下の口
昔、あほな婿どんがおった。
嫁さんもらっても、男女の交わりも知らなんだ。
初夜の日も何もせずにグーグー寝てしまう。
三日たっても五日たっても何もせなんだ。
嫁さんのほうは早ようからマセていたので、夜な夜な待っていても、婿どんが何もせんので自分から体を寄せつけていった。
すると「一体どうしたんだ、おめえ寒いのか」。
嫁さんはいっそう体をくねらせながら婿どんに体を押しつけていった。
婿どんも負けじと体を押しつけてくるので、嫁さんは今夜こそ抱いてもらえると思い、ますます強く胸や腰を押しつけていった。
と、婿どん飛び起きて
「こらっ、おめえは何という横着な嫁だなあ、さっきからおらを押し出そうとして、
一つしかない布団に、自分一人で寝たいのかっ」。
嫁さんは、あきれるやら腹が立つやらで、里へ帰ってしまった。
母親が心配して仲人さんを連れてきて訳を聞きますと、嫁さんは、
「あの婿さん嫌いや。男女の交わりいうもん知らんもの、
あんなところへ行ってもわたし一生不幸になるので、行きとうない」。
そらあかん、と仲人さんは急いで婿どんのところへ出かけて行った。
これ婿どん。
嫁さんもろうたら、家で働かせるばかりではあかん。
夫婦の一番の楽しみちゅうもんを与えてやらなあかん、おまえは男やで口は一つしかないが、女には口が二つあるちゅうこと、おまえ知っとるかい」。
「はア、そら知らなんだ。もう一つの口は、どこについておりますね」。
「それはのう、上の口と、下の口があるんや。上の口ばかり養うてもあかん、下の口も養うてやらなあかん。な、ようわかったな」。
仲人さん遠回しにいい聞かせたところ、婿どんいくらかわかったような顔をして、「ああそうですか、で、下の口はいつ養うてやればええのや」
「そら決っとる、下の口は夜食が好きじゃ」
「そうか、夜食か、そらやすいことや」
これで仲人さんもほっとして、嫁さんに、
「もう心配いらん、よう婿さんに話して来たんで、今度こそ大丈夫や。
さ、はよう行け。今夜床に入ったらうんと、いろっぽくして寝ていろや」
と言って嫁さんを帰した。
晩方になると嫁さんは、早めに床に入り、胸もとをひろげ豊かな乳房を出し、前も大きくひろげると、寝たふりをして待っておった。
そこへ婿どんがやって来て、床の下のほうからしげしげとあそこのあたりを眺めて、「うーんなるほど、下の口ちゅうのはこれか。たまげたなア、
女でも下の口にはヒゲが生えておる」
と言いながらヒゲをかきわけて、口の中へ指を入れたりしだしたから嫁さん、我慢できんようになってハァハァと洗い息づかい、下の口もピクン、ピクンしはじめた。
それを見て婿どん、あわてて勝手場へ行くと残りご飯をさらえて大きな握り飯を三つも四つもこさえて、上の口より、下の口の方が大きいので、あれならよう食うじゃろうなァと、いいながらおここを添えて持ってくると、
「われ、堪忍してくれよ。おまえに下の口があるちゅうこと知らんために何日も
何にも食わせなんだ。見れば下の口がヒクヒクしておるぞ、
腹が減っておったんじゃろう。今夜は腹いっぱい食うがええ」。
そう言うなり、下の口へ大きな握り飯を押し込んだ。
嫁さんはもう愛想もなんも尽き果てたが寝たふりしている手前、怒る訳にもいかず、腹にグッと力を入れてこらえたとたん、スーとおならをこいた。
すると婿どんそれを聞いて、
「われ、そんなはずはないんじゃがなァ」
と、下の口へ入れた握り飯を取り出してにおいをかいだ。
「こら朝炊いた飯やで、すうなるはずはねえがなァ」。
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