ケン・ローチ監督が、「ジミー、野を駆ける伝説」を最後にすると言っていたのに、80歳を越えて撮らずにおれなかった…とのこと。
それは、「死に物狂いで助けを求めている人々に国家が…官僚的な煩雑な手続きを利用して」断っている有様を描いた作品です。
「わたしは、ダニエル・ブレイク」 http://danielblake.jp/
「ゆりかごから墓場まで」と、その充実ぶりを言われていた英国の福祉政策は、サッチャー政権の引き締め以来、厳しい状況に変化してしまいました。
妻を亡くし1人暮らしのダニエルは、心臓病で大工の仕事は無理と、医師に止められます。そこで福祉手当を受けようとするのですが、「手は上がりますか?」などの質問の果てに、「働けるから福祉手当は出ない、就労支援金を」と。
職安で知り合ったシングルマザーのケイティも手当の減額と支払い延長が告げられて、2人は知り合いになり、互いに助け合いますが、どんどん追い詰められていきます。
日本でも、障害者、高齢者、片親家庭の貧困は問題になっています。福祉は申請しないと受けられないものも多く、受けられる福祉さえ知らない人や窓口の対応に諦めてしまう人もいることを思いながら観ていました。
もう1つ、この作品は、人々の助け合う姿を描いています。コンピュータに困惑するダニエルの手助けをする青年、「こうすれば…」と利用できる制度を勧める役人(後で上司に叱られる)、フードバンクの女性。
それは私たちにも、隣人にできることがあること、助け合えることを示しているのでしょう。困っている人がいたら、例えできることは僅かでも手を差し伸べることを。
監督自身が役所の官僚主義に振り回されたことがあるだろうと思うほどリアルに描かれています。目の前の人に心を通わせず、苦難を何とかしてやろうと思わず、「制度を無意識に扱う」ことへの、ローチ監督の抗議がこの作品に込められています。
『ハンナ・アーレント』は、「上からの命令に従って事務をしただけ」という、大量殺戮をしたナチのアイヒマンを、極悪人ではない。「動機もなく、信念も邪心も悪魔的な意図もない」ただ「考えることをしない」「ごく平凡な人間が行う悪」と言いました。
なだいなださんは「つつがなく任を終え」という退職時の挨拶は、「決まりきったこと以外、何もしなかった」ということだと言いました。
そして、「前例がない」からできないという言い訳は、良いことだと分かっていても、それを為す苦労をしたくないという言い訳。前例がないなら、良い例を作ればいいだけのこと…とも。
題の“I, Daniel Blake” は、人間としての尊厳を込めた、ダニエルの渾身の抗議なのです。その抗議に応えられる社会を目指せるようにと思いながら観てきました。
皆様もどうぞご覧ください。ケン・ローチ監督がぜひとも社会に訴えたかったことを、それぞれに受け止めていただけますように。
「護憲+BBS」「明日へのビタミン!ちょっといい映画・本・音楽・美術」より
珠
それは、「死に物狂いで助けを求めている人々に国家が…官僚的な煩雑な手続きを利用して」断っている有様を描いた作品です。
「わたしは、ダニエル・ブレイク」 http://danielblake.jp/
「ゆりかごから墓場まで」と、その充実ぶりを言われていた英国の福祉政策は、サッチャー政権の引き締め以来、厳しい状況に変化してしまいました。
妻を亡くし1人暮らしのダニエルは、心臓病で大工の仕事は無理と、医師に止められます。そこで福祉手当を受けようとするのですが、「手は上がりますか?」などの質問の果てに、「働けるから福祉手当は出ない、就労支援金を」と。
職安で知り合ったシングルマザーのケイティも手当の減額と支払い延長が告げられて、2人は知り合いになり、互いに助け合いますが、どんどん追い詰められていきます。
日本でも、障害者、高齢者、片親家庭の貧困は問題になっています。福祉は申請しないと受けられないものも多く、受けられる福祉さえ知らない人や窓口の対応に諦めてしまう人もいることを思いながら観ていました。
もう1つ、この作品は、人々の助け合う姿を描いています。コンピュータに困惑するダニエルの手助けをする青年、「こうすれば…」と利用できる制度を勧める役人(後で上司に叱られる)、フードバンクの女性。
それは私たちにも、隣人にできることがあること、助け合えることを示しているのでしょう。困っている人がいたら、例えできることは僅かでも手を差し伸べることを。
監督自身が役所の官僚主義に振り回されたことがあるだろうと思うほどリアルに描かれています。目の前の人に心を通わせず、苦難を何とかしてやろうと思わず、「制度を無意識に扱う」ことへの、ローチ監督の抗議がこの作品に込められています。
『ハンナ・アーレント』は、「上からの命令に従って事務をしただけ」という、大量殺戮をしたナチのアイヒマンを、極悪人ではない。「動機もなく、信念も邪心も悪魔的な意図もない」ただ「考えることをしない」「ごく平凡な人間が行う悪」と言いました。
なだいなださんは「つつがなく任を終え」という退職時の挨拶は、「決まりきったこと以外、何もしなかった」ということだと言いました。
そして、「前例がない」からできないという言い訳は、良いことだと分かっていても、それを為す苦労をしたくないという言い訳。前例がないなら、良い例を作ればいいだけのこと…とも。
題の“I, Daniel Blake” は、人間としての尊厳を込めた、ダニエルの渾身の抗議なのです。その抗議に応えられる社会を目指せるようにと思いながら観てきました。
皆様もどうぞご覧ください。ケン・ローチ監督がぜひとも社会に訴えたかったことを、それぞれに受け止めていただけますように。
「護憲+BBS」「明日へのビタミン!ちょっといい映画・本・音楽・美術」より
珠
