国や地方の行政機関が事業を行うために公債を発行して資金を調達することはよくありますが、この債券には期間が無期限の「永久債」とされているものもあるようです。オランダで1648年に発行されたある公債がまさにこの「永久債」で、債券を所有するアメリカ・イェール大学が発行から約370年が経過した2015年に実際に利子の支払いを求めたことが明らかになっています。
YaleNews | A living artifact from the Dutch Golden Age: Yale’s 367-year-old water bond still pays interest
http://news.yale.edu/2015/09/22/living-artifact-dutch-golden-age-yale-s-367-year-old-water-bond-still-pays-interest
Yale to Be Paid Interest on Dutch Water Authority Bond From 1648 - Bloomberg Business
http://www.bloomberg.com/news/articles/2015-09-16/yale-to-be-paid-interest-on-dutch-water-authority-bond-from-1648
この永久債「Lekdijk Bovendams」は、オランダの水道管理機関「Hoogheemraadschap De Stichtse Rijnlanden」が1648年に発行した公債のうち、世界でも5枚だけ現存が確認されている債券書類の1枚です。この債券は、近代的な経済の仕組みが形成される初期の段階で発行されたものとして、歴史的にも重要な意味を持っています。書類はなんとヤギ(ゴート)の皮に書かれているとのことで、作製から350年を経てもほとんど劣化した様子が見られないのが驚くべきところです。
債券の額面は「1000ギルダー」と記されているとのこと。ギルダーは15世紀から2003年までオランダで使われていた通貨単位で、ユーロに変わる際に定められた最終のレートに換算すると、債券の額面は453.78ユーロ(約6万1000円)に相当します。
債券の詳細な画像は、以下のイェール大学のサイトで確認・ダウンロードすることが可能です。
Lekdijk Bovendams [water board bond]
イェール大学はこの債券の利子として136.20ユーロ(約1万8300円)を受け取ることが可能で、実際に水道管理機関にコンタクトを取って請求を行ったとのこと。機関のスポークスマンであるClarion Wegerif氏は大学からの接触があったことを確認しています。利子の支払いの際にはダミーの記念小切手が贈呈された後に実際のお金を電信で送金することになっており、2015年9月21日に送金が行われた模様です。
Nederlandse obligatie uit 1648 levert rente op - rtlz.nl
http://www.rtlz.nl/business/bedrijven/nederlandse-obligatie-uit-1648-levert-rente-op
イェール大学はこの公債を2003年に2万4000ユーロ(当時のレートで約310万円)で購入しており、購入時点から2015年までの利子は13年間で0.6%となっているとのこと。額面と利子の計算が少しかみ合わない部分もありますが、支払いの経緯を記したとみられる以下の文書では、2003年を最後に処理が止まっていた様子を伺い知ることができます。なお、2003年に26年間分の支払いをまとめて受けたのも、同年に債券を入手したイェール大学だったとのことで、今回の請求は2度目ということになります。
多額の基金を運用して1兆円以上の資産総額を持つとみられるイェール大学にとって、今回の請求は単純に利益を獲得するということよりも、実際に永久債が今でも有効であることを確認するためのアクションだったようです。1648年にこの公債で集められた30万ギルダーに上る資金は、オランダ国内を流れるレック川の堤防を築くために使われたそうです。
なお、この債券「Lekdijk Bovendams」は、イギリスの世界的オークションハウスの「クリスティーズ」で出品されていたこともある模様。実際に債券を手に入れて、数百年に及ぶ時の流れに身を投じるチャンスも残されているようです。