わたしは、参議院選挙前、争点を年金問題に絞れと主張した。理由は簡単。国民の将来の命の綱である年金を博打に使い、大損をしておきながら、その詳細を明らかにしない。年金を運用している連中は、莫大な給料(委員長は年収3000万以上)をもらいながら、誰ひとり責任を取らない。こんな事で良いのかを徹底的に追及、それを参議院選挙の争点にすれば、野党は攻めの選挙ができると考えたからである。
多くのリベラル勢力が誤解しているのだが、憲法改正・安保法案・反原発か否か、などの理念的対立は、票になりにくい。日本人の特性といっても良いのだが、『理念的対立』は、日常生活で世話になっている方が勝つ。一言でいえば、『長いものには巻かれろ』『無理が通れば道理引っ込む』の世界が優先する。要するに、『理屈は正しいのだが、それを支持すると、俺の生活に響く』というのである。
力の強い方(与党)連中もその事をよく知っていて、『泣く子と地頭には勝てぬ』というような露骨な主張はしない。『正しい事』は一度には実現しない。徐々に段階的に実現しよう、という逃げ道を提示する。つまり、『長いものに巻かれた』人々に対するエクスキューズを用意しているのである。
それに対して、リベラル勢力の戦いは『正々堂々』としており、主張にぶれはない。だから、論争をすれば、リベラル派が確実に勝利する。しかし、選挙では決して勝利できない。権力の強さ・しぶとさを思い知らされる。この構図、リベラル派支持者の人は、厭と言うほど経験しているはずである。
この構図を打ち破れる方策を提示できた政治家は、小沢一郎ただ一人。わたしが、彼を『革命家』と評価する所以である。
昨日、堤未果『政府はもう嘘をつけない』(角川新書)を読んだ。非常な力作で、多くの示唆を得た。堤女史に対する私の評価は大変高くなった。
この第一章が、『金の流れでアメリカ大統領選が見える』である。アメリカ大統領が誰のために働いているかが、きわめて分かりやすくお金の流れの分析で解説されている。
一例を引用しよう。
・・・
公権力腐敗を対象とする非営利の調査報道団体「The Center for Public Integrity」のベス・イーシアは言う。「政治とカネの問題とはつまり、1%の超富裕層や利益団体の政治献金が政治を動かしている今のアメリカです。特にリーマン・ショック以降、この国の多くの有権者にとってその不信感は強くなっている。でも、実は、ヒラリーこそが、その恩恵を最も受けている候補なのです。」
(堤)「オバマ大統領も、当選した時には政治献金問題に手をつけると言っていましたよね」
(イーシア)「はい。ですが、就任するとこの問題はうやむやにされました。あの選挙で大企業やウォール街を中心に彼が集めた、7億5千万ドル(約750億円)という史上最高額の政治献金は、2期目の選挙では10億ドル(約1000億円)に跳ね上がってしまって・・」
(堤)「10億ドルですか」
(イーシア)「ええ、信じられない額ですが、2度目の選挙の大口スポンサーが、あの『全米貿易協議会』(NFTC)といえば分かるでしょう」
『全米貿易協議会』(NFTC)といえば、アメリカで最も古く、最大規模の財界団体だ。メンバーをみると、世界中に市場を持つグローバル企業がずらりと並んでいる。シェブロン・GE・ボーイング・シティグループ・VISA・オラクル・タイムワーナー・マイクロソフト・IBM・モンサント・ファイザー・ジョンソン・インテル・ウォルマートのような巨大グローバル企業をはじめ、「著作権」や「知的財産権」を取り扱う「全米映画協会」や「全米音楽協会」「米国出版協会」「全米商工会議所」「全米肉生産者・牛肉協会」などのロビー団体も入っている。
※(イーシア)「2期目の就任式で、最前列の席に並んだ大口スポンサーの顔ぶれを見ましたか。あれを見れば、オバマ大統領が誰のために働いていたのかが一目瞭然ですよ」
・・・・堤未果「政府はもう嘘をつけない」42、43P
人は理想だけでは生きていけない。しかし、理想のない人生は、味気ない。おそらく、1期目のオバマ大統領はこの間で揺れ動いたに相違ない。しかし、2期目のオバマ大統領は、「理想だけでは生きていけない」に舵を切ったに相違ない。
オバマ大統領のリベラルな思想傾向から見れば、TPP法案の持つ危険性は自明の理であろう。しかし、オバマ大統領は、TPP推進に舵を切った。堤の記述を見れば、その理由は明白。しかし、日本でこのような解説など読んだ事がない。日本の言論状況の危うさがよく理解できる。
わたしは、日本のリベラル派は、このように直栽で分かりやすい主張をすべきだと考えている。
よく思いだしてほしい。民主党が政権交代を果たした時のキャッチフレーズ。『国民の生活が第一』『コンクリートから人間へ』。どこにもイデオロギー臭がない。それでいて、ストンと胸に落ちる。
現在、NHKで放映されている朝ドラ「ととねえちゃん」で描かれている花森安治率いる『暮らしの手帖』のコンセプトも、「国民の暮らし」が第一という思想である。戦後の混乱期、何故『暮らしの手帖』が影響力を持ちえたかを考えなければならない。
リベラル派勢力は、野党がはじめて日本の選挙で勝利した選挙の教訓をもっともっと大切にしなければならない。
米国大統領選挙の共和党のトランプ候補、民主党で最後まで健闘したサンダース議員。両者に共通するのは、オバマやヒラリーのように、大企業やウォール街から献金を受けていない点にある。1%の富裕層の代弁者ではない、という事を鮮明にしている点である。
英国のキャメロン首相が、EU離脱派を説得できなかったのも、彼が1%の利益の代弁者である、という国民の見方を変える事が出来なかった点に一つの原因がある。
世界の趨勢は、『反グローバリズム』『反新自由主義』『反貧困』に傾きつつある。1%の富裕層のための政治に対するアンチが趨勢になりつつある。
この成功例が、アイスランドだといえる。堤女史の本では、「鍋とフライパン革命」~マネーゲームの尻拭いを国民に押し付けるな~という題名で説明されている。多少長くなるが、日本国民にとってきわめて重要なヒントが書かれているので、引用してみる。(私流に簡単にまとめています)
・・アイスランドがフリードマンを信奉するオッドソン首相によって1990ン代「新自由主義」の洗礼を受ける。⇒金融規制を緩和⇒アイスランドを「タックスヘイブン」に生まれ変わらせる。⇒カネがカネを生むという【金融工学】の魔力がアイスランドを席巻。⇒2004年オッドソンは首相を辞め、中央銀行総裁に就任。⇒アイスランドの銀行は、年率6%の超高金利のネット預金「アイスセーブ」などをはじめ、ヨーロッパ各国の投資家・企業から巨額の資金を集める。⇒この結果、アイスランドの3大銀行は、3年半で総資産をGDPの10倍に増やし、株価を9倍、不動産価格は3倍に跳ね上がった。いわゆる【金融バブル】⇒2007年アイスランドは、世界5位の金持ち国になる。
⇒この背景にウオール街の金融猛者が牙を研いでいた。▲米国の著名な経済学者(ウォール街から多額の報酬を得ていた)は、対外債務がGDPNの900%という危険水域に達していたアイスランド経済を「世界有数の成功物語」と絶賛させる。格付け会社はアイスランド経済の抱える危険を無視して、【AAA】の評価をつける。★理由⇒危険な商品を売る際の法外な手数料で儲けている。リスクそのものにかける【CDB保険】にも加入。どこかが大きく破綻すれば、その分払われる保険金の額も大きくなる。⇒この時の『金融バブル』は、仕掛けるウオール街の住人達はどう転んでも損をしないように設計されていた。
⇒2008年10月、アメリカで不動産バブルが破裂。⇒株価大暴落⇒アイスランドも破綻。
アイスランドは2008年10月「国家破綻宣言」を出す。GDPの1/4である50億ドル(約5000億円)の負債を背負って破綻した。
⇒イギリス・フランスなど欧州各国から負債の返還を迫られる。⇒無い袖は振れないアイスランド。⇒ロシアが救いの手を差し伸べる。(★狙いはアイスランドの地理的位置⇒欧米にとって安全保障上の要衝)
⇒アメリカとNATOは直ちに手を打つ。⇒JMFが融資を引き受ける。⇒悪名高い【構造改革策】をセットで受け入れる。⇒アイスランドは国民は財産。⇒教育と医療に惜しみなく金が使われる。⇒収入の40%は税金で納めるが、教育と医療は全てただ。手厚い社会保障政策が取られていた。⇔IMFの構造改革策が正反対。「まず無駄をなくし、大胆な民営化や通貨切り下げ政策による経済の回復」という理念からすれば、「教育」と「医療」は真っ先に切り捨てるべき【ぜいたく品】なのである。⇒削った分だけ民営化する。⇒外資のビジネスチャンスも生まれ、外からの投資も呼び込める。
この時のIMFの構造改革策が強制されたのは、アイスランド、ギリシャ、イタリア、スペインなど。この【構造改革策】で地獄に突き落とされたのがギリシャ。医療崩壊により、公衆衛生が低下。大きな経済停滞を招いた。
ではアイスランドはどうしたか。ヨーロッパ諸国の中でも社会的連帯が強いアイスランド国民は、医療切り捨てに当惑した。しかし、その理由が一部の政府と銀行連中によるマネーゲームの尻拭いだと知ると、さすがのおとなしいアイスランド国民も怒った。
2009年1月。アイスランド国民約3000人が国会議事堂を囲む。「医療に市場原理を導入したり、セイフティネットを削るより、国民が健康で元気に働けるように国がサポートする方が、医療費も下がるし、税収も上がるはずだ」と言うわけである。
暴力的でなく、それぞれが家から持参した鍋とフライパンを叩きながら、粘り強く抗議した。⇒政府が根負け。⇒内閣は総辞職。首相は辞任。⇒2010年3月の国民投票。⇒グリムソン大統領は投票結果に沿った政策を実行した。⇒ホルデ前首相をはじめ、大手銀行CEOを含む200人に逮捕状が出される。
※「銀行が大きすぎて潰せない」
アイスランド国民は同時期アメリカが行った銀行救済策を鼻で笑う。
「そんなの構わない。潰したらよい」
・・・・・「同書 239~241」
ここ数年来のギリシャの経済危機の遠因が、この時のIMFの構造改革策の押し付けにあった事は明白。アジアの経済危機の時も、IMFの構造改革策はアジア経済に甚大な被害を与えた。韓国経済の難しさも、金融危機の時のIMFの構造改革策が遠因である。結局、IMFの経済学者の机上の空論を跳ね返したアイスランド国民の選択が正しかったのである。
小泉政権以来日本を席巻してきた新自由主義的経済政策をよく見れば、IMFの【構造改革策】そのものである。特に【教育】の自由化、【医療】の自由化などアイスランド国民が身体を張って阻止した政策を何とか導入しようとしてきたのが、小泉政権以来の『新自由主義的構造改革』である。
この【構造改革策】は、民主党政権樹立までは、「年次改革要望書」で米国が日本に強要してきていた。安倍政権成立以降、その日米協議の総仕上げとして、TPP協議が行われてきている。
アベノミクスなる実態のはっきりしない、経済政策とも言えない経済政策を振り回してきているが、今や破綻寸前である。その第一が、年金を株に投入したあげく、5兆円を超える損失を出している事である。
まず、日刊ゲンダイはいつも通り厳しく指摘している。
年金損失桁外れ 日銀の爆買いなければ株は14000円
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/188714
2016年8月27日 日刊ゲンダイ
・・・「また大損だ。国民年金や厚生年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が26日、2016年4~6月期の運用結果を発表したが、5兆2342億円の赤字だった。16年1~3月期も4兆7990億円の赤字だったから、2四半期連続のマイナス。半年間の損失額は10兆円に膨らんだ。14年10月から株式比率を大幅に引き上げた結果がこのザマだ。」
さらに危ない事に、前代未聞の官製相場は今、この国の経済を根幹からむしばみつつある。
「日銀が超有名55社の筆頭株主という異常。
日本の金融市場で起きている異常事態。日銀が筆頭株主という大企業が激増しているのも、そのひとつだ。今月15日のブルームバーグの記事によれば、8月初旬時点で日経平均株価を構成する225銘柄のうち、ナント75%で日銀が大株主上位10位以内に入っているというのである。
加えて、日銀が先月29日の金融政策決定会合で、ETFの購入枠を従来の倍の6兆円に広げたことで、17年度末には55銘柄で日銀が筆頭株主に躍り出るという。ヤマハ、セコム、カシオ計算機、エーザイ、京セラ、三越伊勢HDなど超有名企業ばかりで業種も多岐にわたる。」・・・
もはや黙って看過できるレベルの話ではない。日銀が筆頭株主など、それこそ日本は共産主義社会か、と言う話である。今週発売のサンデー毎日では、「官制マネー40兆円が買い支える日本株の一寸先」という記事が書かれている。
政府官制紙と言っても良い日経新聞ですら、「7月末現在で日銀は8.7兆円のETFを保有。このほか日銀は金融機関から買い取った株式も持っているため、それを含めると日銀の持ち株比率は浮動株ベースで3.2%となる。1年後には5.1%に上昇する可能性があり、日本企業全体の大株主となるといってもよいかもしれない――。」(株式市場は「隷属への道」を歩む 編集委員 小平龍四郎 )と書いている。
さらに、「まず、企業経営への影響です。業績が良くても悪くても日銀が買い支えてくれるわけですから、市場を通じた経営への規律づけが、弱まる可能性があります。さらに、ETFは手数料が低く抑えられているため、運用会社による議決権行使などが不十分になる懸念もあります。競争力の弱った企業の株価が人為的に高く保たれ、企業統治(コーポレートガバナンス)も効きにくいとなれば、市場を通じた資本配分はゆがみます。日本経済の潜在成長率も押し下げられるでしょうか ら、アベノミクスの数々の成長戦略の効果を減殺してしまいます。」(株式市場は「隷属への道」を歩む 編集委員 小平龍四郎 )と書かざるを得なくなっている。
一言でいえば、アベノミクスは完全に失敗。もはや、修復の余地はない。しかし、『アベノミクスは道半ば』などとほざいて、絶対に失敗を認めない。もし、GPIFの資金や日銀マネー(ETF)を株式市場から撤退させると、株はあっという間に大暴落。大混乱をきたす。そうかと言って、株価の下支えのために年金を使い続けると、135兆円あった年金は10年程度で消えてなくなるという試算もある。文字通り、安倍政権は【進むも地獄。退くも地獄】の情況にある。
安倍政権の運命などどうでも良いが、日本国民の運命も同じ状況にあるといって過言ではない。民進党も多くの国民も、この危機感が足りない。わたしが、今回の参議院選挙の争点を【年金問題】に絞れと主張した理由は、この危機感にある。
ギリシャを襲った国家的危機、アイスランドを襲った国家的破綻。いずれも他人事ではない。せめて、日本人は、アイスランド国民程度の賢さは持たなくてはならない。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
流水
多くのリベラル勢力が誤解しているのだが、憲法改正・安保法案・反原発か否か、などの理念的対立は、票になりにくい。日本人の特性といっても良いのだが、『理念的対立』は、日常生活で世話になっている方が勝つ。一言でいえば、『長いものには巻かれろ』『無理が通れば道理引っ込む』の世界が優先する。要するに、『理屈は正しいのだが、それを支持すると、俺の生活に響く』というのである。
力の強い方(与党)連中もその事をよく知っていて、『泣く子と地頭には勝てぬ』というような露骨な主張はしない。『正しい事』は一度には実現しない。徐々に段階的に実現しよう、という逃げ道を提示する。つまり、『長いものに巻かれた』人々に対するエクスキューズを用意しているのである。
それに対して、リベラル勢力の戦いは『正々堂々』としており、主張にぶれはない。だから、論争をすれば、リベラル派が確実に勝利する。しかし、選挙では決して勝利できない。権力の強さ・しぶとさを思い知らされる。この構図、リベラル派支持者の人は、厭と言うほど経験しているはずである。
この構図を打ち破れる方策を提示できた政治家は、小沢一郎ただ一人。わたしが、彼を『革命家』と評価する所以である。
昨日、堤未果『政府はもう嘘をつけない』(角川新書)を読んだ。非常な力作で、多くの示唆を得た。堤女史に対する私の評価は大変高くなった。
この第一章が、『金の流れでアメリカ大統領選が見える』である。アメリカ大統領が誰のために働いているかが、きわめて分かりやすくお金の流れの分析で解説されている。
一例を引用しよう。
・・・
公権力腐敗を対象とする非営利の調査報道団体「The Center for Public Integrity」のベス・イーシアは言う。「政治とカネの問題とはつまり、1%の超富裕層や利益団体の政治献金が政治を動かしている今のアメリカです。特にリーマン・ショック以降、この国の多くの有権者にとってその不信感は強くなっている。でも、実は、ヒラリーこそが、その恩恵を最も受けている候補なのです。」
(堤)「オバマ大統領も、当選した時には政治献金問題に手をつけると言っていましたよね」
(イーシア)「はい。ですが、就任するとこの問題はうやむやにされました。あの選挙で大企業やウォール街を中心に彼が集めた、7億5千万ドル(約750億円)という史上最高額の政治献金は、2期目の選挙では10億ドル(約1000億円)に跳ね上がってしまって・・」
(堤)「10億ドルですか」
(イーシア)「ええ、信じられない額ですが、2度目の選挙の大口スポンサーが、あの『全米貿易協議会』(NFTC)といえば分かるでしょう」
『全米貿易協議会』(NFTC)といえば、アメリカで最も古く、最大規模の財界団体だ。メンバーをみると、世界中に市場を持つグローバル企業がずらりと並んでいる。シェブロン・GE・ボーイング・シティグループ・VISA・オラクル・タイムワーナー・マイクロソフト・IBM・モンサント・ファイザー・ジョンソン・インテル・ウォルマートのような巨大グローバル企業をはじめ、「著作権」や「知的財産権」を取り扱う「全米映画協会」や「全米音楽協会」「米国出版協会」「全米商工会議所」「全米肉生産者・牛肉協会」などのロビー団体も入っている。
※(イーシア)「2期目の就任式で、最前列の席に並んだ大口スポンサーの顔ぶれを見ましたか。あれを見れば、オバマ大統領が誰のために働いていたのかが一目瞭然ですよ」
・・・・堤未果「政府はもう嘘をつけない」42、43P
人は理想だけでは生きていけない。しかし、理想のない人生は、味気ない。おそらく、1期目のオバマ大統領はこの間で揺れ動いたに相違ない。しかし、2期目のオバマ大統領は、「理想だけでは生きていけない」に舵を切ったに相違ない。
オバマ大統領のリベラルな思想傾向から見れば、TPP法案の持つ危険性は自明の理であろう。しかし、オバマ大統領は、TPP推進に舵を切った。堤の記述を見れば、その理由は明白。しかし、日本でこのような解説など読んだ事がない。日本の言論状況の危うさがよく理解できる。
わたしは、日本のリベラル派は、このように直栽で分かりやすい主張をすべきだと考えている。
よく思いだしてほしい。民主党が政権交代を果たした時のキャッチフレーズ。『国民の生活が第一』『コンクリートから人間へ』。どこにもイデオロギー臭がない。それでいて、ストンと胸に落ちる。
現在、NHKで放映されている朝ドラ「ととねえちゃん」で描かれている花森安治率いる『暮らしの手帖』のコンセプトも、「国民の暮らし」が第一という思想である。戦後の混乱期、何故『暮らしの手帖』が影響力を持ちえたかを考えなければならない。
リベラル派勢力は、野党がはじめて日本の選挙で勝利した選挙の教訓をもっともっと大切にしなければならない。
米国大統領選挙の共和党のトランプ候補、民主党で最後まで健闘したサンダース議員。両者に共通するのは、オバマやヒラリーのように、大企業やウォール街から献金を受けていない点にある。1%の富裕層の代弁者ではない、という事を鮮明にしている点である。
英国のキャメロン首相が、EU離脱派を説得できなかったのも、彼が1%の利益の代弁者である、という国民の見方を変える事が出来なかった点に一つの原因がある。
世界の趨勢は、『反グローバリズム』『反新自由主義』『反貧困』に傾きつつある。1%の富裕層のための政治に対するアンチが趨勢になりつつある。
この成功例が、アイスランドだといえる。堤女史の本では、「鍋とフライパン革命」~マネーゲームの尻拭いを国民に押し付けるな~という題名で説明されている。多少長くなるが、日本国民にとってきわめて重要なヒントが書かれているので、引用してみる。(私流に簡単にまとめています)
・・アイスランドがフリードマンを信奉するオッドソン首相によって1990ン代「新自由主義」の洗礼を受ける。⇒金融規制を緩和⇒アイスランドを「タックスヘイブン」に生まれ変わらせる。⇒カネがカネを生むという【金融工学】の魔力がアイスランドを席巻。⇒2004年オッドソンは首相を辞め、中央銀行総裁に就任。⇒アイスランドの銀行は、年率6%の超高金利のネット預金「アイスセーブ」などをはじめ、ヨーロッパ各国の投資家・企業から巨額の資金を集める。⇒この結果、アイスランドの3大銀行は、3年半で総資産をGDPの10倍に増やし、株価を9倍、不動産価格は3倍に跳ね上がった。いわゆる【金融バブル】⇒2007年アイスランドは、世界5位の金持ち国になる。
⇒この背景にウオール街の金融猛者が牙を研いでいた。▲米国の著名な経済学者(ウォール街から多額の報酬を得ていた)は、対外債務がGDPNの900%という危険水域に達していたアイスランド経済を「世界有数の成功物語」と絶賛させる。格付け会社はアイスランド経済の抱える危険を無視して、【AAA】の評価をつける。★理由⇒危険な商品を売る際の法外な手数料で儲けている。リスクそのものにかける【CDB保険】にも加入。どこかが大きく破綻すれば、その分払われる保険金の額も大きくなる。⇒この時の『金融バブル』は、仕掛けるウオール街の住人達はどう転んでも損をしないように設計されていた。
⇒2008年10月、アメリカで不動産バブルが破裂。⇒株価大暴落⇒アイスランドも破綻。
アイスランドは2008年10月「国家破綻宣言」を出す。GDPの1/4である50億ドル(約5000億円)の負債を背負って破綻した。
⇒イギリス・フランスなど欧州各国から負債の返還を迫られる。⇒無い袖は振れないアイスランド。⇒ロシアが救いの手を差し伸べる。(★狙いはアイスランドの地理的位置⇒欧米にとって安全保障上の要衝)
⇒アメリカとNATOは直ちに手を打つ。⇒JMFが融資を引き受ける。⇒悪名高い【構造改革策】をセットで受け入れる。⇒アイスランドは国民は財産。⇒教育と医療に惜しみなく金が使われる。⇒収入の40%は税金で納めるが、教育と医療は全てただ。手厚い社会保障政策が取られていた。⇔IMFの構造改革策が正反対。「まず無駄をなくし、大胆な民営化や通貨切り下げ政策による経済の回復」という理念からすれば、「教育」と「医療」は真っ先に切り捨てるべき【ぜいたく品】なのである。⇒削った分だけ民営化する。⇒外資のビジネスチャンスも生まれ、外からの投資も呼び込める。
この時のIMFの構造改革策が強制されたのは、アイスランド、ギリシャ、イタリア、スペインなど。この【構造改革策】で地獄に突き落とされたのがギリシャ。医療崩壊により、公衆衛生が低下。大きな経済停滞を招いた。
ではアイスランドはどうしたか。ヨーロッパ諸国の中でも社会的連帯が強いアイスランド国民は、医療切り捨てに当惑した。しかし、その理由が一部の政府と銀行連中によるマネーゲームの尻拭いだと知ると、さすがのおとなしいアイスランド国民も怒った。
2009年1月。アイスランド国民約3000人が国会議事堂を囲む。「医療に市場原理を導入したり、セイフティネットを削るより、国民が健康で元気に働けるように国がサポートする方が、医療費も下がるし、税収も上がるはずだ」と言うわけである。
暴力的でなく、それぞれが家から持参した鍋とフライパンを叩きながら、粘り強く抗議した。⇒政府が根負け。⇒内閣は総辞職。首相は辞任。⇒2010年3月の国民投票。⇒グリムソン大統領は投票結果に沿った政策を実行した。⇒ホルデ前首相をはじめ、大手銀行CEOを含む200人に逮捕状が出される。
※「銀行が大きすぎて潰せない」
アイスランド国民は同時期アメリカが行った銀行救済策を鼻で笑う。
「そんなの構わない。潰したらよい」
・・・・・「同書 239~241」
ここ数年来のギリシャの経済危機の遠因が、この時のIMFの構造改革策の押し付けにあった事は明白。アジアの経済危機の時も、IMFの構造改革策はアジア経済に甚大な被害を与えた。韓国経済の難しさも、金融危機の時のIMFの構造改革策が遠因である。結局、IMFの経済学者の机上の空論を跳ね返したアイスランド国民の選択が正しかったのである。
小泉政権以来日本を席巻してきた新自由主義的経済政策をよく見れば、IMFの【構造改革策】そのものである。特に【教育】の自由化、【医療】の自由化などアイスランド国民が身体を張って阻止した政策を何とか導入しようとしてきたのが、小泉政権以来の『新自由主義的構造改革』である。
この【構造改革策】は、民主党政権樹立までは、「年次改革要望書」で米国が日本に強要してきていた。安倍政権成立以降、その日米協議の総仕上げとして、TPP協議が行われてきている。
アベノミクスなる実態のはっきりしない、経済政策とも言えない経済政策を振り回してきているが、今や破綻寸前である。その第一が、年金を株に投入したあげく、5兆円を超える損失を出している事である。
まず、日刊ゲンダイはいつも通り厳しく指摘している。
年金損失桁外れ 日銀の爆買いなければ株は14000円
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/188714
2016年8月27日 日刊ゲンダイ
・・・「また大損だ。国民年金や厚生年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が26日、2016年4~6月期の運用結果を発表したが、5兆2342億円の赤字だった。16年1~3月期も4兆7990億円の赤字だったから、2四半期連続のマイナス。半年間の損失額は10兆円に膨らんだ。14年10月から株式比率を大幅に引き上げた結果がこのザマだ。」
さらに危ない事に、前代未聞の官製相場は今、この国の経済を根幹からむしばみつつある。
「日銀が超有名55社の筆頭株主という異常。
日本の金融市場で起きている異常事態。日銀が筆頭株主という大企業が激増しているのも、そのひとつだ。今月15日のブルームバーグの記事によれば、8月初旬時点で日経平均株価を構成する225銘柄のうち、ナント75%で日銀が大株主上位10位以内に入っているというのである。
加えて、日銀が先月29日の金融政策決定会合で、ETFの購入枠を従来の倍の6兆円に広げたことで、17年度末には55銘柄で日銀が筆頭株主に躍り出るという。ヤマハ、セコム、カシオ計算機、エーザイ、京セラ、三越伊勢HDなど超有名企業ばかりで業種も多岐にわたる。」・・・
もはや黙って看過できるレベルの話ではない。日銀が筆頭株主など、それこそ日本は共産主義社会か、と言う話である。今週発売のサンデー毎日では、「官制マネー40兆円が買い支える日本株の一寸先」という記事が書かれている。
政府官制紙と言っても良い日経新聞ですら、「7月末現在で日銀は8.7兆円のETFを保有。このほか日銀は金融機関から買い取った株式も持っているため、それを含めると日銀の持ち株比率は浮動株ベースで3.2%となる。1年後には5.1%に上昇する可能性があり、日本企業全体の大株主となるといってもよいかもしれない――。」(株式市場は「隷属への道」を歩む 編集委員 小平龍四郎 )と書いている。
さらに、「まず、企業経営への影響です。業績が良くても悪くても日銀が買い支えてくれるわけですから、市場を通じた経営への規律づけが、弱まる可能性があります。さらに、ETFは手数料が低く抑えられているため、運用会社による議決権行使などが不十分になる懸念もあります。競争力の弱った企業の株価が人為的に高く保たれ、企業統治(コーポレートガバナンス)も効きにくいとなれば、市場を通じた資本配分はゆがみます。日本経済の潜在成長率も押し下げられるでしょうか ら、アベノミクスの数々の成長戦略の効果を減殺してしまいます。」(株式市場は「隷属への道」を歩む 編集委員 小平龍四郎 )と書かざるを得なくなっている。
一言でいえば、アベノミクスは完全に失敗。もはや、修復の余地はない。しかし、『アベノミクスは道半ば』などとほざいて、絶対に失敗を認めない。もし、GPIFの資金や日銀マネー(ETF)を株式市場から撤退させると、株はあっという間に大暴落。大混乱をきたす。そうかと言って、株価の下支えのために年金を使い続けると、135兆円あった年金は10年程度で消えてなくなるという試算もある。文字通り、安倍政権は【進むも地獄。退くも地獄】の情況にある。
安倍政権の運命などどうでも良いが、日本国民の運命も同じ状況にあるといって過言ではない。民進党も多くの国民も、この危機感が足りない。わたしが、今回の参議院選挙の争点を【年金問題】に絞れと主張した理由は、この危機感にある。
ギリシャを襲った国家的危機、アイスランドを襲った国家的破綻。いずれも他人事ではない。せめて、日本人は、アイスランド国民程度の賢さは持たなくてはならない。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
流水