ORGANIC STONE

私達は地球を構成する生命を持った石に過ぎないのですから。

金の十字架を捨て、木の十字架を手に入れるといい:MIKAエッセイ XL Repubblica(Oct.2010)

2010-10-21 21:13:02 | 音楽:MIKA
元サイト:http://xl.repubblica.it/

僕にはいつもステージの前に行う儀式がある。これはどんな歌手も行う普通のこと。ステージ用のボトムと靴を身につけ、Tシャツを脱ぎ、歯を磨き、蜂蜜に浸した生しょうがを噛み、そして神に祈る。すべての儀式は他のすべてと同じくらい重要なんだ。僕の儀式の祈りの言葉は、4回の「主の祈り(※注1)」とステージの各要素を何行か。

1年半世界を巡った今回のツアーの最後の地、ワルシャワで僕は自分自身に問いかけた。なぜ僕はこの儀式無しでステージに立てないのか、それも特に祈りの言葉無しで。僕はそれほど信心深くないのにかかわらず、だ。多分この儀式を行うことで集中力と自信を高めることが出来るんだろう。でも何よりも、これは僕の子供時代に基づく習慣からくるものなんだ。

僕はメルカイト・グリーク・カトリックとして生まれた。レバノンの、ギリシャ正教の血を引きつつしかしバチカンとローマ教皇に従うローマン・カトリックに近い宗教だ。また、8歳から僕はカトリック・スクールで教育を受けた。これは僕の両親が意図した訳ではなくラッキーな偶然で、通っていたフレンチ・スクールを追放された僕が結局最後にたどり着いたのが僕たちの隣にあったこの小さな私立の男子学校だったという訳だ。その結果、宗教の歴史と倫理感は僕たちの生活に脈打つかのように毎日注ぎ込まれ、賛美歌は僕が最初に真剣に歌った歌になった。

今の僕はローマン・カトリックとその教義について否定的だ。でも、嫌いなのにそれから逃げられない。宗教は僕の倫理感の基礎を構成し、精神世界への扉を開けてくれた。教会はいつだって僕を魅了する。一歩足を踏み入れるとその壁で隔てられた、俗界から逃避し隔離された空間を愛さずにはいられない。組織としてのキリスト教は俗世界となんら変わりが無いと思っているのだが。僕は建物の中に避難所を探し、祈りの言葉を口ずさみ、神の存在を信じ・・・しかし僕の神は寛容で内に秘める存在。

僕の学校はケンジントンのブロンプトン礼拝堂と関係が深かった。そこの神父たちを何人も知っているし、彼らと懺悔したりレッスンを受けたりした。彼ら神父たちの何人かは多分ゲイだろうと僕ら生徒たちの間では噂されていたけれど、問題が起きたことは無かった。しかし当時8歳の僕は、教会は弾圧すべき悪であるホモセクシャルの隠れ場所として使われているのではないかと感じていた。(※注2)

そんな考えは馬鹿げているとすぐ気がついたのは、そう教えてくれる恵まれた人生と家族がいたから。どんな宗教も組織として存在するには基盤が必要で、政治の影響を受ける。だけどPC のキーボードをクリックするだけで力と影響力を手にすることができる僕たちの生きるこの現代で、宗教団体は未だかつて無いほど人々の心に触れることから遠ざかっている。金の十字架と富は、信仰が与えてくれるであろう最も重要な物と比べれば不釣合いで印象にも残らない。金の十字架を捨て、木の十字架を手に入れるといい。金の詰まった財布ではなく君の寛容な心で教会に君自身を印象づけるべきなんだ。

それが組織なら、いい面も悪い面も存在する。信じてもいないことを課されることを拒否し、自分たちがなにを望むのかを勇気を持って受け入れること。教会は今、どん底にある。スキャンダルは公になり、教会の犯した間違いは今までになく明確だ。(※注3)生き延びるためには教会から離れていった人々を暖かく受け入れることが必要だろう。僕は27歳、選択の自由、避妊、ゲイ・ユニオン、寛大な心、そしてすべての宗教的ではない信念に賛同する。

※注1
主の祈り(ローマン・カソリック)
Our Father in heaven,
hallowed be your name,
your kingdom come,
your will be done,
on earth as in heaven.
Give us today our daily bread.
Forgive us our sins
as we forgive those who sin against us.
Save us from the time of trial
and deliver us from evil.
[For the kingdom, the power, and the glory are yours
now and for ever.]
Amen.

注2
カソリック教会では同性愛は人間の本質に反する罪とされている。

※注3
カトリック教会の性的虐待事件のことを指すと思われる。ロンドンではこの春、教皇の退位を要求する抗議デモが行われるなど問題が深刻化している。

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2 コメント

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Unknown (りぐ)
2010-10-22 09:04:55
「主の祈り」って言うのか・・・。
私、幼稚園がカトリックで、このお祈り今でも覚えてます。

天にまします我らの父よ
願わくは
み名の尊まれんことを
み国の来たらんことを
み旨の天に行わるる如く地にも行われんことを
我らの日用の糧を今日我らに与え給え
我らが人に許す如く我らの罪を許し給え
我らを試みにひきたまわざれ
我らを惡より救い給え
アーメン

って言ってました。
ちょっと懐かしかった・・・。
MIKAってやっぱり思慮深くて聡明。
素敵な人だなあ。

和訳ありがとうございました!
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へええー (ptd)
2010-10-23 18:40:09
りぐさん
そうですか、覚えちゃうものなんですね!
祈りの言葉ですか。
最後にアーメンていうんですよね。
意味は知らなかったけど、十字を切るやり方はアイルランドで覚えました。

このエッセイはかなり、現在のカソリック教会に批判的です。それだけ気にしてるってことでもあるんでしょう。
MIKA、デビュー当時は小さな金のロザリオしてたって話ですけど~~

ではでは
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