「社会の進歩」は望ましいとの思想がある。この思想をもとに、『地球沸騰時代は脆弱な生命体ほど厳しい状況に置かれる』という現実を紹介する情報をもとに「進歩」という視点から見た我々の世の中の現在地を考えてみたい。
1971年、市井三郎氏は「歴史の進歩とは何か(岩波新書)」のなかで、進歩思想の歴史を紹介しつつ、次の考え方・モノサシを「社会の進歩」の指標として提案している。
私流表現になるが、大筋で市井氏が主張する指標は『合理的・正当な理由がなく、当人に責任を負わせることは不当であり理不尽な理由でもって、引き起こされる過酷な環境を受け入れざるを得ない脆弱層が存在するのであれば、その脆弱層の存在を少なくすればするほど、その世の中は進歩している』という、考え方・モノサシを市井氏は示したのである。
半世紀以上が経過した今でも通用する、生き生きとした見方だと思う。
ここで、「正当な理由がなく、そして当人に責任を問うことは理不尽な理由でもって、引き起こされる過酷な環境」とは、現在我々が直面している地球沸騰時代の熱波であり、洪水であり、山火事等々であり、我々は世界の現実としてそれらを日々目にしているのである。
そして「脆弱層」とは、視野を狭くすればグローバルサウスの国々が一例になるだろうが、我々はもっと視野を広げる必要があるだろう。
即ち、地球沸騰時代の対処を放置したり遅らせたり、あるいは判断・手段を誤り、現在既に進んでいる望ましくない方向が更に進行して行けば、ゆくゆくは地上の全員(人間だけではない)が脆弱層になるのである。ここでは脆弱層の代表として野生生物を取り上げて、話を進めていくが、話の内容は野生生物だけの問題でないことは当然なことである。
この様に考え、我々が「社会の進歩」を進めたいと希望するのであれば、地球沸騰時代に生きる我々に求められることは、市井氏の示した「進歩のモノサシ」からハッキリ見えてくる。即ち、我々のやるべきことは、「地球沸騰時代の厳しい環境に苦しむ脆弱層を如何に減らしていくか」ということになる。それが『我々の世の中の進歩』に繋がる行動にもなるのである。
そしてそれを進める上で、前提として、どのような脆弱層が存在しているのか、現在どんな窮状にあるのか、かれらの窮状を放置した場合、如何なる影響が出る可能性があるか、といったことも把握して行くことも求められるだろう。
では目標とする「脆弱層を如何に減らしていくか」の動向の世界の現在地はどうであるか。これは、容易に判断は難しいものの、COPやG7、G20、EUや拡大BRICS・ASEAN・アフリカ連合等の動向を注視していくことで、見ていくことになるだろう。
但し現状は、例えばGHG排出の点で責任がないにも関わらず熱波や日照り・水害・山火事・海面上昇等の窮状に苦しむ脆弱なアジア・アフリカ・中南米や島嶼国の人々がいる一方で、彼らが行う緩和策や順応化策に向けた活動資金の提供を後へ後へと先延ばししている先進国主導のCOPの動向を見るにつけ、世界の現在地には明るさは余り感じられない。世界の主導層の想定する「社会の進歩」に、脆弱な全ての国や市民や野生生物が含まれていて欲しいものだが、果たしてどうなのだろうか。注視を続ける必要がある。
今日の本題に移りますが、もう一つ今後この問題を考えていく際に心に留めておくべき点として、1つは地球沸騰時代の過酷な環境に対して緩和措置・適応措置を講じる際にも、そこには『格差』が現在、厳然として存在しているという事実の認識と、そして2つ目に資本を武器に社会の変革を、技術革新競争を勝ち抜くことのみを目標として推進して行こうとする信仰とも言える考え方が世界の支配層や、我々にも存在しているという認識を持つことが大切と思っております。そして、それら信仰を持つ層には強大な力がある。彼らの力を『上からの圧力』とすると、市民側の『下からの圧力』をどう醸成していくかが大切な視点と考えております。
では今回のテーマです。上に説明の2番目の課題の『どのような脆弱層が存在しているのか、現在どんな窮状にあるのか、かれらの窮状を放置した場合、如何なる影響が出る可能性があるか』という話題に関係する情報(脆弱層の代表として野生動物を取り上げている)を提示します。
責任がないにも関わらずに、そして緩和も回避する術も力も持ち合わせていないことから地球沸騰時代の被害だけを甘受せざるを得ない代表者として野生動物を取り上げ、地球沸騰時代の被害を理不尽にも受けているのは人間だけではないということ、そして野生動物の窮状を通して、我々社会にある格差の存在する故に起こっている脆弱な人々のこと、そしてその窮状が継続することから懸念される我々社会に広がりつつある新たな脅威の拡大に関連する情報と捉えています。
紹介する情報は次の2つです。
1. 何故野生動物が不眠症になるのか?
(Vox.com, 2024年6月2日 Benji Jones氏記す)
2.地球沸騰化が野生動物と人々を接近させ、悲劇が生まれる可能性を高める
(Insideclimatenews.org, 2024年5月7日 Kiley Price氏記す)
概略を伝えることを念頭に置いております。詳細は出典に当たって下さい。
1、何故野生動物が不眠症になるのか?(Why some wild animals are getting insomnia)
暑すぎる寝床で数時間、べた付く汗で眠れずに横になっている気分位、嫌なものはない。
過度の熱気は安眠を邪魔するが、それは我々が持つ自然放冷機能の作動を熱気が妨害するからだとされている。
しかし、多くの人はエアコンや扇風機をオンに出来るという幸運に恵まれている。だが野生動物には、そんな幸運はない。
哺乳動物に関する新たな研究報告が2つ出ており、それらによると、例えばチェコの野生イノシシは暑い夏の時期の安眠度合いが、涼しい時期に比べて17%低下するという。
もう一つの研究は、アイルランドの小鹿もまた夏の暑い日の睡眠がより短く、睡眠の質がより悪くなることが指摘されている。
即ち気候変動の結果、夏季の暑さが高進すると動物たちは睡眠が妨げられることになり、その結果、彼らの免疫力は低下していき、生存が危ぶまれる可能性が出てくる。
そして、生息地の移動が促進されたり、それに基づく伝染病の拡大が起こったり等々の、従来は保全されていた自然界の生態系の均衡が破られる恐れが出てくることになる。
動物たちの睡眠状況を観察することで、科学者らはそのような事柄を調査している。
ブリストル大学研究員のEuan Mortlock氏は、動物たちの睡眠状況の観察を研究対象にしている。対象は、大は大型の哺乳動物から小はミバエ(fruit flies)までを観察している。
「動物たちが起きている時に行う様々な行動が興味深い研究対象であって、睡眠行動というものは、この起床時の興味深い行動の時間と次の起床時の行動の時間を単に埋めて、繋いでいるだけの存在だ、と多くの人々は捉えていると思う。しかし私はこの睡眠行動を最も興味深い観察すべき行動の一つだと考えている」とMortlock氏は指摘する。
睡眠行動を、観察すべき興味深い研究対象だと考える理由の一つは、恐らく海綿動物を除いて全ての動物が共通して睡眠行動をとっているという点である。アザラシは300mもの深さまで潜りながら昼寝をし、クラゲは脳に相当する部分がないにも関わらずに睡眠状態になり、そのときクラゲの脈拍数は低下することが判っている。
ショウジョウバエも昼寝をする。その際ショウジョウバエは頭を少し下に傾け、触角は垂らしているという。
睡眠は、人にとっても動物にとっても非常に大切なことであり、例えば免疫系の改善や脳の働きを良くするといった様々な効能がある。従って睡眠を妨害する環境の変化は、生存や生態系に深刻な影響を与える可能性があるのである。
人の睡眠は、FitbitやApple Watchなどを使って追跡が可能であるが、野生生物に対して、Mortlock氏らは加速度計と呼ばれる装置を、捕獲した動物に取り付けることでデータを採集することに成功している。
この方法を用いると、様々な動物の睡眠行動やその他の行動の情報を入手することが可能となり、例えば、暑さや寒さその他の気象状況による野生動物の行動様式の情報を得ることができるという訳である。
Mortlock 氏らは2019年からイノシシを対象に、この方法を用いて監視活動を行い、睡眠時間と睡眠の質を測定し、得られたデータと気温や湿度といった気象データと比較し、それらの関係性を調査してきている。
得られた発見に「気温が高いと睡眠は短くなり、断片的になり、睡眠の質の低下が起こる」がある。また雪や雨の天候のもとでは、睡眠の質は高まることを認めている。これらの天候では動物の体温が低下することになり、その影響と考えている。
Mortlock氏らはダブリン近郊の公園の小鹿を対象に300日以上のデータを蓄積し解析を行っている。小鹿の場合も暑い日の睡眠時間と睡眠の質は、イノシシと同様に低下することを認めている。
非営利団体Climate Centralの報告によると、猛暑日が昨年世界全体で平均26日分増加したとされ、Mortlock氏らの研究結果と付け合わせると、野生生物の世界で、睡眠の質の低下状況が生まれている可能性が懸念されている。
睡眠不足は、野生動物の免疫性に影響を与え、病気になる可能性が高まり、子供の世話に費やす時間が低下するといった影響が出るとされている。
ここで、野生動物らは適応性の高い生き物だということを意識することも大切であり、気温や湿度の上昇により睡眠に悪影響が出る状況に置かれた場合に、彼らは行動様式を変えていくことも考えられる。例えば、体温を下げるため水浴び回数を増したり、寒冷地への移動を行うこともある。
彼らが取るこれらの適応行動によって、野生動物が人間の生活圏に接近する可能性が高まることが起こるのである。
猛暑や熱波は野生動物にとっても間違いなく様々な課題を突き付けるものである。野生動物たちは既に森林伐採や密猟などの脅威にも曝されてきているのである。
2.地球沸騰化が野生動物と人々を接近させ、悲劇が生まれる可能性を高める(Climate Change Is Pushing Animals Closer to Humans, With Potentially Catastrophic Consequences)
気候変動が原因して、世界の動物の行動範囲に変化が起こっている。
それぞれの動物の広範な生活場所の配置替えにより、動物は人間の生活圏への接近を強要され、悲劇を生む可能性が高まっている。
気候変動が原因して人と野生動物との間に争いや接触が世界的に増え、人獣共通伝染病のリスクが高まり、世界にあふれ出てくることを示す研究報告例が増えてきている。
最近の事例を紹介していく。
(1) 人と野生動物との間の争い・接触の増大
熱波や海面上昇に加えて、アジア・サハラ砂漠以南のアフリカ・オーストラリアやフロリダに住む人々の間では、気候変動の進行につれて命に関わる毒蛇との遭遇の懸念が高まってきている。
最近の研究によると、気温上昇につれてある種の毒蛇(アフリカ西部のクサリヘビgaboon viperやアジア・サハラ砂漠以南に住むエジプトコブラ)の生息域が拡大しているという。
多くの毒蛇の生息域が、気候変動の進行により失われていく可能性があり、その結果危険な毒蛇の生息域が耕作地や家畜飼育場と重なっていく可能性が、ことに低収入諸国で高まると研究者らは見ている。
WHOも、この状況を注視しており、各国に解毒剤備蓄を増やすこと・人々に毒蛇への注意喚起を進める等の「緊急行動」を1月に要請している。
地球沸騰化により、冬眠と呼ばれる蛇の静止状態からの目覚めの時期が早まってきており、オーストラリアの蛇の活動が高進していることを、生物学者らは既に認めている。
「蛇が早い時期から活動的になり遅い時期までその活動が続くということは、それだけで終わるものではなく、蛇たちは夜遅くまで活動的になっているということを意味している」とクイーンズランド大学の生物学教授のFry氏は指摘する。
フロリダ・エバーグレーズでは、地域をはいまわるビルマニシキヘビ(1980年代にペットとして移入)の数が増えている。そして今や気候変動の影響で北部地域へと生息域を拡大している、と米地質学会は指摘している。
蛇以外の野生動物と人との争いについては、複雑さがあると言われている。
例えば、北極クマは氷塊の溶解進行により陸地での狩りの機会が増えており、人々との接触機会が拡大している。
過去20年の動向を見ると北極くまの生息域は移動しており、悲劇的な遭遇が起こる可能性が高まっているとワシントンポスト紙は指摘している。
世界各地で、数えきれない衝突事例が観察されており、人にも野生動物にも被害が起こる可能性が出てきている。
(2)動物起源の伝染病の発生
鳥インフルエンザで見られるように、人獣共通伝染病は常に一つの生物種に局在するものではない。
気候変動の進展につれて、人と野生動物との間合いが狭まるにつれて、これらの人畜共通伝染病の蔓延が進行し、流行化へと転換をおこす機会が増えることをフィナンシャルタイムズ紙が報じている。
多くの場合、流行化への転換を引き起こすきっかけとなるのは極めて小さい生き物、即ち蚊であることが多い。
高温化により、蚊は生殖再生産を加速し、人畜への咬みつきが増え、そして生息域の拡大等が相合わさって伝染病の伝搬が促進されることになる。
WHOの2023年報告は、ハマダラ蚊が原因であるマラリアの流行と気候変動との関連性を報告している。
同様に、蚊が媒介するデング熱が、従来感染が見られなかった地域にも広まっている、とされており、その理由は気候変動及び都市化の進行だとしている。
ペルーにおける感染の拡大がことに懸念されており、今年のデング熱により死亡者数は3倍以上とされている。「蚊が気候変動に適応してきており、従来よりも生殖再生産速度が速まっている」とリマ大学の伝染病学者のTarazona氏は指摘し、「ラテンアメリカ地域において極めて深刻な状況が生まれている」としている。
ダニが媒介するライム病と気候変動との関連性もまた研究されている。
研究によると、気温と湿度の上昇がダニの生育地の拡大に繋がっており、メイン州やウィスコンシン州で見られるという。
人獣共通伝染病の拡散を低減する目的で、諸国は共同体間の連絡網の利用やAIの活用等を利用する監視の増強を進めている。
***
熱帯夜が増加すると、野生動物の間で睡眠障害が深刻化し、結果として全ての脆弱層の生き物は疲弊し、その免疫力は低下し、精神状況にも懸念すべき状況が発生する恐れが出るのである。
一方で、人畜共通伝染病を媒介する蚊やダニはより活発化し、その活動域も従来の範囲を超えて広がりつつあり、これら人畜共通伝染病の流行により、脆弱層が更に影響を受けるという悪いサイクルの循環が起こることが大いに懸念される。
かかる「悪いサイクルの循環」の発生を如何に抑制し、脆弱層の健康・免疫力を改善し、伝染病の蔓延を如何に防いでいくかに、世界の行方は掛かっている訳であるが、市井氏のいう『進歩』という視点から見て、我々は脆弱層の窮状を低減していっている、明るい方向を目指しての道中に我々は現在いると、断言できるであろうか?
また、我々の世の中は、支配層が差配する「進歩思想」だけに頼る、即ち技術革新至上主義だけに頼る「進歩思想」だけで、間違いなく世の中は『進歩』していけると言えるのであろうか?
「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
1971年、市井三郎氏は「歴史の進歩とは何か(岩波新書)」のなかで、進歩思想の歴史を紹介しつつ、次の考え方・モノサシを「社会の進歩」の指標として提案している。
私流表現になるが、大筋で市井氏が主張する指標は『合理的・正当な理由がなく、当人に責任を負わせることは不当であり理不尽な理由でもって、引き起こされる過酷な環境を受け入れざるを得ない脆弱層が存在するのであれば、その脆弱層の存在を少なくすればするほど、その世の中は進歩している』という、考え方・モノサシを市井氏は示したのである。
半世紀以上が経過した今でも通用する、生き生きとした見方だと思う。
ここで、「正当な理由がなく、そして当人に責任を問うことは理不尽な理由でもって、引き起こされる過酷な環境」とは、現在我々が直面している地球沸騰時代の熱波であり、洪水であり、山火事等々であり、我々は世界の現実としてそれらを日々目にしているのである。
そして「脆弱層」とは、視野を狭くすればグローバルサウスの国々が一例になるだろうが、我々はもっと視野を広げる必要があるだろう。
即ち、地球沸騰時代の対処を放置したり遅らせたり、あるいは判断・手段を誤り、現在既に進んでいる望ましくない方向が更に進行して行けば、ゆくゆくは地上の全員(人間だけではない)が脆弱層になるのである。ここでは脆弱層の代表として野生生物を取り上げて、話を進めていくが、話の内容は野生生物だけの問題でないことは当然なことである。
この様に考え、我々が「社会の進歩」を進めたいと希望するのであれば、地球沸騰時代に生きる我々に求められることは、市井氏の示した「進歩のモノサシ」からハッキリ見えてくる。即ち、我々のやるべきことは、「地球沸騰時代の厳しい環境に苦しむ脆弱層を如何に減らしていくか」ということになる。それが『我々の世の中の進歩』に繋がる行動にもなるのである。
そしてそれを進める上で、前提として、どのような脆弱層が存在しているのか、現在どんな窮状にあるのか、かれらの窮状を放置した場合、如何なる影響が出る可能性があるか、といったことも把握して行くことも求められるだろう。
では目標とする「脆弱層を如何に減らしていくか」の動向の世界の現在地はどうであるか。これは、容易に判断は難しいものの、COPやG7、G20、EUや拡大BRICS・ASEAN・アフリカ連合等の動向を注視していくことで、見ていくことになるだろう。
但し現状は、例えばGHG排出の点で責任がないにも関わらず熱波や日照り・水害・山火事・海面上昇等の窮状に苦しむ脆弱なアジア・アフリカ・中南米や島嶼国の人々がいる一方で、彼らが行う緩和策や順応化策に向けた活動資金の提供を後へ後へと先延ばししている先進国主導のCOPの動向を見るにつけ、世界の現在地には明るさは余り感じられない。世界の主導層の想定する「社会の進歩」に、脆弱な全ての国や市民や野生生物が含まれていて欲しいものだが、果たしてどうなのだろうか。注視を続ける必要がある。
今日の本題に移りますが、もう一つ今後この問題を考えていく際に心に留めておくべき点として、1つは地球沸騰時代の過酷な環境に対して緩和措置・適応措置を講じる際にも、そこには『格差』が現在、厳然として存在しているという事実の認識と、そして2つ目に資本を武器に社会の変革を、技術革新競争を勝ち抜くことのみを目標として推進して行こうとする信仰とも言える考え方が世界の支配層や、我々にも存在しているという認識を持つことが大切と思っております。そして、それら信仰を持つ層には強大な力がある。彼らの力を『上からの圧力』とすると、市民側の『下からの圧力』をどう醸成していくかが大切な視点と考えております。
では今回のテーマです。上に説明の2番目の課題の『どのような脆弱層が存在しているのか、現在どんな窮状にあるのか、かれらの窮状を放置した場合、如何なる影響が出る可能性があるか』という話題に関係する情報(脆弱層の代表として野生動物を取り上げている)を提示します。
責任がないにも関わらずに、そして緩和も回避する術も力も持ち合わせていないことから地球沸騰時代の被害だけを甘受せざるを得ない代表者として野生動物を取り上げ、地球沸騰時代の被害を理不尽にも受けているのは人間だけではないということ、そして野生動物の窮状を通して、我々社会にある格差の存在する故に起こっている脆弱な人々のこと、そしてその窮状が継続することから懸念される我々社会に広がりつつある新たな脅威の拡大に関連する情報と捉えています。
紹介する情報は次の2つです。
1. 何故野生動物が不眠症になるのか?
(Vox.com, 2024年6月2日 Benji Jones氏記す)
2.地球沸騰化が野生動物と人々を接近させ、悲劇が生まれる可能性を高める
(Insideclimatenews.org, 2024年5月7日 Kiley Price氏記す)
概略を伝えることを念頭に置いております。詳細は出典に当たって下さい。
1、何故野生動物が不眠症になるのか?(Why some wild animals are getting insomnia)
暑すぎる寝床で数時間、べた付く汗で眠れずに横になっている気分位、嫌なものはない。
過度の熱気は安眠を邪魔するが、それは我々が持つ自然放冷機能の作動を熱気が妨害するからだとされている。
しかし、多くの人はエアコンや扇風機をオンに出来るという幸運に恵まれている。だが野生動物には、そんな幸運はない。
哺乳動物に関する新たな研究報告が2つ出ており、それらによると、例えばチェコの野生イノシシは暑い夏の時期の安眠度合いが、涼しい時期に比べて17%低下するという。
もう一つの研究は、アイルランドの小鹿もまた夏の暑い日の睡眠がより短く、睡眠の質がより悪くなることが指摘されている。
即ち気候変動の結果、夏季の暑さが高進すると動物たちは睡眠が妨げられることになり、その結果、彼らの免疫力は低下していき、生存が危ぶまれる可能性が出てくる。
そして、生息地の移動が促進されたり、それに基づく伝染病の拡大が起こったり等々の、従来は保全されていた自然界の生態系の均衡が破られる恐れが出てくることになる。
動物たちの睡眠状況を観察することで、科学者らはそのような事柄を調査している。
ブリストル大学研究員のEuan Mortlock氏は、動物たちの睡眠状況の観察を研究対象にしている。対象は、大は大型の哺乳動物から小はミバエ(fruit flies)までを観察している。
「動物たちが起きている時に行う様々な行動が興味深い研究対象であって、睡眠行動というものは、この起床時の興味深い行動の時間と次の起床時の行動の時間を単に埋めて、繋いでいるだけの存在だ、と多くの人々は捉えていると思う。しかし私はこの睡眠行動を最も興味深い観察すべき行動の一つだと考えている」とMortlock氏は指摘する。
睡眠行動を、観察すべき興味深い研究対象だと考える理由の一つは、恐らく海綿動物を除いて全ての動物が共通して睡眠行動をとっているという点である。アザラシは300mもの深さまで潜りながら昼寝をし、クラゲは脳に相当する部分がないにも関わらずに睡眠状態になり、そのときクラゲの脈拍数は低下することが判っている。
ショウジョウバエも昼寝をする。その際ショウジョウバエは頭を少し下に傾け、触角は垂らしているという。
睡眠は、人にとっても動物にとっても非常に大切なことであり、例えば免疫系の改善や脳の働きを良くするといった様々な効能がある。従って睡眠を妨害する環境の変化は、生存や生態系に深刻な影響を与える可能性があるのである。
人の睡眠は、FitbitやApple Watchなどを使って追跡が可能であるが、野生生物に対して、Mortlock氏らは加速度計と呼ばれる装置を、捕獲した動物に取り付けることでデータを採集することに成功している。
この方法を用いると、様々な動物の睡眠行動やその他の行動の情報を入手することが可能となり、例えば、暑さや寒さその他の気象状況による野生動物の行動様式の情報を得ることができるという訳である。
Mortlock 氏らは2019年からイノシシを対象に、この方法を用いて監視活動を行い、睡眠時間と睡眠の質を測定し、得られたデータと気温や湿度といった気象データと比較し、それらの関係性を調査してきている。
得られた発見に「気温が高いと睡眠は短くなり、断片的になり、睡眠の質の低下が起こる」がある。また雪や雨の天候のもとでは、睡眠の質は高まることを認めている。これらの天候では動物の体温が低下することになり、その影響と考えている。
Mortlock氏らはダブリン近郊の公園の小鹿を対象に300日以上のデータを蓄積し解析を行っている。小鹿の場合も暑い日の睡眠時間と睡眠の質は、イノシシと同様に低下することを認めている。
非営利団体Climate Centralの報告によると、猛暑日が昨年世界全体で平均26日分増加したとされ、Mortlock氏らの研究結果と付け合わせると、野生生物の世界で、睡眠の質の低下状況が生まれている可能性が懸念されている。
睡眠不足は、野生動物の免疫性に影響を与え、病気になる可能性が高まり、子供の世話に費やす時間が低下するといった影響が出るとされている。
ここで、野生動物らは適応性の高い生き物だということを意識することも大切であり、気温や湿度の上昇により睡眠に悪影響が出る状況に置かれた場合に、彼らは行動様式を変えていくことも考えられる。例えば、体温を下げるため水浴び回数を増したり、寒冷地への移動を行うこともある。
彼らが取るこれらの適応行動によって、野生動物が人間の生活圏に接近する可能性が高まることが起こるのである。
猛暑や熱波は野生動物にとっても間違いなく様々な課題を突き付けるものである。野生動物たちは既に森林伐採や密猟などの脅威にも曝されてきているのである。
2.地球沸騰化が野生動物と人々を接近させ、悲劇が生まれる可能性を高める(Climate Change Is Pushing Animals Closer to Humans, With Potentially Catastrophic Consequences)
気候変動が原因して、世界の動物の行動範囲に変化が起こっている。
それぞれの動物の広範な生活場所の配置替えにより、動物は人間の生活圏への接近を強要され、悲劇を生む可能性が高まっている。
気候変動が原因して人と野生動物との間に争いや接触が世界的に増え、人獣共通伝染病のリスクが高まり、世界にあふれ出てくることを示す研究報告例が増えてきている。
最近の事例を紹介していく。
(1) 人と野生動物との間の争い・接触の増大
熱波や海面上昇に加えて、アジア・サハラ砂漠以南のアフリカ・オーストラリアやフロリダに住む人々の間では、気候変動の進行につれて命に関わる毒蛇との遭遇の懸念が高まってきている。
最近の研究によると、気温上昇につれてある種の毒蛇(アフリカ西部のクサリヘビgaboon viperやアジア・サハラ砂漠以南に住むエジプトコブラ)の生息域が拡大しているという。
多くの毒蛇の生息域が、気候変動の進行により失われていく可能性があり、その結果危険な毒蛇の生息域が耕作地や家畜飼育場と重なっていく可能性が、ことに低収入諸国で高まると研究者らは見ている。
WHOも、この状況を注視しており、各国に解毒剤備蓄を増やすこと・人々に毒蛇への注意喚起を進める等の「緊急行動」を1月に要請している。
地球沸騰化により、冬眠と呼ばれる蛇の静止状態からの目覚めの時期が早まってきており、オーストラリアの蛇の活動が高進していることを、生物学者らは既に認めている。
「蛇が早い時期から活動的になり遅い時期までその活動が続くということは、それだけで終わるものではなく、蛇たちは夜遅くまで活動的になっているということを意味している」とクイーンズランド大学の生物学教授のFry氏は指摘する。
フロリダ・エバーグレーズでは、地域をはいまわるビルマニシキヘビ(1980年代にペットとして移入)の数が増えている。そして今や気候変動の影響で北部地域へと生息域を拡大している、と米地質学会は指摘している。
蛇以外の野生動物と人との争いについては、複雑さがあると言われている。
例えば、北極クマは氷塊の溶解進行により陸地での狩りの機会が増えており、人々との接触機会が拡大している。
過去20年の動向を見ると北極くまの生息域は移動しており、悲劇的な遭遇が起こる可能性が高まっているとワシントンポスト紙は指摘している。
世界各地で、数えきれない衝突事例が観察されており、人にも野生動物にも被害が起こる可能性が出てきている。
(2)動物起源の伝染病の発生
鳥インフルエンザで見られるように、人獣共通伝染病は常に一つの生物種に局在するものではない。
気候変動の進展につれて、人と野生動物との間合いが狭まるにつれて、これらの人畜共通伝染病の蔓延が進行し、流行化へと転換をおこす機会が増えることをフィナンシャルタイムズ紙が報じている。
多くの場合、流行化への転換を引き起こすきっかけとなるのは極めて小さい生き物、即ち蚊であることが多い。
高温化により、蚊は生殖再生産を加速し、人畜への咬みつきが増え、そして生息域の拡大等が相合わさって伝染病の伝搬が促進されることになる。
WHOの2023年報告は、ハマダラ蚊が原因であるマラリアの流行と気候変動との関連性を報告している。
同様に、蚊が媒介するデング熱が、従来感染が見られなかった地域にも広まっている、とされており、その理由は気候変動及び都市化の進行だとしている。
ペルーにおける感染の拡大がことに懸念されており、今年のデング熱により死亡者数は3倍以上とされている。「蚊が気候変動に適応してきており、従来よりも生殖再生産速度が速まっている」とリマ大学の伝染病学者のTarazona氏は指摘し、「ラテンアメリカ地域において極めて深刻な状況が生まれている」としている。
ダニが媒介するライム病と気候変動との関連性もまた研究されている。
研究によると、気温と湿度の上昇がダニの生育地の拡大に繋がっており、メイン州やウィスコンシン州で見られるという。
人獣共通伝染病の拡散を低減する目的で、諸国は共同体間の連絡網の利用やAIの活用等を利用する監視の増強を進めている。
***
熱帯夜が増加すると、野生動物の間で睡眠障害が深刻化し、結果として全ての脆弱層の生き物は疲弊し、その免疫力は低下し、精神状況にも懸念すべき状況が発生する恐れが出るのである。
一方で、人畜共通伝染病を媒介する蚊やダニはより活発化し、その活動域も従来の範囲を超えて広がりつつあり、これら人畜共通伝染病の流行により、脆弱層が更に影響を受けるという悪いサイクルの循環が起こることが大いに懸念される。
かかる「悪いサイクルの循環」の発生を如何に抑制し、脆弱層の健康・免疫力を改善し、伝染病の蔓延を如何に防いでいくかに、世界の行方は掛かっている訳であるが、市井氏のいう『進歩』という視点から見て、我々は脆弱層の窮状を低減していっている、明るい方向を目指しての道中に我々は現在いると、断言できるであろうか?
また、我々の世の中は、支配層が差配する「進歩思想」だけに頼る、即ち技術革新至上主義だけに頼る「進歩思想」だけで、間違いなく世の中は『進歩』していけると言えるのであろうか?
「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan