ここ数日、異常気象やそれに関連する報道記事が、それこそ矢継ぎ早の様相で紹介されている。
Guterres国連事務総長からは「地球が温暖化の局面をすぎ、沸騰化の新局面に突入した」とする発言さえ、一昨日飛び出している。7月4日、Washington Postは、この暑さを125,000年間で最高に暑い日と形容している。
熱帯の暖かい表層海洋水がメキシコ湾流にそって大西洋北部へ運ばれ、そこで冷却されて深海へと沈みこみ、そして反転して南へと向かっていく極めて大きな海流循環システムが存在している。
北極圏に存在する永久凍土は、大気中の約3倍の二酸化炭素を、そして200倍のメタンガスを閉じ込めている一種の装置とも言える。
人の体には、あるレベルまでは熱気に良く順応して体温を一定に維持する一種の超能力と言っても良い内部システムが存在している。
地球や人を含む自然界には、このような装置やシステムが他にも数多く存在しており、そのお陰で自然界の恒常性や安定性が保持されている。
いま我々が日々目撃している光景は、地球が我々に与えてくれているそのような装置やシステムにも、許容限界、即ちシキイ値(tipping point、thresholds、yield value)が厳然と存在しているということ、そして我々は厳然と存在しているシキイ値を強く意識することの重要性を学び、我々が取るべき迅速で、そして効果的な対策にそれを活かしていくことが求められているのだろう。
良く言われる、一旦シキイ値(tipping point、thresholds、yield value)を越えると、人間の力では到底制御不能の次から次への悪循環が始まり、例えば気温の制御で言えばParis合意目標の1.5や2℃以内に抑制どころか4℃にも及ぶ加速的上振れも、指摘されている。
我々はまだ虎の尾を踏んでしまっていないのであればよいのだが。
そんなことを、思わざるを得ないここ数日の報道記事を以下に紹介したい。
1.命の危険すら感じる暑さを考える。研究者らがボランティアの協力のもと調べている。
NBC NEWS 2023年7月6日 Aria Bendix氏記す
身の危険を感じる熱波がアメリカを覆い続けている。そんな中、外気温が華氏104~122度(40~50℃)になると人の体は外界に順応して正しく働くことが出来なくなる可能性がある、との証拠が新たに出されている。
スコットランドのエジンバラで開催されていた実験生物学会年次大会において木曜日に発表された研究によると、外気温が上記の範囲になり、高い外気温にさらされると、人の安息時の代謝率に比べて、人の代謝率は上昇するという。ここで人の安息時の代謝率とは、人が休息している時に必要とされるエネルギー量のことを言う。
そして一旦人の代謝率が上昇し始めると、人の呼吸は荒くなり、脈拍は上がっていき、そして外界からの過剰な熱(熱ストレス又は暑熱ストレスとも訳されるheat stress)を体外に逃がすことが最早出来なくなると、人の体幹の温度が上がり始め、その結果として混乱(confusion)、はきけ(nausea)、ねむけ(dizziness)、頭痛(headache)や失神(fainting)が誘発される。
「人は、ある点までは通常、熱気にとても良く順応する」と、この研究を行ったRoehampton大学のLewis Halsey教授が語っている。
Lewis Halsey教授は数年にわたり関連する一連の研究を行っており、2021年の最初の研究においては60才以下の13人のボランティアの協力のもと、幾つかの温度と湿度の環境に1時間人がおかれた際の代謝率・体幹温度・血圧・心拍数と呼吸数を測定し、それらの値と安息時の値との比較を行い、華氏104度(40℃)以上の気温になると人の代謝率が上がること(気温40℃湿度25%の場合35%の増加、気温50℃湿度50%の場合56%の増加)を認めていた。体幹温度については気温40℃湿度25%の場合は、上昇は見られないが、気温50℃湿度50%の場合には体幹温度が1℃上昇し、心拍数は64%上昇した、としていた。
Halsey教授もボランティアとして実験に参加し、過酷な環境を体験した印象を次のように語っている。「汗をかいて体温をさげることは、人間にとって一種の超能力といっても良いものであるが、しかし気温が50℃、湿度50%の環境では、かいた汗の行き場がなくなり、発汗-体温冷却システムが正常には働かない“かなり厳しい” 環境だと言える。」
そしてHalsey教授は気温50℃湿度50%の環境のもとにボランティアの人々が長時間おかれた場合には、生存できなかった可能性があったと推定している。
2.チュニジアの異常気温、サハラ砂漠以南の国からの避難移民らが「もう耐えられない」状況に置かれている。
AlJazeera 2023年7月24日 Simon Speakman Cordall氏記す
国際移民機関(International Organization for Migration、IOM)事務所の外に用意された仮設テントは焼ける大地の上で、灼熱の太陽に照らされ、誰もいないも同然に立っている。
100人ほどの正規な手続きを踏んでいないIOM事務所の外に寝起きする避難移民の1人Kellyさんは、「もう耐えられない。からだを休め、安らかに過ごすという気分にはなれない。ストレスがたまる毎日だ。」と語る。
チュニジアの首都チュニスは月曜に50℃に達し、日曜は45℃だった。そして7月のこれまでの平均気温は33℃。チュニスの日常は限りなく緩慢になっている。蛇口からの水道水は熱く、食べ物は簡単に腐り、野良犬と野良猫が日陰を争い、夕暮れが来ても安息はほとんどない。連日の猛暑から体が回復する機会がほとんどなく、チュニジアでは都会でも田舎でも厳しい状況で暮らす多くの人々に熱中症や脳卒中のリスクが高まっている。
ナイジェリアから一年半以上をかけてはるばる地中海を望むチュニスにやってきたKellyさんのような人々に対して、Kais Saied大統領はこの2月、サハラ以南の人々がチュニジアに暴力・犯罪や容認できない慣行を持ちこんだ、と非難する差別発言を行って、以来、多く避難移民らは暴徒からの迫害を受ける厳しい生活をおくっている。
昨年の夏、欧州全域をおそった熱波は61,000人の死者を出したと見積られ、特に地中海沿岸で多かったという。チュニジアやアフリカ北部における死者数の発表は特になく、この問題を難しくしている原因が、死者数すら発表できない地域の現状だと、目されている。
首都チュニスや他の主要都市にはエアコンは行き渡っているが、都市部以外には数は少ない。都市部以外にエアコンが普及していないのは、一つは高額であること、そしてそれとは別にエアコンに対する不信感、即ちエアコンは健康に良くない、と思いこんでいる人の存在もあるという。
英国Roehampton大学のLewis Halsey教授が、人の体に及ぼす外気温の影響・効果に関する研究報告を発表しており、その中で「外気温が一旦あるレベルを超えると、人の体にある体温を維持する内部システムが働かなくなる」と述べている。「ただし、心理的要素もあり、猛暑のなかにあっても、例えば家に戻ればエアコンがあるとなれば、猛暑の中厳しくはあろうが、耐えられるだろう。もし、そうでないとすると、猛暑から逃れる場所のない厳しいストレスがたまる毎日が待ち構えていることになる。」
今月初旬にチュニジアは国境警備を強化する内容の条約をEUと結んでいる。既に72,000人程が危険な国境越えでイタリアに入っている。その大部分は極度の貧困と戦乱を逃れての行動だが、気候変動が深刻化するにつれ、更に多くの人が極端な気候変動から逃れるためにヨーロッパに目を向けることになるだろう。
3.大西洋の海流が、もうすぐ流れを止めるという。それによる重篤な気候変動にどう対処するか?
USA TODAY 2023年7月25日 Doyle Rice氏記す
大西洋子午線逆転循環(Atlantic Meridional Overturning Circulation, AMOC)とは、地球に存在する重要な海流システムであり、熱帯地域の暖かい塩分を含んだ表層海洋水がメキシコ湾流にそって米国東海岸沿いに大西洋北部へ向かい、大西洋北部で冷却されて深海へと沈みこみ、そしてそこから逆転して南へと向かっていく極めて大きな海流循環システムである。この循環システムはヨーロッパ北部を数℃分温める効果があり、そしてより冷たい海洋水を米国北部海岸へ持ち込む役割も果たしている。
この大西洋子午線逆転循環AMOCが、今世紀の半ば、多分2025年から2095年までの間に崩壊し、停止する可能性がある、とする新しい研究論文が、この火曜日、英国のNature Communicationsに発表された。
AMOCが崩壊し、停止すると、米国やヨーロッパそしてその他の地域に急激な気候変動が引き起こされ、ヨーロッパでは氷河期様の状況が起こり、ボストンやニューヨークでは海面上昇が起こり、米国の東海岸沿いでは巨大な嵐やハリケーンの発生の可能性が生じるという。また、降雨量や降雪量の著しい減少が米国中部や西部で起こるだろう、ともされている。
今週新たに発表された研究論文は、コペンハーゲン大学の2人の研究者(Peter DitlevsenさんとSusanne Ditlevsenさん)が行ったもので、2人の研究者は先端的統計手法を考案の上、直近150年間の海洋温度のデータをこの先端的統計手法に適用して計算している。かれらの採用した先端的統計手法は、従来の統計手法では到達することが難しかった、より確実精度を高めた推定を行うことが出来るという。
その結果、かれらは今回、95%の精度でAMOCが2025年から2095年までの間に崩壊し、停止する可能性がある、そして現在の温室効果ガスの排出傾向に変化がなく継続するとすれば、最も高い確率で2057年頃AMOCの崩壊・停止が起こる可能性がある、としている。
彼らの主張するAMOCの予測崩壊・停止時期は、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change, IPCC)が以前のデータをもとに提示している予測(AMOCの急激な変化は、今世紀中はあり得ないとした結論)と矛盾するものである。
今回のかれらの研究論文に対し、他の専門家がどう見ているかについて紹介すると、ペンシルバニア大学のMichael Mannさんは、
「研究を発表した研究者らが、思い付きの華やかな統計手法以上のものを数多くテーブルの上に持ち込んでいるのかどうかは判断できないが、歴史的には思い付きの華やかな統計手法に基づく欠陥のある予測というものが散乱しているものである。時にそうしたものは派手すぎるのである」と語っている。
一方、ドイツのPotsdam Institute for Climate Impact researchの気候学者のStefan Rahmstorfさんは、
「一つの研究からは限られた証拠しか得られないが、数多くのいろいろなアプローチを行った後に、同様な結論に達するのであれば、その到達した結果は重大に受け止める必要があると言える。殊に99.9%の精度をもって我々が排除したいと希望するリスクの課題について議論する際には、そういうことであろう。
今回の科学的事実は今後10年から20年のうちに臨界点・転換点を早くも通過することを排除さえ出来ないという事である。AMOCの臨界点・転換点が正確にどこにあるのかは、不明であるが、数年前に我々が想定していた時期よりも、より近くになっているという証拠を付け加えているとは言える」と語っている。
今回の研究により到達した結果をもとに、研究者らの「我々の結果は、可能なかぎりGHG排出を削減することの重要性を強調するものである」とする主張を載せておく。
4.気候事象のシキイ値(ClimateThresholds臨界点・限界点)の無視
AlJazeera 2023年7月27日 Ali Tanqeer Sheikh氏記す
パキスタンの気候異常緊急事態が眼前に明らかに現れてきている。われわれは今や絶えずある災害から次の災害へと移っていき、打ち続く災害がわれわれの社会や経済とどう関連しているかを、じっくり考える時間を持てずにいる状況である。
最近の12週間から18週間を見ても、一連の異常が起こっている。3月と4月の熱波、6月の熱帯性暴風雨と6月と7月の都市部の洪水。これだけでは不充分とばかりに、新たな波が面前に現れてきている。インドとアフガニスタンからの国境を越えた洪水がPunjabとKPを襲っている。BalochistanとSindhの山沿いの猛烈な雨、Gilgit-Baltistanを襲う地すべりと氷河の決壊。これらの異常気象事態(Extreme Weather Events,EWEs)は3つの相互に関連する流れの存在を浮かび上がらせている。
一つは気温上昇を1.5から2℃に抑えるという2015年Paris合意の内容が、化石燃料を緊急に退場させる活動を著しく過小評価(弱めた)していた、ということである。
二つ目は、パキスタンの災害が相互に関連しており、個々の異常気象事態が次から次へと連鎖的に次の事態を発生させているという、パキスタンの脆弱性に対する新たなシキイ値(臨界点・限界点)の規定である。
三つ目は、気候に関連する損失(losses)と損傷(damage)の大きさが、気候管理力の弱さに大きく関係している。パキスタンの政策立案者らは気候災害の事後処理的対応を続けている。政策立案者らは新たなシキイ値(臨界点・限界点)の規定を深く考察して、政策に反映させ、行動に移していくことを今だに始めていない。
パキスタンだけが気候災害を受けているわけではない。隣国の中国・インド・アフガニスタンも熱波や洪水の新たな記録を立てており、世界各地もまた異常気象に見舞われている。熱波がヨーロッパ南部を覆い、カリフォルニア・カナダ・シベリアの山火事、Horn of Africa(インド洋と紅海に接するアフリカ東部の地域、エチオピア・エリトリア・ジプチ・ソマリアがある)の記録破りの干ばつ等である。
自然はParis合意が打ち出した時間の猶予を、我々に与える気はないようだ。パキスタンは、連鎖化する異常気象から身を守るために必須な政策決定を行う分岐点に立っているといえる。
気温上昇・降雨量の傾向がどのように関連し合っているのか、そしてパキスタンが気候管理力を強化する上で、どんな実質的な行動を取ることが出来るかをみていきたい。
パキスタン気象庁によると、新たな気温記録と新たな降雨記録が、6月に36都市で打ち立てられたという。
うだるような気候により、Benazir収入支援プログラムは現金支給を停止している。列車は線路の融解により運行が止まっている。そして、電力供給システムも多くの地域で破断している。
パキスタンの熱波は、公共サービスを混乱させ、学校や医療機関も混乱している。
労働生産性も低下し、農業分野へも悪影響が出ている証拠がある。
Sindh州とBalochistan州の各地は生存ぎりぎりになってきており、JacobabadからTurbatにいたる各都市が、人間が生活するのに適していない状況になってきている。
そして具合の悪いことに熱波関連のデータを記録する機関は無いし、各地域の住民を守る地域行政機関も存在していない。しかし、地方行政機関は労働時間や学校暦を再考する責任は負っている。夏季の労働条件を規制する権限も与えられている。予知出来るリスクを低減する強力な気候管理策を実行することが出来る。
長期化する熱波への対策として、スペインの小都市が気温と湿度のレベルをモニターして熱波をランク付けするシステムを、正に開発したところである。Adrienne Arsht-Rockefeller財団リジリエンスセンター(resilience center)(Arsht-Rockと略して呼ばれるようです)の支援の下、熱波を1から3のスケールで分類化する方式を開発している。カテゴリー3が最も甚大な熱波で、それぞれアルファベット順と逆にZoe(ゾーイ)Yago(ヤゴ)とXenia(ゼニア)と名付けられている。
10年前に開発したカラチの熱波管理計画では、新たに設置した市当局の実態のある活動をもとめているが、パキスタンは、スペインのSeville市と同様に、国としての熱波の命名化と分類化を採用して、市民の生命を守るシステムを作る必要がある。
アラビア海上の熱帯性暴風雨の事例が増大している。Biparjoyがこの6月新しい記録を打ち立てている。これはカテゴリー3にランク付けされた非常に甚大なサイクロンとされていた。時速160から180kmという強風を維持していた。12日間強さを保持し、アラビア海サイクロンの最長命記録となった。パキスタンではリアルタイムでサイクロンを追跡し、早期警戒体制が機能したことで、80万人に及ぶ退避・救出作業も成功裏に実施出来た。
Biparjoyはカラチ及びsindh州の各地に厳しい熱波状況を数日にわたり引き起こし、砂嵐と広範囲の豪雨をSindh州南部に引き起こした。そして続く数週間続いた熱波に拍車をかけることになった。パキスタン気象庁はモンスーンの先触れとなる豪雨が各地で引き起こされていたと指摘し、明らかにシステムの混乱があったといえる。
幸いにもBiparjoyはパキスタンを直撃しなかったことから、重大な被害は回避出来たが、食料や飲料水、医薬品、トイレや仮設住居支援の供給体制能力をテストする機会とはならなかった。しかし、市行政当局は崩壊し、軍隊が避難支援や物資の供給に協力するよう要請された。
あらゆる気候災害の防衛の最前線に立つのは、地方行政機関と共同体支援グループにほかならない。そして地方の行政当局は情報を与えられておらず、機能もしていない。地域の災害管理当局は、未だに地域行政府を支援する能力をもっていない。
パキスタンは目標を持たずに無闇にさまようのではなく、気象事象に基盤をもつシキイ値を活用して、行動を活発化させて我々および次の世代をまもっていくことに注力する必要がある。
「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
Guterres国連事務総長からは「地球が温暖化の局面をすぎ、沸騰化の新局面に突入した」とする発言さえ、一昨日飛び出している。7月4日、Washington Postは、この暑さを125,000年間で最高に暑い日と形容している。
熱帯の暖かい表層海洋水がメキシコ湾流にそって大西洋北部へ運ばれ、そこで冷却されて深海へと沈みこみ、そして反転して南へと向かっていく極めて大きな海流循環システムが存在している。
北極圏に存在する永久凍土は、大気中の約3倍の二酸化炭素を、そして200倍のメタンガスを閉じ込めている一種の装置とも言える。
人の体には、あるレベルまでは熱気に良く順応して体温を一定に維持する一種の超能力と言っても良い内部システムが存在している。
地球や人を含む自然界には、このような装置やシステムが他にも数多く存在しており、そのお陰で自然界の恒常性や安定性が保持されている。
いま我々が日々目撃している光景は、地球が我々に与えてくれているそのような装置やシステムにも、許容限界、即ちシキイ値(tipping point、thresholds、yield value)が厳然と存在しているということ、そして我々は厳然と存在しているシキイ値を強く意識することの重要性を学び、我々が取るべき迅速で、そして効果的な対策にそれを活かしていくことが求められているのだろう。
良く言われる、一旦シキイ値(tipping point、thresholds、yield value)を越えると、人間の力では到底制御不能の次から次への悪循環が始まり、例えば気温の制御で言えばParis合意目標の1.5や2℃以内に抑制どころか4℃にも及ぶ加速的上振れも、指摘されている。
我々はまだ虎の尾を踏んでしまっていないのであればよいのだが。
そんなことを、思わざるを得ないここ数日の報道記事を以下に紹介したい。
1.命の危険すら感じる暑さを考える。研究者らがボランティアの協力のもと調べている。
NBC NEWS 2023年7月6日 Aria Bendix氏記す
身の危険を感じる熱波がアメリカを覆い続けている。そんな中、外気温が華氏104~122度(40~50℃)になると人の体は外界に順応して正しく働くことが出来なくなる可能性がある、との証拠が新たに出されている。
スコットランドのエジンバラで開催されていた実験生物学会年次大会において木曜日に発表された研究によると、外気温が上記の範囲になり、高い外気温にさらされると、人の安息時の代謝率に比べて、人の代謝率は上昇するという。ここで人の安息時の代謝率とは、人が休息している時に必要とされるエネルギー量のことを言う。
そして一旦人の代謝率が上昇し始めると、人の呼吸は荒くなり、脈拍は上がっていき、そして外界からの過剰な熱(熱ストレス又は暑熱ストレスとも訳されるheat stress)を体外に逃がすことが最早出来なくなると、人の体幹の温度が上がり始め、その結果として混乱(confusion)、はきけ(nausea)、ねむけ(dizziness)、頭痛(headache)や失神(fainting)が誘発される。
「人は、ある点までは通常、熱気にとても良く順応する」と、この研究を行ったRoehampton大学のLewis Halsey教授が語っている。
Lewis Halsey教授は数年にわたり関連する一連の研究を行っており、2021年の最初の研究においては60才以下の13人のボランティアの協力のもと、幾つかの温度と湿度の環境に1時間人がおかれた際の代謝率・体幹温度・血圧・心拍数と呼吸数を測定し、それらの値と安息時の値との比較を行い、華氏104度(40℃)以上の気温になると人の代謝率が上がること(気温40℃湿度25%の場合35%の増加、気温50℃湿度50%の場合56%の増加)を認めていた。体幹温度については気温40℃湿度25%の場合は、上昇は見られないが、気温50℃湿度50%の場合には体幹温度が1℃上昇し、心拍数は64%上昇した、としていた。
Halsey教授もボランティアとして実験に参加し、過酷な環境を体験した印象を次のように語っている。「汗をかいて体温をさげることは、人間にとって一種の超能力といっても良いものであるが、しかし気温が50℃、湿度50%の環境では、かいた汗の行き場がなくなり、発汗-体温冷却システムが正常には働かない“かなり厳しい” 環境だと言える。」
そしてHalsey教授は気温50℃湿度50%の環境のもとにボランティアの人々が長時間おかれた場合には、生存できなかった可能性があったと推定している。
2.チュニジアの異常気温、サハラ砂漠以南の国からの避難移民らが「もう耐えられない」状況に置かれている。
AlJazeera 2023年7月24日 Simon Speakman Cordall氏記す
国際移民機関(International Organization for Migration、IOM)事務所の外に用意された仮設テントは焼ける大地の上で、灼熱の太陽に照らされ、誰もいないも同然に立っている。
100人ほどの正規な手続きを踏んでいないIOM事務所の外に寝起きする避難移民の1人Kellyさんは、「もう耐えられない。からだを休め、安らかに過ごすという気分にはなれない。ストレスがたまる毎日だ。」と語る。
チュニジアの首都チュニスは月曜に50℃に達し、日曜は45℃だった。そして7月のこれまでの平均気温は33℃。チュニスの日常は限りなく緩慢になっている。蛇口からの水道水は熱く、食べ物は簡単に腐り、野良犬と野良猫が日陰を争い、夕暮れが来ても安息はほとんどない。連日の猛暑から体が回復する機会がほとんどなく、チュニジアでは都会でも田舎でも厳しい状況で暮らす多くの人々に熱中症や脳卒中のリスクが高まっている。
ナイジェリアから一年半以上をかけてはるばる地中海を望むチュニスにやってきたKellyさんのような人々に対して、Kais Saied大統領はこの2月、サハラ以南の人々がチュニジアに暴力・犯罪や容認できない慣行を持ちこんだ、と非難する差別発言を行って、以来、多く避難移民らは暴徒からの迫害を受ける厳しい生活をおくっている。
昨年の夏、欧州全域をおそった熱波は61,000人の死者を出したと見積られ、特に地中海沿岸で多かったという。チュニジアやアフリカ北部における死者数の発表は特になく、この問題を難しくしている原因が、死者数すら発表できない地域の現状だと、目されている。
首都チュニスや他の主要都市にはエアコンは行き渡っているが、都市部以外には数は少ない。都市部以外にエアコンが普及していないのは、一つは高額であること、そしてそれとは別にエアコンに対する不信感、即ちエアコンは健康に良くない、と思いこんでいる人の存在もあるという。
英国Roehampton大学のLewis Halsey教授が、人の体に及ぼす外気温の影響・効果に関する研究報告を発表しており、その中で「外気温が一旦あるレベルを超えると、人の体にある体温を維持する内部システムが働かなくなる」と述べている。「ただし、心理的要素もあり、猛暑のなかにあっても、例えば家に戻ればエアコンがあるとなれば、猛暑の中厳しくはあろうが、耐えられるだろう。もし、そうでないとすると、猛暑から逃れる場所のない厳しいストレスがたまる毎日が待ち構えていることになる。」
今月初旬にチュニジアは国境警備を強化する内容の条約をEUと結んでいる。既に72,000人程が危険な国境越えでイタリアに入っている。その大部分は極度の貧困と戦乱を逃れての行動だが、気候変動が深刻化するにつれ、更に多くの人が極端な気候変動から逃れるためにヨーロッパに目を向けることになるだろう。
3.大西洋の海流が、もうすぐ流れを止めるという。それによる重篤な気候変動にどう対処するか?
USA TODAY 2023年7月25日 Doyle Rice氏記す
大西洋子午線逆転循環(Atlantic Meridional Overturning Circulation, AMOC)とは、地球に存在する重要な海流システムであり、熱帯地域の暖かい塩分を含んだ表層海洋水がメキシコ湾流にそって米国東海岸沿いに大西洋北部へ向かい、大西洋北部で冷却されて深海へと沈みこみ、そしてそこから逆転して南へと向かっていく極めて大きな海流循環システムである。この循環システムはヨーロッパ北部を数℃分温める効果があり、そしてより冷たい海洋水を米国北部海岸へ持ち込む役割も果たしている。
この大西洋子午線逆転循環AMOCが、今世紀の半ば、多分2025年から2095年までの間に崩壊し、停止する可能性がある、とする新しい研究論文が、この火曜日、英国のNature Communicationsに発表された。
AMOCが崩壊し、停止すると、米国やヨーロッパそしてその他の地域に急激な気候変動が引き起こされ、ヨーロッパでは氷河期様の状況が起こり、ボストンやニューヨークでは海面上昇が起こり、米国の東海岸沿いでは巨大な嵐やハリケーンの発生の可能性が生じるという。また、降雨量や降雪量の著しい減少が米国中部や西部で起こるだろう、ともされている。
今週新たに発表された研究論文は、コペンハーゲン大学の2人の研究者(Peter DitlevsenさんとSusanne Ditlevsenさん)が行ったもので、2人の研究者は先端的統計手法を考案の上、直近150年間の海洋温度のデータをこの先端的統計手法に適用して計算している。かれらの採用した先端的統計手法は、従来の統計手法では到達することが難しかった、より確実精度を高めた推定を行うことが出来るという。
その結果、かれらは今回、95%の精度でAMOCが2025年から2095年までの間に崩壊し、停止する可能性がある、そして現在の温室効果ガスの排出傾向に変化がなく継続するとすれば、最も高い確率で2057年頃AMOCの崩壊・停止が起こる可能性がある、としている。
彼らの主張するAMOCの予測崩壊・停止時期は、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change, IPCC)が以前のデータをもとに提示している予測(AMOCの急激な変化は、今世紀中はあり得ないとした結論)と矛盾するものである。
今回のかれらの研究論文に対し、他の専門家がどう見ているかについて紹介すると、ペンシルバニア大学のMichael Mannさんは、
「研究を発表した研究者らが、思い付きの華やかな統計手法以上のものを数多くテーブルの上に持ち込んでいるのかどうかは判断できないが、歴史的には思い付きの華やかな統計手法に基づく欠陥のある予測というものが散乱しているものである。時にそうしたものは派手すぎるのである」と語っている。
一方、ドイツのPotsdam Institute for Climate Impact researchの気候学者のStefan Rahmstorfさんは、
「一つの研究からは限られた証拠しか得られないが、数多くのいろいろなアプローチを行った後に、同様な結論に達するのであれば、その到達した結果は重大に受け止める必要があると言える。殊に99.9%の精度をもって我々が排除したいと希望するリスクの課題について議論する際には、そういうことであろう。
今回の科学的事実は今後10年から20年のうちに臨界点・転換点を早くも通過することを排除さえ出来ないという事である。AMOCの臨界点・転換点が正確にどこにあるのかは、不明であるが、数年前に我々が想定していた時期よりも、より近くになっているという証拠を付け加えているとは言える」と語っている。
今回の研究により到達した結果をもとに、研究者らの「我々の結果は、可能なかぎりGHG排出を削減することの重要性を強調するものである」とする主張を載せておく。
4.気候事象のシキイ値(ClimateThresholds臨界点・限界点)の無視
AlJazeera 2023年7月27日 Ali Tanqeer Sheikh氏記す
パキスタンの気候異常緊急事態が眼前に明らかに現れてきている。われわれは今や絶えずある災害から次の災害へと移っていき、打ち続く災害がわれわれの社会や経済とどう関連しているかを、じっくり考える時間を持てずにいる状況である。
最近の12週間から18週間を見ても、一連の異常が起こっている。3月と4月の熱波、6月の熱帯性暴風雨と6月と7月の都市部の洪水。これだけでは不充分とばかりに、新たな波が面前に現れてきている。インドとアフガニスタンからの国境を越えた洪水がPunjabとKPを襲っている。BalochistanとSindhの山沿いの猛烈な雨、Gilgit-Baltistanを襲う地すべりと氷河の決壊。これらの異常気象事態(Extreme Weather Events,EWEs)は3つの相互に関連する流れの存在を浮かび上がらせている。
一つは気温上昇を1.5から2℃に抑えるという2015年Paris合意の内容が、化石燃料を緊急に退場させる活動を著しく過小評価(弱めた)していた、ということである。
二つ目は、パキスタンの災害が相互に関連しており、個々の異常気象事態が次から次へと連鎖的に次の事態を発生させているという、パキスタンの脆弱性に対する新たなシキイ値(臨界点・限界点)の規定である。
三つ目は、気候に関連する損失(losses)と損傷(damage)の大きさが、気候管理力の弱さに大きく関係している。パキスタンの政策立案者らは気候災害の事後処理的対応を続けている。政策立案者らは新たなシキイ値(臨界点・限界点)の規定を深く考察して、政策に反映させ、行動に移していくことを今だに始めていない。
パキスタンだけが気候災害を受けているわけではない。隣国の中国・インド・アフガニスタンも熱波や洪水の新たな記録を立てており、世界各地もまた異常気象に見舞われている。熱波がヨーロッパ南部を覆い、カリフォルニア・カナダ・シベリアの山火事、Horn of Africa(インド洋と紅海に接するアフリカ東部の地域、エチオピア・エリトリア・ジプチ・ソマリアがある)の記録破りの干ばつ等である。
自然はParis合意が打ち出した時間の猶予を、我々に与える気はないようだ。パキスタンは、連鎖化する異常気象から身を守るために必須な政策決定を行う分岐点に立っているといえる。
気温上昇・降雨量の傾向がどのように関連し合っているのか、そしてパキスタンが気候管理力を強化する上で、どんな実質的な行動を取ることが出来るかをみていきたい。
パキスタン気象庁によると、新たな気温記録と新たな降雨記録が、6月に36都市で打ち立てられたという。
うだるような気候により、Benazir収入支援プログラムは現金支給を停止している。列車は線路の融解により運行が止まっている。そして、電力供給システムも多くの地域で破断している。
パキスタンの熱波は、公共サービスを混乱させ、学校や医療機関も混乱している。
労働生産性も低下し、農業分野へも悪影響が出ている証拠がある。
Sindh州とBalochistan州の各地は生存ぎりぎりになってきており、JacobabadからTurbatにいたる各都市が、人間が生活するのに適していない状況になってきている。
そして具合の悪いことに熱波関連のデータを記録する機関は無いし、各地域の住民を守る地域行政機関も存在していない。しかし、地方行政機関は労働時間や学校暦を再考する責任は負っている。夏季の労働条件を規制する権限も与えられている。予知出来るリスクを低減する強力な気候管理策を実行することが出来る。
長期化する熱波への対策として、スペインの小都市が気温と湿度のレベルをモニターして熱波をランク付けするシステムを、正に開発したところである。Adrienne Arsht-Rockefeller財団リジリエンスセンター(resilience center)(Arsht-Rockと略して呼ばれるようです)の支援の下、熱波を1から3のスケールで分類化する方式を開発している。カテゴリー3が最も甚大な熱波で、それぞれアルファベット順と逆にZoe(ゾーイ)Yago(ヤゴ)とXenia(ゼニア)と名付けられている。
10年前に開発したカラチの熱波管理計画では、新たに設置した市当局の実態のある活動をもとめているが、パキスタンは、スペインのSeville市と同様に、国としての熱波の命名化と分類化を採用して、市民の生命を守るシステムを作る必要がある。
アラビア海上の熱帯性暴風雨の事例が増大している。Biparjoyがこの6月新しい記録を打ち立てている。これはカテゴリー3にランク付けされた非常に甚大なサイクロンとされていた。時速160から180kmという強風を維持していた。12日間強さを保持し、アラビア海サイクロンの最長命記録となった。パキスタンではリアルタイムでサイクロンを追跡し、早期警戒体制が機能したことで、80万人に及ぶ退避・救出作業も成功裏に実施出来た。
Biparjoyはカラチ及びsindh州の各地に厳しい熱波状況を数日にわたり引き起こし、砂嵐と広範囲の豪雨をSindh州南部に引き起こした。そして続く数週間続いた熱波に拍車をかけることになった。パキスタン気象庁はモンスーンの先触れとなる豪雨が各地で引き起こされていたと指摘し、明らかにシステムの混乱があったといえる。
幸いにもBiparjoyはパキスタンを直撃しなかったことから、重大な被害は回避出来たが、食料や飲料水、医薬品、トイレや仮設住居支援の供給体制能力をテストする機会とはならなかった。しかし、市行政当局は崩壊し、軍隊が避難支援や物資の供給に協力するよう要請された。
あらゆる気候災害の防衛の最前線に立つのは、地方行政機関と共同体支援グループにほかならない。そして地方の行政当局は情報を与えられておらず、機能もしていない。地域の災害管理当局は、未だに地域行政府を支援する能力をもっていない。
パキスタンは目標を持たずに無闇にさまようのではなく、気象事象に基盤をもつシキイ値を活用して、行動を活発化させて我々および次の世代をまもっていくことに注力する必要がある。
「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
