老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

「日本の木造高層ビル事情の現在地」の確認と自然や生態系すら商品化しようと試みる「世界のグリーンウォッシング事情の現在地」との対比から見えてくるもの

2024-05-31 13:48:48 | 環境問題
「東京ではタワマン・コンクリ強度不足の話、ストックホルムでは木造都市計画の話。この対比、どちらに与したいですか?」という話題を4月25日に紹介した。

その後、「なぜ今、木造高層ビルが建ち始めているのか------日本が抱える国家的な森林問題」
(Yahoo!ニュース 2024年2月29日付け一志治夫氏記す)という記事があることが判ったので、その紹介を兼ねて木造高層ビルや木造都市計画等に関連する我が国の現在地を一志氏の話をなぞりながら先ずは見てみたい。

O現状説明として:木材を使った高層大規模ビル建築が急速に増えたのは、2020年代に入ってから。純木造は少ないが、柱や梁、内外装に木を多用し、鉄骨や鉄筋コンクリートと組み合わせて造る地上6階建て以上のビルは、都内だけで、すでに20棟をゆうに超えている。この1月4日には、東京日本橋で地上18階建て、高さ84mの「日本一の高層木造賃貸オフィスビル」(建築主/三井不動産 設計・施工/竹中工務店)の建設工事も始まった(竣工予定は2026年)。

O木造高層ビルが増えだした理由:CLTや耐火集成材といった火災時の耐火性能を持つ木の柱・梁など新たな木質系材料が誕生し、鉄骨とのジョイントなどの技術開発をゼネコンやメーカーが進めた結果、燃える、腐る、折れるといった木材の弱点、課題が克服され始めたこと。つまり、高性能の木材が誕生したことで、木造高層につきものの消防法との兼ね合いや海外事例の拡大という背景をもとに、難題のハードルが下がってきたことが一つ目の理由。そして、この動きを後押しする法整備の存在がもう一つの理由。

O現在の法整備の状況:2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、その後2021年に改正され、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(通称:都市〈まち〉の木造化推進法)となった。これをもとに、建築主が国や地方公共団体とともに木材利用に取り組む「建築物木材利用促進協定制度」が創設され、各行政による補助金制度も整い始めている。

O木造高層ビル建設が推進される背景:一つは日本が抱える切実な森林問題を挙げ、我が国の森林と林業の歴史に触れている。国土の3分の2が森林。その4割は人工林。木材を利用し、森を循環させることが日本の絶対的テーマと考えるも、1964年の木材輸入自由化で外国産材の輸入が急増。「林業は儲からない」となり「放置林」が増加。2002年に国産材の供給量が底を打ち増加に転じるものの、2021年の自給率はいまだ41.1%。かかる状況が現在地とはいえ、SDGsやESG投資と無縁ではいられないスーパーゼネコンや大手不動産会社にとって、法整備も整いつつある中、我が国の絶対的テーマである国内の木材利用、そして日本の森を好循環させることにも繋がるという観点から見ても、「木造高層ビル」建設推進の動きは、うってつけのテーマと捉えられているのであろう。そして2010年の「公共建築物等木材利用促進法」も後押しする形で、一気に建築業界の積極的な取り組みが始まったのである。

O今や不動産会社自らが森林を保有したり、管理運営する:野村不動産ホールディングは、2022年10月東京奥多摩に、「つなぐ森」の地上権を取得し循環する森づくりをスタートさせ、東京都と「建築物木材利用促進協定」を締結。今後30年、130ヘクタールの森を保有し、「地産地消の循環する森づくり」を推進していくとしている。「つなぐ森」で生産される木材は、年間約500m3。野村不動産グループが目標とする木材使用量は16,500m3。「つなぐ森」からの木材は1.5%分とわずかであるが、切り出した丸太を地域の加工所に出すことで、加工所の生産量は従来の3倍になり、地域に新たな雇用が生まれている、と意義を語っている。
日本の人工林の約半分が主伐期の50年生を超えている。CO2吸収量が減少する高齢木を伐採し、新たに植えるという循環システムを作ることは急務とされており、そうした中で不動産会社が地産地消を掲げて森林を保有し始めたことの意義は深い。
また、不動産会社「ヒューリック」は2021年10月、銀座8丁目に「銀座を中心に森を作る」を開発コンセプトに、日本初となる耐火木造12階建ての商業施設「HULIC&New Ginza8」を竣工(設計・施工/竹中工務店)。福島県産のスギを中心に使った木造+鉄骨造のハイブリッド建築。外装に木材を使用し、柱や梁に耐火集成材を用い、構造材だけで288㎡の木材を使用。ヒューリックは、「伐採した分の木は植える」を掲げ、福島県白河で植林活動も行っている。森の循環あっての木造建築というコンセプトがここでも貫かれている。

以上、一志治夫氏の情報をもとに日本の木造高層ビルと日本の森林の状況ならびに今後の行方を占う話を紹介したが、都市の高層木造ビルのプロジェクトを推進している不動産デベロッパーの担当者の一人が思わず語った言葉が気になったので、彼の言葉も再録しておきます。

『2030年の前後って、木造ビルがたくさん出来ていたよね、なんか流行っていたよね、みたいなことになっちゃうことですね、一番恐れているのは』と彼はこうなって欲しくはないものの、大いに有りえる近未来の「日本の木造高層ビル事情」を懸念しているのである。ここに紹介している大手デベロッパーの動向は、賞賛に値するものと評価したい。熱しやすく、冷めやすい世の常の中でも、めげずに何とか進展していってほしいものではある。

とは言え、上に紹介した一志治夫氏の記事の内容は、日本も日本の不動産会社も良くやっているじゃないか、是非上手く進むよう我々も協力したいものだ、といった思いになるのはある意味、コインの一面のみを見ての話なのである。

コインの反対側の面を考えてみたい。

その為に先ずキーワードとなる、nature-based solutions(「自然を意識した解決策」NbSと略記)という言葉の説明が必要となる。

気候変動による社会・経済・環境上への打撃に世界が今後対処していく時に、このNbSが大きな役割を果たすとの観点から、国連環境総会第5回会合(UNEA-5)において多国間でNbSが討議され、その定義が正式に決定されている。

決定された定義は次である。

『手つかずの自然の陸地・水域の生態系、あるいは人手が入り改変された陸地・水域の生態系を保護・保全・再生・持続可能なやり方で利用し、管理運営する行動がNbSである。このNbSの行動は、我々が直面する社会的・経済的・環境上の課題に対し、有効であり順応性がある行動であること、そして併せてこのNbSの行動が、人々の幸福、生態系が持つサービス、そして回復力と生物多様性を提供できるような行動、をNbSとしている』

2023年4月15-16日に札幌で開かれたG7気候・エネルギー・環境大臣の会合でもこのNbSが一つの議題として討論され、UNEA-5における議論を追認し、NbSが気候・生物多様性・人間の幸福を含む多くの課題の解決に有効に働く能力を持っている、としてNbSの実行化実践化を強調している。

この世界の動きに合わせて、東京都は2030年目標(自然と共生する豊かな社会を目指し、あらゆる主体が連携して生物多様性の保全と持続可能な利用を進めることにより、生物多様性を回復軌道に乗せる=ネイチャーポジティブの実現)という東京都生物多様性地域戦略を立てており、この戦略の基本戦略IIに、行政・事業者・民間団体などの核となる主体者と共に『Tokyo-NbS』アクションを推進する、という行動目標をたてている。2030年までを「NbS定着期間」と捉え、各主体がNbSとなる取組を実施することを目指す、として手法としてのNbSが組み込まれている。

国際自然保護連合(IUCN)が提唱し、国連環境総会(UNEA)がお墨付きを与え、G7が推進力を与え動き出した我々市民社会と経済社会そして自然環境に大きく影響を及ぼす気候環境危機・生物多様性損失危機・生計危機等への順応策緩和策を考えていく手法として『自然を意識した解決策NbS』が注目されて来ているのが我々の現在地だといえます。

一志治夫氏の話題にある大手不動産会社の東京奥多摩で展開されている「つなぐ森」プロジェクトが、東京都のTokyo-NbSアクションメンバーに登録されている(他にサントリーの「奥多摩の森林整備による水資源と生物多様性の保全」プロジェクトがある)ことからみても、現在、行政と大手企業という主体組織が「気候危機・環境危機・生物多様性損失危機等の順応緩和策を考え出していく手法」として『自然を意識した解決策NbS』を大きく意識していることが判ると思う。

NbSが注目され、行政と大手企業が主体的に動き出している状況は、歓迎すべきだけれども、この流れには注意が必要だとする意見・情報が存在しているのである。次の情報です。

『自然を意識した解決策(NbS)』---気候危機と生物多様性危機を利用して企業や自治体がグリーンウォッシュの手段とする間違いであり困った解決策(原題:“Nature-based solutions(NbS)"---another false, corporate pathway in the great greenwashing of the climate and biodiversity crises、globalforestcoalition.org、 Oct.12,2023 by S.Lahiri and V. F. Martinez)

「自然を意識した解決策(NbS)」に関する国連多国間協議の最終ラウンドが今週ナイロビで行われる。NbSに関しては、昆明-モントリオールでの生物多様性枠組み協議においても議題になっている。これらの協議に入っていく際、我々はこれらの取り組みの方向性を慎重に見極めていくことが大切である。

NbSという言葉は、多くの人にとって健全な方向が目指されているとの印象を与えるだろう。しかし慎重にそして厳密に実施状況を分析・精査していくと、気候危機・生物多様性危機の解決を目指すNbSの理念とは反対に、危険な障害物となる恐れが浮かび上がる。

政策立案者らは、これら多国間協議の場に於いて、社会的・環境的課題に対して彼らが取り組む際に、NbSという用語が、持続可能な管理運営方法であり、自然の特徴や自然の流れを利用しているという意味合いを持つ、と指摘している。

しかし実態としては、カーボンオフセットの図式を含むような彼らが提案する方式は、人間の権利の破綻や生態系システムの破綻に繋がるものだとの認識が強まっており、そして同時に真の緊急課題である炭素排出を削減する課題から我々の注意をそらす有害なものではないか、と徐々に受け取られるようになってきている。

これらの間違った解決策が提起される動因として考えられるものは、不安感を過大に煽る企業側のロビー活動組織の存在がある。

石油・天然ガス・アグロビジネス・輸送部門の事業者らやGHG高排出諸国の政府らが「自然を意識した解決策(NbS)」という言葉を使用することが、増えてきている。
これらの事業体や政府は、我々が今日目撃している環境破壊の大半の責任を負うべき組織であり、世界中の共同体に影響を与えている。
環境保護の幾つかのNGO団体もNbSを支持しており、NbSの考えが最適なインフラを作りだし、生物多様性がある未来を約束するのに役立つとしている(IUCN?)。

しかしながら、NbSの指針となる原理原則は、数千年にわたり地球上の森林の保護者の任を負ってきた先住民族の人々の智恵や世界観や伝統的な慣習や持続可能な生計の立て方といったものとは合致しないのである。

最近の研究によると、NbS活動が生態系や森林や生物多様性に対して悪影響を及ぼし、合わせて先住民族の人々や多方面の女性や地域共同体にも悪影響を及ぼすということが明らかとなってきている。更に何世代にわたり自然を守ってきていた人々を疎外していくことも明らかとなってきている。

例えば、シェルの例では、シェルは、年間1億ドルを『自然を意識したプロジェクト』向けに投資することで、シェルのGHG排出分をオフセットすることを狙ってNbSを利用している。同様にフランスの石油大資本のトタルは、アフリカで木材・森林・アグロフォレストリー・植林分野のプレイヤーであるForetリソースマネジメント社と共同してコンゴ共和国と提携契約を結び、4万haに及ぶ植林活動を行っている。トタルはコンゴ共和国で1000万ha以上の植林を行うという。

植林活動や再森林化活動の何処が問題なのかと尋ねるかもしれない。

しかしながら、世界の巨大企業が主にカーボンオフセット制度を利用する形で「商品市場指向型のNbS」プロジェクトに投資する行動の状況を丹念に精査していくと、それら高排出事業体企業の行動というものは、気候危機や生物多様性危機を解決することを狙っての行動というよりも、高排出事業体企業によるグリーンウォッシングの行動にすぎないということが判ってくるだろう(高GHG排出企業や排出国政府が、彼らに染みついた悪いイメージの払しょくを狙うとともに、自然環境という資源を商品化し、市場に引き出すことで、可能な限りこれら活動への投資に対する利益・配当の獲得をも狙う行動をグリーンウォシングというのだろう)。

FAOとNature Conservancy(1951年設立の自然保護NGO。生物生息地確保や生態系保全活動を行う。100万人以上の会員を擁す)との共同文書が、これらの行動の傾向を取り上げており、それによると農業分野のNbSは主として混合型資金調達・債権・グリーンクレジットと株式・カーボンクレジット・生物多様性及び水系オフセット等を通じて出資金のリターンを求める傾向をこれらの行動がどのように反映しているかを示している。

このNbSというレンズを通して見ると、『森林と土地は金銭化できる資産であり、自然資産は経済的に増大が期待できる』という見方が生まれてくるのである。

2022年2月のナイロビで開かれた国連環境会議(UNEA 5.2)において、「持続可能な発展のための自然を意識した解決策NbS」に関する決議5/5が採択された。
この決議は多国間協議で定義が合意されたNbS活動を可能な限り迅速に進めていくという推進力を与える一方で、展開が予想されるNbS活動が、GHG排出削減活動の迅速化、深耕化、継続化という我々の要求を妨げることがないよう確認していくためにNbSの効果効能の分析の必要性がある点を確認し、指摘もしている。

またNbS(nature-based solutions)が誤用・悪用される可能性への懸念から、『生態系を意識した活動(ecosystem-based approaches)』との調和の必要性を強調もしている。

『自然を意識した解決策NbS(nature-based solutions)』と『生態系を意識した活動(ecosystem-based approaches)』との曖昧で、ハッキリしない結合化は、気候変動と生物多様性(T8)および人々に対する自然の貢献の再建(T11)に関する目標を検討した昆明-モントリオール世界生物多様性枠組交渉(KMGBF)においても反映されている。
この決議はまた、NbSには多面的な解釈が存在していることを認めており、協議参加国間の中に共通認識が欠けている事実も認め、受け入れている。

先住民族の主要グループは、炭素マーケットのオフセットシステム装置というものが、先住民族の権利を侵害し、彼らの領域を侵食し、重大な人権問題を引き起こす可能性があると、警告を発している。彼らの主張は正当なものである。

NbSの提案者や支持者らは、『自然を経済的な資産だと解釈し取り扱おうとする』のであり、自然の従来からの管理者たちから自然を奪い取り、自然を投資対象となる商品に変えて、彼らの投資に見合う将来の利益獲得を目指すのである(16世紀イギリスで進行した、地主による牧場用地の獲得の為の、そして農民の離村と賃金労働者化を促し産業革命の地ならしを求めた運動と理解される「囲い込み運動」の現代版だろう)。

NbSを『生態系を意識した活動(ecosystem-based approaches)』と調和させようとする試みが、KMGBF交渉にも及ぼうとしていることが見られており、懸念すべき状況が生まれている。
『生態系を意識した活動(ecosystems approach)』には、CBDおよび数回の気候危機COP会議を経てきたという長い発展の歴史がある。

『生態系を意識した活動(ecosystems approach)』というものは、多様な文化的背景をもつ人々が生態系を統合する要素である、という認識のもとで、人々はみな平等に生態系を保全しつつ持続可能なやり方で生態系を利用していくことを推進しようという考えである。

一方で、国連環境総会UNEAの決議内容は、気候危機と生物多様性危機という双頭の危機の解決策を求めんが為に、極端に緩和手段(mitigation)に軸足を置いたものであり、そこには先住民族・多面的な活躍する女性や地域共同体が介在していることの考えが抜け落ちているのである。
この重大な欠点を持つ「商品市場主導の解決策作り」の動向に我々は反対すべきである。

この国連多国間協議場内に起こっているNbSを『生態系を意識した活動(ecosystems approach)』と同一視し、調和させようとするこれらの試みは、大きな問題を孕んでいるだけでなく、自然の持つ機能が商品化され・金融化され、そして民営化されていくことを狙う商品市場至上主義に基づく市場内の協調関係が構築されることになる。
自然と一体に暮らしている我々が懸念を訴えていく際の障害物となり、結果的に政治的思惑を利する恐れがあるのである。

UNEAのNbSに関する政府間協議と気候変動と生物多様性に関するCBD SBSTTA25会議が始まる今、我々は人々と地域共同体を気候変動と生物多様性に関する議題の中心に据える絶好の機会を得ている。必要な進路修正を行い、気候変動と生物多様性という2つの危機に対する有効な解決策への道を切り開く時が来ている。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
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明日、29日最高裁判所大法廷、旧優生保護法で不妊手術強制訴訟 最終弁論 傍聴機会のご案内

2024-05-28 22:56:34 | 民主主義・人権
旧優生保護法で不妊手術強制 国に賠償命じる 静岡地裁浜松支部 5月27日 20時09分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240527/k10014462271000.html

『旧優生保護法のもとで不妊手術を強制されたとして、視覚に障害がある浜松市の75歳の女性が国に賠償を求めた裁判で、静岡地方裁判所浜松支部は、女性の訴えを認め、この法律が憲法に違反するとして国に賠償を命じました。

浜松市の武藤千重子さん(75)は、旧優生保護法のもと、視覚に障害があることを理由に1977年に不妊手術を強制されたとして、国に3300万円の賠償を求めていました。

27日の判決で静岡地方裁判所浜松支部の佐藤卓裁判長は、旧優生保護法は憲法に違反すると判断し、「子どもを産みたいという希望や夢を理不尽にも奪われた原告の苦痛は甚大だ」と指摘しました。

その上で「手術から20年以上が経過し、賠償を求める権利がなくなる『除斥期間』が適用される」という国の主張については「国が障害のある人に対する社会的な差別や偏見を正当化し、助長したため、原告は訴えを起こす前提となる情報へのアクセスが著しく困難になっていた。『除斥期間』の適用をそのまま認めることは、著しく正義・公平の理念に反する」と指摘し、国の賠償責任を認め1650万円を支払うよう命じました。

全国で起こされている同様の裁判で、国の賠償責任を認める判決は今回で11件目です。

旧優生保護法をめぐっては、最高裁判所大法廷が上告されている5件について当事者の主張を聞く弁論を29日開き、この夏にも統一判断を示す見通しです。

原告の武藤さん「間違っていたということ国は認めてもらいたい」
判決のあと、浜松市中央区に住む原告の武藤千重子さん(75)は「裁判が始まってから4年になるので本当に長かったです。この1週間ほどよく寝ることができませんでしたが、裁判長は私のことをちゃんと見ていてくれたんだと思って、うれしかったです」と述べました。

そのうえで「28歳のときの弱かった自分にかたをつけてあげたいと思ったので、75歳でちゃんとかたをつけてあげられたので、『武藤千重子』と名乗ってよかったと思います」と話していました。

武藤さんは、「網膜色素変性症」という重い目の病気を患い、30代のころに視力を失いました。

不妊手術を受けたのは、47年前の28歳のときでした。

このとき、視力がかなり悪化していた武藤さんは、浜松市内の病院で次女を出産した数時間後に、産婦人科の看護師から突然、手術を受けるよう迫られたといいます。

当時のやりとりについて武藤さんは「看護師から『3人目の子どもはいらないでしょう』と聞かれたので、『男の子を産みたいからほしい』と言いましたが、『目が悪くてあなた育てられるの』と怒られました。当時は障害者に優しくない社会でした」と振り返りました。

このやりとりの翌日、手術内容についての具体的な説明もないまま、手術を受けたということです。

5年前の2019年、武藤さんは視覚障害者のためのインターネットの図書館を利用した際、偶然、旧優生保護法の問題を取り上げた書籍を見つけました。

このとき初めて、自身が法律に基づく手術を受けたことを知ったといいます。

武藤さんは弁護士に相談し、1年後の2020年7月に、実名を公表して国に賠償を求める訴えを起こしました。

そして、去年9月に行われた原告本人への尋問では、裁判官に対し「法律が間違っていたということを、国は認めてもらいたい」と強く訴えていました。

こども家庭庁「適切に対応していきたい」
こども家庭庁は「今後の対応については判決内容を精査し、関係省庁と協議したうえで適切に対応していきたい」とコメントしています。』

>旧優生保護法をめぐっては、最高裁判所大法廷が上告されている5件について当事者の主張を聞く弁論を29日開き、この夏にも統一判断を示す見通しです。

 ★明日、29日最高裁判所大法廷で。最終弁論を開き、結審。この夏にも統一判断を示す見通しとか。

☆最高裁判所開廷期日情報 https://www.courts.go.jp/saikosai/kengaku/saikousai_kijitsu/index.html

 『開廷期日情報(令和6年5月23日更新)
 ・「抽選」か「先着順」かは、決まり次第「備考」に掲載します。
 ・裁判の日時、開廷場所、整理券交付の締切時刻等は変更されることがあります。
  期日等 事件番号 事件名 第一審  第二審 弁論・ 判決 開廷場所  裁判長名 備考

令和6年5月29日午前10時30分 令和4年(受)第1050号 損害賠償     弁論  大法廷 戸倉三郎 
                        事案の概要
                   (るびあり(PDF:93KB))PDFファイル/(TXT:1KB)  

 ✪備考 抽選
 整理券交付締切時刻:午前9時30分
 ※本件の傍聴を希望される方は「南門」ではなく、「西門」にお越しください。
 (西門の場所はこちら。)』

 猶、私、残念ながら、大法廷の傍聴の貴重な経験はありません。具体的なご案内が出来なくて残念です。また傍聴のTV中継などはなかろうかと。

今日のトピックス Blog http://nikoryuu.blog18.fc2.com/
 ◎NHK:「袴田」の検索結果
▶袴田巌さんの再審が結審 判決の言い渡しは9月26日 静岡地裁 2024年5月23日
の後//
◎東京高裁・大阪高裁の旧優生保護法国家賠償請求訴訟判決を受けて、旧優生保護法下のすべての被害者に対する全面的被害回復を求める会長声明 愛知県弁護士会 2022年4月20日
旧優生保護法訴訟 1審判決と逆に 国に賠償命じる判決 大阪高裁 NHK 2023年3月23日 ○旧優生保護法のもとで不妊手術を強制されたとして兵庫県の5人が、国に賠償を求めた裁判で、2審の大阪高等裁判所は、訴えを退けた1審判決とは逆に国に賠償を命じました。一連の裁判で国の賠償責任を認めた判決は、7件目です。…1審とは逆に夫婦2組と女性1人に、それぞれ1650万円、合わせて4950万円を支払うよう国に命じました。
旧優生保護法裁判・大阪高裁判決を踏まえ,旧優生保護法下における強制不妊手術及び人工妊娠中絶の被害者たちの全面救済を求める会長声明 静岡県弁護士会 2022年(令和4年)2月24日
 ○旧優生保護法訴訟 東京高裁も原告勝訴 国に1500万円賠償命令
 ○旧優生保護法をめぐる訴訟 原告側が逆転勝訴 大阪高裁判決 朝日新聞 2022/02/22
 ・裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
 (大阪高等裁判所 第5民事部. 結果. その他. 原審裁判所名. 大阪地方裁判所. 原審事件番号. 平成30(ワ)8619. 原審結果. 判示事項の要旨. 1 旧優生保護法4条ないし13 ...)
 <判示事項の要旨> 1 旧優生保護法4条ないし13条は、子を産み育てるか否かについて意思決定をする自由及び意思に反して身体への侵襲を受けない自由を明らかに侵害するとともに、特定の障害等を有する者に対して合理的な根拠のない差別的取扱いをするもので、明らかに憲法13条、14条1項に反して違憲である。したがって、それら規定の立法行為は国家賠償法上違法である。
 2(1)旧優生保護法の優生思想や優生手術に関する文言・規定は、平成8年6月に成立した改正法により廃止された。除斥期間の起算点である「不法行為の時」は、控訴人らのいずれについても、上記法律の施行日前日である同年9月25日といえる。
  (2)控訴人らによる本件訴訟の提起の時点では、上記起算点から20年が経過していたが、旧優生保護法の規定による人権侵害が強度である上、憲法の趣旨を踏まえた施策を推進していくべき地位にあった被控訴人が、旧優生保護法の立法及びこれに基づく施策によって障害者等に対する差別・偏見を正当化・固定化、更に助長してきたとみられ、これに起因して、控訴人らにおいて訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあったことに照らすと、控訴人らについて、除斥期間の適用をそのまま認めることは、著しく正義・公平の理念に反する。時効停止の規定の法意に照らし、訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境が解消されてから6か月を経過するまでの間、除斥期間の適用が制限されるものと解するのが相当である。

★強制不妊で国に賠償命令、熊本 2高裁に続き地裁で初 【東京新聞】2023.01.23
 ○…中辻雄一朗裁判長は判決理由で、旧法が「極めて強烈な人権侵害を行った」と指摘した。
  ★安倍自民党は、憲法違反!! 繰り返し、繰り返し

平成三十一年法律第十四号 旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律 (一時金の額)第四条 一時金の額は、三百二十万円とする。(当初は300万円)  ★ビタ銭投げ⁉の法律 国による生殖機能剥奪がたった300万円。故意でだよ。安倍晋三、自民党、不届きにも程がある!!

「護憲+コラム」より
蔵龍隠士
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「人間の境界」境界は心の中にも

2024-05-27 09:39:37 | 民主主義・人権
2022年作の「人間の境界」は、シリアやアフガニスタンなどから戦乱を逃れて、スウェーデンを目指す難民たちの映画。ドラマです。https://transformer.co.jp/m/ningennokyoukai/

ベラルーシ政府は、難民達をポーランドとの国境へと移送します。それは難民をEU圏に送りつけて、混乱をもたらそうと利用する「人間兵器」という作戦でした。

ベラルーシ・ポーランド間の国境は、鉄条網が2列で間は緩衝地帯です。難民たちは鉄条網をくぐり抜けて、緩衝地帯を走って走って鉄条網をくぐるのです。ところがホッとした途端、ポーランド側の国境警備員に見つかり、また国境に連れ戻され、ベラルーシへと追い返される。ベラルーシ側は、ポーランドへ追い出そうとします。

そうした中で死者が出ると、互いに死体を相手側に投げ込む。臨月の妊婦でも容赦なく追い返そうとします。別の場所では緩衝地帯が森や沼地で、そこで溺れる少年も。なんという悲惨な国境でしょう。

国境警備員は、難民を「人間」とはみなさない「教育」を受けてから配置されるのでした。そんな中でも、国境を超えた人々を密かに支援するグループの存在にホッとします。

ドラマとはいえ事実をもとに、ドキュメンタリーのような3時間でした。
監督はポーランドのアグニェシュカ・ホランド。彼女の作品では1943年にナチスから地下に逃れる人々を描いた「ソハの地下水道」、ソ連時代にウクライナ地方の作物を取り上げたために起きた飢餓を描いた「赤い闇‐スターリンの冷たい大地で」を観ています。

ところで、日本政府の2023年の難民認定はわずか303人で、不認定が7627人です。難民の少なさは、世界から非難されているとか。

難民認定には「母国に帰れば身に危険が及ぶことを、客観的証拠に基づいて証明しなければならない」「証拠は日本語に翻訳して提出しなければならない」という条件が付いているからです。「身に危険が及ぶ客観的証拠」を自国から持ち出せる? 今まで使っていない「日本語で」それを表現できる難民がどのくらいいるでしょう。

「難民」なんて全く縁の無いような日常ですが、人間として生きる権利、住まう権利を、日本政府が損なうことが無いように、私たちにもできることがあるのかもしれないと考えさせられた映画でした。 

「護憲+BBS」「明日へのビタミン!ちょっといい映画・本・音楽・美術」より
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何故にパプアニューギニアで多くの死者の発生を伴う地滑り・土砂崩れが多いのか?どのような協力が我々にできるのだろうか?

2024-05-26 22:04:44 | 環境問題
もし社会に、何らかの構造的課題が存在しているのであれば、それに対しては是正に繋がる行動が為されてほしいものだ。その課題が国内のものであろうが、国際間にまたがるものであろうが、同様に行動が為されてほしいものである。

ところが、グローバルノースに対してグローバルサウスが存在していると言われていること自体に、両者の間には厳然たる構造的課題が国際間には存在していることは明白である。

例えば、パーム油のプランテ―ション開墾の為の森林伐採の横行や、違法伐採木材すらが流通し横行している状況の放置であり、結果として森林伐採が進行し、ために気候変動事象が更に悪化していくという悪い回転の構造が今もあり、しかも減るどころか拡大していると言われているのである。

そして課題が生じる大きな原因の一つに、格差の存在とその放置の問題があると考える。

ここで伝える話題の論旨は、例えば、先の能登地震の問題を考える際にも通じる興味ある視点が提供されていると思う。日本の国内にも、更に更にと富み栄えていく都市部と共に、更に更にと疲弊が進み消滅さえ懸念される田園部との格差問題があり、この課題の放置は許されないのであり、是正に繋がる行動が大いに論じられ、そして為されてほしいと思う所である。

かかる視点から、このパプアニューギニアの現在の災害状況を伝える記事は、これらの課題を再確認する機会となり意義あるものと思い紹介する次第です。

***
何故にパプアニューギニアで多くの死者の発生を伴う地滑り・土砂崩れが多いのか?どのような協力が我々にできるのだろうか?
(原題:Why does Papua New Guinea experience so many fatal landslides---and what can be done?
ABC news Australia アンドリュー・ソールペ氏記す )

この金曜、パプアニューギニア・エンガ州のカオカラムという辺境の村で、100人を超す人命が奪われたと見られる大規模な地滑り・土砂崩れが発生した。

パプアニューギニアでは、ここ数カ月間、地滑り・土砂崩れ被害が続いている。例えば4月にはシンブ州で14人が生き埋めになっており、3月中旬には3件の地滑り・土砂崩れが発生し少なくとも21人が亡くなっている。

人命が奪われる地すべり・土砂崩れ被害の発生は、パプアニューギニアでは今に始まったことではなく、しかも悲しいことに、地すべり・土砂崩れが定期的に発生し、多くの人命がこの地で奪われるものの、それらの報道が海外に流されることは余りないのである。

パプアニューギニアにおいて地すべり・土砂崩れが何故頻繁に発生するのか、しかも多数の人命が奪われ続けるのか、そして世界の国々がこの状況の打開にどう協力できるか、を考えてみたい。

科学雑誌「Eos」で「地滑り・土砂崩れブログ」を運営している、著名な地滑り・土砂崩れ事象専門家である英国のハル大学副学長のデイブ・ぺトレイ氏は、パプアニューギニアで頻発する地滑り・土砂崩れには多くの要因が絡んでおり、その中の主な要因としてパプアニューギニアの山岳地帯特有の気象環境と熱帯特有の天候とが深く影響している、と語る。

激しい風雨や嵐により地盤の浸食が進行していき、洪水や高潮といった全ての事象が危険な岩石落下の発生率を高める働きをする、とぺトレイ氏は指摘する。

それに加えて、パプアニューギニアは太平洋の2つのプレートの境界に沿って活火山が走り、そして地震活動の活発な環太平洋火山帯に位置しており、地滑り・土砂崩れが起こりやすい環境が整っている、としている。

「常時起こる地震自体が地滑り・土砂崩れを誘発することがあり、地震によって岩盤の斜面構造が弱体化されるということも起こる。いわば、これらの地域全体が構造的に非常に活動的な場所となっている」とぺトレイ氏は指摘する。

パプアニューギニアで頻発する地滑り・土砂崩れは確かに問題ではあるが、パプアニューギニアに限ったものではないのであり、例えばアメリカ・日本・イタリア・オーストリアやスイスのような世界の各地の丘陵・山岳地域で、厳しい気象条件が重なれば地滑り・土砂崩れは同様に発生しやすくなるのである。

それでは、人命を奪うような地滑り・土砂崩れが、ことにパプアニューギニアで頻発しているのは何故なのだろうか?

研究者らは、地震やその他の通常起こる自然災害の場合と同じく、地滑り・土砂崩れによる死亡者数とその地域の経済状況との間に存在する関係性に長年にわたり着目している。

全ての条件が同じであれば、国が貧しいほど、死亡者数は多くなる、と言われている。

この説明に対する理由は数多くある。インフラ構築物が貧弱な点・緊急時対応が有効に働かない点・医療体制が低水準である点や早期警戒警報システムがない点などが主な理由である。

別の理由として、その地域の人々の居住場所が、地域の開発状況によって決まってしまうという点を指摘する研究者がいる(Joshua West,The Conversation,January22,2018)。

パプアニューギニアは世界で最も田園地帯特有の社会が残っている地域の一つである。

公式発表の人口は、1050万人だが、実際はもっと多いと見られ、国連の調査結果によると1700万人程になるだろうと見られている。この違いの発生は、基礎的統計資料の運用上の不備が原因とされている。

いずれにしても、パプアニューギニアの都市部に居住する人の数は、全体の20%以下で、大半の人々は自給自足型農業に依存して暮らす農耕民であり、彼らは農耕のためある程度の土地を必要としている。そして人口が増大する傾向のなか、丘陵地が主体の地域で暮らさざるを得ない彼らは、必然的に地滑り・土砂崩れの危険性があり、緊急時の支援活動が期待できない地域に居住せざるを得ない状況に置かれているのである。

地形的な条件や気象条件の問題に加えて、パプアニューギニアの地滑り・土砂崩れ頻発の原因として、ペトリイ氏は人間の生産活動がもう一つ別の大きな要因となっていると指摘する。

パプアニューギニアの森林地域には、小さな規模の村々及び彼らの耕作地域が展開されている以外に、大規模産業の数多くの工場もまた展開されており、金・銀・銅・コバルトの採掘や液化天然ガス(LNG)も採掘が行われており、過去に人命を奪った地滑りが引き起こされていたのである。

規模の大きい違法伐採の問題もパプアニューギニアには存在しており、またパプアニューギニアは世界で5番目に多くヤシ油を輸出しており、ヤシ油のプランテ―ションには大規模な森林伐採がついて廻るのである。

ぺトレイ氏は、「地形的には、植林化・森林化が強く求められるのであるが、パプアニューギニアの森は伐採され続けている」と指摘する。

パプアニューギニアの森林伐採の問題は、衛星写真で確認する限り改善の兆しはない。パプアニューギニアは地滑り・土砂崩れの危険性の除去や低減に役立つインフラ作りに苦闘している最中である。

一方で、森林伐採も原因して気候変動は高進していき、海面上昇による高潮被害も課題となってきている。海岸沿いの村レセ・カヴォラの住民は、巨大高潮により農作地や飲み水が被害を受けたことから、この3月村全体の移動の検討を始めている。

気候変動は、地域の地形が対処できる能力を超える突然の気象状況を発生させることから、特に地滑りに大きな影響を与える、とぺトレイ氏は指摘する。

「短時間に、多大な降雨量を伴う雨に対して、崖という斜面は特に脆弱だ」としている。

「地形というものは、それが従来経験してきた最も大きな衝撃には耐える構造ではあるが、もしも新たな衝撃が従来経験した以上の大規模な場合、その地形は、新たな衝撃に応じて変形していくのであり、即ち地滑り・土砂崩れということが必然的なものになるのである」とぺトレイ氏は指摘する。

山岳地帯での地滑り・土砂崩れは、ある程度は避けられないものである。しかしながら、死亡者数や対応策という両面において地滑り・土砂崩れの被害を軽減することは出来る、と専門家らは指摘する。

ヤシ油のプランテ―ションやLNG開発の様な大規模プロジェクトを推進するのではなく、規模の小さい地元経済の後押しが、パプアニューギニアが進めるべき正しい方向の対策であろう。

ぺトレイ氏は、過去に数百人の人命が地滑り被害で失われていたヒマラヤ地域が植林活動・森林化促進活動により成功を収めてきているネパールの事例を取り上げている。「森林再生に積極的だった地域では、地滑り・土砂崩れはかなり減少しているのである」と指摘している。

パプアニューギニア以外の国々の人々は、例えばヤシ油への必要量を抑えることとか違法伐採の木材の利用をやめるといった形でパプアニューギニアの森林伐採スピードを遅らせる形での協力は可能である。

「希少金属等の資源の採掘の運用上の規制を強めることも又、我々には必要なことである」とぺトレイ氏は指摘している。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
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「国より先に、やりました」(保坂展人著・東京新聞出版)

2024-05-22 16:49:29 | 政治
92万都市・世田谷区の区長、保坂展人さんは、2011年に区長に就任した際、行政幹部を前に「5%改革」を提示。
「役所には、法で決められた仕事、定番となっている仕事がたくさんある。それは間違いなくやってほしいし、仕事全体の95%はこれまでやってきたことを継続することで構わない。ただ、100%継続では何も変化が起こらず、よどみが生まれてしまう。だから、残りの5%は大胆に変えて行ってほしい」と語ったそうです。

『「5%」とは小さな数字のように見えるが、1年目で5%を変える、翌年、変わっていない95%のうちの5%をまた変える、これを繰り返していくと、8年で3割以上、12年で半分近くが変わる計算になる。目指すのは、旧来のものを破壊して組み立て直すのではなく、らせん階段のようにだんだんと、着実に改革をしていくというやり方だ』と、保坂さんは言います。

こうして、保坂さんは、地元住民や区職員と対話を重ね、「参加と協同」のボトムアップの形で、「エネルギーの地域間連携」「保育の質を落とさない待機児童対策」「構想ビルを建てない下北沢再開発」「同性パートナーシップ制度」「自然の力を生かすインフラ整備」等々、住民の暮らしをよくするための政策を積み重ねていきます。

そして今、保坂さんは世田谷区内の実践に止まらず、自治体同士が政策を共有し、ときに連携して課題解決に取り組めるようにと、政治学者の中島岳志さん、杉並区長の岸本聡子さん、多摩市長の阿部裕行さんらと共に、全国の首長や地方議員をつなぐネットワーク「LIN・Net」をたちあげ、「地域主権と民主主義」の実現を目指した活動を進めています。

著書「国よりさきに、やりました」は、そんな保坂さんが、『この時代を覆っている「無力感」を吹き飛ばして、道は険しくとも到達できる複数のルートがある、政治は変えられる、社会も動きだす、という「希望」を読者に共有してほしい』と願って、これまで実践してきた、こうした具体的な政策を紹介したものです。

コロナウィルスの蔓延、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区攻撃、裏金問題に揺れる国内政治、等々、ともすれば「絶望」しそうな時代に生きる私たちにとって、今読んでおきたい、背中を押してくれる著書でした。

「護憲+BBS」「明日へのビタミン!ちょっといい映画・本・音楽・美術」より
笹井明子
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政治への参加は「無理ゲー」なのか

2024-05-19 21:28:30 | 民主主義・人権
「無理ゲー」という俗語がある。難易度が高すぎて攻略がほぼ不可能な(コンピューター)ゲームを指していたが、転じてゲーム以外の事柄にも用いられるようになり、実現や達成が無理だと想定されるほどに難易度が高いことを意味する語彙でもある。

各個人とその周囲の人々が日頃感じたことや気が付いたことを、住んでいる地域や国全体の制度面に反映させようとしても、住民の代表として議会に出席するまでの道のりがまさに無理ゲーと言わざるを得ない。

各自治体の住民あるいは国民を代表して話し合いの場に参加する議員になるためには、立候補する時点で高額な供託金を要求される。売名行為や泡沫候補の乱立を防ぐことが目的のようだが、訴える政策や目指すビジョンなどよりも先に必要な金銭を調達できる人が立候補している印象があり、抑止効果があるのか疑問である。また、法定得票数に達していない場合には全額没収されるため、立候補をためらう人も相当数いるのではないか。

実現不可能で達成困難であると思わされるのは、狭義の制度面だけの問題ではないだろう。

「現職・世襲・男性」が優先される不透明な候補者の選考過程も、様々な立場やバックグランドを持つ者の参入を阻んでいる。方針や政策を決定する場に、多様なキャリアを持つ人が入りにくい仕組みが問題視されるべきだ。

さらには、時間も金も犠牲にして選挙戦に臨み、仮に落選した場合でもその後の受け皿がない。

二階俊博氏の三男が次期衆院選に地盤を引き継いで立候補すると聞いた際に、やはり一定の条件を兼ね揃えた人しか意思決定の場には参加できないのかと愕然としてしまった。

弱みや隙を見せたがらない男性中心の社会では、現職の国会議員が入院治療中であると公表すれば職責を十分に果たせないと判断され、一般には不利に働くはずだ。しかし、今回の二階氏の場合には、息子による「世襲」を正当化する理由づけになるだろう。

納税額や性別を問わず誰もが一定の年齢になれば投票できる点では平等に権利を与えられている。だが、代表民主制の代表者になるための条件があまりにも限定され過ぎていて、やはり無理ゲーと言わざるを得ないのではないか。

「護憲+コラム」より
見習い期間
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「護憲でいいじゃないか」の意味

2024-05-19 15:37:50 | 憲法
猫家五六助さんのコラム「護憲で、いいじゃないか。」拝読しました。

安倍晋三の罪状は数え上げればきりがありませんが、数々の重要な法案も国会を無視して閣議決定だけで通してしまった事、岸田政権もそれを踏襲しています。
だからこそ「護憲でいいじゃないか」という言葉に我が意を得ました。

憲法九条が護られば良い、というわけではありません。
「基本的人権」、「平和主義」、「主権在民」が護られてこそ、そして生活や政治に活かされてこそ、真の民主国家と言えるのではないでしょうか。

そのために私も微力ながら声をあげて行きたいと思わされた猫家さんのコラムでした。

「護憲+BBS」「コラムの感想」より
パンドラ
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護憲で、いいじゃないか。

2024-05-14 09:39:33 | 憲法
国民の誰もが、その無神経で無礼な振舞いに呆れたことだろう。長年水俣病で苦しむ被害者の意見を「政府が伺う立場」の懇談会で、発言中の患者のマイクを環境省職員が切った事件である。
この騒動について元毎日新聞の尾中さんが考察し、批判を行っている。

◆水俣病被害者マイク音オフ問題で露呈した、岸田自民「謙虚さ」も「聞く力」も喪失した深刻な現状/MAG2ニュース、2024.05.13付、尾中 香尚里さん(ジャーナリスト)
https://www.mag2.com/p/news/598570

この記事を拝読して同意したが、そもそも自民党が極端に劣化したのは、鬼籍に入った安倍晋三が政権運営を始めた頃からだ。官房長官時代にNHKへ政治的圧力をかけたことは前哨戦であり、その後のモリカケ問題や街頭演説で「あんな人たち」と言い放ち、北海道で気に入らない聴衆を警察に排除させた。この男は「謙虚さ」も「聞く力」も皆無の“私物化総理”だった。

本グループ「今週のコラム」5/6付、パンドラさんの言葉を引用したい。
「内閣は国の行政機関です。立法機関である国会を無視して経済や防衛等の重要な法案を閣議決定で決め、国会がそれを追認するだけに成り下がったら、国会は必要なくなります。日本は民主国家ではない独裁国家に成り果ててしまうのです」

政治的テロではない、宗教的な恨みを買って殺された安倍晋三は、まさに閣議決定をフルに悪用しまくった政治家だった。集団的自衛権の解釈改悪、黒川検事総長のゴリ押し、最悪なのは首相主催「桜を見る会」出席者の推薦枠を首相夫人・安倍昭恵が行使したのに「首相夫人は公人ではなく私人」という下劣で無恥な閣議決定だが、ついには死して自身の葬式まで閣議決定で国葬にしてしまった。

また、先のジャーナリスト・尾中さんの他記事も拝読した。
◆失言どころじゃない差別発言を「石原節」ともてはやしたメディアの大罪/MAG2ニュース、2022.02.08付、尾中 香尚里さん(ジャーナリスト)
https://www.mag2.com/p/news/527895

約2年前の記事だが、水俣病被害者を含む弱者を軽蔑する自民党系差別主義者グループの源流を指摘し、迎合するマスメディアの大罪を批判している。あの傲慢ワンマン男・石原慎太郎の名前と振舞いも久しぶりに思い出した。尾中さんは悪い政治家の死は、日本を悪い方向へ回す歯車が逆回転する転機だと分析し、あきらめ気分の国民を叱咤しているように感じた。

老人党リアルグループ・護憲+は、憲法記念日に主要新聞紙面で「平和憲法を護る」主張を行う「5/3市民意見広告運動」に協賛している。右傾化している政治家やネトウヨは護憲派を「闘わない腰抜け」「理想論のお花畑」とあざ笑って非難するが、彼らには戦争状態の想像力が欠如し、戦争を起こさないために交渉努力する思考力が欠落している。今リアルに報道されているウクライナやガザの惨状を見てもなお、「だから、日本も核武装」「さらなる防衛力増強」などと考える始末だ。

最近、NHKで受信料に値するシリーズが始まった。
◆時をかけるテレビ〜今こそ見たい!この1本〜膨大なアーカイブから未来へのメッセージ
https://www.nhk.jp/p/tokikaketv/ts/WQGK99QWJZ/

その中で、まさしく5月3日に放送された「ドキュメント エルサレム」が秀逸だった。池上彰さんがパーソナリティーを務め、コメンテーターはイラン・イラク戦争で孤児として育った経験をもつサヘル・ローズさん(女優)。
https://excelling.co.jp/talent/sahel/

この番組内でコメントを求められたサヘルさんの言葉が、あらためて印象に残った。
・お互いが主張する「正義」がぶつかり、戦争になる。
・戦争に勝ち負けはない、両方が敗者。
(破壊つくされた焼け跡と多くの死傷者が残されるだけ)
・憎しみは何も生まない、報復の繰り返しが延々と続く。
・過去を断ち切り、赦せることを学ぶべき。
(過去を反省し、憎しみの連鎖を断ち切る)

つまり、日本は武装を誇示して「かかって来い!やってやるぜ!」ではなく、外交努力(情報収集とコミュニケーション)で「拳を収めてくれ、話し合おうよ」を優先すべきである。
それが平和国家であり、平和憲法を護る意味だと思う。

「護憲+コラム」より
猫家五六助
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洞窟の影絵

2024-05-06 16:19:37 | 民主主義・人権
東京新聞5月3日朝刊に印象に残る記事がありました。
『「洞窟の囚人」から脱して 憲法記念日に考える』という社説です。

ある洞窟の奥で何人もの囚人が両手を縛られ振り向く事も出来ない。彼らは洞窟の壁に写った影絵を見て、それを真実だと思い込んでいる。その内の1人が束縛を解いて洞窟の外へ出て行く。明々とした光源に導かれ彼が見たものは、洞窟に映った影絵とは似ても似つかぬ世界だった。洞窟の奥に戻りそれを仲間に伝えるが彼等は信じようとはしない。

これは古代ギリシャの哲学者プラトンが著した「洞窟の比喩」というエピソードです。

社説は、政権与党が国会を無視して重要な法案を閣議決定だけで決める今の日本の現状を、それに声を上げる事も諦めた人々を、洞窟の奥に繋がれた囚人達が壁に映る影絵を観て真実と思い込んでいる姿と重ね合わせています。

内閣は国の行政機関です。立法機関である国会を無視して経済や防衛等の重要な法案を閣議決定で決め、国会がそれを追認するだけに成り下がったら、国会は必要なくなります。日本は民主国家ではない独裁国家に成り果ててしまうのです。

野党もだらしが無いという言葉に惑わされずに、外遊で浮かれている閣僚達に冷水を浴びせるために、きたる国政選挙では自らの意思で投票しましょう。ほんの少しの勇気と責任を持って。

拘束を解き洞窟の入口まで歩るき始める時がきたのです。
そこで観る光景はどんなものだとしても、自らの意思で選び取ったものに違いないのですから。

「護憲+コラム」より
パンドラ
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原発がベースロード電源だとする神話を払拭する:再生可能エネは上手く働かない、という神話・物語は間違いである

2024-05-06 11:22:42 | 環境問題
「原発がベースロード電源だとする神話を払拭する:再生可能エネは上手く働かない、という神話・物語は間違いである」
(Energypost.eu 2016年3月23日  Mark Diesendorf氏記す)

今回の情報は、4月21日投稿の「原発ヨイショのお為ごかしな物語をオーストラリア・ディーゼンドルフ氏が反駁する」において、原発擁護者らが良く使う次の神話・物語1および2つの変形例については、著者のDiesendorf氏が既に説明済みとして前回の情報では触れなかった氏の反駁に相当するものになります。

【神話・物語1:ベースロード発電所は、ベースロード需要を供給するために必要だ。】
【変形例:ベースロード発電所は、不規則で安定していない再生可能エネルギーをバックアップするために、常時運転しておく必要がある。】
【変形例:再生可能エネルギーは、大規模な電力供給の為の主要な電力源と見なすには、あまりに不規則であり不安定性である。】

***
原発を正当化する主張として「原発は、水力と並んで大きな規模で信頼できるベースロード電源となる性能を持っている。しかも炭素排出量が小さい技術である。よって原発は必要なのである」ということを聞いたことがあるでしょう。

この主張に沿った神話や説明が、例えば、英国で提案された原発のHinkley Cの建設決定を正当化する際に英国のエネルギー担当Amber Ruddさんが利用しており、彼は「ベースロード電源確保は保証される必要がある」と主張している。
同様に、先のオーストラリア産業相のIan Macfarlaneさんは最近のウラニューム関連の会合において「誇ることが出来る唯一の排出炭素ガスゼロのベースロード電源のシステムは、水力と原子力である」との主張にも利用されている。

これらの主張が正当であるとするには、鍵となる3つの前提の妥当性の検証ならびに証明が必要となるのである。

一つ目の前提は、「確かにベースロード電源は良いものであり必要なものである」になる。
しかし、ベースロード電源というものは、必要のない時に必要以上の電力を供給し、必要な時には供給力が足りない、というのが実態としての実績なのである。
実際に必要とされ、優秀な電源とは、需要に見合う供給をその時々の状況に合わせて即座に追随できる柔軟性を持つ発電方式なのである。

二つ目の前提は、「原発は信頼できるベースロード電源である」という主張である。
しかし実際には原発はそのようなものではない。即ち、原発はすべて、安全上の理由や技術的欠陥から平常時の状態から逸脱する可能性が存在しているのである。よって、例えば3.2GWの原発には、すぐに呼び出せる3.2GWの高価な「運転予備力(spinning reserve)」を準備しておくことが求められているのである。

【参考情報:運転予備力とは、突然の故障や電力需要の急変に際しても安定した電力供給が出来るよう保有している余力電力のことを指す】

「どんな発電形式(原発・石炭や天然ガス火力)であろうが、ベースロード発電所というものは、需要の有無にかかわらず最高レベルの能力を常に発揮するように設計される必要がある」というのが三つ目の前提であるが、これも間違いである。
これらの前提条件の問題性を更に説明すると以下のようになる。

ソーラー発電から充分な供給を持たない通常の大規模電力網における夏季の電力需要の変動・動揺を想定して見ると、ベースロード発電所は一般に分刻み、時間刻みの需要と供給の変動・動揺に追随して運転するには適していないのである。従って、柔軟性のある、例えばダム機能を持つ水力発電や開放型ガスタービン発電(open cycle gas turbines,OCGTs)をもって補強しておくことが必要とされるのである。

「ベースロード発電所は、送電線網に信頼性の高い電力を供給する」という仮定は、再生可能エネルギ―から大規模な供給を受けている実際の送電線網の実績・経験から、および時間ごとのコンピューターシミュレーションの検証結果から、の両方から判断して、誤りであることが証明されている。
2014年、オーストラリア南部の州では、年間電力消費量の39%を再生可能エネルギ―(33%を風力、6%をソーラー)から取得しており、それにより、その州では石炭火力を用いていたベースロード発電所は不要だと判断され閉鎖している。そして数年にわたり州全体のシステムは再生可能エネルギ―とガスの組み合わせで確実に稼働しており、隣接のビクトリア州からの輸入も少量で済んでいるのである。
北ドイツのMecklenburg-Vorpommern州とSchleswig-Holstein州の両州は、その大半が風力である「実質」再生可能エネルギ―100%の稼働を既に実現している。「実質」というのは、相互間ならびに隣接する地域との間の取引の存在を意味している。
そしてこれら両州では、ベースロード発電所には依存していないのである。

そして「ベースロード発電所は必要ない」ということで一致している多くの研究があるのだが、これらの研究や説明・言説に対し「それはマヤカシだ」と反論する原発擁護者らが存在している。
彼ら原発擁護者らの言い分は「それらの地域は、どこか別の地域のベースロード発電所からの送電線網により輸入・移入される電力に依存している」というものである。
しかし実際にはベースロード発電所から輸入・移入されている量はわずかなのである。

オーストラリアのように完全に隔絶されている国々や、アメリカのようにほぼ隣国から隔絶している国々において、年間電力利用量の80~100%までの量を再生可能エネルギ―に依存する電力の需給システムに関する時間ごとのコンピューターシミュレーションが行なわれているが、得られている結果は実際的経験・実績と整合的なのである。
アメリカにおいて、科学者らや技術者らの大規模なチームによりコンピューターシミュレーションが行われ、80~90%の再生可能電力が技術的に適当であり、信頼できると認めている(100%再生可能なケースは検討していない)。2012版レポート(再生可能電力の将来性研究、Vol.1、技術レポートTP-6A20-A52409-1)が、アメリカ国家再生可能エネルギー研究所(National Renewable Energy Laboratory,NREL)から発行されており、そのシミュレーションの結果は、時間ごとの供給と需要とのバランスは取れているとしている。
さらにレポートによると、「現時点で購入可能な技術から得られる再生可能発電は、ある種のより柔軟な電気システムと組み合わせることで、2050年における時間ごとの需要に見合う形で、全米の80%の発電量を充分に適切に供給できる」としている。

入手できる技術と電力需要・風力及びソーラーに関する実測データを組み込んだ100%再生可能エネルギ―を条件としているオーストラリア国家電力マーケットが行った時間ごとのシミュレーションにおいても同様な結果が得られている。
このオーストラリアのモデルには、ベースロード発電所は含めておらず、比較的少規模の貯蔵施設が含まれているだけである。最近のシミュレーションはまだ公表されていないが、1時間ごとのデータは、8年間の期間に及んでいる。

欧州での研究と併せて、これらの研究は、負荷喪失確率または年間エネルギー不足といった全体の需給システムにおける標準的信頼性基準を満たした上で、ベースロード発電所は必要ないということを明らかにしているのである。

さらに、これらの研究からは、ソーラーや風力と言った変動する再生可能エネルギーを年間70%まで、その供給に依存するというオーストラリアでのモデルにおいても、信頼性は維持されるとしている。

では、このことを実現するには、どのようなことが必要なのだろうか?

それには、柔軟性ある発電所を使うことで、電力需要の動揺・不安定さをバランスさせることが必要なことだ、としている。

第一に必要なのは、変化しやすい風力やソーラー発電に起こる動揺・不安定さは、需要発生時点で電力を供給できる需給調整可能な、柔軟な再生可能発電源によってバランスを取るということである。これらの柔軟な再生可能発電源としては、ダム機能を持つ水力発電、オープンサイクルガスタービン(OCGTs)や熱貯蔵機能を持つ集中型太陽熱発電(concentrated solar thermal power:CST)がある。ここにおいて、システム内の全ての発電所が需給調整可能型であることは必須の条件ではない。
ちなみに、ガスタービン自体は、都市廃棄物や農業廃棄物の堆肥化などからの「グリーンガス」を燃料として利用したり、あるいは再生可能エネルギーの余剰分を利用することが出来る。これらについては以下に説明する。

第二に必要なのは、異なった統計的性能を有するものと再生可能エネルギー源を組み合わせて利用することで、信頼性を高めることである。このことは、複数の技術に依存するシステム、および地域を拡大して展開させた風力発電とソーラー発電に依存するシステムというものが、全体としての電力の動揺・不安定性を低減させることに繋がるということを示している。
このことにより、既に貢献度合いが小さいガスタービン発電の寄与を数%へと低減させることが出来ることになる。

第三に必要なのは、再生可能エネルギー源を地理的に広く分散させるために、そして送電線網への再生可能エネルギー源の供給多様性を高めるために、新たな送電線網が必要になるということである。
例えば、風の強いドイツ北部の地域とドイツ南部の風が弱く、限定的な太陽光の地域との間の接続例が提案されている。また大きな風力資源を持っているテキサスにとっては、隣接する州との接続を拡大する必要性があるということである。

第四に必要なのは、電力需要ピーク時の電力を削るために、そして電力供給量の低い時期の電力管理を目的として「スマート需要管理」を導入することで、信頼性を更に高めることが必要だということである。
このことは、電力供給者ならびに消費者の両方がコントロールできるスマートメーターとスマートスィッチによって支援をすることであり、そして電力需要が高い時や、または供給量が低い時に消費者が短期間、ある種の回路(例えば、エアコン、温水化、アルミの精錬)を切断するようプログラムを組むことで支援するやり方である。
アメリカ国家再生可能エネルギー研究所(NREL)がまとめているように、高レベルで再生可能エネルギ―発電を利用する電力システムの需給バランスを取る上で必要とされる、拡大された電力システムの柔軟性というものは、供給側ならびに需要側のオプションの保有リスト(柔軟な従来型発電や送電線網内での電力備蓄や新たな送電線網や、より応答性の高い電気機器や電力システム運用の変更)から得ることができる。

上記の研究をはるかに超える研究が、最近Mark Jacobsonらにより発表されている。
それによると、アメリカにおける輸送と加熱を含む全てのエネルギーが、再生可能エネルギーから供給できるということを示すものであった。コンピューターシミュレーションでは、6年間にわたり30秒ごとに獲得される電力需要・風力・ソーラーに関する合成データが使用されている。

備蓄(蓄電)或いは「風力ガス(windgas)」もまた電力の動揺・不安定性を管理できるのである。

上記の「柔軟な」方式というものは、良好な風力資源に恵まれるものの太陽光資源には恵まれない英国やその他の国にとっては経済的に最適なものではないかもしれない。

風力とソーラーにおける動揺や不安定さを管理していく別のやり方としては、より多く備蓄するやり方、例えば蓄電池または揚水式水力発電や圧縮空気方式がある。

さらに別の方式としては、英国のHinkley C原発プロジェクトに対し、もっとグリーンであり、低コストの代替え案だとして、エネルギーブレーンプール(Energy Brainpool)社が最近推奨している「風力ガス(windgas)」のシナリオがある。

このアイデアは過剰な風力エネルギーを用いて水の電解を行って水素を作り、その水素を用いてメタンを作り、それをコンバイン型サイクルガスタービン発電所(combined cycle gas turbine,CCGT)の燃料として利用するものである。

ここで、実用上は水素をメタンに100%変換する必要はなく、水素を少し残したメタン-水素混合物がより効率的であり有効な燃料になるとされている。
別のオプションに、水素をアンモニアに変換する方式があり、得られるアンモニアは燃料利用だけでなく、肥料産業向けに利用することも出来る。

ブレーンプール社のシナリオでは、このシステムは3.2GWのHinkley C 原発の発電出力を再現でき、より低コストで運用できるとしている。

実際には、以下に見るように、はるかに優れた方式とされる。

・各風力タービン、CCGT、ガス貯蔵ユニットや「電力をガスに転換」する施設は完成すれば、全体システムの建設完成を待たず、それの施設は直ちにその機能を発揮し始める
・このシステムはベースロード発電所としてではなく、実際には現実の需要に見合う柔軟な発電所として用いられることになり、もっと大きな価値を持つ施設となる
・ソーラー発電が更に安価になっていくと、ソーラー発電はそのシステムとの統合化が進められ、それによって更に弾力性・復元性が向上し、コストが低減することになる
・システム全体が送電線網の安定性を生む出し、原発のように全てが突然停止すると言ったマイナスの「統合コスト」を生みだすようなことは、起こらないことになる

以上、述べたように柔軟性がある再生エネルギ―を基盤とする全ての方式においては、「従来型のベースロード発電所というものは不要になる」のである。

オーストラリアの緑の党の前代議員Christine Milneさんは、「我々は今、過去と未来との間で起こっている争いのただ中にいる」と述べている。再生エネを故意に誹謗中傷するベースロードに関するお伽噺や神話の類に反論していくことが、この争いにとって鍵となる大切な作業なのである。
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最後にこの情報を提供しているオーストラリア・ニューサウスウェールズ大学で学際的環境研究を行っているMark Diesendorf準教授は次のように述べている。

「再生可能エネルギーには、ベースロード電力を供給できるだけでなく、もっと価値あること、即ち需要に応じて柔軟に電力を供給出来る性能がある。そして続けて再生可能エネルギーの拡大により、原発の役割・使命は実質的に終わる」と主張している。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
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