
私は、早速、北山杉に花粉症の治し方を
聞きにいった。
北山杉の北やんは屋久島の縄文杉に
聞けと教えてくれた。
屋久島までは遠すぎる。
私は趣味のパソコン通信・「ANP」ネットで
知り合った、
鹿児島のNさんに頼むことにした。
その杉と話をするのには、
サヤカのマフラーが要るという。
私は、すぐさまNさんに事情を伝え、
宅配便でSサヤカのマフラーを送った。
縄文杉は大神神社の巳の神杉に聞けと
答えたという。
あーあ。
灯台元暗し、だ。
毎週近くを走っているではないか。
わずか4~5kmのところにある。
話しかけ方は北山杉と同じだという。
私は、ある深夜を選んで出掛けた。
神杉は大神神社の拝殿前にある。
数段の石の階段があり、
サヤカを上げるのには苦労した。
ガードマンに見つかるとうるさいから、
エンジンを切って手で押し上げた。
手で押すとなればサヤカは重たいが、
わずか数段なので、何とか押し上げることに、
成功した。
神杉が言うには、神杉がつけている雌花を、
花粉を散らさないように取り、
一日一回、一個の雌花を鼻先に
数分あてていれば、
数か月で治るということだった。
やったあ!
私はすぐさま雌花を摘んだ。
ガードマンに見つかったら、
タダではすまないので気が気でなかった。
それでも革ジャンの両ポケットいっぱいに
詰め込んだ。
家に帰って、もう寝ていたOさんを叩きおこして、
[杉の教え]を教えてやった。
「なに寝言、言っているの? 早く寝なさい!」と
一喝された。
てんで取りあってくれない。
次の朝も、やっぱり花粉症の症状が
ひどくなっていた。
私は、またしつこく勧めたがやっぱり同じ。
相手にされない。
私の苦労は何だったのだ ?!
大神の 神杉に宿る 精霊に
バイク通して アタック試みる
ち ふ
なお、この治療方法に関しましては、
巳の神杉にご相談下さい。
くれぐれも、ご乱用はお控えくださいとの事です。
この項おわり
あ@仮想はてな物語 和田山イノシシが ?!
* 和田山イノシシが ?!(023)
国道9号を走って秋の山景色を満喫していた。
和田山を少し過ぎたところで右に折れ、
山の中に入った。
日本海に出る予定である。
紅葉も盛りは過ぎているが結構楽しめた。
車の通りも少ない寂しい山路であった。
しかし、その道路は日本海方面の道路に
繋がっていると、
ガソリンスタンドの店員が
教えてくれてたので、その点だけでも、
気が楽であった。
所々に[イノシシ注意!]の立て札が
立ててあった。
そんな馬鹿なと気にもせず走っていた。
しばらく走っていると前方に小牛が見えた。
こんな山の中に牛がいるのかなと、
不思議に思いながら近づいてゆく。
小牛にしては小さいし毛がたくさん生えている。
気味悪くなって止まった。
その生きものも、私に気がついたのか、
こちらを睨んでいる。
目と目が合ってしまった。
その瞬間、ヤツは、私の方に突進してきた。
ヤバイッ!
奴は猪だった。
奴が猪なら、こちらもイノシシ年生まれ。
今更Uターンは出来ない。
私は、すぐさまギアをセカンドに入れ
方向指示器を点け、
ヘッドライトを、
遠距離と近距離用に交互に変えながら、
クラクションを鳴らし、
エンジンを最大に蒸かして直進した。
正面衝突する覚悟だ。
というのは建前で、実際は衝突寸前に
ハンドルを左に切るつもりだった。
それしかないと、咄嗟に判断を下したのだ。
バリバリバリッ。
ピカピカピカッ。
大台が原で出会った雷のゴロッピ並みの脅しだ。
奴もびっくりしたに違いない。
10mぐらいの距離に近づいたとき、
奴は急に止まったかと思うと、
コロコロコロと引っくり返って転がってきた。
奴も急ブレーキには弱いのだろう。
ハンドルをすばやく切る。
Sサヤカのわずか50cmぐらいの傍を転がっていった。
私は、ギアをトップまで上げ、その場を逃げ去った。
後ろで奴がどうなっているか、見る余裕もなかった。
心臓が首の近くまで、押し上がったようであった。
イノシシの 大突進を 迎え撃つ
わがバイクの フル回転
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 大和三山
* 大和三山(024)
冬の寒い晴れ渡った日の朝、
南大和盆地には靄(もや)が掛かることがある。
私は、その景色を一度見たいと思っていた。
そのため、天気予報には特に注意を払っていた。
土曜日か日曜日の朝であればと願っていた。
5時起きをしなければならないからだ。
晴れの日の寒い早朝、目覚ましで起きてはいるのだが、
なかなか靄は掛からない。
一冬で数えるほどしか、お目にかかれない。
不運な(?)ことに、ある月曜日の朝、靄が掛かった。
私は、Oさんを起こさないように、そっと寝床を抜け出し、
サヤカを連れ出した。
近所迷惑になるので、団地のハズレまで手で押して行き、
エンジンをかけた。
行く場所は決めてある。
山の辺の道沿いの小高い丘の上である。
もう何十回となく行っているので、
暗闇でもゆけるようになっていた。
靄のせいで、ヘルメットは曇るし
非常に息苦しい感じがした。
まだ薄黒白い空気の中を走る。
丘にたどりついたが太陽は
まだ昇ってはいなかった。
自分の居場所も、はっきりとはわからないが、
通い慣れた所なので不安はない。
夜がだんだんと明け始める。
靄がそれにつれて白っぽく変わってくる。
そのうち、三山がぽっかりと靄の上に浮き上がってきた。
左の方から、香具山、畝傍山、耳成山の順に並んでいる。
青黒い色が白い靄で弱められ別世界を形造っている。
その下に多くの人々が生活しているとは、
到底考えられないような風景である。
その時であった。
香具山がパッと女性になり畝傍と耳成が男に変わったのだ。
男二人は剣を持っていた。
女は両手を合わせて心配そうに二人の様子を見ている。
男たちの眼は血走り殺気だっていた。
しかし、何を言っているのか、さっぱり解らない。
古代語でしゃべっているようだ。
そうだ!
サヤカの不可思議な能力を思い出した。
ガソリンの給油口に耳を当ててみた。
やっぱり思った通りだ。
わかる、わかる。
私は、そこに耳をあて首を傾けて
三人の成り行きを見守っていた。
「今日こそは決着をつけよう」
「望むところだ。来いっ!」
剣のかち合う音が伝わってくる。
五分と五分の争い。
香具山は今にも泣き出しそうな顔をして
二人を見守っている。
そうか!
これが、あの三山の争いなのか。
香具山が女で残りのニ山は男だったのか!
やはり、私が想像していた通りだ。
人によっては畝傍が女性という者もいるが、
私は、名前の響きからして、
香具山が女性に相応しいと思っている。
それに男二人が女性をめぐって
争うほうが好ましい。
(この偏見! 女性の方すみません)
香具山の顔は、はっきりとは解らないが、
私からすると、剣で争うほど美しいとは、
思われない。
美女に対する感覚が違うのだろう。
少なくとも、私だったら争いは避ける。
けれど二人は必死だ。
その時、一方の男の耳の辺りから
血が噴きだした。
耳が削がれたのだ勝負はついた。
香具山は負けた方の男の傍に走り寄って、
傷口あたりの血を袖で拭ってやっている。
「こちらにおいで」
香具山は顔を上げようともしない。
その時、パアーッと朝日が射してきた。
それと同時に3人の姿がすっと消えてしまった
三山の 遠き物語 映しだす
冬の朝靄 大和ミステリー
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 新益京の駄犬コロ
* 新益京の駄犬コロ(025)
コロは、数年前にわが家に住みついた
白い雑種の牡犬である。
誰かが生後数か月の時、
わが家の近くに捨てていったのだろう。
そのまま黙って
縁の下に住みついてしまったのだ。
子供達も飼ってと譲らなかったので、
そのまま住まわせている。
最近では、子供達もコロを相手にしなくなり、
Oさんも散歩に連れていかない。
一日中寝そべっている。
そんなヤツを見ていると、
無性に腹が立ってくる。
定年後の己れの姿を見ているようで
吐き気を催してくる。
去勢手術を施しているので、
食うことだけが楽しみみたいだ。
そうだ、駄犬コロに喝を入れてやろう!
最初は5kmほど離れた山の辺の道に、
コロをサヤカに乗せて置いてきた。
私は、わざと自宅から遠い方へ走った。
ヤツは必死に追い掛けてきたが、
所詮犬の足のこと、
バイクに適うものではない。
そのうち撒いてやった。
それでもヤツはその日のうちに帰ってきた。
ワンワンと吠えてOさんに
告げ口しているようだ。
彼女は何も知らない。
ヤツが私を恨めしげに見上げるが、
そ知らぬ振りをしてやる。
「コロ、何処に行っていたの?」
ワォン、ワォンと私の方を顔指しながら鳴くが、
オレは知らんぷり。
次は10kmほど離れた
吉野の山の中に置いてきた。
Oさんはコロが二日も帰って来ないので
心配している。
「鎖外したの、あなたなの?」
私は、曖昧な返事をする。
「何処へ行ったのかしら」
私は、内心ビクビクしている。
駄犬でも居れば少しは役に立つ。
猫を追っ払うことぐらいは出来るのだ。
最近のように家庭から出す
ゴミの量が多くなると、
つい家の外に出す。
それを猫が荒らす。
コロの仕事は、そういう猫や弱そうな犬を
追い払うことだ。
3日目の夕方、薄汚れた姿で
少しやつれて帰ってきた。
今度の鳴き方は前より凄い。
私に対して大分怒っているみたいだ。
子供達も普段はそこに居るのかとも
言わないのだが、
3日も見てないとなると、
少しは気になるらしい。
撫でてやったりしている。
良かったな、コロ!
{支離滅裂な、この態度!}
2度あることは3度ある、のである。
コロのヤツも、うすうす覚悟しているだろう。
今度は丹波の山奥に連れてゆくことにした。
私が近づくと、Oさんに報せようとしているのか、
大きい声で恐がるように鳴く。
しかし、今は買物に行っていない。
季節は夏の盛りを少しばかり過ぎた頃だ。
真冬までには帰って来られるだろう。
コロのヤツは小屋のなかに潜りこんでしまった。
私が、引っ張り出そうとすると軽く咬みついてくる。
それでも無理矢理引っ張り出した。
鎖は自然に切れたように細工しておいた。
{暇な悪知恵オッさん!}
暴れるので手足を括ってダンボール箱に入れた。
ギャンギャン殺されるように鳴くので
猿ぐつわを咬ました。
一路丹波路へ。
そんなに重くはないのだが、
暴れ藻掻くのでハンドルが少し取られる。
しかし、そのうち諦めたのか
疲れたのか解らないが静かになった。
途中で手足を解き猿ぐつわも外してやったが
もう鳴かなかった。
丹波路は秋に近かった。
稲穂が垂れ下り気味であった。
コロを人気のない山路で下ろしてやる。
コロはホッとしたのか何度も身震いをしながら
おシッコしている。
ずっと我慢していたのか
長い長いおシッコだった。
少し可哀相になった。
私の方に近づこうともしない私は、
数100gの焼肉を置いて
サヤカで走り去った。
コロのヤツは附いて来ようとはしなかった。
しばらく後ろを何度も振り返りながら走ったが、
肉に食らいついて、
その場から離れようとはしなかった。
あれから3ヵ月もたつのに、
コロはまだ帰ってこない。
どこをウロついているのだろうか?
野犬になるような悪い犬ではないはずだ。
あちらこちらで餌を貰いながら
何とかそのうち帰ってくるだろう。
わが駄犬 寝そべるだけの 日日(にちにち)に
喝のショックを 1(わん)プレゼント
(コロのうた:この姿 明日のアンタの 写し絵よ
腹立てる前に よく見ときなはれ)
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 原発銀座でサヤカの能力アップ
* 原発銀座でサヤカの能力アップ(026)
サヤカがもう少し強い放射能を浴びたいと言った。
強い放射能を浴びれば能力がさらにアップすると言う。
サヤカの不思議な能力のエネルギーの源泉は、
どうもこの私の出す超極微量の放射能にあるらしい。
何でもエラい科学の先生によれば、私も放射能人間だそうだ。
植物の生理に不可欠な放射性元素カリウム40が、
食物を通して身体の中に入り、
それがアルゴン40やカルシュウム40に変わる時に、
あのクソ恐ろしいβ線やγ線を放出しているとのこと。
でも別に心配は要らないらしい。
その他、空気や食物から入ってくる放射性物質、
ラジウム・ウラ ン・炭素14・ポロニウム214などが、
普通人の中で放つ放射線の総量は年間約15ミリレムで、
これは国際放射線防護委員会(ICRP)の年間許容被爆線量の
3%前後とのこと。
それにしても、知れば知るほど人間のメカニズムは
面白いものだ。
サヤカは、α線やβ線は、透過力が弱いので、もっぱら私の
γ線を利用しているようだ.。
この近くで放射能を浴びられる所と
言えば若狭湾に群がる原子力発電所しかない。
近代科学の粋と言っても所詮人の作ったもの。
いつかは漏れるのではないか。
そう睨んだ私は半年だけサヤカと離れることにした。
事故を起しやすそうな原発を選んだ。
最新設備の所が一番疑わしい。
科学の力に過信してしまっているから人間が隅に
追いやられる。
そんな所の方が事故が起りやすいと確信したからだ。
私は、発電所の近くでサヤカの隠し場所を捜した。
サヤカの欲しがっている被爆量はわずかでもいいらしい。
サヤカが風雨に晒されて錆びるのも困る。
人に取られても困る。
解体業者や大型ゴミとして持ち去られるのも困る。
私には仕事があるし、ずっと一緒にいてやることは出来ない。
何かうまく隠す方法はないものかと思案した。
中々いい知恵が浮かんでこない。
そうだ! いい事を思いついた。
原発の近くで不審がられずに、
ずっと置いていて、盗まれたり錆びたりしない、
安全な方法は、これしかない。
金はすこしかかるが、サヤカの能力アップが楽しみだから、
先行投資だと思って、実行することにした。
それは、原発で働く人に頼み、
サヤカを通勤に使ってもらうことだった。
地元の人で原発で働いていてバイクに乗れる人。
私は、10回近く通って、そういう人を捜しだした。
借りて貰う理由づけに、これまた頭を悩ました。
日本海側と太平洋側とでバイクの錆がどう違うか研究している。
だから、モニターとして、このバイクを日常的に使ってほしい。
期間は半年。
謝礼は20万円。
このため、名刺まで作った。
モニターになってくれる人は、
少し訝りながらも謝礼に吊られたのか何とか
引き受けてくれた。
サヤカを預けた帰りはバスと電車を乗りついで帰ってきた。
サヤカのない生活は、もの足りなかった。
Oさんには接触事故を起して修理に出していると誤魔化した。
季節も良かった。
冬の始まりだったので、
春まで取りにゆかなくても良いという大儀名分もある。
それから、3カ月も経たずに、
私が予想した通り放射能モレが起ったのだ。
私は約束の期日を心待ちに待った。
そして、その期日が過ぎた次の土曜日、サヤカを連れに
行った。
彼女の能力がどのくらいアップしているのか全然わからない。
でも確実にアップしていることだろう。
今後どんなすばらしい力を見せてくれるのか、
楽しくて楽しくて仕方がない。
放射能 絶対漏れぬと 言うよりも
漏れたらどうするかが 皆の大関心
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 道成寺と白いヘルメット
* 道成寺と白いヘルメット(027)
私は、元来白いヘルメットを被っていた。
純白な感じがして、年と共にくっついてくる柵の汚さから、
気持だけでも逃れたい。
白のヘルメットを選んだのは、そんな心の現われからだった。
道成寺は、42号を白浜方面に向かって走ると、
御坊市のすぐ手前にある。
初秋の夕方であった。
ドライブ用のガイドブックに、
江戸時代から続く径山寺味噌の老舗が載っていたので、
ツーリングも兼ねて買いにきたのだ。
Oさんの好物でもある。
その帰りに道成寺に寄ってみた。
改築中なのか境内は工事現場と化していた。
風情も何もあったものではない。
夕方近くなので参拝の人も居ない。
私は、3重の塔の前に、
何気なく白いヘルメットやバッグを置いて、
寺のなかを歩いてみた。
予備知識に乏しいので身体で感じるのみである。
一通り見終わって、白ヘルメの傍で一休みしようと思って、
メットの方に近づいた。
何と!!
白ヘルメを軸にして蛇がとぐろを巻いているではないか。
鎌首を擡げて眼を血走らせ、私を睨みつけている。
大きさはそれほどでもなかったが、私はその場に立ち竦んだ。
これは、もしや清姫蛇の子孫ではないのかと思った。
安珍を釣鐘のなかで黒焦げに焼き尽くした
清姫の話は私でも知っている。
その子孫が延々と情炎を燃やし続けながら、
今に生き続けているのではないか。
このだらけ切った現代の男女間の軽い風潮を嘲り、
憤りを感じながら、
その存在の重さを訴え続けているのではないか。
私には、蛇がそう主張しているように思えた。
サヤカは、62段もあるという石段の下に置いてあるので、
蛇と話をする手段はない。
[蛇よ、オレはお前と同類だ。
オレがOさんを想う気持とお前が安珍を想う気持と、
どちらが強いか勝負だ。]
私は、蛇の睨みに負けないように、Oさんのことを想い続けながら
睨み返す。
負けるものかと、Oさんへの一途な気持を蘇らせる。
もう私たちは、年を取り過ぎて、姿・形は社会の種々雑多な垢に
塗れてしまった。
しかしながら、心の片隅からは初心の知り合った頃の、
あの清い心が消え切ってはいない。
いや、年を取れば取るほど、
ダイヤモンドのように光り輝いてくるのだ。
心のその部分に神経を集中させる。
そのことだけを念じこむ。
数10分も、そういう状態が続いただろうか?
蛇のヤツがスルスルと、とぐろを解いたのだ。
眼の光は穏やかである。
少なくとも私への敵意は消えていた。
立ち去る時、蛇のヤツ何を思ったのか、何とVの字形になって、
私にVサインを送ってきたのだ。
ヤツが消えてメットを見てみると、
白ヘルメットが黒ヘルメットに変わっていた。
ヘルメを焦がしていったのだ。
所々、斑になっていた。
その時から、私のメットは、黒いヘルメットに変わったのである。
清姫よ、お前の気持はよくわかった。
白ヘルメ 黒く焼き焦がす 情念の
熱き炎よ この地球(たま)を包みこめ!!
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 新益京のワープロ
* 新益京のワープロ(028)
私は、ワープロを使う時、
マニュアルは手放せない。
ちょっと複雑なことをすると、
即落し穴に落ち込んでしまう。
それを、だ!
ガキ(私の子供たち)どもは、
いとも簡単にマニュアル無しでボカスカ扱うのだ。
ファミコン・パソコン慣れしていて、キーボードなど
恐がりはしない。
親父の威厳もクソもあったものではない。
ある日のこと、サヤカがワープロを打ってみたいと言い出した。
彼女の能力も大分上がってきて、
周囲1km以内に人が居なければ話しかけてくる。
このあたりでも10km以内に人が居ないところなど
限られている。
荒れ模様の天気の日に山の、
それも大分奥深い所でないとそういう条件にならない。
少々の雨では人が出ているからだ。
荒れる山のなかは恐ろしい。
路は滝のような水が流れ川のようになる。
岩も転がり落ちてくる。
木は左右150度ぐらいに揺れ動くし、
山全体が日頃の欝憤を晴らすように、
猛烈な口喧嘩をしているようになる。
サヤカと、どうしても話をしたい時には、
そういうなかを走ってゆかなければ
ならなかった。
しかし、これからはそんなことをしなくても気軽に
話ができそうだ。
有り難い。
投資しただけの価値はあった。
サヤカも、駄犬コロのように暇を持て余しているに違いない。
普段の日は、カバーを掛けられて一週間に一回しか、
お呼びが掛からない。
かといって、私は、しがない会社員。
土・日以外は、そうそう乗れるものではない。
定年になったら思う存分連れ回してやるからな、
と言っても、
お互いヨレヨレのジイちゃんと、
スクラップ寸前のマシンレディ。
ああ、術なきものか、世の中の道。
憶良じゃないけど、ボヤきたくなる。
サヤカは、暇つぶしにワープロでも覚えたいのだろう。
けれども、練習できるのは土曜日の午前中、Oさんが買物に
行っている間だけ。
まあ、それでも刺激にはなるか。
彼女はもの覚えがいい。
エンジンを掛けて変速ペダルの所へ割り箸を括ってやると、
器用なキータッチで、ワープロを打つ。
大したもんだ。
機械、機械と侮ってはいけない。
実は、ここだけの話ですが、
この文章は、彼女に打たせたものなのです。
次々と ワープロ・パソコン 生まれ来て
金は続かぬ 頭は持たぬ
ち ふ
この項おわり
註、
令和元年の今12月も
ワープロを愛用しています。
中古品ですが。
あ@仮想はてな物語 新益京鬼門で花咲かオッさん
* 新益京鬼門で花咲かオッさん(029)
今日は6時起きした。
そう、昨日紀伊半島で取ってきた桜の小枝を庭の桜に
飾るためだ。
天気はあまりいいとは言えないが、雨の降る心配はなさそうだ。
あまり寒くもない。
クーラーの中の桜の花がどうなっているか気になるので、
そっと開けてみた。
ショボン。
花びらはシワシワになっていて元気がない。
しかし、よく見てみると莟がうっすらと開きかけて
いるものもある。
これはもうやるしかない。
こっそりと脚立を出し桜の木の傍にセットする。
こちらの方はまだまだ咲きそうにもない。
瞬間接着剤で小枝をくっつけようとした。
あ! 全然、役に立たない。しまった!!
どうしよう!
水で濡れている上に表面が凸凹なのでくっつかないのだ。
ボンドなどを使っていたら日が暮れそうだ。
あーあ、あさはか!
しばらく考えてもっと原始的な方法を思いついた。
糸で縛ることだ。
もともと、私には美的感覚などないものだから、
それは見事な桜の木が、出来上がってしまった。
Oさんは、少しは喜んでくれるかな?
8時過ぎ、Oさんはいつもの日曜日通り起きてきた。
普段の日は家族の世話で6時には起きている。
「たまにはゆっくり寝てみたいわ」
これが、Oさんの朝の口癖である。
「桜が咲いてるよ」
「嘘! 昨日はそんな気配もなかったわよ。どこに?」
ウィヒヒ!
「どこどこ」と言いながら庭に出て行った。
すぐに、すごい剣幕で帰って来て戸を閉めるなり、
「あんな馬鹿なことしたの、あなたでしょ!!
いい年して何やっているの!!!」
私の頭は、予想外の反応に狂ってしまった。
どう対応していいかわからない。
ちょっとは喜んでくれると思っていたのに、
こんなことになるとは、夢にも思っていなかったのだ。
Oさんは次から次へとスカッド・ミサイル並みの、
言の葉を投げつけてくる。
彼女の言い分はこうだ。
桜は放っておいても咲く。
それなのに、私がけったいな桜の小枝を
括りつけたものだから、
元の木の莟まで、痛めつけてしまった。
その上、見かけもよくない。
そんなアホなことする暇があったら、
お湯のひとつも沸かしておきなさい、
というようなものであった。
もっともだと思う。
しかし、私にしても、もっとましな桜の花になる予定だった。
花咲かじいさんのように活きのいい花びらが満開になって、
Oさんが、「綺麗ね」と一言いってくれると思い込んでいたのだ。
現実は、厳しーいっ。
朝から反対にOさんを怒らせてしまった。
「ちゃんと、元通りにしておきなさいよっ!」
ああ、こちらは迎撃用・パトリオットミサイルを
打ち返す元気もない。
花開け ささやかながらの マイホーム
ローンは味方か はたまた敵か
ち ふ
この項おわり
あ@仮想はてな物語 万博公園の太陽の塔が、サヤカに懸想した!
* 万博公園の太陽の塔が、サヤカに懸想した!(030)
万博公園の横は、よく走る道路の一つである。
近畿自動車道から名神や中国自動車道へ入った時に、
通るのである。
いつの頃からかは忘れたが、夜間、万博公園の近くを走ると、
必ずサヤカのヘッドライトの調子が悪くなるのである。
照射角度が狭くなる。
不思議だったが、高速道路は明るいので、
別に気にもとめてなかった。
それがある晩のこと、太陽の塔の傍を通っていた時、
何か視線を感じたので、太陽の塔を見た。
ヤツがウィンクを送ってきているではないか!
サヤカのヘッドライトは当然狭くなっていた。
ははあ、原因はこれだったのか。
私は納得したのだ。
不気味な顔してウィンクを送るなど、サヤカでなくともゾッとする。
私は身震いがきた。
何ちゅうヤツだ。
よりによって、私の愛車に懸想をするなんて。
私は、舌を出してやった。
ヤツときたら牛の角のような耳を上下に動かしながら、
浮かれている。
困ったヤツだ。
ある時、サヤカに聞いてみた。
[君、太陽の塔、嫌いかい?]
[あんなずんぐりむっくりで、へんてこりん大嫌いっ!]
[君も外見で判断するのかい?]
[ある程度は・・・ でも仕方ないんじゃない?]
[じゃ、オレなんかアイツとそっくりだしな]
[ううん、違うわ。あなたは ト、ク、ベ、ツ]
[どこが?]
半分嬉しくなって、ちょっと意地悪く聞いてみる。
[だって、私に生命を与えてくれるでしょ。それに・・・]
[それに?]
[・・・・・・・・・]
[なに?]
[よくわからない]
サヤカによれば、アイツも超能力を持っているという。
けれども、そんなには強くはないらしい。
アイツの数キロ以内に近づけば、
いつもチョッカイを掛けてくるという。
それがとてもしつこいらしい。
私と同類みたいだ。
ずんぐりむっくりも同じ。
だが、ヤツは彼女に嫌われているし、
私は、そうではないみたいだ。
持ち主の強みか。
彼女はヤツの顔を見るのも嫌いだが、
傍を通るのも気味悪いと言う。
私は、愛敬ある顔をしてケッタイなヤツだな、
ぐらいにしか思っていなかった。
見る者によっては、こうも評価が違うものか。
これからは、サヤカのためになるべく他の道を選ぼう。
芸術に 現わる個性は 天性か
それとも単に お人が騒ぐだけ?
ち ふ
この項おわり