本のことを考えると必ず思い浮かぶお店の一つ。古書店の千代之介書店。
一時期実家が名古屋郊外の地下鉄藤が丘駅から徒歩30分くらいの住宅地にあったことがあり、90年代半ばにアメリカから戻ってからしばらくそこで生活していた。当時はフリーターだったり大学院生だった期間だったので、昼間はほぼ自宅にいて駅までちょくちょく散歩に行くという、のんびり生きていた20代後半だった。
今とそうたいして変わらないな(笑)。
その道すがら、ある日突然ぽこっとお店が出現。店名は「千代の介書店」と書いてあった。
なにしろ、学校かバイト先以外は暇な人間だったので、「千代の介書店」ができてからは2~3日に一回足を運んでいた。本の購入はしたりしなかったり。
お店には、脱サラか定年でリタイアされた感じの初老のオジサンが一人。(この人が千代の介さんなのかな)と思っていました。実は違ったんですが。
何がいいって、お店の隅々から本への愛を感じるんです。これは行ってみないとわからないと思います(というか、僕の筆力では伝えられません(笑))。
本への愛ということは、きっと知識や知性への愛なんでしょうね。「知識欲」って言うと似て非なるもののような気がする。
それがおそらく90年代後半ごろ。
実家がまた違うところに行ってしまったので、それ以来足を運ぶことはありませんでした。が、頭の中にいつもその存在はありました。また行きたいな、と。
で、仕事で東京に住むようになったのが2000年代初めごろ。ある日、気になってGoogleで「千代の介書店」を検索してみたんです。そうしたら、たった一つ、お店のお客さんのブログ記事が見つかって、「千代の介書店」が元気に営業されていることを知りました。
それで帰省した折に行ってみました。いつも行っていた1990年代後半からはすでに20年ほど経っていたので、ご主人は少しお年を召されたようでしたが、店の隅々から感じられる本への愛情は変わらず。
1時間弱ほどかけてすべての棚を回って、北王子魯山人の著書(文庫本)を二冊購入しました。陶芸と料理それぞれに対する彼の一家言が書かれた書籍、計2冊。これは、『SHOGUN』の後に控えています(笑)。
以前どの雑誌だったか(機内誌かカード会員誌だったかな)のエッセイで檀ふみさんが紹介していた「魯山人すき焼き」のレシピも載っているのだろうか(笑)。作ってみたいんですよね、身体に悪くなさそうな料理だったんで。
文庫本の古書でも、ご主人がきれいに整えてビニールのブックカバーが一枚一枚に被せてありました。お仕事は非常に丁寧です。愛です。
帰省の折に足を運んだその時がもう10年ちょっと前のこと。(たぶん家計簿を見ればいつ行ったかは一目瞭然でしょう。)
今日ふと、どうされているのかなと思い、同時に(もう閉められたんだろうな)と思いつつ検索してみたら、まだ営業されていました(驚)。ブラボー!
しかも、以前は検索してもブログ記事が一つ出てくるだけだったのに、今日は結構なヒット数。びっくりしました。どうやら、そんなに遠くない昔にどこかで紹介されたらしいです。
そりゃそうです。あんなにステキな古書店はなかなかないと思います。ご主人の物腰が柔らかく、それゆえ敷居も高くないので玄人はもとより初心者にもやさしい、書籍や知識への愛が感じられて、凛とした空気がある。オシャレというよりは機能美に近い感じ。そんな古書店。
ミュンヘン空港で受けた感じに似ているな(笑)。
ヒットしたブログのいくつかを読んでみたら(2023年当時の日記)、ご主人は今88歳、あと2年は営業して閉めるとおっしゃっていると書いてありました。2023年から2年と言えば、今年2025年のこと。
2023年に88歳、開店してから25年と考えれば、ちょうど定年を迎えられたころに千代の介書店を始められて、偶然その日に僕が店の前を通りかかって、入り口をくぐったということになりましょうか。
これは今夏の帰省の折に最後にもう一回行っておきたいですね。今のうちにホテル予約しておこう。
それまで営業されているといいけど。でもそういうのって巡りあわせですからね。行ったところもうお店を閉められていても、それはそれで、思い出の濃度がそのぶん濃くなります。
開店されたころ(20年とか25年前ですねたぶん)、2~3日に一度、普通の人が仕事をしているような時間にやってきて、1時間ほどいろんな本をつまみ読みしていた何をしているかわからない変な若者のことは特に覚えていらっしゃらないでしょうね(笑)。それもそれでいいんです。
見返りを求めて生きていないので(笑)。
自分の心地よいもの・場所を探すだけの人生。
因みに、検索していくつか出てきたブログの一つによると、ご主人が千代の介さんなのではなく、愛犬の名前が千代の介くんなんだそう(笑)。
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