(目にとまった記事の紹介)そしてその情報をもとに「人々」の立場から試みにSPGs(Sustainable People Goals)の具体的目標を考えてみる。
「人々」の発想から浮かぶSPG(農耕)、SPG(食べ物と栄養)、SPG(暮らしと生計)にまつわる目標を「目にとまった記事の情報」をもとに考えてみたい。SOGsも提案していますが、両方を表記すると煩雑になるので、SPGsを代表して今回は使用しております。
今回のニュース記事は、The Lancetに発表された「世界の肥満と低栄養」に関する研究を紹介しているDeutsche Welleの記事です。
『世界的な栄養失調の様相:8人に1人が肥満』(Deutsche Welle,2024年3月1日 Tapatrisha Dasさん記す)
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医学雑誌ランセットの最近の報告によると、栄養失調が原因となる飢餓人口は世界的には減少しているが、しかし栄養失調の別の形態である肥満は爆発的に拡大している、と指摘されている。
世界の肥満率の実態をみると、1990年以降子供の肥満率は4倍化、成人のそれは2倍化している、との研究結果が3月1日の医学雑誌The Lancetに発表されている。
世界の10億人(8人に1人)が、BMI(Body Mass Index)が30以上の肥満状態にある。
BMIとは個々人の体重と身長の数値をもとに計算できる簡便な過体重や肥満状態がわかる数値であり、kgで表した体重を、メートルで表した身長の二乗で割って得られる数値。
WHOの栄養と食品安全局代表のFrancesco Brancaさんは、肥満率30以上の人が世界で10億人を越えるのは、以前は2030年と予測していた、と語る。しかし、この予測が8年も早い2022年に到達し、破られてしまったことになる。
Lancetの報文の共著者であり、インペリアルカレッジロンドン教授のMajid Ezzatiさんは、肥満率の上昇のスピードがこの様に早いことに「驚いている」と語っている。
そして、この急速な上昇が、世界が想像する地域即ち富裕諸国で起こっているのではない。
今回の新たなデータによると、多くの富裕諸国では肥満率が頭打ちになり始めている状況が一般化してきているのに対して、エジプトやイラク、リビアや南ア、チリのような低所得国から中所得国では、成人と共に子供達の間で肥満が急速に進行していることが認められている。そしてシリアやトルコやメキシコ等の国もそれに遅れることなく追随しているとされている。
「米国を除くと、全ての伝統的な先進国は、肥満率の点では世界のトップグループに入っている国はなく、低所得から中所得の国々がトップグループをほぼ独占している状況だ。」とEzzatiさんは指摘している。
今回のデータは、飢餓に苦しむ人々の数の低減化が世界規模である程度進んでいることも示している。
過去30年間で、痩せすぎの成人の人数は世界規模で半減している。18才以下で見ると、痩せすぎの女性は5分の1に、男性は3分に1に低下している。
しかし、状況が改善されていない、いくつかの国の存在も浮かび上がっている。
例えば、エチオピアやウガンダの様な国々では、痩せすぎの成人の割合はほとんど変わっていない。
インドやバングラデシュやパキスタンの様な他の国々では、痩せすぎの成人の割合は急速に低下している。
しかし、パキスタンでは、一つの栄養失調の形態が、別の栄養失調の形態に置き換わっているように見える状況があるという。即ち、痩せすぎの成人の割合が1990年以降に27%から7%へ低下した一方で、肥満の成人の割合が3%から24%へと同時期に上昇している。パキスタンにおける肥満率の上昇スピードは、欧州諸国の大半の国より大きいのである。
そして、サハラ砂漠以南のアフリカの国々にも同様な痩せすぎが減少する一方で肥満の人が増大するという交差性が、殊に女性の中に見られているという。
低所得から中所得国の国々で肥満率が急増している理由は何なのであろうか?
富裕諸国に比べて低所得から中所得諸国の間で急増しているのには、いくつかの理由があるとBrancaさんは指摘し、次のような理由を挙げている。
一点目は、エジプトやメキシコの様な国で急速な工業国化が最近の30年程で起こったこと。それにより、それらの国では特に都市部に置いて食ベ物のシステムが変化しており、「加工食品と加工飲料の売り上げやスーパーマーケットの数やアウトレット販売店の数が大きく拡大した」とBrancaさんは指摘する。「それらの変化は非常に早く、そしてその向かう先が良い方向ではないのである」と付け加えている。
二点目は、2倍化する負担の生物学(the biology of the double burden)の存在であると、Brancaさんは指摘する。2倍化する負担の生物学とは、低体重で生まれた子供や、あるいは子供のころに充分に食べ物を摂取できなかった子供らは、往々にして過体重な成人や肥満成人になりやすい、ということを指す。サハラ砂漠以南の国々で見られる状況も、この考え方で説明できるとされる。
そして三つ目として、これらの背景に政府の無策が存在している、と指摘している。その結果市民に対して健康に良い食べ物を提供するという活動が欠如する状況が生まれる。
そして、富裕諸国とは異なり、低所得から中所得諸国の多くは、脂肪分が多い・砂糖が多い、そして塩分が多い加工食品を過剰に供給するマーケットの巨大な圧力から市民を守るために必要な、政府当局の政策がほぼ無いか、あるいは全く無いとBrancaさんは語る。
「重要なことは、従来は、肥満が富裕諸国の中の問題と思われていたのが、今や肥満が世界全体の課題となって来た、ということだ」とBrancaさんは指摘している。
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【2倍化する負担の生物学(the biology of the double burden)との言葉は判りにくい。補足的に説明する文献が同じくBrancaさんの2019年ランセット誌にあり、内容を紹介すると、「栄養失調の2重の負担(ここでは生物学という言葉でなく栄養失調を使っている)は、国・都市・地域・世帯・個人などあらゆるレベルでの栄養過多(過体重と肥満)と栄誉不足(発育阻害と消耗)という2つの栄養失調の共存状態を指す。従来は様々な形態の栄養失調を個別の問題として理解し、対応を考えてきていた。ここに新たに出現した栄養失調の2重の負担という現実は栄養不足と栄養過剰とが相互に関連し共存しており、従って複数の側面に同時に対処する2重の責務を負った行動と政策を実施する必要があることになる。」と説明している。】
以上のランセットのニュース記事を参考にして、日本社会では、ややもすると脇に置かれて視界から消され勝ちな状況ではあるが、「人々」の立場に立てば見えてくる具体的な「市民の目標案」を、試みにいくつか提案してみたい。
今回はSPG(農耕)やSPG(食べ物と栄養)やSPG(暮らしと生計)を取り上げてみたい。ここでは全てを網羅して厳密に議論することはせずに、容易に思い浮かぶ項目のみを挙げるに留めます。
ランセットの研究結果のポイントの一つは、飢餓や低体重の問題は世界的に改善されてきている、一方でBMI30以上の肥満者は急増しており、その急増している地域が先進富裕国ではなく、低所得から中所得国の国々で起こっていることの問題を指摘している。即ち、所得の格差が肥満を助長している、という関係性がハッキリと示されたと言え、換言すれば、人々の健康状態が、所得の格差により左右されている、というのである。
まず、大前提として、わが国でも「所得の格差」と「人々の肥満や健康状態」との間に相関性があるかどうか、を確認することが必要である。 興味あるデータが、大和総研の行った調査(「人々の所得や雇用から見る健康格差」2023年4月27日)にあり、紹介すると、
年収200万円未満世帯の肥満率:男性38%、女性26%
年収600万円以上世帯の肥満率:男性25%、女性22-23%
(いずれも2014年厚労省発表の国民健康・栄養調査結果の概要を基にしている)
即ち日本でも、世帯年収が低いと肥満度が高くなる傾向がある、と確認できる。
また大和総研の資料によると、食材ごとの摂食量にも違いがあるとしており、即ち、年収200万未満の男性は600万円以上の男性に比べてコストが安く、カロリーの取れる穀類(米や小麦等)を9%程度多く摂食しており、反対に肉類は20%近く少なく、野菜類は30%程少なく摂食しているという。世帯年収が低いと健康に良い食生活を送りにくい状況が見て取れるのである。
こうした実態を見ると、所得格差の問題を解決する策を「人々」の立場から打ち立てる必要があると思う。SPG(暮らしと生計)の具体的な目標案を提示したいと思う理由です。
そしてもう一つの視点は、日本でも戦後の復興と成長を期待して工業偏重の急拡大が起こり、その潮流にはじき飛ばされるように農業は衰退していき、結果として農業従事者数の激減とともに自給率の悲惨な低下がもたらされ、その状況が今も継続しているのは言うまでもなく、戦後の農業人口の推移に明らかに現れています。
即ち、農業従事者は1960年ごろ850万人だったのが、2015年に187万人へ、そして現在は130万人にも満たない。日本の人口約1.2億人とすると率にして約1.1%であり、その間の人口推移を加味すると農業人口の割合は日本では10分の1に低下してしまっている。
食糧自給率の状況は、農水省発表の2022年度のデータによると、カロリーベースで前年と同じ38%で依然として低い水準で推移している。因みに1965年ごろは70%を越している。
妥当な農業従事者数がどの位が良いかの判断としては、世界の農業従事者数と世界人口との関係が使えるのでは、との考えから調べると、現在約9億人が農業に従事しているという。世界人口は80億人であるので、率にすると約11%。これは1960年当時の日本の状況ともかぶる数字で、目標の目安としては妥当ではないかと思う。
そして現在の日本の状況は、世界の10分の1である。
「人々」の立場から浮かび上がるSPG(農耕)の目標として、日本の農業従事者を2050年までに倍増する(130万人から260万人へ)というのはどうであろうか。2050年の人口予測が9500万人とされており、これを使うと3%弱への農業従事者の拡大を目指すことになる。
この方向の目標を採用すれば、130万人の職が新たに農村地域で生まれること、食料自給率が改善されること、そして農村地域の生活水準の向上という暮らし向きの改善が期待される。農村地域の過疎化の解消の方向そして農村地域の人の増大による自然環境へ人の手がより多く入ることになり、里山の回復も期待できるのではないか、と思う。
◎SPG(農耕)の目標:日本の農業従事者を2050年までに倍増する(130万人から260万人へ)
この目標はSPG(暮らしと生計)の目標とも言えるものである。
SPG(食べ物と栄養)については、ランセットで触れられている「脂肪分過多・砂糖過多、そして塩分過多の加工食品、殊に超加工食品の過剰圧力から市民を守るのに必要な政策の弱さ、政府の怠慢を論じている部分に対して、我々「人々」の立ち場からどういう目標を考えるか、が一つのポイントと思います。
加工食品、ことに超加工食品は、それらに依存する状況が生まれるような嗜好性の高い食べ物である点が一つの困った特徴である。従ってそれらの健康への悪い影響と共に、その中毒性とも言える特徴から、成人だけでなく、殊に児童らに対する健康上のリスクの配慮が極めて高く為される必要があるものだと言える。
現在、かかる観点での啓蒙活動は、ほとんど我々の視界には入って来ていない状況と考える。
◎「人々」の発想から浮かぶSPG(食べ物と栄養)の目標:児童らに対する加工食品、ことに超加工食品が持つ健康上のリスクを判り易く児童に伝える啓蒙活動、即ち「健康上のリスクを訴える漫画」の作成を早急に行う
このような、「人々」の発想から浮かぶSPGを今後も提示していければと思っています。
「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan