先ず、現在進行中の東京駅前の八重洲地区並びにお江戸日本橋の界隈の公表されている再開発状況を見てみたい。
1. 日本橋1丁目中地区 総再開発面積3.9ha
C街区:地上52階地下5階、高さ284mの総延床面積374,003m2のビル
2. 日本橋室町1丁目地区
地上36階地下4階、高さ180mの総延床面積114,500m2のビル
3. 日本橋1丁目1、2番街区
A街区:地上27階地下3階、高さ140mの総延床面積84,000m2のビル
4. 日本橋1丁目東地区
A街区:地上40階地下4階、高さ240mの総延床面積274,000m2のビル
B街区:地上52階地下3階、高さ225mの総延床面積120,000m2のビル
5. 八重洲1丁目北地区
南街区:地上45階地下5階、高さ235mの総延床面積180,500m2のビル
6. 八重洲1丁目東地区
地上51階地下4階、高さ250mの総延床面積225,200m2のビル
7. 八重洲2丁目中地区
地上43階地下3階、高さ226mの総延床面積388,330m2のビル
8. 東京ミッドタウン八重洲
地上45階地下4階、高さ240mの総延床面積283,900m2のビル
9. 大手町2丁目常盤橋トーチタワー
地上61階地下5階、高さ390mの総延床面積544,000m2のビル
総床面積を合計するとほぼ260万平方m(付帯ビルを入れると300万平方mになろう)になり、中央区の面積1021万平方mの30%に相当し、中央区がこの6~7年で30%肥大化することに相当する。高さは大半が地上40階以上60階を超すものもある。
そして上記の巨大再開発以外にも中央区内には以前の家屋なりビルを取り壊して、小は20坪程から大は300坪程の敷地を更地にして新たなビル作りが至る所で進められている。10階以下のものは余りなく、皆12階から20階程の計画になっている。
区の都市計画担当者も議会関係者も入居を希望する企業も、そして区民も、火災が心配な古い木造家屋や使い勝手の悪い省エネとは言えない旧式ビルに替って、防災対策が万全で省エネ対応にもなり、最新の通信・環境設備を備えた新しいビルに替わることは望ましいことだと受け取っているのだろう。そしてこの考えは100%正しいことと受け取っているのだろう。
更に最近の人口推移をみると、2000年ころ7万人台だったのが今では新たに約10万人増え、現在は17万人を超し2~3年の内に20万人を超す勢いの中央区の状況がある。ビルの高層化や超高層化は限られた区のスペースを使って時代の要請に応えていくためには必要なことであり必然な方向であると、ここでも皆が同じ思いを抱いているのだろう。
しかし、ビルの超高層化は果たして、皆が当然であり自明のことと受け取っている環境にやさしいグリーンのイメージ通りの都市計画の目標であり必定の行為なのであろうか?
この点について、疑問を投げかけている研究があったので紹介してみたい。
出典はnpj Urban Sustainability, Article No.33(2021)F.Pomponi, R.Saint, and B.D’Amico(Decoupling density from tallness in analyzing the life cycle greenhouse gas emissions of cities)。
要約は以下の通り。
2050年には25億人の住民が新たに“都市部”に居住すると国連は予測している。従って世界の温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)および世界のエネルギー需要が更に増大し、そして都市部に建設される新住民向けに増加する建物に起因する環境上の負荷も併せて拡大すると予測される。
それ故に都市空間の最適な利用策と建築物の効率性を最大化する方策を図ることが持続可能な都市計画を進める上で基本になる考え方となる。そのためには建物を高くすること、そして可能な限り密集して建てることが良いという信念が高まってきている。
しかしこのような流れの中において、都市計画が策定され進められていく過程において、建築物のライフサイクル全般に渡り全体を透視した形で温室効果ガス(GHG)排出量を算出し検討することの重要性に関しての視点が、都市計画検討時において、しばしば抜け落ちることがおこると指摘されている。
都市環境に及ぼす建物の密集度合いと建物の高さを切り離し、GHG排出性に及ぼす効果をそれぞれ別個に評価する研究法をここに提示したい。
この研究法を実際に存在する都市の例に適用したところ、建物の高さが高くなる程、建築物のライフサイクル全般に関わる温室効果ガス(GHG)排出量が1.54倍に高まることが判明したという。
そして都市の人口収容力を最大化する目的の下では、建物を高層化する方策を採用することは必要なく、建物の密集度合いを高める方策さえ採用すれば建築物のライフサイクル全般に関わる温室効果ガス(GHG)排出量を削減させることが達成され、しかも人口収容力を最大化することが可能であることが判明したという。
この報告書の内容は煩雑で難解なため、この報告書を紹介している解説書的なものが数多く発表されている。以下にそれらを紹介する形でこの報告書の内容を掘り起こしてみたい。
取り上げる一つ目は、Niall Patrick Walsh氏がArchinect Newsに発表の「Building tall isn’t necessarily better for the environment, according to new research (2021,Aug19)で、大略は以下のようになります。
新たな研究(npj Urban Sustainability)によると、高さを競う高層ビルの生活様式は、温室効果ガス(GHG)排出削減を目指す都市計画の方策としては最高に環境に優しい方策とは言いきれない可能性がある、と指摘している。
研究者らは、各都市に実際に存在している既存ビル5000例に及ぶビルの全ライフサイクルに亘るGHG排出量(ビル建築に必要なコンクリ・鉄筋・アルミ・ガラス・プラスチック等の建築部材を製造する上で投入されたエネルギーに対応するGHG排出量である出来上がったビルに“内蔵されているGHG排出量”だけでなく、それに加えて完成したビルを操業する上で必要となる冷暖房・照明・給排水その他各種装置の運転に要するエネルギーに対応するGHG排出量の両方を考慮の対象としている)のデータを計算式に投入・検討すると、6階建て~10階建てのビル群が密集して存在している地域が最も環境に優しい形態の都市であるとして、そのような地域における一人当たりのCO2排出量は、より高い高層ビルが密集する地域における一人当たりのCO2排出量と比べて365トン程少ないという結論を得ている。
研究者の一人であるエジンバラナピイエ大学のPomponi教授は、ビルをより高層にするにはビル部材をより重量化する必要があり、更にその基礎をより分厚いものにする必要があるとして、この違いを説明している。また超高層ビルを建てる場合、隣接する超高層ビルとの間の距離を、日照・換気通気性・プライバシーの観点からかなり離す必要のある点も指摘している。
研究者らは、ここで得られた知見は将来のアフリカ・アジア地域における都市開発計画に役立つだろうとしている。
次に紹介するのはLinda Poon氏のBloomberg.comの2021年8月26日の記事(The Best Cities for Low Carbon Emissions Aren’t the Tallest)で要旨は以下です。
世界の都市化の進行は継続し、都市には毎年新たな最高峰ビルの報告がなされている。中国南部のShenzhen市では2018年の1年だけでも14棟の新規超高層ビルが建てられた。この潮流の基底を成す考えは、都市の成長というものは郊外へと横に延伸するのではなく、高層化による縦への伸長が持続可能な成長に適ったやり方だという従来からの認識がある。
即ち高層ビル主体の都市構造は、原理的にはより少ないビルでより多くの人を居住させることが可能であることから、ビルに基づくカーボンフットプリントは小さいことになる。
ここでビルから発生されるGHG排出量は、都市部から排出される全GHG排出量の半分以上になっていることが一般的に知られている。
従って超高層ビル化の方向性はカーボンフットプリントを小さくする方向であり、ビルから発生されるGHG排出量が都市部からのGHG全排出量の半分以上になっていることを考え合わせると、超高層ビルを主体とする都市計画は、都市部から排出されるGHG排出量を低下させるのに有効な方策であると主張できることになるだろう。
しかし今回新たに出された研究(npj Urban Sustainability)によると、人口の集中と拡大が進む都市環境において、密集度合いを高めることは都市部から排出されるGHG排出量の低下に有効ではあるものの、高層ビルの更に上空への縦への伸長はGHG排出量の低下に有効ではないかもしれない、と主張された。
事実、10階建て以下のビルが密集するパリ中心部の都市構造がGHG排出量を最小化する最適なものだろうと指摘している。【カナダの研究者らは、目標・参考とすべき都市形態はパリ型であるべきであり、決してマンハッタンや香港型ではない、と良く主張している】
この、都市環境におけるビルの上空への縦への伸長はGHG排出量の低下に有効ではないかもしれない、という主張に、コロラド大学のArehart氏も同調して次のように言っている。
「最近5年程、未来の建築物の姿としてビルに樹木を茂らせたようなスカイスクレーパー(skyscraper:超高層ビル、Highriseとも良く言われる)に注目が集まっており、これらの超高層ビルは非常にグリーンな建築物と受け取られている。しかし実際にはこれらの超高層ビルはグリーンとは言えない。少なくとも全部が全部そうとは言えない。」
Arehart氏が、高層化による縦への上空への伸長が持続可能な成長に適った方向だという従来からの常識化した定説に疑義を持ちこむ必要性を感じた理由の一つに、都市部の建築物の全ライフサイクルから発生するGHG排出量を算出する時使用する計算式に修正を加える必要が出てきていることがあるという。
即ち建ち上がった完成ビルの運転操業時に必要な照明や冷暖房用の電力エネルギーから発生するGHG排出量だけではなく、それに加えてビル建築時に使用した建築部材(コンクリや鉄筋・アルミ・ガラスやプラスチック等)を生産する際に要した電力や化石燃料から発生するいわゆるビルに“内蔵されているGHG排出量”と、そしてビル解体時に要するエネルギーから発生するGHG排出量をも新たに明確に計算式に算入する必要性が出てきていることによる修正である。
そして、より高層のビルを建てるには防災性を高めるために”より大規模な頑丈な基礎やより太い鋼材”が必要となることから”より多くの建築部材“が必要となる。結果としてビルに“内蔵されているGHG排出量”は増大することになる。
また高層化が進む程、隣接する高層ビルとの間に必要な距離が長くなる。従って利用出来ない空間が発生することで土地の有効利用という視点からも単に高層化すれば良いという考えには疑義が生まれるとArehart氏は主張し、ニューヨークの超高層ビル街と19世紀欧州の各都市とを見比べてみる必要性を指摘している。
建物を高層化することが持続可能な成長に適った良い方策だとの確信のもと、中央区では再開発の槌音が区の中央で鳴り響いているわけだが、しかし、今回紹介した原典のnpj Urban Sustainability、そしてその原典を紹介する2つの文献(Niall Patrick Walsh氏とLinda Poon氏の記事)を読むと、ビルの超高層化を主体とする上空へ、上空へと伸長を目論む都市計画は、GHG排出量の低下には必ずしも結び付かない、有効とも言いきれない施策であろうと主張されており、この研究結果から判断すると、現在進行中の再開発事業には疑問点があることになる。少なくとも疑念がある限りは、行政およびチエック機関の議会関係者らは公金が絡むが故により慎重さが求められるだろうと考える。
また前回のJR東海のMaglevに関する議論の際にもあった様に、合理性のある充分に公正なカーボンフットプリント値を公表しなければならないという努力目標さえ企業には課されておらず、公正なカーボンフットプリント値が不足している社会を放置しているという宿題を我々は残しているということ、そして反対に事業者たちが極めて自分勝手にカーボンフットプリント値を取り扱い、誤解を招きかねない企業論理を公表することが許される社会が蔓延し、しかも放置されているということが今回の建設業界においてもみられることが明らかになったと思う。
合理性のある充分に公正なカーボンフットプリント値が公表されるのが当然なことであり、持続可能な成長に適った都市計画を進める上には、その情報が社会の健全な発展のためには必要だという社会作りを強調したいところである。
現在の恣意的なカーボンフットプリントの取り扱いを許している限り、今の建設業界を含む各事業体や各行政機関が進めるSDGs運動に絡めた事業計画は、アリバイ作りのためにSDGsの理念を不正に利用しているものであり、世の中全体のためを考えてのものとは言えないといわれても反論できないのではないか、と考える。
次は観念論になる恐れがあるものの、非常に興味深いカーボンオフセットの考えを紹介し、併せてグローバルノースとサウスとの関係において、グローバルノースとしての役割を我々は果たしているのか、という問題を扱ってみたい。
また色々な視点から、おかしな公金の使い方ではないかと思う事柄を紹介していきたい。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
yo-chan
1. 日本橋1丁目中地区 総再開発面積3.9ha
C街区:地上52階地下5階、高さ284mの総延床面積374,003m2のビル
2. 日本橋室町1丁目地区
地上36階地下4階、高さ180mの総延床面積114,500m2のビル
3. 日本橋1丁目1、2番街区
A街区:地上27階地下3階、高さ140mの総延床面積84,000m2のビル
4. 日本橋1丁目東地区
A街区:地上40階地下4階、高さ240mの総延床面積274,000m2のビル
B街区:地上52階地下3階、高さ225mの総延床面積120,000m2のビル
5. 八重洲1丁目北地区
南街区:地上45階地下5階、高さ235mの総延床面積180,500m2のビル
6. 八重洲1丁目東地区
地上51階地下4階、高さ250mの総延床面積225,200m2のビル
7. 八重洲2丁目中地区
地上43階地下3階、高さ226mの総延床面積388,330m2のビル
8. 東京ミッドタウン八重洲
地上45階地下4階、高さ240mの総延床面積283,900m2のビル
9. 大手町2丁目常盤橋トーチタワー
地上61階地下5階、高さ390mの総延床面積544,000m2のビル
総床面積を合計するとほぼ260万平方m(付帯ビルを入れると300万平方mになろう)になり、中央区の面積1021万平方mの30%に相当し、中央区がこの6~7年で30%肥大化することに相当する。高さは大半が地上40階以上60階を超すものもある。
そして上記の巨大再開発以外にも中央区内には以前の家屋なりビルを取り壊して、小は20坪程から大は300坪程の敷地を更地にして新たなビル作りが至る所で進められている。10階以下のものは余りなく、皆12階から20階程の計画になっている。
区の都市計画担当者も議会関係者も入居を希望する企業も、そして区民も、火災が心配な古い木造家屋や使い勝手の悪い省エネとは言えない旧式ビルに替って、防災対策が万全で省エネ対応にもなり、最新の通信・環境設備を備えた新しいビルに替わることは望ましいことだと受け取っているのだろう。そしてこの考えは100%正しいことと受け取っているのだろう。
更に最近の人口推移をみると、2000年ころ7万人台だったのが今では新たに約10万人増え、現在は17万人を超し2~3年の内に20万人を超す勢いの中央区の状況がある。ビルの高層化や超高層化は限られた区のスペースを使って時代の要請に応えていくためには必要なことであり必然な方向であると、ここでも皆が同じ思いを抱いているのだろう。
しかし、ビルの超高層化は果たして、皆が当然であり自明のことと受け取っている環境にやさしいグリーンのイメージ通りの都市計画の目標であり必定の行為なのであろうか?
この点について、疑問を投げかけている研究があったので紹介してみたい。
出典はnpj Urban Sustainability, Article No.33(2021)F.Pomponi, R.Saint, and B.D’Amico(Decoupling density from tallness in analyzing the life cycle greenhouse gas emissions of cities)。
要約は以下の通り。
2050年には25億人の住民が新たに“都市部”に居住すると国連は予測している。従って世界の温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)および世界のエネルギー需要が更に増大し、そして都市部に建設される新住民向けに増加する建物に起因する環境上の負荷も併せて拡大すると予測される。
それ故に都市空間の最適な利用策と建築物の効率性を最大化する方策を図ることが持続可能な都市計画を進める上で基本になる考え方となる。そのためには建物を高くすること、そして可能な限り密集して建てることが良いという信念が高まってきている。
しかしこのような流れの中において、都市計画が策定され進められていく過程において、建築物のライフサイクル全般に渡り全体を透視した形で温室効果ガス(GHG)排出量を算出し検討することの重要性に関しての視点が、都市計画検討時において、しばしば抜け落ちることがおこると指摘されている。
都市環境に及ぼす建物の密集度合いと建物の高さを切り離し、GHG排出性に及ぼす効果をそれぞれ別個に評価する研究法をここに提示したい。
この研究法を実際に存在する都市の例に適用したところ、建物の高さが高くなる程、建築物のライフサイクル全般に関わる温室効果ガス(GHG)排出量が1.54倍に高まることが判明したという。
そして都市の人口収容力を最大化する目的の下では、建物を高層化する方策を採用することは必要なく、建物の密集度合いを高める方策さえ採用すれば建築物のライフサイクル全般に関わる温室効果ガス(GHG)排出量を削減させることが達成され、しかも人口収容力を最大化することが可能であることが判明したという。
この報告書の内容は煩雑で難解なため、この報告書を紹介している解説書的なものが数多く発表されている。以下にそれらを紹介する形でこの報告書の内容を掘り起こしてみたい。
取り上げる一つ目は、Niall Patrick Walsh氏がArchinect Newsに発表の「Building tall isn’t necessarily better for the environment, according to new research (2021,Aug19)で、大略は以下のようになります。
新たな研究(npj Urban Sustainability)によると、高さを競う高層ビルの生活様式は、温室効果ガス(GHG)排出削減を目指す都市計画の方策としては最高に環境に優しい方策とは言いきれない可能性がある、と指摘している。
研究者らは、各都市に実際に存在している既存ビル5000例に及ぶビルの全ライフサイクルに亘るGHG排出量(ビル建築に必要なコンクリ・鉄筋・アルミ・ガラス・プラスチック等の建築部材を製造する上で投入されたエネルギーに対応するGHG排出量である出来上がったビルに“内蔵されているGHG排出量”だけでなく、それに加えて完成したビルを操業する上で必要となる冷暖房・照明・給排水その他各種装置の運転に要するエネルギーに対応するGHG排出量の両方を考慮の対象としている)のデータを計算式に投入・検討すると、6階建て~10階建てのビル群が密集して存在している地域が最も環境に優しい形態の都市であるとして、そのような地域における一人当たりのCO2排出量は、より高い高層ビルが密集する地域における一人当たりのCO2排出量と比べて365トン程少ないという結論を得ている。
研究者の一人であるエジンバラナピイエ大学のPomponi教授は、ビルをより高層にするにはビル部材をより重量化する必要があり、更にその基礎をより分厚いものにする必要があるとして、この違いを説明している。また超高層ビルを建てる場合、隣接する超高層ビルとの間の距離を、日照・換気通気性・プライバシーの観点からかなり離す必要のある点も指摘している。
研究者らは、ここで得られた知見は将来のアフリカ・アジア地域における都市開発計画に役立つだろうとしている。
次に紹介するのはLinda Poon氏のBloomberg.comの2021年8月26日の記事(The Best Cities for Low Carbon Emissions Aren’t the Tallest)で要旨は以下です。
世界の都市化の進行は継続し、都市には毎年新たな最高峰ビルの報告がなされている。中国南部のShenzhen市では2018年の1年だけでも14棟の新規超高層ビルが建てられた。この潮流の基底を成す考えは、都市の成長というものは郊外へと横に延伸するのではなく、高層化による縦への伸長が持続可能な成長に適ったやり方だという従来からの認識がある。
即ち高層ビル主体の都市構造は、原理的にはより少ないビルでより多くの人を居住させることが可能であることから、ビルに基づくカーボンフットプリントは小さいことになる。
ここでビルから発生されるGHG排出量は、都市部から排出される全GHG排出量の半分以上になっていることが一般的に知られている。
従って超高層ビル化の方向性はカーボンフットプリントを小さくする方向であり、ビルから発生されるGHG排出量が都市部からのGHG全排出量の半分以上になっていることを考え合わせると、超高層ビルを主体とする都市計画は、都市部から排出されるGHG排出量を低下させるのに有効な方策であると主張できることになるだろう。
しかし今回新たに出された研究(npj Urban Sustainability)によると、人口の集中と拡大が進む都市環境において、密集度合いを高めることは都市部から排出されるGHG排出量の低下に有効ではあるものの、高層ビルの更に上空への縦への伸長はGHG排出量の低下に有効ではないかもしれない、と主張された。
事実、10階建て以下のビルが密集するパリ中心部の都市構造がGHG排出量を最小化する最適なものだろうと指摘している。【カナダの研究者らは、目標・参考とすべき都市形態はパリ型であるべきであり、決してマンハッタンや香港型ではない、と良く主張している】
この、都市環境におけるビルの上空への縦への伸長はGHG排出量の低下に有効ではないかもしれない、という主張に、コロラド大学のArehart氏も同調して次のように言っている。
「最近5年程、未来の建築物の姿としてビルに樹木を茂らせたようなスカイスクレーパー(skyscraper:超高層ビル、Highriseとも良く言われる)に注目が集まっており、これらの超高層ビルは非常にグリーンな建築物と受け取られている。しかし実際にはこれらの超高層ビルはグリーンとは言えない。少なくとも全部が全部そうとは言えない。」
Arehart氏が、高層化による縦への上空への伸長が持続可能な成長に適った方向だという従来からの常識化した定説に疑義を持ちこむ必要性を感じた理由の一つに、都市部の建築物の全ライフサイクルから発生するGHG排出量を算出する時使用する計算式に修正を加える必要が出てきていることがあるという。
即ち建ち上がった完成ビルの運転操業時に必要な照明や冷暖房用の電力エネルギーから発生するGHG排出量だけではなく、それに加えてビル建築時に使用した建築部材(コンクリや鉄筋・アルミ・ガラスやプラスチック等)を生産する際に要した電力や化石燃料から発生するいわゆるビルに“内蔵されているGHG排出量”と、そしてビル解体時に要するエネルギーから発生するGHG排出量をも新たに明確に計算式に算入する必要性が出てきていることによる修正である。
そして、より高層のビルを建てるには防災性を高めるために”より大規模な頑丈な基礎やより太い鋼材”が必要となることから”より多くの建築部材“が必要となる。結果としてビルに“内蔵されているGHG排出量”は増大することになる。
また高層化が進む程、隣接する高層ビルとの間に必要な距離が長くなる。従って利用出来ない空間が発生することで土地の有効利用という視点からも単に高層化すれば良いという考えには疑義が生まれるとArehart氏は主張し、ニューヨークの超高層ビル街と19世紀欧州の各都市とを見比べてみる必要性を指摘している。
建物を高層化することが持続可能な成長に適った良い方策だとの確信のもと、中央区では再開発の槌音が区の中央で鳴り響いているわけだが、しかし、今回紹介した原典のnpj Urban Sustainability、そしてその原典を紹介する2つの文献(Niall Patrick Walsh氏とLinda Poon氏の記事)を読むと、ビルの超高層化を主体とする上空へ、上空へと伸長を目論む都市計画は、GHG排出量の低下には必ずしも結び付かない、有効とも言いきれない施策であろうと主張されており、この研究結果から判断すると、現在進行中の再開発事業には疑問点があることになる。少なくとも疑念がある限りは、行政およびチエック機関の議会関係者らは公金が絡むが故により慎重さが求められるだろうと考える。
また前回のJR東海のMaglevに関する議論の際にもあった様に、合理性のある充分に公正なカーボンフットプリント値を公表しなければならないという努力目標さえ企業には課されておらず、公正なカーボンフットプリント値が不足している社会を放置しているという宿題を我々は残しているということ、そして反対に事業者たちが極めて自分勝手にカーボンフットプリント値を取り扱い、誤解を招きかねない企業論理を公表することが許される社会が蔓延し、しかも放置されているということが今回の建設業界においてもみられることが明らかになったと思う。
合理性のある充分に公正なカーボンフットプリント値が公表されるのが当然なことであり、持続可能な成長に適った都市計画を進める上には、その情報が社会の健全な発展のためには必要だという社会作りを強調したいところである。
現在の恣意的なカーボンフットプリントの取り扱いを許している限り、今の建設業界を含む各事業体や各行政機関が進めるSDGs運動に絡めた事業計画は、アリバイ作りのためにSDGsの理念を不正に利用しているものであり、世の中全体のためを考えてのものとは言えないといわれても反論できないのではないか、と考える。
次は観念論になる恐れがあるものの、非常に興味深いカーボンオフセットの考えを紹介し、併せてグローバルノースとサウスとの関係において、グローバルノースとしての役割を我々は果たしているのか、という問題を扱ってみたい。
また色々な視点から、おかしな公金の使い方ではないかと思う事柄を紹介していきたい。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
yo-chan
