りとるぱいんわーるど

ミュージカル人形劇団“リトルパイン”の脚本の数々です。

“アル・ロー” ―全16場― 3

2013年02月22日 20時01分09秒 | 未発表脚本

      ――――― 第 7 場 ―――――

 

         絵紗前。(アルのオフィス。)

         フーケ、ロベール、デスクで仕事をしている。

         レイモン、急いで入って来る。

 

  レイモン「(デスクの上に、持っていた書類を置く。)ロベール!

       先生から連絡は?」

  ロベール「(立ち上がって。)いいえ、今週に入ってからはまだ

        一度もないですよ。」

  レイモン「可笑しいなぁ。今まで作品撮りの放浪の旅に出ても、

       連絡だけは毎日忘れずに入ってたのに・・・」

  フーケ「本当だな・・・。」

 

         そこへアナベル、入って来る。

 

  アナベル「レイモン!市長とオットーさんがお見えになっている

        んだけど・・・!(困ったように。)」

  レイモン「え?本当か?何だって・・・?}

  アナベル「先生に会いたいって・・・」

  レイモン「・・・仕方ない・・・俺が会うから入ってもらってくれ・・・」

  アナベル「はい。」

 

         アナベル、一旦退場。レイモン、フーケ、

         ロベール、緊張した面持ちでデスクの前

         へ進み出る。

 

  フーケ「なんだろう・・・」

  レイモン「(服を整えながら。)さぁ・・・。だが、先生がいないん

       じゃ仕方ないし・・・かと言って会わずに帰ってもらうの

       も失礼だし・・・」

  ロベール「一言連絡してから来てくれたらいいのに・・・」

  レイモン「しっ!!」

  ロベール「(舌を出す。)」

 

         その時、市長、オットー、アナベルに案内

         されて入って来る。

 

  レイモン「ようこそおいで下さいました。(手を出して、市長達に

       近寄る。)」

  オットー「いやあ、レイモン君。悪いね、急に押し掛けたりして。

       (レイモンと握手する。)」

 

         レイモン、続いて市長と握手する。

         アナベル、礼をして退場する。

 

  レイモン「いえ、今日はまた何か?」

  オットー「アルはもう戻っているかね?」

  レイモン「それがまだ・・・」

  市長「まだ帰って来てないのか?」

  レイモン「はい・・・申し訳ありません。」

  オットー「実はこの月末に市長主催の園遊会を催すことになっ

       たのだが、その席に是非アルを・・・と言われるのだ。」

  レイモン「それは光栄です。」

  市長「アルとは連絡が取れるかね?」

  レイモン「それが・・・今週に入ってから、まだ一度も・・・」

  オットー「何、連絡が取れないのか?」

  レイモン「すみません・・・。」

  オットー「一体今度の彼の夢中の元は何だ。居場所くらいは分

       かるんだろうな?」

  レイモン「はぁ、大体のところは・・・」

  オットー「それならば園遊会に間に合うように、アルを連れ戻し

       て来るんだ。」

  市長「いや、何、アルが無理だとすれば仕方ない。他の者を当

     ることにするよ。アルには園遊会より素晴らしい作品を撮

     ってもらうことの方が大事だ。(笑う。)」

  レイモン「・・・本当に申し訳ありません・・・。」

  市長「では、私はこれで失礼するよ。(先に出口へ向かう。)」

  オットー「(レイモンの方へ近寄って。)兎に角、アルを連れ戻し

       て来るんだ!!」

  レイモン「はい・・・努力します・・・。」

  オットー「頼んだぞ!(足早に市長を追って、出て行く。)」

  レイモン「(オットーが出て行くのを見計らって。)参ったなぁ・・・」

  フーケ「どうする?」

 

         レイモン、横にあるソファーに腰を下ろす。

 

  レイモン「どうするもこうするも・・・また余計な仕事が増えちま

       った・・・。」

  フーケ「余計な仕事・・・?」

  レイモン「ああ、先生を連れ帰るって仕事さ。」

  フーケ「成程。」

  レイモン「何、感心してんだよ!俺達は今、次の個展の準備で、

       非常に忙しいんだ!!」

  ロベール「特にレイモンさんは先生の変わりを一手に引き受け

        てますもんね。」

  レイモン「オットーさんにああは言ったが・・・居所さえ定かでは

       ないのに・・・。頭が痛くなってきた・・・。今日こそは連

       絡が入ることを祈るよ・・・。」

 

         アナベル、入って来る。

 

  アナベル「レイモン!ダンドラさんと助手のミシェルさんが来ら

        れてるんだけど・・・。」

  レイモン「え・・・?何しに来たんだ、あいつら・・・」

  アナベル「どうする?帰って頂く?」

  レイモン「いや・・・いい、会おう。どこにいる?」

  アナベル「廊下でお待ちよ。」

  レイモン「分かった。」

 

         レイモン、フーケ、ロベール残して

         カーテン閉まる。

         上手よりダンドラ、ミシェル登場。

 

  レイモン「お待たせしました。何か御用ですか?」

  ダンドラ「いや、たいした用事ではないのだが・・・アルはいるか

       い?」

  レイモン「いえ・・・先生は今、作品撮りの旅に出ています。先生

       に何か・・・?」

  

  ミシェル「(ダンドラに向かって。)ね!先生、本当みたいでしょう

       ?(嬉しそうに。)」

  ダンドラ「そうか・・・あの噂は本当かも知れないな・・・」

  フーケ「あの・・・噂って・・・」

  ダンドラ「アルの奴が、田舎町で芝居一座の娘に夢中になって

       るって話しさ・・・」

  レイモン、フーケ、ロベール「声を揃えて。)えーっ!!」

  ダンドラ「アルから連絡はあるのか?」

  レイモン、フーケ、ロベール「(3人揃って首を振る。)」

  ダンドラ「矢っ張りな・・・。仕方ないなぁ・・・あいつは昔から、一

       つのことに夢中になると、他のものは見えなくなるんだ

       。」

  レイモン「あの・・・ダンドラさんは、うちの先生とはライバル・・・

       ですよね・・・?」

  ミシェル「決まってるだろ!」

  レイモン「いや・・・なんかダンドラさんって、うちの先生のこと・・・

       やけに詳しいようだから・・・」

  

  ダンドラ「ライバル・・・と同時に親友さ・・・(含み笑いする。)」

  レイモン、フーケ、ロベール、ミシェル「(声を揃えて。)えーっ!

                         !」

  ダンドラ「(ミシェルに向かって。)おまえまで何、一緒になって

       驚いてるんだよ!」

  ミシェル「だって、俺だって今まで知らなかったですよ!!」

  フーケ「もう長いんですか?」

  ダンドラ「ああ・・・餓鬼の頃は家が隣同士だったからな・・・」

  ロベール「じゃあ幼馴染なんだ!」

  ダンドラ「そう言うことになるかな。」

  レイモン「全く知りませんでしたよ・・・」

  フーケ「うん・・・単に仲の悪い、ライバル同士かと思ってた・・・」

  ダンドラ「(笑って。)別に言い触らす話しでもないから・・・。それ

       よりアルの奴、放って置くのか?次の個展も決まってる

       んだろ?」

  レイモン「そうなんですよ・・・。おまけに市長から園遊会の誘い

       もあって・・・」

  ミシェル「へぇ。うちの先生も出席するんだぜ!」

  ダンドラ「まだ出るとは言ってないだろ!」

  ミシェル「えー・・・」

  レイモン「スポンサーのオットーさんから、先生を連れ戻すよう

       に言われてるんです。」

  フーケ「先生の居場所も定かでないのにですよ。」

  ダンドラ「それなら大丈夫だ。」

  レイモン「え?」

  ミシェル「俺の田舎にいるんだぜ。」

  フーケ「本当に?」

  ミシェル「田舎の友達が手紙で教えてくれたんだ。雑誌で見た

       アル先生の顔を覚えてたらしくて・・・。さっきの噂もそ

       いつから仕入れたんだ。」

  ロベール「(レイモンの向かって。)一先ず良かったですね、先

        生の居場所が分かって。」

  レイモン「まぁな・・・。ダンドラさん、助かりました。ところで・・・

       誰が先生を連れ戻しに行くかだが・・・(困ったように、

       フーケ、ロベールの顔を見る。)」

  ダンドラ「俺が行こうか?」

  レイモン「・・・え?」

  ミシェル「先生!!冗談でしょ!?」

  ダンドラ「いいや。あいつが何に夢中になっているのか、興味

       があるからさ。(嬉しそうに。)」

  レイモン「でも・・・」

  ダンドラ「心配するなって。必ず連れて戻って来てやるから。」

 

         フェード・アウト。

 

      ――――― 第 8 場 ―――――

 

         カーテン開く。

         芝居小屋の舞台裏。

         下手よりアル、カメラを片手に登場。

         物珍しそうに回りを見回して、ゆっくり

         上手方へ。

 

  アル「へぇ・・・ここが彼らの生活スペースか・・・」

 

         その時、上手より慌てた様子のリリ、

         走り登場。

 

  リリ「ティボー!!」

  アル「(リリを認め、嬉しそうに。)やぁ。何をそんなに慌てている

     んだい?」

 

         リリ、アルがいることに気付いて、一瞬

         驚いて立ち止まる。

         ゆっくりと、アルの横を通り下手方へ。

         通り過ぎると、再び“ティボー”の名を

         呼びながら駆けて行く。

         アル、その様子を振り返って見詰める。

         下手よりティボー、登場。

 

  リリ「(ティボーを認め、嬉しそうに駆け寄る。)ティボー!!見て

    頂戴!!」

  ティボー「(驚いて。)どうされました?お嬢様!」

  リリ「母さんの形見箱の中から、ほら・・・(手に握っていた物を

    ティボーに見せる。)」

  ティボー「それは・・・」

  リリ「そう!!母さんがいつも舞台で身に付けていたもの・・・

    いくら探しても見つからなかったから、もう諦めていたのに

    ・・・嬉しい!!」

 

         アル、端で2人の様子を見ている。

         リリ、その手に持っていたネックレスを

         着ける。 

 

  リリ「見て!!・・・似合う・・・?」

  ティボー「はい!!それはもう・・・。お嬢様はマルティーヌ様と

       瓜二つでございますから・・・(思わず涙ぐむ。)」

  リリ「ティボー、泣かないで。私まで悲しくなってしまう・・・(ティ

    ボーにそっと手を添える。)」

  ティボー「申し訳ありません・・・(涙を拭う。)」

  リリ「(胸元をネックレスをそっと手で包んで。)母さんが側に

    いる・・・これからはいつも側にいてくれるのね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ――――― “アル・ロー”4へつづく ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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