午前9時に着くようにと午前8時からのNHK『ゲゲゲの女房』を見てから出発。
やはり伊勢自動車道は混んでいる。
昨日の下見と同じルートなので気分は楽。
凌之の試合がある野球場は多気インターと大台インターのほぼ真ん中あたり。
今日は多気インターで降りて42号をゆったりと走る。
俺のエスティマはやっかいな癖があり・・・時速100kmあたりで10秒ほど加速を続けるとエンジンランプが点滅する。
森下の親父さんに診てもらったが、「しばらく様子を見ましょうか」
これがひと月ほど前だったが、その点滅も一旦エンジンを切るとリセットされるのでそれほど気にならなかった。
伊勢自動車道でやはり点滅。
多気インターに降りて一般道を走りながら信号待ちででもエンジンを切りリセットしようと考えていた。
すると赤信号・・・俺の前に2台の車が止まっている。
俺はいつものようにエンジンを切り、そして再びかけなおす・・・えっ?
カタカタカタ・カタ・カ・タ・・カ・・・タ・・・・・
42号の交差点である、瞬く間に渋滞。
とりあえずはハザードランプを点灯、俺は後ろの車を誘導する・・・当然、謝りながら。
でも、みんな笑っている、微笑んでいる。
近くの散髪屋のマスターが出てきて事故の際に置く指示燈を探し出してきてくれる。
通りがかりのトラックが止まり、おっちゃんが出てきてワイアーを出してくる。
「邪魔やからとりあえずは側道にでも動かそうや」
ところがニュートラルにギアが変わらず動かない。
そんななかで俺は臼井(4期生・臼井自動車)に電話。
臼井がエスティマがエンストした場所を聞いてから近くの整備工場に連絡してくれる。
トラックのおっちゃん、「俺、そろそろ退散するわ」
散髪屋のマスター、「処理が終わったら指示燈を店の中に戻しといてよ」
そこへ栃原自動車の社長がやって来る。
エスティマの牽引は部下にさせ、俺は社長の車に乗り込む。
「いやあ助かりました、この辺りの人、みんな優しいんで」
「そやなあ、ここいらの奴らは何かあったらみんな出てきてワアッとやりからな。ところで今からどこへ行くの」
「大台球場の野球の試合を見に行く途中なんです」
「また、なんで」
「実は塾をやってるんですけど、塾の生徒が今日野球の試合に出場するんですよ」
「高校か」
「いや、中学生です。高校も始まってますけど伊勢や津や松阪球場ですから・・・。大台球場では中学生の最後の大会です。今日の試合は松阪西と地元の大台中学の一戦です」
「じゃあ、このまま連れていったるわ」
「いいんですか」
「ああ、臼井さんとは兄弟以上の付き合いをさせてもらっているからな」
福島先生から連絡、「大丈夫ですか? なんならそっちへ行きましょうか」
臼井からも連絡があり、今からレッカー車に台車を載せて久居を出発、大台球場まで来てくれるとか。
大台球場に着くと試合はすでに始まっている・・・3回表、大台中の攻撃。
レフトに目をやると凌之。
「なんや、大台中が勝ってる」と隣で社長。
「ええっ」と俺、確かに3-0で大台中がリードだ。
しかし大台中、違うユニフォームの選手がネクストバッターズサークルで素振りしている。
・・・明和中と大台中の混合チームか。
社長はお客さんがあるからと帰っていく。
来週にでもお菓子持参でお礼に来なくっちゃ。
試合は大台中のピッチャーがいい。
アンコ型の体型でビュンビュン投げ込む。
それに小柄だがサードが滅法うまい。
やばいよ、これ。
凌之がそのサード強襲のゴロ!
しかしサードがうまくさばいて一塁送球、凌之はヘッドスライディング。
砂煙のあがるなか、塁審の手が上がる・・・アウト。
ぎこちない・・・慣れてへんのやろな。
その分、生きたいという気持ちは感じる。
チェンジとなったがレフトには背番号10番・・・えっ。
ダックアウト裏でお母さんが凌之の指をアイシングしている。
突き指か・・・。
勝負の趨勢は決まった・・・あのピッチャーで、4番バッター不在の状態じゃ3点差は攻略できない。
そして3点差のままで試合終了。
松阪市の大会では嬉野に次ぎ二位の松阪西が姿を消した。
まさかの初戦敗退。
松阪西の選手が泣きながらダックアウトから出てくる。
背番号7も泣いている。
携帯が鳴る・・・臼井だ。
「先生、今多気インターを降りたところです。そこまでどうやって行けばいいですか」
「11番目の信号を左折や。あとは道なり」
「11番目、数えてへんだな」
「だいたい7kmくらい、左折する交差点左側にサークルKがある」
「わかりました」
田んぼの畔に腰を下ろしタバコに火をつける。
今日は人の優しさが心に沁みた。
いつのまにか晴天、空の青もまた目に沁みる。