3人、下手へ去る。
ケビン、呆然と3人の後ろ姿を見送る。
音楽流れ、ケビン、スポットに浮かび上がり歌う。
下手より客席前へ。上手より舞台へ。
(ケビン、そのまま上手後方の椅子へ腰を下ろし、
眠りに入る。)
“これは夢か・・・幻か・・・
今見たことは物語のできごと
それとも真実・・・?
あれは過去に過ぎたこと・・・
でも今 通り縋る本当
夢なら夢で・・・それでいい・・・
痛む心が拒否する・・・
遥か彼方に
過ぎ去る真に・・・”
――――― 第 3 場 ―――――
遠くから、ケビンの名を呼ぶダスティンの声が
聞こえる。
舞台明るくなる。と、クリストファーの屋敷(居間)。
1場の風景。
椅子の上でケビン、眠り込んでいる。
横に、ケビンを起こすようにダスティン、立っている。
ダスティン「おい!ケビン!!ケビン!!全く、なんでそんな
ぐっすり眠り込んでるんだよ!!」
ケビン「う・・・ん・・・、煩いなぁ・・・」
ダスティン「寝るんなら自分の部屋で寝ろよ!!こんなとこで
迷惑だろ!?」
ケビン「・・・分かったよ・・・(目が覚め、ダスティンの顔を見、驚
いたように大声を上げる。)わああっ!!バンパイア!
!(思わず立ち上がる。と、膝の上の本が落ちる。)」
ダスティン「誰がバンパイアだ・・・アホ・・・」
ケビン「バン・・・バン・・・バンパイア・・・」
ダスティン「馬鹿!!今の世の中に、そんなものが本当に存在
する訳ないだろ!?中世のヨーロッパじゃ、あるまい
し・・・。」
ケビン「(目を擦って。)・・・先・・・輩・・・?」
ダスティン「・・・でなきゃ、俺は誰なんだよ!」
ケビン「(ホッとしたように。)・・・なんだ・・・よかった・・・!!」
ダスティン「何、夢見たこと言ってんだよ!」
ケビン「・・・夢・・・夢か・・・。そうだよね・・・夢ですよね・・・!!
なんか、とんでもない夢、見ちゃったな・・・。(笑う。)
でも、嫌に生生しくて・・・。」
ダスティン「・・・へぇ・・・」
ケビン「(本を拾いながら。)先輩が、もの凄く悪い奴で、バンパ
イアなんですよね・・・。それで、クリストファーと、妹の
マーガレットを仲間にしちゃうんだ・・・。(開いた本を見な
がら。)あれ・・・?さっきは気付かなかったけど、これっ
て日付が入ってるんだ・・・。なんか日記みたいだなぁ・・・
。」
ダスティン「おまえ、何読んでんだよ・・・。」
ケビン「それが、部屋で童話の原作を見つけて、クリストファー
が書いたにしてはえらく超大作で、面白そうだから先輩
と読もうと思って、持って来たんだ・・・。そしたら読んで
るうちに眠っちゃったみたいで・・・。夢の中で、すっかり
読み切ったみたいだな。(笑う。)」
ダスティン「(ケビンから本を取り、パラパラと捲って見る。)童話
・・・ねぇ・・・」
ケビン「いや・・・日記かも知れないな・・・。でも、そうすると一体
誰がこんな長い年月・・・」
ダスティン「誰が書いたか知らないが・・・早いとこ書いた本人に
見つかんないうちに、元のとこに戻してこい!嵐が
治まるまで、ここに置いてもらわなきゃならないんだ
。余計な詮索はしないに限る・・・。(本を差し出す。)」
ケビン「う・・・うん・・・。(本を受け取る。)」
ケビン、上手方へ行こうとすると、上手より
クリストファー登場。ケビン、思わず本を自分
の背後に隠す。
ケビン「あ・・・」
クリストファー「お2人共、ここにいらっしゃったんですか・・・。
そろそろお茶にしようと思って、フランクが部屋へ
呼びに行ったんですよ・・・。」
ダスティン「すみません・・・。」
ケビン、何か気不味い様子で、モゾモゾしている。
クリストファー「(ケビンの様子に何か気付いたように。)どうか
されましたか・・・?」
ケビン「いや・・・別に・・・」
ケビン、背を隠すようにゆっくり上手方へ。
その時、上手よりマーガレット登場。
マーガレット「お兄様!!」
ケビン、その声に驚いて、後ろに隠していた本を
落とす。
ケビン「わっ!!」
マーガレット「(ケビンが落とした本を拾う。)落としたわよ・・・。
(本を見て。)これ・・・お兄様の日記・・・。」
ケビン「え・・・?本当に日記・・・?ごめんなさい!!俺、日記
だと思わなくて!!面白そうな童話だから、退屈凌ぎ
に読ませてもらおうと思って・・・。」
クリストファー「(微笑んで。)いいんですよ・・・。日記は日記で
も、実話じゃあありませんから・・・。」
ダスティン「・・・と、言うことは・・・?」
クリストファー「空想日記みたいなものです・・・。」
ケビン「なんだ・・・。」
ダスティン「全部あなたが・・・?」
クリストファー「ええ・・・まぁ・・・。」
ダスティン「随分、沢山書かれてるようですね・・・。最初の日付
は可なり昔・・・百年以上前だったようだが・・・。それ
も、あなたの思いつき・・・?」
クリストファー「・・・ええ・・・。何か不審に思うことでも・・・?」
ダスティン「いや、別に・・・」
クリストファー「(中央に置かれたソファーを勧めるように。)どう
ぞ・・・。」
ダスティン、ゆっくりソファーの方へ。
クリストファー、続く。
ケビン「君・・・マーガレット・・・。」
マーガレット「ええ!初めまして!」
ケビン「いや・・・初めまして・・・と言うか・・・」
マーガレット「・・・どうかしたの?」
クリストファー「(ダスティンとケビンに紹介するように。)妹の、
マーガレットです。」
マーガレット「(ケビンに。)あなた・・・血の巡りがよさそう。(クス
ッと笑う。)」
ケビン「えっ・・・!?」
クリストファー「マーガレット!!」
マーガレット「・・・ごめんなさい・・・。」
クリストファー「・・・全く・・・言葉の知らない娘で申し訳ありませ
ん・・・。マーガレット、そう言うのを健康そう・・・
って言うんだよ。どうぞ。(ケビンにソファーを勧め
る。)」
ケビン、怪訝そうな面持ちで、2人を見ながら
ソファーへ。ダスティンの横へ腰を下ろす。
マーガレット、ダスティンの顔を見ると、一瞬
強張ったように立ち止まる。
ダスティン「・・・こんにちは・・・。」
マーガレット「・・・いらっしゃいませ・・・。私・・・あなたのこと・・・
知ってるわ・・・。」
ダスティン「俺を・・・?」
マーガレット「・・・ええ・・・。」
クリストファー「マーガレット、そんな筈はないよ。確かに、昔に
僕達が知った人に、似てはいるけれど・・・。」
ケビン「昔・・・知った人って・・・バン・・・」
クリストファー「知ったと言っても、ほんの数言、言葉を交わした
ことがある・・・と言うだけですよ・・・。」
ダスティン「・・・へぇ・・・」
その時、上手よりティーセットを持ったフランク
登場。
フランク「お茶の用意ができました。」
ケビン、フランクを見て、思わず立ち上がる。
ダスティン「ケビン!」
ケビン「・・・あ・・・何でもありません・・・。」
フランク、テーブルでお茶の用意を始める。
フランク「外は、まだまだ激しい雨風が吹き荒れております・・・。
この分だと、今日はここでお泊まり頂くしかありませんな
・・・。(お茶を其々の前へ差し出して。)どうぞ・・・。」
マーガレット「フランクの入れるお茶は、とっても美味しいの!」
ダスティン「いただきます・・・。(一口、口に含む。)」
マーガレット「(ダスティンが飲むのを、嬉しそうに見ていて。)
ね?美味しいでしょ?」
ダスティン「・・・ええ・・・確かに・・・。」
その言葉を聞いて、ケビン一口飲む。
マーガレット「甘い血の味がするわ!」
ケビン「(驚いて、思わずカップを覗き込む。)血!?」
クリストファー「冗談はよしなさい!すみません。」
ケビン「冗談・・・?冗・・・談・・・ね・・・(その時、カップで指を切っ
たように。)いっ・・・!」
ダスティン「どうした?」
ケビン「(作り笑いして。)は・・・はは・・・指、切っちゃったみたい
・・・。」
ダスティン「馬鹿だな。舐めときゃ治るよ!」
クリストファー「カップが欠けていたのですね。申し訳ありません。
フランク、お客様の傷の手当てを・・・。」
フランク「はい。」
ケビン「大丈夫です・・・。」
マーガレット「私に見せて!!(ケビンの手を取り、指を見詰め
思わず口に含む。)」
ケビン「あ・・・」
マーガレット「美味しい・・・」
クリストファー「マーガレット!!」
マーガレット「(手を離して。)・・・ごめんなさい・・・」
ケビン「(恐々、自分の指とマーガレットの顔を、交互に見比べ
る。)」
フランク「(傷テープを取り出して。)どうぞ、お手を・・・。」
ケビン「あ・・・大丈夫・・・本当に大丈夫です!!こんな切り傷
・・・!!唾付けときゃ、直ぐ治りますから・・・!!はは
は・・・」
クリストファー「(ケビンを見て。)・・・こちらの方は、お加減がお
悪いのでしょうか?何か震えていらっしゃるよう
ですが・・・。」
ケビン「(下を向いたまま。)お・・・可笑しいよ・・・こ・・・この人達
・・・。可笑しいよ、先輩!!(思わず立ち上がる。)丸で
バンパイア・・・」
ダスティン「(ケビンの言葉を遮るように。)馬鹿ケビン!!何、
血迷ったこと言ってんだよ!!」
ケビン「あ・・・」
ダスティン「さっきから言ってるだろ?この現代社会、物語の中
のドラキュラ伯爵や、フランケンシュタインが本当に
存在する訳がないんだ。ビクビクしてるから、何でも
かんでも可笑しいと思えるんだよ!」
ケビン「でも・・・」
ダスティン「ほら、その証拠に・・・(自分の首に掛けていた、十字
架の首飾りを外し、クリストファーの方へ差し出す。)
今夜のお礼にこれを・・・」
マーガレット「・・・十字架・・・」
クリストファー、マーガレット、フランク、その
十字架に一瞬、顔を強張らせる。
クリストファー「そんな・・・お礼なんて・・・。僕達は何も・・・」
ダスティン「生憎、俺達は他に金目のものを持ち合わせていな
いのです。遠慮せずに受け取って下さい。亡くなった
母から貰った、純金の首飾りです。売れば可なりの
値が付く筈ですよ。」
クリストファー「そんな大切なものなら尚更、僕達が頂く訳には
・・・。」
ダスティン「そんなに堅苦しく考えなくても、俺が持ってても、金
に代わるのがほんの少し早いか遅いか・・・ってだけ
ですよ・・・。(笑う。)それとも・・・他に、何か受け取
れない理由でも・・・?」
マーガレット「お兄様・・・。」
クリストファー「(微笑んで。)・・・いえ・・・。それではお言葉に甘
えて・・・。(手を差し出す。)」
フランク「クリストファー様・・・!」
ダスティン、ゆっくりクリストファーの手に、
十字架を乗せる。
クリストファー「・・・ありがとうございます・・・。」
ケビン「(ホッとしたように微笑んで。)・・・受け取った・・・。」
フランク「・・・クリストファー様・・・。さ・・・さぁ、もっとお茶を召し上
がって下さい!」
ダスティン「・・・ええ・・・」
ケビン「(欠伸をして。)何か・・・安心したら、急に眠くなってき
ちゃったな・・・」
ダスティン「ああ・・・」
ケビン「どうしたんだろ・・・駄目だ・・・目が勝手に・・・ちょっと・・・
失礼・・・」
突然、ダスティン、ケビン、ソファーに沈み込む
ように眠る。
マーガレット「どうしちゃったのかしら・・・。(ダスティン、ケビンに
近寄り覗き込む。)急に眠っちゃったわ・・・。でも・・・
ほら、今のうちよ!!」
クリストファー「マーガレット!(フランクを見る。)」
フランク「(その視線に気付いて。)お2人のお茶に、睡眠薬を入
れたのは・・・私です・・・。」
マーガレット「睡眠薬・・・?」
フランク「・・・この者達を見ていると・・・何故か、いやな予感がす
るのです・・・。」
クリストファー「いやな予感・・・?」
フランク「はい・・・。何か・・・我々のことを見透かしたような、この
人間の目を見ていると・・・。」
マーガレット「どうしちゃったの?フランクが、そんな風に怯えた
顔をするなんて。(笑う。)」
――――― “ダスティン” 4へつづく ―――――
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