音もなく 気配もなく 不意にあなたが来た
うつつともなく未明の境をさまよっている時間だった
殊更今日はたくさんの生者や死者達が、ざわざわと行き交う日
あからさまに怪訝な顔を晒すこともなく
さりげなく笑みを返し 言葉を交わした
拾い損ねた礼節を消す春の雪
見逃さぬコートのチエック柄
引き寄せた縁(えにし)の情報さりげなく告げ
不寛容な時代を嘆き
控えめな花たちの香りを嗅ぎながら
当てにならぬ明日の息災をも披露した
うつむく月を覗き込むしぐさは同じ
差し伸べる私の手に透明な箱が渡され
静かに消えていった
あなたは今も朝霧の中で草笛を吹いている
31年目にしてやっと納得した