ORGANIC STONE

私達は地球を構成する生命を持った石に過ぎないのですから。

We're On Our Own Side:天使の成長物語としてのグッド・オーメンズ

2019-07-08 21:34:21 | 映画:SF&ファンタジー
5月末にAmazonPrime配信開始されたニール・ゲイマンのThe Good Omens、創世記から友情を育んできた天使と悪魔がアルマゲドンから地球を救おうとするBBCのコメディドラマだ。
天使や悪魔という超自然的存在を現代リアルへ移植することで生まれる機知に富んだユーモアとシニカルなジョーク、挟まれる不条理スケッチ風モノローグはたしかに英国コメディの系譜。そしてこの作品は天使と悪魔のラブコメでもある。ユーモラスに時にほろ苦く丁寧に描かれる、根は優しい悪魔クロウリーとドジな天使アジラフェルの絆の物語。

アジラフェルはまあ真面目な天使と言えるだろう。争いごとは嫌いだし、どちらかというと要領が悪くて出世できないタイプ。創世記~中世での彼は与えられた仕事を真面目にこなし、自分の組織の方針に従い、疑問を感じていても文句は言わない。悪魔のクロウリーに疑問点を突っ込まれても「神のすることには全て意味があるのです!」と模範解答。しかし大事な仕事道具の剣をアダムとイヴにあげてしまうエピソードは、彼が仕事よりも自分の良心を信じる、彼なりの倫理観を優先するタイプであることを教えてくれる。そして6000年過ごしてきた地球がアルマゲドンで破壊されそうになった時、彼は自分がどれだけ地球と人類を愛していたか気づく。天国という組織が一切彼の訴えに耳を貸さず、地球も人類もただの消耗品としか考えていないことを知り、さらに仲間の天使からいじめを受け、彼は自分が属し尽くしてきた組織と天使たちに深く失望する。
その時彼は初めて天国に抵抗する。 それは彼が"my side"と呼んでいた天国側、クロウリーの”your side"(地獄側)の2極と決別し、クロウリーと組み"our side"(2人の同盟)で戦うことを決意した瞬間だったのだろう。 その抵抗はいままで信じていた自分の世界が理想の姿とは程遠い、無慈悲で醜悪なものであることを認め、自分の良心を欺かず生きるための小さな一歩だったのだと思う。

彼は気の優しい天使だが、ソフトな外見からは想像できない強いプライドと頑固さを合わせ持っている。好意を寄せているのにもかかわらず、クロウリーに自分の組織に有利になるために嘘をついたり汚れ仕事をさせようとする狡猾さもある。はさみと悪魔は使いようって訳だ。しかし天使のプライドが抑えていたのであろうクロウリーへの接し方も、天国という組織から決別する勇気を持つことで変化していく。
最終話、クロウリーに「お前はもうどちらの側でもない、俺たちは俺たちだ」といわれた時に見せるアジラフェルの複雑な表情は、自分がもうかつて慣れ親しんだ組織に属さないことを理解した苦痛と、漠然とした未来への不安だったに違いない。最終話最後のレストランでのシーン、彼はクロウリーからの褒め言葉「お前にも友達に値するくそ野郎な部分があるから」に素直に感情を見せる。(注:吹き替え版ではクロウリーの"worth knowing"友達として価値がある、が省略されている)はにかんだような、明らかにうれしさと戸惑いを隠せない子供のような表情は、それまでのクロウリーからの愛情表現に見せた微妙な表情とは明らかに違っていた。
彼にはもうかつての組織に失望した悲しみも未来への不安も、クロウリーへの思いを隠す過剰なプライドもない。あるのはこれからの新しい人生と新しい世界への希望だ、そして彼とクロウリーのこれからも変わらないであろう絆へのささやかな神からの贈り物がナイチンゲールの歌だった。お互いの立場の違いを超え、新しい一歩を踏み出した2人に神が贈ったささやかな奇跡。彼らはそれに気づいていないし、神もまた誰も奇跡に気づいていないことを気にしていない。もう粋すぎて泣いた。※鳥好きとしてはナイチンゲールが歌っているようには見えないのが残念だがな。。

この作品は私にとって「たかがコメディ」の域を超えたドラマだった。その理由はPixarの一連の作品や「リトル・ミス・サンシャイン」といった映画のそれに似て、広域的な意味での愛に溢れていること。コメディであることとファンタジーであること、シリアスなテーマを内包し優れた良質なドラマであることは両立する。ここで言う愛は血の繋がりや性別は関係ない。間違ったことにNOと言える勇気と、自分らしく生きるための小さな一歩を踏み出す勇気を称えるマジカルコメディ。

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