ザック「・・・そんな・・・」
祖母「先生・・・私の治療費は・・・少しだけ待って下さいましね
・・・。この助けて頂いた命で、これからは私も働きに行くこ
とにしますから・・・」
ザック「・・・治療費のことなんて気にしないで下さい。僕は何も
金目当てで、あなたを助けようとしたのではないのですか
ら・・・」
祖母「でも先生・・・」
ザック「だからお金の心配などせずに、あなたはモアの為に1日
も早く元気になって下さい。」
祖母「・・・先生・・・」
ザック「さぁ、もう休んだ方がいい・・・(祖母に布団を掛ける。)」
祖母「・・・ありがとうございます・・・ありがとう・・・(涙声で。)」
ザック「(首を振る。)」
ザック、前方へ。
音楽流れ、ザック、スポットに浮かび上がる。
(カーテン閉まる。)
――――― 第 6 場 ――――― B
ザック「そうか・・・そうだ・・・そうだ!!俺の目指す道はこれだ!
!」
ザック、歌う。
“分かった自分の進む道
今までずっと迷い進めなかった道
やっと見つけた本当の
僕が歩むべき進路・・・
進む先に何があるのか
誰も分かりはしないけれど
自分で信じた道ならば
きっと後悔しない筈・・・”
その時、上手スポット、マービン登場。
マービン「どうした、ザック、こんなとこに呼び出して・・・」
ザック「(振り返り、マービンを認める。)マービン・・・悪い・・・」
マービン「なんだよ・・・」
ザック「おまえとはずっと一緒だったな、学生の頃から・・・」
マービン「なんだ、思い出話しでもするつもりか?午前中の診察
が長引いて、昼食まだなんだ。思い出話しなら、また今
度ゆっくり・・・」
ザック「マービン・・・俺はここを辞める。」
マービン「辞める・・・?辞めるってどう言うことだよ・・・」
ザック「俺の求める医療の在り方が、やっと分かったんだ。」
マービン「求める医療・・・?なんだそれ・・・」
ザック「ここにいたんじゃ、いつまでたっても俺はそこへは到達し
ない・・・それに気付いたんだ・・・。」
マービン「何、冗談言って・・・」
ザック「(首を振る。)本気だ。」
マービン「辞めるっておまえ・・・辞めて何するつもりなんだよ!!
ここはどうなるんだ!!」
ザック「おまえにその話しをしたかったんだ・・・」
マービン「ザック・・・?」
ザック「この病院は・・・おまえが跡を継いでくれないか・・・」
マービン「え・・・?」
ザック「・・・姉さんと結婚して、独立するつもりだったおまえには
悪いと思うが・・・この病院を任せられるのは、おまえしか
いないんだ・・・。この俺が・・・生涯のライバルと認めたお
まえしか・・・」
マービン「ザック・・・」
ザック、歌う。
“今まで気付かずに
長い時を過ごして来た
心の迷いと閉じたままの扉が
それでいいと納得させた・・・
けど重い扉を開け
気付いた真実の一歩を
今踏み出す・・・”
マービン、歌う。
“おまえの気持ちが分からない
一体何が言いたいのか
今のままでどこがいけないのか
ここまで2人切磋琢磨して
歩いて来た・・・
これからだって高めあって
進んで行けると信じてた・・・”
マービン「なのに何故・・・」
その時、上手よりアナベラ登場。
アナベラ「好きにさせてあげましょうよ・・・」
マービン「(振り返り、アナベラを認める。)アナベラ・・・」
ザック「姉さん・・・」
アナベラ「この子は昔から、一旦言い出すとそれを曲げることは
ないのよ。(笑う。)それに私達が変だと感じることでも
・・・ザックにはザックなりの考える道があってのことだ
と思う・・・きっと病院を辞めることも・・・ね?そうでしょ
?」
ザック「・・・姉さん・・・」
アナベラ「きっとあなたのことだから、モアを見て何か思うことが
あったのね・・・。だってあの子が来てからのあなた・・・
とても生き生きして、人が変わったようだったもの。」
マービン「アナベラ・・・」
アナベラ「行きなさい・・・あなたが信じた道を・・・。この病院のこ
とは、マービンと私に任せて・・・」
ザック「(嬉しそうに。)はい・・・姉さん!」
ザック、上手へ走り去る。
マービン「おい、ザック・・・!」
アナベラ「いいじゃない、マービン。」
マービン「けど・・・」
アナベラ「あの子はこんなところでジッとしているような子じゃな
いわ・・・。きっとあなたはいい顔しないでしょうけど・・・
慈善事業・・・なんてことに自分の腕を捧げるつもりな
のよ・・・。」
マービン「・・・慈善・・・事業・・・」
アナベラ「ね?そんなことに興味のあるあの子に、この病院を任
せたらどうなると思う?利益よりも感情優先で、きっと
経営は傾いてしまうでしょうね。」
マービン「おいおい・・・俺が丸で利益ばかりを追い求める、悪徳
医師みたいな言い方だな。」
アナベラ「あら、違うわ・・・あなたはとてもいいお医者様よ。腕も
いいしね。少し打切棒なだけ・・・私は分かっているわ
・・・。情に厚いザックと、丁度2人でいいコンビだと思っ
ていたけれど・・・。まぁ仕方ないわね・・・。」
マービン「アナベラ・・・」
アナベラ「さぁ、これからもっと、あなたは忙しくなるわよ。」
マービン「やれやれ・・・」
2人、下手へ去る。
――――― 第 7 場 ―――――
カーテン開く。と、ハミエル邸居間。
中央ソファーに座り、エレナ、編み物に
手を動かしている。
その時、3時を示す時計の音。
と同時に、下手よりマーベリック、
ティーセットを乗せた盆を持ち、登場。
マーベリック「奥様、お茶が入りました。」
エレナ「まぁ、丁度だこと・・・。モアちゃんの支度は、済んだ頃か
しら?」
マーベリック「はい、間もなくだと・・・」
エレナ「もう帰ってしまうのね・・・。淋しくなるわ。あの元気な笑
い声が聞けなくなると思うと私・・・(涙を拭うように。)」
マーベリック「奥様・・・」
エレナ「また大人だけの味気ない我が家に戻るのね・・・」
その時、上手よりメイド登場。
メイド「奥様、モアさんの準備が整いました。」
エレナ「あら、そう。」
そこへ上手より美しく着飾ったモア登場。
エレナ「まぁー・・・モアちゃん!!なんて可愛らしいのかしら!!
丸でお人形さんみたいだわ!!(モアの側へ。)」
モア「おばちゃん・・・あたい・・・」
エレナ「アナベラのドレスを取って置いて、本当良かったわ。矢
っ張り女の子ね。フリルがよく似合うこと・・・」
モア「あたい・・・こんなワンピース・・・今まで一度だって着たこと
ない・・・」
エレナ「勿体無い話しだわね、こんなに可愛らしい女の子が、今
まで・・・生まれてから一度もドレスを着たことがなかった
なんて・・・(モアのドレスを整えながら。)」
その時、下手よりザック、幾分慌てた
様子で登場。
ザック「母さん!」
エレナ「まぁどうしたの、ザック・・・そんなに慌てて・・・」
ザック「僕はここを・・・!(モアに気付き。)あ・・・すみません、お
客様でしたか・・・」
モア「お客なんかじゃないぜ、兄ちゃん。」
ザック「え・・・?」
モア「(振り返り。)あたいだよ!」
ザック「モア・・・?モアじゃないか・・・!?どうしたんだよ、丸で
いいとこの娘さん・・・あ・・・失礼・・・」
モア「いいよ。あたいだって自分でビックリしてんだ!こんなに大
変身・・・」
エレナ「本当、可愛らしいでしょう。うちの子ならどんなにいいか
・・・。それなのにもう、あんな離れた淋しい場所へ、帰っ
てしまうなんて・・・。私、悲しくなってしまう・・・。お祖母様
が良くなられたのは、喜ばしいことだけれど・・・」
モア「おばちゃん・・・」
ザック「それならば母さん・・・愛着のある家へ戻ると言うモアを
、彼女の思い出の詰まった家ごと、広く持て余し気味の、
我が家の庭へ来て頂いたらどうです?」
モア「・・・え?」
エレナ「我が家のお庭へ・・・?」
ザック「ええ。どうせ草木や花を植えるくらいしか、使い道はない
のでしょう?」
エレナ「・・・そうね・・・そうだわ、ザック。それはいい考えだわ!
それなら会いたい時に直ぐに会えるし、庭師の仕事も楽
になる・・・モアちゃんもお父様、お母様の思い出の沢山
詰まった家と離れなくていい・・・お祖母様にも病院の直ぐ
側で、ゆっくり過ごして頂けるものね。ね、モアちゃん!そ
うなさいよ!それであなたはここから学校へ通えばいい
わ!今度は見た目だけでなくて、中身も本物のレディに
なる為にね!まぁ・・・でもなんていいアイデアかしら!!
なんだかワクワクしてきたわ!(笑う。)」
モア「おばちゃん・・・けど・・・」
エレナ「大丈夫!あなたは何も心配しなくて!教育と食事の代
わりに、我が家を賑わしてくれれば、それでいいのよ。」
モア「・・・賑わす・・・って・・・」
ザック「お祖母さんと2人、うちに来て食事を一緒にしてくれたら
、それでいいんだよ。」
モア「・・・兄ちゃん・・・本当に・・・?」
ザック「ああ・・・」
モア「祖母ちゃんも・・・先生達の側なら安心だね・・・」
ザック「・・・そうだな・・・」
モア「うん・・・あたい・・・あたいここで暮らしたい・・・!初めて出
来た祖母ちゃん以外の家族・・・おばちゃんや姉ちゃん・・・
それに兄ちゃんとずっと一緒にいられるなら・・・あたい・・・
嬉しい・・・」
エレナ「私達も嬉しいわ。さぁ、そうと決まれば早速、庭の整備を
しなくちゃね。マーベリック!マーベリック!」
下手よりマーベリック登場。
マーベリック「はい、奥様・・・」
エレナ「モアちゃんが家ごと我が家の庭へ越して来ることになっ
たのよ!!」
マーベリック「お庭へ・・・ですか・・・?」
エレナ「ええ!だから直ぐに業者を呼んで、庭の整備をして頂
戴!急いでね!」
マーベリック「はい・・・分かりました。」
マーベリック、下手へ去る。
エレナ「ああ、本当に楽しみだこと・・・ねぇ、ザック!・・・どうした
の?なんだか思い詰めたような顔をしているけど・・・」
ザック「・・・母さん・・・」
エレナ「・・・ザック・・・?」
ザック「・・・さっき言おうとしたことが・・・」
エレナ「・・・ええ・・・」
ザック「僕は・・・」
エレナ「・・・なんなの・・・?」
ザック「・・・この家を出ます・・・」
エレナ「家を出る・・・?家を出るって・・・」
モア「兄ちゃん・・・」
ザック「僕は病院を辞めて、僕の医療が求められ・・・望まれる
場所へと・・・行くことに決めました。」
エレナ「何を言っているの?ここでもあなたは求められ、望まれ
る立派なお医者様ではないの?」
ザック「確かに母さん・・・ここでは毎日、沢山の患者が病を治し
に訪れます。僕はそんな人達の・・・少なからず役に立っ
ているかも知れない・・・。だが世の中には病院に行きた
くても、行けない人だっているのです・・・。モアのお祖母さ
んがそうであったように・・・。本当に医療を必要としてい
るのは、そう言った望んでも叶えられない境遇にいる人た
ちだ・・・。だから僕はそんな人達の為に、僕に出来る・・・
僕の持つ力を役立てたいのです。」
エレナ「ザック・・・」
ザック「僕は今まで父さんの背中を見て・・・父さんのひくレール
の上を・・・父さんの後をついてただ歩いて来た・・・。けれ
どこれからは、自分で選んだ道を・・・自分が望んだ場所
で・・・自分の出来うることをしていきたいと・・・そう思うの
です。」
エレナ「・・・それは、ここでは出来ないことなの・・・?」
ザック「はい・・・すみません、母さん・・・今まで自由にさせてくれ
たことに、感謝しています。たとえ父さんがひいてくれたレ
ールだとしても、そのレールに乗せてもらったお陰で、僕
の目指す・・・これからの道へとつながって行くことが出来
るのですから・・・」
エレナ「ザック・・・(涙を拭う。)」
ザック「母さん・・・何も二度と会えなくなる訳じゃないのですよ・・・
。」
エレナ「・・・そうね・・・ごめんなさい・・・あなたの選んだ道だもの
ね・・・。笑顔で送り出してあげなくてはね・・・」
ザック「母さん・・・ありがとう・・・。モア・・・俺がいなくなった後は、
おまえのその笑顔で、母さん達を和ませてくれるかい・・・
?」
モア「・・・(下を向く。)」
ザック「・・・モア・・・?」
ザック、モア残してカーテン閉まる。
――――― “Thank you!リトルレディ”
5へつづく ―――――
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(どら余談^^;)
書き上がったので、全8場となりました(^_^;)
今回は書き上げるのに、少し時間を要しました・・・(>_<)
なぜなら自分で書きながら、話しの進む方向がハッキリと
決まっていないまま、書き続けていたからです・・・(ーー;)