アル「マハルが怪我をして、舞台に立てなくなったんだ。その代
わりに君が踊るんだよ!!分かるかい?あの素晴らしい
踊りを、皆の前で踊るんだ!!」
リリ「・・・私・・・できない・・・」
アル「え?」
リリ「・・・私、踊れないわ!!(アルの手を解いて、背を向ける。
)」
アル「そんなことないさ!!君は踊れるよ!!必ず!!(リリの
肩に手を掛ける。)」
リリ「(首を振る。)踊れない・・・」
アル「どうして?」
リリ「(振り向いて、アルを見る。)今まで人前で踊ったことなん
て、一度もないんです!!習ったことだって・・・。ただ母さん
の踊りを見よう見真似で踊ってただけで・・・私・・・」
アル「大丈夫!!君なら絶対に!!」
リリ「駄目よ・・・踊れない!!」
アル「(上着の内ポケットから1枚の写真を取り出し、リリに手渡
す。)・・・見てごらん・・・」
リリ「(写真を見て驚く。)・・・これは・・・」
アル「(微笑んで。)君だ・・・。あの雑木林の中で、楽しそうに踊
っている君を初めて見た時・・・俺は自分の目を疑ったよ
・・・この世の中に、こんな素晴らしい踊りを踊る人のいる
ことに・・・。思わずカメラのシャッターを押し続けたんだ・・・。
あの時の君は・・・本当に美しかった・・・何よりも・・・誰より
も輝いていたんだ・・・。」
リリ「・・・私が・・・?」
アル「(頷く。)そう、君だ・・・。他の誰でもない・・・リリ・・・君が輝
いていたんだ・・・。君は他の誰よりも一番美しく・・・素晴ら
しく踊ることができるんだ・・・!!君の母さんと同じように
・・・。」
リリ「(胸元を見詰め、ネックレスをそっと手に握る。)母さんと・・・
おなじように・・・」
アル「・・・君なら踊れる・・・」
リリ「・・・(ゆっくり頷く。)」
アル「(思わず、リリの両腕を掴む。)じゃあ出るんだね・・・!」
リリ「・・・私は・・・小さい時から母さんの踊りはいつも見てきた
わ・・・。母さんの踊りは・・・子どもの私が見ても、身震いす
る程素晴らしかった・・・。私もあんな風に踊りたいと・・・思
っていたの・・・いつも・・・」
アル「俺は君の母さんの踊りを、実際に見た訳じゃないから、
何とも言えないが・・・君の踊りに俺は・・・心から感動した
んだ・・・。」
リリ「(不思議そうにアルを見詰める。)・・・どうしてそんなに
熱心に踊ることをすすめるの・・・?」
アル「(リリの手を取って。)君はもっと自信を持っていいんだ
・・・。踊ることによって・・・皆に認めてもらうことによって
君はもっと輝くことができると信じている・・・。」
リリ「アル・・・」
見詰め合う2人で、暗転。
――――― 第 10 場 ―――――
カーテン前。
座員達、賑やかに歌い踊る。
音楽のまま、カーテン開く。と、
一座の舞台の様子。
客達、騒々しく歓声を上げたり、口笛を
吹いたりして座っている。
座員達の歌が終わり、司会をしている
ルダリ、進み出る。
ルダリ「続きましては、当一座のスター、リリ!!」
客1「リリ・・・?」
客2「マハルじゃねぇのかよ!!」
客3「マハルを出せ!!」
客達、口々に不満の声を上げて
いる。
下手方から舞台に上がろうとして
いたリリ、この声に後退りする。
ルダリ「(焦った様子でリリを見て。)リリ!!」
リリの後ろからアル登場し、
その肩にそっと手を掛ける。
アル「(優しく。)君なら必ず踊れる・・・」
リリ「・・・アル・・・私・・・」
アル「俺がついているよ・・・それに君の母さんだって・・・」
アル、そっとリリの背中を押す。
リリ、ゆっくり舞台中央へ。
音楽流れる。(リリの踊り。)
騒いでいた客達、リリの踊りが始まると
呆然と見詰める。
リリ、決めのポーズ、客達の歓声、
拍手喝采の中、アル残してカーテン閉まる。
嬉しそうなアル。一時置いてカーテン中央
より、興奮した様子のリリ、飛び出すように
登場。
リリ「アル!!踊れた・・・踊れたわ!!私!!」
アル「素晴らしい踊りだったよ。(微笑む。)」
リリ「・・・あなたのお陰よ・・・あなたがいてくれたから・・・」
アル「俺は何もしていない・・・君が自分の力で踊ったんだよ。」
リリ「・・・ありがとう・・・」
2人、嬉しそうに見つめ合い手を取る。
暗転。
――――― 第 11 場 ―――――
カーテン開く。(一座の小屋。)
ロバン、マーゴ、話しながら登場。
ロバン「だけどあいつがあんなに踊りが上手いとはね。」
マーゴ「本当ね!!初めは失敗するのがオチだと思っていた
けど、失敗どころか・・・(笑う。)」
ロバン「全く、マハル以上だぜ、ありゃ!」
マーゴ「何言ってんのさ!マハルくらいの踊りなら、誰だって
ちょっと練習すれば踊れるのよ!!」
ロバン「おまえでも?」
マーゴ「勿論さ!だけどやっぱり血は争えないもんだねぇ・・・。」
ロバン「そうだな。最初はジジイ付きで厄介なお荷物だと思って
いたが・・・」
マーゴ「左団扇ね!!」
2人、笑いながら出て行く。
下手より座員達、談笑しながら出る。
上手より松葉杖を付いたマハル、
ゆっくり出る。
座員達、マハルを認め、口を噤む。
エヴァ「いい気なものよねぇ・・・。たいした踊りも踊れないくせ
に、スター気取りだったんだから。」
サミー「そうだよな!笑っちまうぜ。」
マックス「よく考えたら、俺達だってあれくらいの踊りなら、十分
踊れるんだ。」
ルダリ「やめろよ!」
座員達、憮然と黙って出て行く。
ルダリ、マハルの側へ。
ルダリ「マハル・・・歩いて大丈夫なのか?」
マハル「・・・私のことなんか放っといてよ!!」
ルダリ「マハル・・・」
マハル「一人にしてよ!!」
ルダリ、マハルを気にしながら出て行く。
マハル、足を引き摺りながら、ソファーに
ゆっくり腰を下ろす。
そこへ、薬箱を持ったリリ入って来る。
リリ「マハル・・・?」
マハル「(チラッとリリを見て。)何よ!!(打切棒に。)一人に
してよ!!」
リリ、マハルの側へ。
マハル「何!?いい気なもんね!!嘸かしいい気分でしょ!!
今やあなたはこの一座のスターですもんね!!おまけ
にアルといい感じになっちゃって何なの!?負け犬の
顔でも拝みに来たの!?」
リリ「(マハルの傍らへ膝を付く。)さぁ、湿布の交換をしましょう
・・・。」
マハル「(リリの手を払い除ける。)自分でやるわよ、それくらい
!!他の誰ももう私の面倒なんて見に来やしないわ
!!なのになんでスターのあんたが、こんなことしに
来るのよ!!」
リリ「(落とした湿布を拾い、マハルの手当をしながら。)・・・私
はスターなんかじゃありません・・・」
マハル「ふん、よく言うわね!!毎晩舞台に立って、拍手喝采
浴びておきながら!!」
リリ「私はただ踊りが好きなだけ・・・スターになりたくて踊って
いる訳じゃありませんから・・・。マハルさんの怪我が早く
治って、舞台に立てる時が来たら、私はもう舞台には立ち
ません・・・。」
マハル「あんた・・・他の連中がそんなことを許す訳ないじゃな
い!!現に私なんかよりずっと上手く踊って見せてる
んだから!!」
リリ「(首を振って。)私は・・・一人の人の為だけに踊りたいん
です・・・。その人の為だけに・・・」
マハル「一人の・・・あんた・・・アルに本気で惚れてるの・・・?
」
リリ「・・・私を初めて認めてくれた人なんです・・・。ここに来て
から私は、誰にも認めてもらえず・・・私もそうされようとは
思ってきませんでした・・・。でも、そんな私を心から励まし
て・・・力付けてくれた人なんです・・・。」
マハル「呆然とリリの顔を見る。ハッとして。)馬鹿馬鹿しい!
!」
リリ「(嬉しそうに。)そうかも知れません・・・。さぁ、そろそろお
部屋に戻って休んだほうがいいですわ。・・・立てる・・・?
(マハルに手を差し出す。)」
マハル「(その手に一瞬驚くが、ゆっくり手を差し出す。)・・・
ありがと・・・」
マハル、リリの肩に掴まって、2人
ゆっくり出る。
一時置いて、アル、ダンドラ登場。
少し離れて助手ミシェル、鞄を持って
2人に続く。
ダンドラ「(ミシェルに向かって。)少し遊んで来ていいぞ。」
ミシェル「ホントに?じゃあ・・・はい!(鞄を置いて出て行く。)」
アル「(嬉しそうに。)でも驚いたよ、まさかおまえにここで会え
るとはね。それで一体、何しに来たんだ?こんなところへ
。」
ダンドラ「(ソファーに腰を下ろし。)いやぁ、何、おまえがこの村
である物に夢中になってるらしい・・・と耳にしたもんで
ね。その夢中になってる物とやらに、一寸ばかし興味
があったのさ。(笑う。)」
アル「・・・ははぁ・・・本当はレイモン達に頼まれたんだな。」
ダンドラ「バレたか・・・。だが頼まれたから来たんじゃないぜ。」
アル「で・・・ある物って?」
ダンドラ「おいおい、それはこっちがじっくり聞かせてもらいたい
ものだね。全くおまえらしいさ。昔っからおまえは一つ
のことに夢中になると、それに没頭してしまうところが
あったからな。(嬉しそうに。)で・・・?どんな娘だんだ
?」
アル「おまえ・・・どうしてそれを・・・?」
――――― “アル・ロー”6へつづく ―――――
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