数年前、荒くれ漁師のクマドの暮らす海に天から隕石の様なモノが落ちた。
以来の海では奇形の魚しか捕れなくなった。
ある日、クマドは天女たちが水浴びをしているのを目にした。
彼は1人の天女の羽衣を奪い、強引に妻にすることに。
「ハネ」と名付けられた天女は優しく慈悲深い女。
養父母に虐待されながら育ったクマドは初めて愛情を感じた。
ただ、彼女はいつも張り付いたような笑みしか浮かべていないのが気になった。
ハネは美しかったので、村の男たちは次々と手を出した。
村の女たちはハネが男たちを誘惑したのだと嫉妬し、彼女を折檻した。
ある日、養父がハネを犯しているのを知ったクマド。
怒りのあまり、養父を殺し、海に投げ捨てた。
クマドはハネに「嫌ではなかったのか」と聞くと、
「あなたにされたのと同じことですわ」とあの笑みを浮かべた。
彼は何も言えなかった。
やがて、ハネは子供を産んだ。
誰の子かはわからない。
ただ、眼が飛び出しそうなほど大きく、
頭は大きいばかりで、身体はガリガリに痩せている奇形の魚に似ている子だった。
数年後、クマドの村近くに、落ち武者の集団が流れてきた。
漁師たちが海に出ている間、慈悲深いハネは彼らの手当てに1人向かうことに。
手負いの獣と化していた武者たちは、美しく優しい彼女に襲いかかった。
クマドが慌てて駆けつけた時には、彼女は無惨な姿にされ、瀕死の状態だった。
クマドはなんとかならないかと、土に埋めて隠していた羽衣を掘り返した。
羽衣はすでに朽ちていた。
それでもそれをハネにかけてやると、彼女は傷1つない天女の姿に戻った。
「天に帰らないでくれ、子供もいるんだ。俺のことを愛してくれているんだろう」
クマドはそう呼びかけたが、ハネは菩薩の笑みで答える。
「あなたのことは憎んでいません。愛してもいません。何とも思っていません」
クマドは絶望のあまり絶叫した。
天女は天に昇りながら、
ただ、暗い地上で愛憎にまみれて生きる矮小な人間たちを憐れみ、涙をこぼした。