古今亭志ん生の噺、「紀州(きしゅう)」によると。
徳川家七代将軍のご他界があって、跡目相続の話が持ち上がり、水戸家、紀州家に尾州家の御三家から選ばれる事になった。
水戸家は歳を取って引退していたので辞退し、紀州公か尾州公のどちらから八代将軍を選ぶ事になった。
尾州公は男として将軍になりたかったので、うがい手水に身を清め柏手を打って屋敷を後にした。
駕籠に乗っていても”天下”を取りたいと思っていた。
今井町を通ると鍛冶屋で鎚の音がトンテンカンと聞こえず「テンカ~、トール」と聞こえてきた。
さい先が良いと登城し、紀州公と並んで座った。
小田原の城主、大久保加賀守が尾州公の前に進み出て「この度、七代将軍ご他界し、お跡目これなく、しも万民撫育(ぶいく)の為、任官あってしかるべし」と頭を下げた。
この時受けてしまえば終わっていたのを、見栄が働いて 、断っても再度言葉が掛かるだろうと「余はその徳薄くしてその任にあたわず」と断ってしまった。
すると意に反して、向きを変えて紀州公の前に行って「この度、七代将軍ご他界し、お跡目これなく、しも万民撫育の為、任官あってしかるべし」と同じ事を言った。
紀州公は何て答えるだろうと聞いていると「余はその徳薄くしてその任にあたわず」と同じ事を言った。
しかし、続けて「・・・なれども、しも万民撫育の為、任官いたすべし」と応えた瞬間、将軍職は尾州公を通り越して紀州公に決まってしまった。
尾州公はぼんやりしながら駕籠に揺られて今井町まで来ると、鍛冶屋がまだ”テンカ~、トール。テンカ~、トール”と打っていた。「おかしいな、まだ天下取ると聞こえる。
そうか紀州公は返事はしたが『やはり将軍職は尾州公様に』と頼みに来るんだろう」と思っていた。
「鍛冶屋の鎚の音は幸先のイイものだ。これで私が天下を取れる」。
まだ鍛冶屋ではテンカ~、トール、テンカ~、トールと打っていると、 テンテンテンと打ち上げて、真っ赤に焼けた鉄を水の中に入れると”キシュ~(紀州)”。
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